アルバムレビュー：Aureate Gloom by of Montreal

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 2015年3月3日
ジャンル: グラム・ロック、アート・ロック、サイケデリック・ロック、ポストパンク

きらめきの影に沈む不安——別れと怒りが躍る、of Montrealのロックンロール回帰

『Aureate Gloom』は、of Montrealが2015年に発表した13作目のスタジオ・アルバムであり、1970年代のグラム・ロックとポストパンクを下敷きに、内面の崩壊と再構築をギター中心のバンドサウンドで描いた、烈しくも脆い作品である。

タイトルに含まれる「Aureate（黄金の）」と「Gloom（憂鬱）」という言葉の対比が示すように、本作は眩いサウンドの裏側に潜む絶望と混乱をさらけ出すアルバムである。

この時期、ケヴィン・バーンズは長年のパートナーとの関係が破綻し、その傷心を抱えたままニューヨークのホテルに滞在しながら作詞を行っていたという。つまり、本作は「別れのアルバム」であると同時に、都会の喧騒の中で孤独を刻みつけた“逃走記”でもある。

音楽的には、Lou Reed、T. Rex、Television、Talking Headsといった70〜80年代のニューヨーク的ロックの影響が色濃く、of Montrealの中でもとりわけ“バンド”としての生々しさが前景化しているのが特徴だ。

1. Bassem Sabry
エジプトの人権活動家の名を冠した衝撃的なオープニング。革命と個人の自由への賛歌であり、パーソナルな怒りが社会的文脈と結びつく。

2. Last Rites at the Jane Hotel
別れの痛みを冷静な観察者の視点で語る。鋭いギターとポエティックな語りが、まるでLou Reedを思わせる。

3. Empyrean Abattoir
神聖な場所での屠殺——宗教的幻想と愛の崩壊が交差する、不穏で美しいナンバー。バーンズの詞世界が最も暴力的に響く瞬間。

4. Aluminum Crown
歪んだギターと暴発的なボーカル。仮面をかぶった王のように、脆さと尊大さが共存する主人公が描かれる。

5. Virgilian Lots
ダーク・サイケな音像の中に、失われた時間と恋人の幻影を描く。時間軸のゆがみが言葉の選び方にも表れている。

6. Monolithic Egress
都市の退廃と精神の疲弊を重ねたような一曲。David Bowie的な退廃的美学が漂う。

7. Apollyon of Blue Room
ニューヨークのブルー・ルームという架空の部屋に棲む悪魔。ポップでキャッチーだが、精神的破壊の寓話が底に流れる。

8. Estocadas
“エストカーダス”（闘牛でのとどめの剣）というタイトルからして凶暴。恋愛における決別の瞬間を詩的に、しかし冷酷に描く。

9. Chthonian Dirge for Uruk the Other
神話とSFを組み合わせたようなタイトルと詞。of Montrealの内面劇と古代的イメージが結びついたスケールの大きな実験曲。

10. Like Ashoka’s Inferno of Memory
記憶の炎に焼かれるアショーカ王——という神話的設定で、喪失と回想の苦しみを展開。エンディングにふさわしい神秘性と痛みが残る。

『Aureate Gloom』は、ケヴィン・バーンズという人物の「傷ついた美学」が、最も露骨なかたちでサウンドと歌詞に表出した作品であり、同時に、of Montrealというバンドが“ポップの仮面”を外して剥き出しの感情に挑んだ稀有な瞬間でもある。

本作には、華やかな装飾や複雑な構成こそあるが、それらはあくまで“内面の混沌”を反射させるための鏡として機能している。どの曲も“別れ”と“変容”をテーマにし、時に自嘲的、時にヒステリック、時に冷徹に語られていく。

また、Lou ReedやTelevisionといったアングラ的知性と都会的乾いた感覚を濃厚に感じさせる音作りは、of Montrealのキャリアにおいて異質でありながらも極めて説得力を持っている。

激情と知性が拮抗した状態のまま、ロックンロールのフォーマットに押し込めたようなこの作品は、of Montrealの“都市と自己”を描いた文学的アルバムとして位置づけられるべきだろう。