発売日: 2001年6月4日
ジャンル: ゴシック・ロック、オルタナティブ・ロック、ポストパンク、メロディック・ロック
概要
『Aura』は、The Missionが2001年に発表した7作目のスタジオ・アルバムであり、
長い沈黙と解体を経て再集結したバンドが、新たな“霊的再生”を遂げた帰還作である。
1996年の『Blue』を最後に、The Missionは公式に解散。
その後、Wayne Husseyはソロ活動や小規模なライブに専念し、バンドの未来は不透明となっていた。
しかし2000年前後、ファンからの熱烈な要望とメンバー間の関係改善を経て、**再構築された新生The Missionが、5年ぶりに届けた復活のアルバムがこの『Aura』**である。
そのタイトル“オーラ”が象徴するように、本作には目に見えない霊性、感情の揺らぎ、過去からの残響があふれている。
ゴシックの美学、ロックの疾走感、ポップの親しみやすさがバランスよくブレンドされており、
キャリア後期における最も完成度の高い作品と位置づけられることも多い。
過剰でもなく、抑圧的でもない、円熟と再生の音楽。それが『Aura』である。
全曲レビュー
1. Evangeline
アルバムの幕開けを飾るエネルギッシュなギター・チューン。
カトリック的な聖人の名を冠した“Evangeline”は、救済者であり誘惑者でもある象徴的存在。
サウンドは硬質ながら親しみやすく、古典的The Mission節をアップデートしたような開放感と疾走感が心地よい。
Husseyの歌唱も力強く、復活の狼煙にふさわしい楽曲。
2. Shine Like the Stars
タイトルに呼応するように、闇のなかでも光を放とうとする意志を描いたポジティブなミディアム・ナンバー。
『Masque』に同名曲が存在するが、内容的には別曲。
広がりのあるコーラスとギターリフが空間を満たし、星のように孤独で、それでも輝く自己肯定の祈りが響く。
3. (Slave to) Lust
本作の最大のハイライト。
濃密なサウンドと官能的なリリックが絡み合う、“欲望と信仰のあいだ”を描いたエロティック・ゴス・ロック。
ギターは滑らかに蛇行し、ドラムはうねり、Husseyのヴォーカルは囁きと叫びの狭間を揺れる。
The Missionが最も得意とする“美と罪の二重奏”が完璧に結実した名曲。
4. Mesmerised
タイトル通り、陶酔・催眠状態にあるようなアンビエント風アレンジが特徴的なスロウナンバー。
幻想的なギターエフェクトと薄く重ねられたヴォーカルが、夢と現実の境界を曖昧にし、リスナーを瞑想状態へと誘う。
サイケデリック・ゴスの文脈でも評価される一曲。
5. Lay Your Hands on Me
美しくも情熱的なバラード。
“手を重ねる”という単純な行為の中に、癒し・渇望・償いのすべてを封じ込めたリリックが強く響く。
アコースティックとエレクトリックが絶妙に共存し、内なる葛藤と赦しの希望が交差する構成。
ライブでも定番となった感動的な楽曲。
6. Dragonfly
ミニマルなイントロから始まる、寓話的でありながらきわめてパーソナルなトラック。
トンボ＝変化・再生・短命の象徴。
それをモチーフに、人生の儚さと美しさを凝視するHusseyの詩的世界が際立つ。
中盤のブレイクと再構築は、まさに**“死と再生”のメタファーとして機能する**。
7. Happy
反語的なタイトルが示すように、“幸福”という概念の不在を描くダークでミッドテンポなロックソング。
明るいメロディに乗せられた皮肉たっぷりの歌詞は、
社会的な空虚さや感情の麻痺に対する冷静な批評ともとれる。
The Missionの“語り部”としての側面が光る作品。
8. To Die By Your Hand
ゴシック・バラードの王道。
誰かのために死ぬこと──それは誠実さか狂気か。
そんな二重性をロマンティックかつ劇的に描き出した一曲。
ピアノの導入、ストリングス風のシンセ、そして荘厳なボーカル。
アルバムの中でもっともエモーショナルな楽曲。
9. Trophy / It Never Rains…
2部構成的に展開される実験的トラック。
“Trophy”では達成と虚無が語られ、
“It Never Rains…”では不運の連鎖と皮肉が音の中で崩壊していく。
やや難解ながら、中後期The Missionらしい、シニカルな知性と幻想性のぶつかり合いを楽しめる。
10. The Light That Pours from You
アルバム終盤の希望的なメッセージ・ソング。
“君から注がれる光”というモチーフは、宗教的救済から個人的愛情まで多重に読める。
音数は少なく、アレンジもミニマルだが、深く沁みる余韻を残す珠玉の一曲。
総評
『Aura』は、The Missionが自らの歴史を振り返りつつ、過去の重厚さと現在の軽やかさを融合させた再生のアルバムである。
そこには初期のゴシック・ロックの荘厳さも、90年代の内省も、そして21世紀の音としての透明感もすべて詰め込まれている。
一貫したテーマは“目に見えないもの”──感情、信仰、記憶、傷跡、愛の残り香。
『Aura』というタイトルが示すのは、人間が放つ霊的な輪郭そのものである。
The Missionはこの作品で、叫ばずに語り、飾らずに祈ることを選んだ。
それは、成熟したアーティストだけがたどり着ける静かな境地だった。
おすすめアルバム（5枚）
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The Church – After Everything Now This (2002)
霊性とギターのテクスチャーを融合した瞑想的ロック。 -
Dead Can Dance – Spiritchaser (1996)
儀式的パーカッションと神秘的ヴォーカルの融合。『Aura』と同じスピリチュアルな空気感。 -
Porcupine Tree – In Absentia (2002)
プログレとオルタナの融合。洗練された精神的深みを共有。 -
Nick Cave & The Bad Seeds – No More Shall We Part (2001)
悲しみと希望が共存する、神への問いかけの音楽。 -
The Waterboys – A Rock in the Weary Land (2000)
詩とギターの交錯。再生の旅の同伴作としてふさわしい。
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