アルバムレビュー:Astronaut by Duran Duran

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発売日: 2004年10月11日
ジャンル: ポップ・ロック、ニュー・ウェーブ、エレクトロ・ロック


宇宙から見下ろす再結成の地平——“5人のDuran Duran”が再び集った祝祭と覚悟

2004年、Duran Duranはかつての黄金期を支えたオリジナル・メンバー5人が再結集し、13年ぶりとなるスタジオ・アルバムをリリースした。
その名もAstronaut
宇宙飛行士のように、地球を外から見つめるような視点——それは、過去の栄光も、音楽産業の変容も、そして自身の変化も含めて距離を取りながら再確認するような覚醒のアルバムである。

80年代的な煌びやかさ、90年代に通過した実験性、そして2000年代のポップ・センス。
それらすべてが統合された本作には、Duran Duranが“かつての自分たち”に囚われるのではなく、今の自分たちで鳴らせる音を模索した姿勢が明確に表れている。


全曲レビュー

1. (Reach Up for the) Sunrise

復活を高らかに告げる、光と熱量に満ちたアンセム。
クラブビートとバンドサウンドの融合が、前向きな未来を描き出す。

2. Want You More!

攻撃的なギターとシンセが絡み合う、現代的なポップロック。
欲望と焦燥をテーマにしたリリックが、鮮烈なインパクトを残す。

3. What Happens Tomorrow

抒情性と高揚感を兼ね備えたバラード。
「明日はどうなる?」という問いに、バンドとしての再出発を重ねている。

4. Astronaut

タイトル曲にして、内省と浮遊感を伴うミッドテンポのトラック。
サイエンスと詩が融合したような詞世界が魅力。

5. Bedroom Toys

セクシャルでファンキーなグルーヴが光るダンサブルな一曲。
80年代のキッチュな魅力を現代的にアップデート。

6. Nice

クラブ仕様のエレクトロ・ポップ。
軽やかでリズミカルな構成が心地よく、バンドの“今”を感じさせるサウンド。

7. Taste the Summer

レイドバックしたテンポとサイケデリックなアレンジが心地よい。
夏という季節を通して、儚さと恍惚が描かれている。

8. Finest Hour

ストリングスとドラマティックな展開が印象的な、シリアスな一曲。
世界情勢へのささやかな応答とも取れる静かな叫び。

9. Chains

ミステリアスで重厚なビートとヴォーカル。
拘束と解放のテーマが内向的に描かれる。

10. One of Those Days

軽やかなテンポながら、どこか諦めにも似た感情が漂うポップソング。
人生の機微をさらりと描写するセンスが光る。

11. Point of No Return

不安と衝動の間で揺れるダーク・ポップ。
「もう戻れない」という決意がサウンドに刻まれている。

12. Still Breathing

アルバムを締めくくる静かなバラード。
呼吸を続けること、それ自体が“生き延びる術”であるという希望と諦念の交錯が美しい。


総評

Astronautは、Duran Duranというバンドが“過去に戻る”のではなく、“今を生きる”ために自らの歴史と折り合いをつけたアルバムである。
オリジナルメンバーが再集結しながらも、ノスタルジーには寄りかからず、むしろ未来を見つめようとする姿勢が一貫している。

そして、この作品で彼らは、かつてのファンだけでなく、Duran Duranを知らなかった世代”にもアプローチする勇気を見せた。
それは一種の再出発であり、静かなる野心の現れでもある。

“まだ息をしている”というラストトラックの言葉に象徴されるように、Duran Duran生き延び、そして鳴らし続ける意志をこのアルバムに刻んだのだ。


おすすめアルバム

  • X&Y by Coldplay
     ——未来志向のポップと内省が共存する2000年代的ロックの象徴。
  • Human After All by Daft Punk
     ——テクノと人間性の間を探る現代的なダンス・ミュージック。
  • Songs of Innocence by U2
     ——過去と向き合い、現在に再構築するポップの姿。
  • Fundamental by Pet Shop Boys
     ——熟成された電子音楽と社会的視点が共鳴。
  • Waiting for the Sirens’ Call by New Order
     ——80年代組が2000年代の感性で描く“今”の音像。

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