発売日: 2010年7月5日
ジャンル: ダンスポップ、シンセポップ、ユーロポップ
神話の微笑み、ダンスフロアの女神——Kylieが体現するポップの永遠性
Kylie Minogue通算11作目のスタジオ・アルバムとなるAphroditeは、ギリシャ神話の“愛と美の女神”の名を冠した、極めて象徴的な作品である。
前作Xがカラフルで個別的な実験作だったのに対し、本作は明確なコンセプトと美学に貫かれた“統一されたポップ・アーキテクチャ”といえる。
プロデュースの中心には、イギリスのプロデューサーStuart Price(Madonna『Confessions on a Dance Floor』の立役者)が立ち、煌びやかでシームレスなトラック群を構築。
アルバム全体が、まるでひとつの壮麗なダンス組曲のように流れていく。
“愛の神”というテーマのもと、Kylieは慈愛、快楽、肯定、祝祭をさまざまな角度から表現し、聴く者を優しく包み込む。
この作品において彼女は、単なるセクシーなポップシンガーではなく、“時代を超えて踊る存在”としての神話的なオーラを放っている。
全曲レビュー
1. All the Lovers
Kylieのディスコ・アンセムの中でも最も祝祭的な一曲。
すべての恋人たちに捧げるというテーマが、優雅なビートと透明感あるシンセに乗って広がる。
2. Get Outta My Way
堂々たる自己肯定を歌うパワフルなポップナンバー。
「私の道を邪魔しないで」というラインに、成熟した女性としてのKylieが映る。
3. Put Your Hands Up (If You Feel Love)
聴衆と呼応するような“ハンズアップ”系のダンストラック。
愛を感じた瞬間を称えるような、まさにライブ向けの高揚感が炸裂する。
4. Closer
ミニマルなビートと仄暗い空気が漂うセクシーな楽曲。
愛と身体の境界線が溶け合うような、静かな官能が魅力。
5. Everything Is Beautiful
James Dean Bradfield(Manic Street Preachers)による共作バラード。
恋することで世界が美しく見える、という甘美な視点を繊細に描く。
6. Aphrodite
タイトル曲にしてアルバムの中心声明。
「私はアフロディーテ、無敵の女神よ」と歌うことで、Kylie自身がポップの象徴として再定義される。
7. Illusion
浮遊感と憂いを帯びたミッドテンポ。
幻想と現実の狭間で恋をするような、夢見がちな感覚を描く。
8. Better than Today
ディスコとエレクトロを融合したグルーヴィーな楽曲。
“今日よりも素晴らしい明日”を信じるという、希望のメッセージが込められている。
9. Too Much
精緻なビートとメロディが交差する、夜の香りが漂うポップ。
過剰な愛を“愛しすぎること”として祝福するような大胆な構成。
10. Cupid Boy
デジタルな音像の中に切なさを宿したエレクトロ・ポップ。
神話の“キューピッド”をモチーフに、恋の衝撃を現代的に再構築している。
11. Looking for an Angel
幻想的なイントロから始まる美しいバラード。
見えない理想を追い求める、その切なさが静かに心を打つ。
12. Can’t Beat the Feeling
アルバムを締めくくるにふさわしいポジティヴなダンスポップ。
「この感覚に勝るものはない」というラストの高揚が、作品全体を明るく照らす。
総評
Aphroditeは、Kylie Minogueというアーティストが“時代とジャンルのアイコン”から“永遠に踊り続ける神話的存在”へと昇華された作品である。
Stuart Priceのプロデュースのもと、ユーロディスコとシンセポップの洗練された融合がなされ、各曲が“1つの神殿”のような荘厳さと親密さを兼ね備えている。
本作は単なるダンスアルバムではない。
これは“愛”という普遍的テーマを、身体、音、言葉で讃えた現代的祭礼であり、Kylieという存在そのものが“アフロディーテ=愛の女神”であることを宣言する儀式なのだ。
おすすめアルバム
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Confessions on a Dance Floor by Madonna
——ディスコと祈りが融合する、ダンスポップの傑作。Kylieの本作と表裏一体の作品。 -
Light Years by Kylie Minogue
——本作の前身ともいえる、ディスコ志向の再出発作。華やかさと遊び心が光る。 -
Electric by Pet Shop Boys
——ダンスと知性を両立させた、エレクトロポップの真骨頂。 -
Disco by Kylie Minogue
——Aphroditeの精神を引き継いだ、2020年代版“ダンスの祝祭”。 -
Chromatica by Lady Gaga
——苦しみと再生をクラブトラックに託した、ポップ女神たちの共鳴。
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