
1. 歌詞の概要
「Another Day」は、Galaxie 500のセカンド・アルバム『On Fire』(1989年)に収録された楽曲である。アルバムの中でも特に静謐さが際立つナンバーであり、まるで淡い夢の中を漂うような響きを持っている。歌詞は極めてシンプルで、日常の中で繰り返される孤独や無気力さを描き出しており、その淡々とした言葉がかえって強い感情の余韻を残す。
「Another Day(また別の日)」というタイトルが示すように、この曲は時間の流れの中で無為に過ぎていく一日一日の感覚を捉えている。劇的な出来事や派手な感情の起伏はなく、むしろ何も起こらないことそのものが主題となっている。その静けさと反復は、Galaxie 500が持つ音楽の核心を体現しているといえるだろう。
2. 歌詞のバックグラウンド
Galaxie 500は1987年にボストンで結成され、Dean Wareham(ギター/ヴォーカル)、Naomi Yang(ベース)、Damon Krukowski(ドラム)の三人によるトリオ編成で活動した。彼らは短い活動期間の中で3枚のアルバムを残し、ドリームポップやスロウコアの先駆的存在として後世に多大な影響を与えた。
「Another Day」が収録された『On Fire』は、彼らの代表作に数えられるアルバムであり、シンプルな構成と浮遊感のある音像が高く評価されている。プロデューサーのKramerによる残響感の強いプロダクションは、音数の少なさを逆に広がりとして活かし、バンドの音楽を独自の領域へと導いた。
「Another Day」はアルバム後半に収められており、前曲「Snowstorm」の静けさを引き継ぐようにして始まる。その構造は非常にミニマルで、Warehamのヴォーカルも淡々としたトーンで歌われる。日々の繰り返しや時間の虚しさを描くこの曲は、アルバム全体を通しての「静かな高揚」と「儚さ」を象徴していると言える。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Another Day」の印象的な部分を抜粋し、英語と日本語訳を併記する。
(歌詞引用:Genius)
I’ll never see you again
もう二度と君に会うことはないだろう
I’ll never see you again
僕は二度と君と出会わない
And the days go by
そして日々は過ぎていく
And the days go by
ただ淡々と日々は流れていく
Another day, another day
また別の日、また別の日
歌詞は非常に簡素で反復的だが、そこにこそこの曲の真髄がある。失われたものに対する痛みを直接的に語るのではなく、ただ時間が過ぎていくことだけを提示する。その冷静さが逆に深い感情を響かせるのだ。
4. 歌詞の考察
「Another Day」は、失われた関係や喪失の痛みを描きながらも、それを感情的に叫ぶのではなく、淡々と受け止める姿勢を取っている。冒頭の「I’ll never see you again」というフレーズは、明確な別れを示すが、その後に続くのは「日々は過ぎていく」という無機質な事実の繰り返しである。
この対比は非常に象徴的である。人は大切な人との別れに直面しても、時間は止まらず、世界は変わらずに回り続ける。その無常さが痛烈に響く。Warehamの声は冷静で感情を抑えているが、だからこそ言葉の重みが増し、リスナーの心に深く沈んでいく。
また、「Another day」という言葉自体に、希望と絶望の両義性がある点も興味深い。別れの後にやってくる「また別の日」は、喪失を抱えながらも生き続けていかなければならない現実を示す一方で、新しい可能性や再生を含意しているようにも解釈できる。その曖昧さが、曲の余韻をより豊かにしている。
音楽的には、ゆったりとしたテンポと反復的なコード進行が、時間の流れを象徴する。ギターは淡い光のように揺らぎ、リズムは大きな変化を示さず淡々と続く。まるで止まらない時計の針のように、曲は進んでいく。その構造自体が「Another Day」のテーマを体現しているのだ。
(歌詞引用:Genius)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Tugboat by Galaxie 500
彼らのデビュー曲であり、孤独と夢想を描いた代表的な楽曲。 - Flowers by Galaxie 500
抽象的で反復的な歌詞が響く、喪失と記憶を花に重ねた楽曲。 - Fade Into You by Mazzy Star
淡々とした歌声と静かな響きが「Another Day」と共鳴する。 - Lullaby by The Cure
反復するフレーズと幻想的な雰囲気が似た感覚を呼び起こす。 - Two-Step by Low
スロウコアの代表曲で、喪失感と時間の流れを静かに描いている。
6. 『On Fire』における「Another Day」の意味
『On Fire』はGalaxie 500の音楽的ピークとして知られ、その美学は「静寂」「反復」「余白」の三つに要約できる。その中で「Another Day」は、アルバム後半を支える楽曲として重要な役割を担っている。
「Snowstorm」が自然の猛威と人間の無力さを描き出したのに対し、「Another Day」はより個人的で親密な喪失を描いている。アルバム全体が内省と静謐を追求している中で、この曲はそのテーマを最も簡潔に体現しているといえるだろう。
結局のところ、「Another Day」は大げさなドラマを語らず、むしろ日常の中に潜む静かな絶望を描いている。しかしその絶望は、同時に「明日がやってくる」という不可避の希望でもある。そこにGalaxie 500の音楽が持つ普遍性と、今なお聴き継がれる理由があるのだ。



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