アルバムレビュー：Animal by Kesha

発売日: 2010年1月1日
ジャンル: エレクトロポップ、ダンス・ポップ

パーティー・クイーンの誕生—無軌道な快楽主義の幕開け
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
- 関連記事:

パーティー・クイーンの誕生—無軌道な快楽主義の幕開け

2010年、Kesha（当時はKe$haとして活動）はデビューアルバムAnimalでポップシーンに衝撃を与えた。彼女の音楽は、エレクトロポップとオートチューンを多用したヴォーカル、そして無鉄砲なパーティー文化を象徴する歌詞が特徴で、2000年代後半から2010年代初頭のポップシーンの流れを決定づけた。本作は「夜遊び」「自由」「無責任な快楽」をテーマにしながらも、キャッチーなメロディとヒット性の高いトラックで構成されている。

リードシングル「Tik Tok」は、Billboard Hot 100で9週連続1位を記録し、2010年代を象徴するパーティー・アンセムとなった。プロデューサーにはDr. Luke、Benny Blanco、Max Martinといったポップ・ヒットメーカーが名を連ね、エネルギッシュでダンサブルなサウンドを生み出している。

全曲レビュー

1. Your Love Is My Drug

シンセが煌めくイントロから始まり、キャッチーなメロディと中毒性の高いフックが特徴的なオープニングトラック。恋愛をドラッグのような感覚に例えた歌詞が、彼女の遊び心と奔放さを表現している。

2. Tik Tok

世界的大ヒットとなったシングル。オートチューンを多用したヴォーカルと、シンプルながらも強烈にキャッチーなビートが特徴。リリックは一晩中パーティーを楽しむことをテーマにし、Ke$haの象徴的な「無軌道な快楽主義」のスタイルを確立した。

3. Take It Off

シンセ主導のダークで妖しい雰囲気を持ったダンスチューン。タイトルの通り、「抑制を捨て、自由になること」をテーマにしており、ナイトクラブのカタルシスを描いている。

4. Kiss n Tell

エネルギッシュなポップ・パンクの要素を取り入れたトラック。恋人の浮気を糾弾する内容で、彼女の強気なキャラクターが前面に出ている。

5. Stephen

ユーモラスな語り口が特徴的なバラード調の曲。片思いの相手への思いを綴るが、彼女の持ち味である皮肉っぽさも含まれている。

6. Blah Blah Blah (feat. 3OH!3)

3OH!3とのコラボレーションによるエレクトロ・ヒップホップ寄りの楽曲。男性に対する挑発的な歌詞が痛快で、パーティー・ガールの視点を強調している。

7. Hungover

アルバムの中では珍しくメランコリックな雰囲気の楽曲。パーティーの翌朝の虚無感を描き、彼女の音楽が単なる享楽だけではないことを示している。

8. Party at a Rich Dude’s House

ロック要素を取り入れたハイエナジーなパーティーソング。富裕層の家で繰り広げられる騒々しい夜を描き、若者文化への皮肉も垣間見える。

9. Backstabber

スピーディーなビートと鋭い歌詞が際立つトラック。裏切り者に対する怒りを描いた内容で、アルバムの中でも特に攻撃的な楽曲の一つ。

10. Blind

ダークなエレクトロポップ・バラードで、恋愛の終わりをテーマにしている。サウンドの面ではより感傷的な雰囲気を持ち、アルバムの中でも異色の存在。

11. Dinosaur

年上の男性を皮肉ったユーモラスな歌詞が特徴的。幼稚な韻を意図的に使い、風刺的な視点を盛り込んでいる。

12. Dancing with Tears in My Eyes

タイトル通り、悲しみを抱えながら踊るというコンセプトの楽曲。アルバムの中ではより感情的な側面を見せるナンバー。

13. Boots & Boys

カントリー風の要素を感じさせる楽曲で、彼女の多様な音楽的背景を垣間見ることができる。

14. Animal

アルバムのタイトル曲で、壮大なシンセと浮遊感のあるメロディが特徴的。自己肯定感や解放感をテーマにした、フィナーレにふさわしい一曲。

総評

Animalは、2010年代ポップの象徴とも言える作品であり、Keshaのキャリアの出発点となる重要なアルバムだ。全編にわたりオートチューンを駆使し、エレクトロポップのスタイルを極限まで押し進めた一方で、ユーモアやアイロニーを交えた歌詞によって単なるパーティー・ミュージックにとどまらない深みを持たせている。エンターテイメント性が強く、パワフルなトラックが並ぶが、時折垣間見えるメランコリックな側面が彼女の音楽に奥行きを与えている。

Ke$haはこのアルバムによって、一晩の楽しさを全力で肯定する「パーティー・クイーン」としてのキャラクターを確立した。同時に、本作の成功はエレクトロポップが2010年代ポップシーンの主流になることを決定づけ、後続のアーティストたちにも大きな影響を与えた。