An Ocean in Between the Waves by The War on Drugs(2014)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「An Ocean in Between the Waves」は、アメリカのロックバンド、The War on Drugsが2014年にリリースしたアルバム『Lost in the Dream』に収録された楽曲であり、同作の中でも最も高揚感とエネルギーに満ちたトラックのひとつとして知られている。疾走するビートときらめくギターレイヤー、浮遊するようなシンセの上に、フロントマンのアダム・グランデュシエル(Adam Granduciel)が語るのは、内面の葛藤と希望の波間でもがく魂の物語である。

タイトルに含まれる「An Ocean in Between the Waves(波の間にある海)」という表現は、表面的な変化の奥にある、深く広がる感情の海を示唆している。歌詞全体は非常に詩的で断片的だが、共通するのは“抜け出せない状態”“探し続ける衝動”“自己再生の希望”といったキーワードであり、それが曲の持つ力強くドラマティックな音像と絶妙に呼応している。

2. 歌詞のバックグラウンド

Lost in the Dream』は、アダム・グランデュシエルが長期ツアー後に体験した不安、孤独、うつ状態などをテーマに構成された作品であり、「An Ocean in Between the Waves」はその中でも、苦悩の中にある光を見つけようとする姿勢を最もダイレクトに表現した一曲である。

音楽的には、スプリングスティーンやダイアー・ストレイツ、さらには80年代のシンセ・ロックやクラウトロックの要素をモダンに昇華しており、アメリカーナ的郷愁と現代的サウンドスケープの融合がこの曲を特別なものにしている。特に後半のギターソロは、インストゥルメンタルの叙情詩のように感情を解放し、言葉にならない心の声を描き出している。

ライブでは10分を超える壮大なジャムへと進化し、バンドのライブセットのハイライトとして観客を陶酔させる楽曲でもある。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「An Ocean in Between the Waves」の印象的な歌詞と和訳を紹介する。

“I’m in my finest hour / Can I be more than just a fool?”
今が人生最高の瞬間かもしれない でも、ただの愚か者以上にはなれるだろうか?

“I’ve been drifting down the now I’ve been living alone”
この“いま”という時間を漂ってきた ずっとひとりで

“I don’t mind you disappearing / When I know you can be found”
君がいなくなってもかまわない また見つけられると信じてるから

“I’m just a burning man, trying to keep the ship from turning over”
俺は燃え上がる男 転覆しそうな船をなんとか保とうとしている

“I’m in love with a fire / I’m in love with a vision”
俺は炎に恋している 幻に惹かれている

歌詞引用元:Genius – The War on Drugs “An Ocean in Between the Waves”

4. 歌詞の考察

この楽曲における“波の間にある海”とは、日常の表面下に隠れた深い感情の海であり、何かを探し続ける人間の魂の象徴でもある。アダム・グランデュシエルの歌詞は常に抽象的だが、この曲ではとりわけ「旅」と「闘争」というモチーフが前面に押し出されており、孤独な戦いのなかでなおも前へ進もうとする意志が感じられる。

「I’m just a burning man」という一節は、自己の内側で燃え続ける情熱と、それによって傷つきながらも生き延びる姿を描いている。周囲が波立つ中で、自分自身の“船”を転覆させまいと必死に舵を取る主人公の姿は、不安定な世界のなかで自己を保とうとする現代人のリアリティそのものだ。

また、「I don’t mind you disappearing / When I know you can be found」というリリックは、失われた人や過去の自分、あるいは希望に対しての信頼を表しており、そこには単なる絶望ではなく、“信じることでしか見つからない何か”への祈りのようなものが込められている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Red Eyes by The War on Drugs
     疾走感と内省が共存する名曲。失われたものを抱えながら前に進む姿勢が共通する。

  • Strangest Thing by The War on Drugs
     時間と記憶のゆらぎを、スローな美しさで描いた楽曲。光と影のコントラストが絶妙。

  • Runaway by Bon Iver
     自己破壊と内省が美しく交差するピアノバラード。抽象的で感情的な詞が共鳴する。

  • Rebellion (Lies) by Arcade Fire
     自由と恐怖の間で揺れる若者の叫びをエネルギッシュに描いたインディーロックの傑作。

6. “波間に潜む、本当の自分と向き合う旅”

「An Ocean in Between the Waves」は、人生の中で“立ち止まることなく、自分自身と向き合い続けること”の意味を、壮大な音と内省的な詩で描いた楽曲である。そのサウンドは高揚感に満ちていながら、どこか切なく、そして決して完全な安堵には至らない。それでもなお、探し続けることをやめない——それがこの曲の持つ強さだ。

この曲がリスナーに与える体験は、“一人の夜のドライブ”“記憶の中の光景”“言葉にできない感情”といった、曖昧で個人的な情景と深く結びついていく。そして、その波間を漂いながら、やがてリスナー自身の“海”を見つけ出すことになるだろう。


「An Ocean in Between the Waves」は、感情のうねりに呑まれながらも、前に進み続けようとする者のためのアンセムだ。傷ついても、迷っても、まだ終わってはいない。その音は、心の最深部でずっと鳴り続けている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました