アルバムレビュー：American Dream by LCD Soundsystem

発売日: 2017年9月1日
ジャンル: ダンス・パンク, エレクトロニカ, オルタナティブ・ダンス

LCD Soundsystemの復活を告げる『American Dream』は、バンドの特徴であるエネルギッシュなダンス・パンクと深い感情を持つリリックが見事に融合した作品である。ジェームス・マーフィー率いるバンドは、解散から再結成というストーリーの中で、再びその音楽的な深みを広げ、成熟したサウンドを提示した。このアルバムは、個人的な喪失感や政治的混乱の時代における不安、希望と絶望がテーマとなっており、冷たいシンセサウンドと繊細な感情表現が融合している。『American Dream』は、LCD Soundsystemが新たなフェーズに進んだことを証明する、重厚かつ洗練された作品である。

各曲ごとの解説:

1. Oh Baby
   　アルバムのオープニングを飾る美しいトラックで、ドリーミーなシンセとマーフィーの穏やかなヴォーカルが印象的。愛と喪失をテーマにした歌詞が、淡々としたビートの上に乗せられており、ノスタルジックでありながらも感情的な深みを持つ。
2. Other Voices
   　リズミカルなベースラインとシンセが中心となったファンキーなトラック。ジェームス・マーフィーとナンシー・ウォンのヴォーカルが掛け合いのように展開され、社会的な不安や葛藤をテーマにした歌詞が独特の緊張感を生む。バンド特有のエネルギッシュなダンスサウンドが強調された曲である。
3. I Used To
   　パンク的なエッジとポストパンクの要素が融合した楽曲。ギターリフと冷たいシンセが、疎外感や変わりゆく現実をテーマにした歌詞と共鳴する。懐かしさを感じさせるトーンの中に、激しいエネルギーが潜むトラックだ。
4. Change Yr Mind
   　緩やかなテンポと不協和音的なシンセが特徴的な一曲で、混乱や葛藤をテーマにしている。ゆっくりとしたビートが緊張感を引き立て、歌詞は自己変革とアイデンティティに対する問いかけが込められている。LCD Soundsystemの実験的な一面が感じられる楽曲だ。
5. How Do You Sleep?
   　アルバムの中でも特にダークで壮大なトラック。8分を超える長尺の中で、冷たいシンセとエコーの効いたヴォーカルが、緊張感のある雰囲気を生み出している。歌詞は裏切りや喪失感に対する怒りを表現しており、ビルドアップしていく展開が圧巻の一曲。
6. Tonite
   　ディスコの影響を色濃く受けたファンキーなトラック。反復的なシンセとリズムが特徴で、歌詞では現代社会の消費文化や、時間の経過に対する皮肉が込められている。ダンサブルでありながら、知的な風刺を効かせたLCD Soundsystemらしい一曲。
7. Call the Police
   　ポリティカルなテーマを持つロックナンバーで、パワフルなギターと疾走感のあるビートが印象的。混乱した社会状況や、権力に対する反抗心が込められた歌詞が、シリアスなトーンを強調している。バンドの政治的な側面を感じさせる一曲だ。
8. American Dream
   　アルバムタイトルにもなっているこの曲は、アメリカの現状や夢の崩壊についての鋭い批判を含む。スローテンポのビートと淡々としたヴォーカルが、虚無感や不安感を表現しており、時代に対する冷静な視点が反映されている。
9. Emotional Haircut
   　荒々しいギターとスピーディーなビートが特徴の、パンク色の強いトラック。感情の爆発や混乱をテーマにした歌詞が、激しいサウンドに乗せられており、アルバムの中でも特にエネルギッシュな楽曲だ。
10. Black Screen
    　アルバムのラストを飾る長尺のトラックで、デヴィッド・ボウイへのトリビュートとして知られる。静かでアンビエントなサウンドが徐々にビルドアップし、感情的なヴォーカルが喪失感を深く表現している。マーフィーの感傷的な側面が強く感じられる終章だ。

アルバム総評:

『American Dream』は、LCD Soundsystemの再結成にふさわしい壮大な作品であり、彼らの音楽的進化を如実に示している。ダンサブルなサウンドと、現代社会の不安や政治的なテーマを反映した深いリリックが融合し、エモーショナルで知的なダンスミュージックが展開されている。特に「How Do You Sleep?」や「American Dream」では、内省的かつ社会的なテーマが際立ち、バンドの新たな成熟を感じさせる。LCD Soundsystemは、このアルバムを通じて再びシーンの中心に立ち、唯一無二の存在感を示した。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

1. Blackstar by David Bowie
   LCD Soundsystemが影響を受けたデヴィッド・ボウイの最後のアルバム。内省的でダークなトーンが、『American Dream』と共通している。
2. A Moon Shaped Pool by Radiohead
   静かで感情的なサウンドスケープが広がる作品。LCD Soundsystemの深いリリックとメランコリックなサウンドが好きなリスナーにおすすめ。
3. Sleep Well Beast by The National
   政治的なテーマと個人的な葛藤が交錯するアルバム。LCD Soundsystemの社会的なメッセージに共感するなら、この作品も聴くべきだ。
4. The Suburbs by Arcade Fire
   都市生活やノスタルジアをテーマにしたアルバム。『American Dream』のテーマに通じる部分が多く、共感を呼ぶだろう。
5. We Were Dead Before the Ship Even Sank by Modest Mouse
   エネルギッシュなロックサウンドとダークなリリックが融合したアルバム。LCD Soundsystemのエモーショナルな側面が好きなリスナーにはぴったり。