![]()
オルタナティブ・ロックを知るなら、まず名盤から
オルタナティブ・ロックは、1980年代のインディー/アンダーグラウンド・シーンから発展し、1990年代にはロックの中心的な潮流へ成長した。パンクのDIY精神を受け継ぎながら、ノイズ、ポップ、ハードロック、フォーク、サイケデリアなどを自由に取り込み、従来のメインストリームとは異なる音楽を生み出してきた。
そのため「この音ならオルタナティブ・ロック」という単一の様式があるわけではない。R.E.M.の繊細なギターポップ、Pixiesの極端なダイナミクス、Nirvanaのグランジ、My Bloody Valentineの轟音、Radioheadの実験性は、それぞれまったく異なる。それでも既存のロックの定型から距離を取り、新しいサウンドや楽曲構造を模索したという点ではつながっている。
ジャンルの幅を理解するには、重要なアルバムを一枚ずつ聴くのがわかりやすい。ここでは1980年代から2000年代初頭までを中心に、オルタナティブ・ロックの入口として押さえておきたい10枚を紹介する。
オルタナティブ・ロックとはどんなジャンルか
「オルタナティブ・ロック」という言葉は、もともとメインストリームとは異なる流通や価値観を持つロックを広く指す言葉として使われてきた。1980年代にはカレッジ・ラジオやインディーレーベルを背景に、R.E.M.、Sonic Youth、Pixiesなどが支持を広げていく。
1990年代初頭にNirvanaが世界的な成功を収めると状況は大きく変わった。オルタナティブはアンダーグラウンドだけの存在ではなくなり、グランジをはじめとする多様なバンドがメインストリームへ進出する。その結果、「オルタナティブ」という言葉そのものが非常に広い音楽を含むようになった。
音楽的には、パンクやポストパンクを重要な背景としつつ、ノイズロック、グランジ、シューゲイザー、インディーロックなど多数のジャンルと重なっている。特定の演奏方法よりも、時代ごとに既存のロックとは異なる方法を模索してきた大きな流れとして理解するのが適切である。
オルタナティブ・ロックの名盤10選
1. Murmur by R.E.M.
R.E.M.が1983年に発表したデビューアルバム『Murmur』は、1980年代アメリカのオルタナティブ・ロックを語るうえで重要な作品である。
ピーター・バックの輪郭の細かいギター、マイク・ミルズのメロディアスなベース、ビル・ベリーの堅実なドラム、マイケル・スタイプの独特なヴォーカルが組み合わさり、当時のハードロックやニューウェイヴとは異なるサウンドを作った。
派手なディストーションに頼らず、ギターの響きと楽曲の良さで成立しているため、オルタナティブ・ロックの穏やかな側面から入りたい人にもおすすめできる。「Radio Free Europe」から聴けば、後のアメリカン・インディーへ続く感覚をつかみやすい。
2. Doolittle by Pixies
Pixiesが1989年に発表した『Doolittle』は、1980年代末のアメリカン・オルタナティブを代表するアルバムである。
大きな特徴は、静かなパートから突然ディストーションギターが爆発するような極端なダイナミクスにある。ブラック・フランシスの叫ぶようなヴォーカルとキム・ディールの声、サーフロックを思わせるギターなど、異質な要素を短い楽曲の中へまとめている。
「Debaser」「Here Comes Your Man」「Monkey Gone to Heaven」など楽曲単位でも入りやすく、後のグランジやインディーロックへの影響を知るうえでも重要だ。初心者がPixiesを一枚選ぶなら有力な候補となる。
3. Daydream Nation by Sonic Youth
Sonic Youthが1988年に発表した『Daydream Nation』は、ノイズとギターロックを結びつけたオルタナティブ・ロックの重要作である。
サーストン・ムーアとリー・ラナルドは変則チューニングを多用し、通常のコードやリフとは異なるギターの響きを作り出した。フィードバックやノイズを積極的に使いながら、それを単なる混沌ではなく楽曲の構造として成立させている。
比較的長い曲も多いため『Doolittle』ほど即座に入りやすい作品ではないが、オルタナティブ・ロックの実験的な側面を知るには欠かせない。「Teen Age Riot」から聴くと、このアルバムの魅力をつかみやすい。
4. Nevermind by Nirvana
Nirvanaが1991年に発表した『Nevermind』は、オルタナティブ・ロックがメインストリームへ進出する転換点となった作品である。
「Smells Like Teen Spirit」を筆頭に、強烈なディストーションギターとキャッチーなメロディを組み合わせた楽曲が並ぶ。パンクの簡潔さ、Pixiesから影響を受けた静と動のダイナミクス、ハードロックの重量感が一枚の中で結びついている。
グランジを代表する作品であると同時に、オルタナティブ・ロック全体への入口としても非常に聴きやすい。まず一枚だけ選ぶ場合にも有力なアルバムである。
5. Loveless by My Bloody Valentine
My Bloody Valentineが1991年に発表した『Loveless』は、シューゲイザーを代表する作品であると同時に、1990年代オルタナティブ・ロックの音響表現を大きく広げたアルバムである。
ケヴィン・シールズを中心に作られたギターサウンドは、激しく歪んでいるにもかかわらず、一般的なハードロックのような輪郭の明確なリフとは異なる。トレモロアームや多数のエフェクト、スタジオワークによって、ギターを巨大な音の層として扱っている。
初心者なら冒頭の「Only Shallow」から聴きたい。轟音のギターと柔らかなヴォーカルが同時に存在する独特のバランスから、シューゲイザーの基本的な魅力を理解できる。
6. Siamese Dream by The Smashing Pumpkins
The Smashing Pumpkinsが1993年に発表した『Siamese Dream』は、グランジ全盛期のアメリカで登場しながら、それとは異なる緻密なギターサウンドを追求した作品である。
ビリー・コーガンとプロデューサーのブッチ・ヴィグを中心に、多数のギタートラックを重ねた厚い音像を構築。ハードロックの重量感、サイケデリックなギター、繊細なメロディが共存している。
「Cherub Rock」「Today」「Disarm」など曲調の幅も広い。轟音ギターが好きな人にも、メロディを重視する人にも入りやすいオルタナティブ・ロックの名盤である。
7. The Bends by Radiohead
Radioheadが1995年に発表したセカンドアルバム『The Bends』は、1990年代のギターロックを代表する作品のひとつである。
デビュー時のRadioheadは「Creep」の成功によって注目されたが、『The Bends』では複数のギターを緻密に配置し、静かなバラードから激しいロックまで表現の幅を大きく広げた。「Fake Plastic Trees」「Just」「Street Spirit (Fade Out)」など、後の方向性につながる楽曲も多い。
後年の実験的なRadioheadよりギター中心で、楽曲構成も比較的ストレートである。そのためバンドへの入口としても、1990年代オルタナティブ・ロックへの入口としても聴きやすい。
8. OK Computer by Radiohead
1997年の『OK Computer』では、Radioheadが『The Bends』で確立したギターロックをさらに拡張した。
「Paranoid Android」の複雑な構成、「Karma Police」のピアノ、「No Surprises」の穏やかなアレンジなど、曲ごとに異なる手法を採用しながら、アルバム全体には統一された緊張感がある。ギターだけでなく、電子音やスタジオ処理も重要な役割を果たしている。
1990年代後半のオルタナティブ・ロックが、グランジ以降にどのような可能性を模索したのかを知るための重要作である。さらに電子音楽へ接近する次作『Kid A』との比較も面白い。
9. In Utero by Nirvana
Nirvanaが1993年に発表した『In Utero』は、『Nevermind』の巨大な成功を経た後に制作されたアルバムである。プロデューサーにはSteve Albiniを迎え、より生々しく硬質なバンドサウンドを前面に出した。
「Serve the Servants」「Scentless Apprentice」のような荒々しい曲と、「Heart-Shaped Box」「All Apologies」のように強いメロディを持つ楽曲が共存している。『Nevermind』よりもノイズや演奏の粗さが目立ち、Nirvanaのパンク/インディー的な側面が見えやすい。
『Nevermind』を聴いてNirvanaに興味を持った人が次に進む一枚として適している。二作を比較すると、同じバンドでもプロダクションによって印象が大きく変わることがわかる。
10. White Blood Cells by The White Stripes
The White Stripesが2001年に発表した『White Blood Cells』は、2000年代初頭のガレージロック・リバイバルとオルタナティブ・ロックをつなぐ重要作である。
ジャック・ホワイトのギターとメグ・ホワイトのドラムという最小限の編成を基本とし、ブルース、ガレージロック、パンクなどを簡潔な楽曲へ落とし込んでいる。1990年代にスタジオワークが複雑化していったロックとは対照的に、演奏の直接性を前面に戻した点が特徴だ。
「Fell in Love with a Girl」のような短く勢いのある曲から、「We’re Going to Be Friends」のような穏やかな楽曲まで収録されている。オルタナティブ・ロックが2000年代へどう受け継がれたかを知る入口になる作品である。
初心者におすすめの3枚
最初の一枚として特におすすめしやすいのは、Nirvanaの『Nevermind』である。激しいギターとキャッチーなメロディのバランスがよく、1990年代オルタナティブ・ロックの爆発的な広がりを理解するうえでも中心となる作品だ。
次に聴きたいのがPixiesの『Doolittle』である。『Nevermind』より前に発表された作品であり、静かな部分と激しい部分を切り替える構成など、後続のバンドへ影響したアイデアを確認できる。曲が比較的コンパクトなのも初心者には入りやすい。
3枚目にはRadioheadの『The Bends』を挙げたい。メロディを中心にしながら複数のギターを使った緻密なアレンジがあり、1990年代後半以降のオルタナティブ・ロックへ進む橋渡しになる。
この3枚から始めて、ノイズを求めるならSonic Youth、音響的なギターが好みならMy Bloody Valentine、より実験的な方向へ進みたいなら『OK Computer』へ広げると理解しやすい。
関連ジャンルへの広がり
オルタナティブ・ロックから最も自然に広げやすいのがインディーロックである。R.E.M.やPixiesなど1980年代のバンドを起点に、メジャーとインディーの境界が時代とともにどう変化していったのかを追うことで、「オルタナティブ」という言葉の意味そのものも見えやすくなる。
また、Nirvanaの『Nevermind』や『In Utero』が気に入ったならグランジを掘り下げたい。Pearl Jam、Soundgarden、Alice in Chainsなどを聴けば、1990年代前半に一括してグランジと呼ばれたバンドの間にも大きな音楽性の違いがあったことがわかる。
さらに『Loveless』からはシューゲイザー、『Daydream Nation』からはノイズロック、『White Blood Cells』からはガレージロック・リバイバルへと進める。オルタナティブ・ロックをハブとして聴くことで、1980年代以降のロックに生まれた多数のサブジャンルを横断できるのである。
まとめ
オルタナティブ・ロックは、特定の音だけで定義できるジャンルではない。R.E.M.の『Murmur』、Pixiesの『Doolittle』、Sonic Youthの『Daydream Nation』を聴けば、1980年代のアンダーグラウンドから異なるタイプのギターロックが育っていたことがわかる。
1990年代へ進むと、Nirvanaの『Nevermind』がオルタナティブ・ロックをメインストリームへ押し上げ、My Bloody Valentineの『Loveless』はギターの音響表現を拡張した。The Smashing PumpkinsやRadioheadも、それぞれ独自の方法でロックの可能性を広げている。
初心者なら『Nevermind』『Doolittle』『The Bends』の3枚から始めると入りやすい。その後、気に入った要素に応じてノイズ、シューゲイザー、グランジ、インディーロックなどへ進めば、オルタナティブ・ロックという大きな流れをより立体的に理解できる。

コメント