Alone Again Or by Love(1967)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Alone Again Or」は、1967年にアメリカのサイケデリック・ロックバンド、Loveが発表したアルバム『Forever Changes』のオープニングトラックとして収録された楽曲です。作詞・作曲を手がけたのは、バンドのギタリストであるBryan MacLeanであり、この曲はLoveの中でも最も有名で、1960年代サイケデリック・ポップの金字塔として位置づけられています。

一見するとラブソングのように見えるこの楽曲ですが、歌詞は極めて内省的であり、孤独や諦念、愛と疎外感が複雑に交錯しています。タイトルの「Alone Again Or(また一人、あるいは…)」という曖昧な文法構造には、感情の不確かさや空虚さがにじみ出ており、主人公は誰かに愛を伝えるべきか、それとも一人でいるべきかという葛藤の中で揺れ動いています。

2. 歌詞のバックグラウンド

Loveはロサンゼルスを拠点としたバンドで、サイケデリック・ロックとフォーク、ジャズ、クラシック音楽の要素を融合させた革新的なサウンドを持ち味としていました。1967年にリリースされた**『Forever Changes』**は、アーサー・リー(Arthur Lee)を中心としたメンバーによって制作され、時代の不安や若者の孤独を詩的に描き出した作品として、当時こそ過小評価されましたが、のちに歴史的名盤と称されるようになります。

「Alone Again Or」は、Loveの中心人物であるアーサー・リーではなく、当時のギタリストだったBryan MacLeanによって書かれた楽曲です。彼は当時交際していた女性との複雑な関係を通して、自分が愛を与えられる存在なのかどうか、自問自答していたと語っています。彼女がパーティに出かける一方で、自分は家に残る孤独感――その心理状態がこの曲の根幹にあります。

また、マクリーンはフラメンコ音楽に深い関心を持っており、その影響がアコースティック・ギターのリズムや管楽器のアレンジに色濃く表れています。特にスペイン風のホーン・セクションはこの曲の象徴的な要素であり、哀愁と情熱が交差する印象的なサウンドを生み出しています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Alone Again Or」の中でも特に印象的なフレーズを抜粋し、英語と日本語訳を併記します。

引用元:Genius Lyrics – Love “Alone Again Or”

Yeah, I said it’s all right / I won’t forget
ああ、大丈夫さって言ったよ
でも、忘れることなんてできないさ

All the times I’ve waited patiently for you / And you’ll do just what you choose to do
ずっと君を待っていた
でも君は、自分の思うままに行動するだろう

And I will be alone again tonight, my dear
そして僕はまた今夜、一人になるんだ ねえ、君

I heard a funny thing / Somebody said to me / “You know that I could be in love with almost everyone”
ある人が面白いことを言ってた
「私はほとんど誰とでも恋に落ちることができるの」

I think that people are / The greatest fun
だから思うんだ――人間って、実に面白い存在だよね

こうした歌詞は、愛に対する切実な思いと同時に、それを超えた“悟り”のような達観を感じさせます。誰かを愛することの脆さ、そしてそれでもなお愛を求める気持ちの強さが、詩的に表現されています。

4. 歌詞の考察

「Alone Again Or」は、Loveの他の楽曲以上に“内面の揺らぎ”を繊細に描いた作品です。タイトルにおける「Or」という接続詞は、英語として一見未完のように見えますが、それが逆に“何か言いかけてやめたような”感情の断絶を見事に表現しています。つまり、「一人でいる、あるいは…」という言葉は、「本当は誰かと一緒にいたい」「けれどそれが叶わない」という心の中の矛盾を象徴しているのです。

Bryan MacLeanが描いた主人公は、愛されたいと願いながらも、実際には拒絶され、ひとりで夜を迎える存在です。しかし、この孤独はただの悲しみではなく、自分自身の価値や、愛の意味を問い直す旅でもあります。ときには皮肉を込めながらも、最終的には「人間って面白い」と締めくくるその姿勢には、失恋の痛みを超えて他者と向き合おうとする強さも感じられます。

また、楽曲の後半で急に開かれるスペイン風のホーンセクションは、感情の高まりや回想を象徴するように挿入され、歌詞の抑制的な部分とは対照的な「情熱の爆発」を演出しています。これにより、聴き手はただの失恋の歌としてではなく、情熱と諦念がせめぎ合う“人間の本質”を感じ取ることができます。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “The Sun Ain’t Gonna Shine Anymore” by The Walker Brothers
    同様に孤独と愛の喪失を主題とした60年代のバラードで、重厚なオーケストレーションと情緒的な歌声が共鳴します。

  • God Only Knows” by The Beach Boys
    愛への依存と感謝を繊細に描いた、同時代のポップスの名作。「Alone Again Or」と同じく複雑な愛情のあり方がテーマです。

  • “The Crystal Ship” by The Doors
    サイケデリックな夢想と感情の浮遊感が魅力の楽曲。Loveと同じロサンゼルス・シーンの中核を担ったバンドによる、幻想的なラブソング。

  • “Suzanne” by Leonard Cohen
    現実と幻想が交錯する叙情的な愛の歌。愛し方の不器用さや、遠くから見つめるしかない愛の形が、「Alone Again Or」に通じます。

6. 名盤『Forever Changes』の扉を開く美しき不協和音

「Alone Again Or」は、Loveのキャリアにおいて象徴的な楽曲であるだけでなく、1960年代後半のアメリカにおける文化的混乱と若者の内面を映し出した**『Forever Changes』**という作品全体の扉を開く役割を果たしています。当時のアメリカではベトナム戦争、公民権運動、ドラッグ・カルチャーの台頭など、社会が大きく揺れ動いており、多くの若者が愛や自由に答えを見いだそうとしていました。

その中で、この楽曲は「愛すら不確かなものになってしまった」時代の気分を、極めてパーソナルな視点から捉え直した作品だと言えるでしょう。ギターの儚げな響き、突如として開けるホーンの咆哮、そして静かに繰り返される「また一人か、それとも…」という未完の思考。それは時代の不安を個人の心象風景へと変換し、普遍的な美しさに昇華させた名演でした。


**「Alone Again Or」**は、Loveというバンドが描いた、愛と孤独、情熱と諦念の狭間に立つ名曲です。個人の感情を普遍的な芸術へと昇華させたこの一曲は、今も多くのアーティストに影響を与え、リスナーの心に静かに火を灯し続けています。人が誰かを想うという行為がどれほど複雑で、そして美しいかを、時代を超えて語りかけてくれる作品です。

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