発売日: 1997年10月27日
ジャンル: ポップ、R&B、トリップホップ、アーバン・ソウル
概要
『All Saints』は、イギリスのガールズグループAll Saintsが1997年にリリースしたデビュー・アルバムであり、UKポップスとアーバンR&Bを結びつけた金字塔的作品である。
このアルバムは、スパイス・ガールズのような“ポップでキュート”なイメージとは一線を画し、より洗練されてストリート感覚のあるサウンドとファッションで90年代後半のポップシーンに革新をもたらした。
シングル「Never Ever」「I Know Where It’s At」「Lady Marmalade（カバー）」などがいずれもUKチャートを席巻し、グループは一躍ブリット・ポップ後期の象徴的存在へと躍り出た。
ソウルフルなコーラスワーク、トリップホップや2ステップ的要素の導入、クールな世界観は、当時のティーン・ポップに“陰影”と“大人びた質感”を持ち込んだ点で画期的であった。
また、本作のプロダクションにはCameron McVey（Neneh Cherryのパートナー）などが参加しており、ストリートとアートの交差点としても注目された。
全曲レビュー
1. Never Ever
All Saints最大のヒット曲。失恋の痛みを静かに語りかけるスピーク・パートから始まり、ソウルフルなコーラスで感情が炸裂する名バラード。
2. Bootie Call
女性の主体性をポップに描いたアーバン・R&Bチューン。セクシャルでありながら自立した視線が印象的。
3. I Know Where It’s At
グループのデビュー曲にして、ネオソウルとトリップホップを融合した都会的ナンバー。ジャジーなコード感も新鮮。
4. Under the Bridge
Red Hot Chili Peppersの名曲を美しいハーモニーで大胆にカバー。悲しみと再生を女性的な視点で再構成している。
5. Heaven
エレガントなコーラスと浮遊感あるアレンジが特徴的なミッドテンポ曲。タイトル通り、儚くも美しい世界観。
6. Alone
内省的なバラードで、孤独と自立の間を描写する。簡素なアレンジがボーカルの繊細さを引き立てる。
7. If You Want to Party (I Found Lovin’)
ディスコ／ハウス的要素を取り入れたパーティーチューン。アルバムの中で最もキャッチーで開放的。
8. Trapped
R&Bの要素を前面に出したグルーヴィーなトラック。感情を抑えたボーカルが、逆に緊張感を生む。
9. Beg
控えめながらも中毒性のあるビートとリフレイン。未練と強がりが交錯するリリックが秀逸。
10. Lady Marmalade
Labelleの名曲をカバー。フランス語のセクシーなコーラスとアグレッシブなファンク感がグループの多面性を示す。
11. Take the Key
愛を手放す決意を歌ったドラマチックなナンバー。終盤に向かってエモーションが加速していく展開が見事。
12. War of Nerves
アルバムの締めくくりを飾る、ストリングスが美しいスローバラード。死や人生の意味にまで踏み込む深い歌詞に驚かされる。
総評
『All Saints』は、単なる“ガールズグループ”という枠を超えた、音楽的完成度と世界観の強度を兼ね備えた傑作である。
当時のUKポップ市場では、明るく分かりやすいメッセージが主流であった中、All Saintsは“沈黙と余白”、“都会の孤独”をポップのフォーマットに持ち込んだ。
その結果、本作には他の同時代の作品にはない深い陰影と静けさが流れている。
とくに「Never Ever」「War of Nerves」といった楽曲は、ソウル・R&B文脈における女性の語りとして高い評価を受けている。
グループの個性はスタイリッシュなファッションやヴィジュアルにも表れており、ストリート×ラグジュアリーの先駆け的存在としても語られることが多い。
本作は90年代UKポップとR&Bの交差点で生まれた、きわめて洗練されたデビュー作であり、今聴いてもそのクールさと情緒のバランスは唯一無二である。
おすすめアルバム（5枚）
- Sugababes『One Touch』
UK発のR&B／ポップグループとして、All Saintsと同様の都会的センスを持つ。 - Eternal『Always & Forever』
1990年代UK R&Bの代表作。よりクラシカルなソウル色が強いが、女性コーラスの魅力が共通。 - TLC『CrazySexyCool』
アメリカの同時代グループ。女性の自立や感情を描く点で近いが、よりヒップホップ寄り。 - Massive Attack『Protection』
All Saintsのトリップホップ的要素に通じる、ブリストル・サウンドの本流。静けさと緊張感の美学。 -
Des’ree『I Ain’t Movin’』
ソウルフルかつメッセージ性の強い楽曲群。All Saintsの内省性とポジティブな精神性を繋ぐ一枚。
ビジュアルとアートワーク
『All Saints』のアルバムカバーは、あえて派手さを避けたストリートファッションと無表情なポーズで構成されており、スパイス・ガールズのカラフルで笑顔あふれる世界観とは対照的だった。
ファッション性の高さと、90年代ストリートカルチャーに根ざしたミニマルな美学は、のちのR&Bアーティストや女性グループに大きな影響を与えた。
また、ミュージックビデオや雑誌撮影における“クールな姉”的な立ち位置も、Z世代以降のアーティストによって再解釈され、2020年代に再評価の波が訪れている。
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