1. 歌詞の概要
「All in White」は、The Vaccinesのデビューアルバム『What Did You Expect from The Vaccines?』(2011年)に収録された、美しくも謎めいたロック・バラードである。タイトルの“白い服を着た君”というイメージは、純粋さや儚さ、あるいは儀式的な別れを想起させ、楽曲全体に漂うのは“届かない想い”と“受け入れざるを得ない現実”の陰影だ。
歌詞は一人の女性を遠くから見つめる視点で進み、その彼女が別の世界、あるいは別の誰かへと歩んでいくことを暗示している。語り手はそれを止めることも追うこともできず、ただその美しい後ろ姿を見送るしかない。言葉にしがたい複雑な感情——未練、諦め、祈り——が、抑制されたフレーズのひとつひとつに織り込まれており、The Vaccinesの中でも最も詩的な作品のひとつとされている。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Vaccinesは、2011年のデビューと同時に英インディー・ロックシーンの最前線に躍り出たが、「All in White」は彼らの粗削りなガレージ感とは一線を画し、広がりのあるサウンドと感傷的なリリックによって、よりドラマチックな側面を打ち出した楽曲である。
この曲のプロデュースは、ColdplayやThe Killersなどを手がけたダン・グリアンによって行われ、厚みのあるリバーブ・ギター、壮大なドラム、そしてメロディアスな構成が、まるで夢を見ているかのような浮遊感を作り出している。ライブでは必ずといっていいほどセットリストに加えられ、観客の感情を一気に揺さぶる“感情のピーク”として演奏される。
ジャスティン・ヤングのボーカルはここで、怒りや勢いではなく、抑制された悲しみを表現するために使われており、彼の内面のナラティブを語るような静かな強さが際立っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「All in White」の印象的な歌詞とその和訳を紹介する。
I was always trying to catch your eye
いつも君の視線を追いかけてたBut I never knew quite why
でもなぜかは分からなかったNow I’m all alone
そして今、僕はひとりきりYou were all in white
君は真っ白な服を着ていたAll in white
まるで夢のように、全身が白だったI’m not, I’m not
でも僕は違う、僕はその世界にいないAll in white
君は、どこか遠くの世界にいるI couldn’t let it show
その気持ちを、言葉にすることもできなかった
引用元:Genius Lyrics – The Vaccines “All in White”
4. 歌詞の考察
「All in White」は、表面上はラブソングでありながら、その実は“喪失”や“断絶”をテーマにした、非常に奥行きのあるリリックを持つ楽曲である。主人公は、純粋で手の届かない存在——“白い服を着た彼女”——を見つめることで、自分がその世界には属していないこと、自分の想いが届かない場所に彼女がいることを悟っている。
「All in white」という繰り返しは、ウェディングドレスや天使、あるいは死装束すら想起させる曖昧な象徴として機能しており、その象徴性は明言されない分だけリスナーの解釈に委ねられている。つまり、この曲は“別れの瞬間”を描いているのではなく、“永遠に交わることのない感情の距離”を描いた作品なのである。
また、語り手が“感情を表に出せなかった”ことを悔いている点からも、この楽曲は過去の反省とその余韻を抱えたまま生きる姿勢を描いている。彼は彼女の純粋さ、光、理想に惹かれながらも、それに対して自分が不完全であること、追いつけなかったことを静かに受け止めている。
音楽的にはリズムの疾走感とメロディの流麗さが美しく融合しており、悲しみの中に一筋の美しさを残す。その“淡い諦め”こそが、「All in White」をただの哀しいラブソングに終わらせず、“心の静かなドラマ”へと昇華させている。
※歌詞引用元:Genius Lyrics – The Vaccines “All in White”
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sea Within a Sea by The Horrors
感情と空間の広がりを同時に描く、内省的なインディー・ロックの大作。空白の美しさを感じられる。 - Somewhere Only We Know by Keane
心の奥にある静けさと別れを優しく包むピアノ・バラード。情緒の豊かさが共通する。 - The Funeral by Band of Horses
死と別れをテーマにしつつも、美しいメロディと余韻に満ちた名曲。象徴的なイメージが重なる。 - All I Need by Radiohead
恋と執着、存在の重さをミニマルに描いた作品。メランコリックで詩的な感性が共鳴する。
6. “白”に託されたもの──静寂の中の感情の高まり
「All in White」は、The Vaccinesの作品群の中でも特に異彩を放つ、“言葉にならない感情”を丁寧にすくい上げた名曲である。通常のラブソングが“恋の始まり”や“別れ”の明確なシーンを描くのに対し、本作は“そのどちらでもない場所”——つまり“距離”や“すれ違い”そのものを物語の主軸に置いている。
“白”という色は、純粋であると同時に、無垢、空虚、死、永遠など、様々な象徴性を含んでいる。その曖昧なシンボルをタイトルに据えることで、この曲は恋愛だけに収まらない、人生の喪失感や人間関係における距離感といった、より普遍的なテーマにまで広がりを見せている。
The Vaccinesはこの曲で、“感情の爆発”ではなく、“感情が静かに降り積もること”の美しさを表現した。だからこそ「All in White」は、聴くたびに新しい意味を持ち、誰かの過去や記憶にそっと寄り添うことのできる、特別な一曲となっている。
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