
1. 歌詞の概要
「Ain’t That a Shame」は、もともと1955年に**Fats Domino(ファッツ・ドミノ)**がリリースしたロックンロールの古典的名曲であり、Cheap Trickが1978年に東京・日本武道館でのライヴでカバーし、その録音が翌1979年にライヴ・アルバム『Cheap Trick at Budokan』に収録されたことで、再び脚光を浴びた。
原曲のテーマは明快で、失恋の痛みを「Ain’t that a shame(ひどいじゃないか)」というフレーズで繰り返すことで、軽妙に嘆くブルースロック的な世界観を持つ。Cheap Trickのヴァージョンでは、この悲しみを嘆き悲しむのではなく、爆発的なライヴ・エネルギーに昇華した祝祭的なロックンロールへと変貌させている。
歌詞の内容は、恋人に捨てられた主人公が、その事実を受け入れきれず、でも最終的には自嘲気味に笑ってしまうような感覚に満ちている。短いフレーズと単語の反復が印象的で、どこかユーモラスですらあるこの言葉の運びは、ロックンロール初期のリズム感をそのままに、現代にも通じる普遍性を保っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Ain’t That a Shame」は、1950年代のニューオーリンズR&BとロックンロールのパイオニアであるFats Dominoによって書かれ、チャートのトップ10入りを果たしたヒット曲。原曲ではピアノを主体にした跳ねるようなリズムと、ファッツの温かみのあるヴォーカルが特徴だった。
一方、Cheap Trickによるカバーは、1978年の日本武道館ライヴで録音されたものが最もよく知られている。バンドはこのカバーで、**Fats Dominoのブルージーな哀愁を、エネルギッシュなギターリフとリック・ニールセンの破天荒なパフォーマンス、そしてバン・バン・バン!というドラムによる“シンガロング型ロックンロール”**へと生まれ変わらせた。
このカバーは、Cheap Trickの演奏技術とショーマンシップ、そして古典へのリスペクトをポップセンスで再構築する能力を見事に示したものであり、彼らの国際的な成功を決定づける大きな要因ともなった。
なお、スタジオ版では1978年のアルバム『Heaven Tonight』に収録されており、ライヴ・バージョンの方がテンポも速く、観客の歓声も含めて**「観客とバンドが一体となったロックの祝祭」**として完成されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“You made me cry / When you said goodbye”
君がさよならを言ったとき 僕は涙を流したよ“Ain’t that a shame? / My tears fell like rain”
それってひどいと思わないか? 涙はまるで雨のように降っていたんだ“Ain’t that a shame? / You’re the one to blame”
ひどいじゃないか? すべては君のせいさ“You broke my heart / When you said we’d part”
「別れよう」って言ったとき 僕の心は粉々になった
引用元:Genius
4. 歌詞の考察
この歌の核心にあるのは、恋人からの別れに対する“情けなさ”と“怒りの中のユーモア”である。Fats Dominoの原曲では、これがブルース的な深さと優しさをもって表現されていたが、Cheap Trickのバージョンでは、むしろ「もういいや!」と開き直るようなカタルシスの爆発として描かれている。
「Ain’t that a shame?」という問いかけは、悲嘆というよりは観客との共感の呼び水のように響く。この一節を叫ぶたびに、会場が手拍子と大合唱で応える。つまりここでは、「失恋」ではなく**「それでも前を向こうとするロックの姿勢」**こそが真のテーマなのである。
また、「You’re the one to blame(すべて君のせい)」と明言することで、主人公は自分の被害者性を強調するが、それが過度な悲劇に堕ちないのは、言葉にユーモアと軽やかさが漂っているからだ。それゆえ、この曲は誰もが体験する“小さな敗北”を、笑って乗り越えるための歌として響くのだろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Twist and Shout by The Beatles
ロックンロールの歓喜を大合唱型に昇華した名曲。ライヴ感とコール&レスポンスが共通。 - Summertime Blues by The Who(カバー)
原曲のユーモアをパワフルに再構築した、ロックンロール再解釈の好例。 - Rock and Roll All Nite by KISS
ロックで盛り上がりたいすべての人に向けた、祝祭的アンセム。 - Johnny B. Goode by Chuck Berry
ギターとともに駆け抜けるロックンロールの古典。Cheap Trickのルーツとしても必聴。 - Good Times Roll by The Cars
楽しさと皮肉が交差する80年代的ロックンロール・リバイバル。
6. 祝祭としてのカバー――“At Budokan”の決定打
Cheap Trickの「Ain’t That a Shame(Live)」は、単なるカバーにとどまらない。これはロックンロールという文化の再生と拡張、そして国境を超えた祝祭としての演奏であり、1970年代末におけるアメリカと日本の音楽的接続点でもあった。
日本武道館という神聖な場所で、オーディエンスと一体になったこの演奏は、Cheap Trickにとって「日本から逆輸入される」という音楽史上でも珍しい現象を起こし、彼らを世界的なバンドへと押し上げた。
このライヴ・カバーは、ロックンロールの原初的な楽しさ、シンプルさ、そして人と人とを繋ぐ力を、爆発的な演奏と観客の熱狂を通じて可視化することに成功した数少ない例である。
だからこそ、この曲はただの“失恋ソング”ではない。
それは、悲しみさえも拳を突き上げて笑い飛ばすロックンロールの精神そのものなのだ。
そしてその火種は、1978年の東京の夜に、確かに燃えていた。
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