1. 歌詞の概要
「ABC」は、The Jackson 5が1970年にリリースしたセカンド・シングルであり、彼らの代表曲のひとつとして世界中で親しまれている。前作「I Want You Back」の成功に続いて発表されたこの楽曲は、恋愛と学びを巧みに重ね合わせたキャッチーなポップ・ナンバーで、少年マイケル・ジャクソンのキュートで躍動感あるヴォーカルが印象的な作品である。
歌詞では、愛することのシンプルさを「ABC」「123」「Do Re Mi」といった基礎学習の比喩で表現し、恋愛初心者の女性に対して“僕が教えてあげる”というテーマで進行する。これは非常に無邪気でありながら、どこか小生意気な少年の視点から描かれており、その“背伸びしたロマンティシズム”こそがこの曲の大きな魅力である。
「ABC」とはつまり、“愛の基本を学ぶこと”を象徴する言葉であり、愛を難しく考えず、素直に心を通わせることが大切だというメッセージが込められている。ポップで明るく、ダンスフロアにも映えるこの楽曲は、単なるラブソング以上に、“愛の楽しさ”を教えるティーン・アンセムとして多くの人の記憶に刻まれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「ABC」は、モータウン・レコードのヒット・メイカー・チーム“The Corporation”(ベリー・ゴーディ、フレディ・ペレン、アルフォンゾ・ミゼル、ディーク・リチャーズ)によって書かれた。彼らは前作「I Want You Back」でも同様の布陣で制作にあたり、ジャクソン5をモータウンの新たな顔として世界に売り出す重要な戦略の中心にいた。
1970年2月にリリースされた「ABC」は、Billboard Hot 100チャートで1位を獲得し、同年のアメリカ音楽界を席巻した。特に興味深いのは、同時期にチャート上位にあったビートルズの「Let It Be」を抑えての首位獲得であり、これは“新時代のポップスター”の登場を象徴する出来事でもあった。
マイケル・ジャクソンはこのときまだ11歳。年齢を感じさせないほどのリズム感、感情表現、カリスマ性をすでに発揮しており、「ABC」はその才能が一気に開花した証拠でもあった。この曲は、学校や恋の“初歩”を教えるというテーマでありながら、商業的にも文化的にも“頂点”を極めた画期的な作品である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「ABC」の印象的な一節を抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。
ABC, it’s easy as 1-2-3
「ABC」って簡単さ、「1-2-3」みたいにねAs simple as do re mi / ABC, 1-2-3, baby, you and me, girl
「ドレミ」と同じくらいシンプル——ABC、123、君と僕でできることSit down girl, I think I love you
座って聞いてよ、僕、君のことが好きなんだNo, get up girl, show me what you can do
いや、立ち上がって——君の力を見せてごらん!You went to school to learn girl / Things you never, never knew before
君は学校に通って、知らなかったことをたくさん学んだLike “2 + 2” makes “4” / Now, now, now I’m gonna teach you
たとえば「2 + 2 = 4」みたいにね、さあ、次は僕が教えてあげるよ
引用元:Genius Lyrics – ABC
4. 歌詞の考察
「ABC」の歌詞には、恋愛と学びを結びつけるユニークな構造が見られる。語り手は恋愛経験の少ない女の子に向かって、自分がその“授業”を担当すると語るが、それは単なるリードではなく、愛を通じて“分かり合う楽しさ”を伝えるためのやさしい呼びかけでもある。
特に、“ABC”や“1-2-3”、“Do Re Mi”といった誰にでも馴染みのある言葉を多用することで、恋愛というテーマを過度に感傷的にせず、誰もが気軽に楽しめるポップソングとして成立させている。このアプローチこそが、ティーン向けラブソングの王道を築いた所以でもある。
また、「学校では学べなかったことを、今から僕が教えてあげる」という構図は、少年マイケルの年齢を考えるとやや背伸びにも感じられるが、その無邪気な自信が逆に愛らしさを際立たせている。ここには、愛に必要なのは複雑な理論ではなく、“伝えようとする気持ち”であるという真理がこめられている。
※歌詞引用元:Genius Lyrics – ABC
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- I Want You Back by The Jackson 5
初恋の後悔と情熱を描いた前作。ABCと対をなすエネルギーと若さが魅力。 - You Can’t Hurry Love by The Supremes
恋愛における“待つこと”の重要性を歌ったモータウンの名曲。リズム感とポジティブな世界観が共通。 - Sugar, Sugar by The Archies
甘くてシンプルな恋の感覚をポップに描いた1969年のスマッシュヒット。 - It’s the Same Old Song by Four Tops
恋の教訓を学んだ男の繊細な思いを軽快なビートにのせたソウルクラシック。
6. “学び”と“恋”を結びつけたポップ・マスターピース
「ABC」は、ただ楽しく、明るく、キャッチーなだけの楽曲ではない。それは、恋愛というテーマに“学び”という観点を加えることで、ポップ・ソングに新たな物語性を持ち込んだ画期的な作品である。これは教育的という意味ではなく、“わかり合うことの楽しさ”を音楽を通して伝えるという意味で、非常に誠実かつ希望に満ちたメッセージソングなのだ。
マイケル・ジャクソンの若々しい声と、抜群のグルーヴ感、そしてどこか背伸びした歌詞。この三位一体によって、「ABC」は単なるティーン・ポップの枠を超え、誰もが思い出と結びつけられる“人生のサウンドトラック”として定着した。
「愛は難しくない——ABCと同じくらい簡単なんだ」と歌ったこの曲は、シンプルさこそが最も深い真理であることを教えてくれる。だからこそ今なお、「ABC」は子どもから大人まで、誰にでも届く不朽の名曲として愛され続けている。
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