アルバムレビュー：A Deeper Understanding by The War on Drugs

発売日: 2017年8月25日
ジャンル: インディー・ロック、アメリカーナ、サイケデリック・ロック

『A Deeper Understanding』は、The War on Drugsが繊細で深みのある音楽スタイルをさらに発展させた作品で、フロントマンのアダム・グランデュシエルが音楽的、感情的にさらなる成熟を遂げたアルバムだ。前作『Lost in the Dream』の成功を受け、広がりのあるサウンドスケープ、シンセサイザーを多用した層の厚いアレンジが際立つこのアルバムは、バンドの最大の特徴である繰り返しのリズムと、ドラマチックに展開されるギターが一体となった、より壮大で洗練された音世界を作り出している。失恋や自己探求、孤独感といったテーマが、長尺の楽曲で丁寧に表現され、聴き手を感情的な旅へと誘う傑作だ。

各曲ごとの解説:

1. Up All Night
   　アルバムの幕開けを飾るトラックで、軽やかなシンセサウンドが特徴。シンセサイザーとギターが層をなすサウンドは壮大で、冒険心と期待感に満ちている。リズムが前へ進む感覚と、グランデュシエルのボーカルが物語る孤独感が対照的に描かれている。
2. Pain
   　ギターの反復的なリフと穏やかなメロディが絡み合うエモーショナルな一曲。切ない歌詞は、心の痛みや失われた愛に焦点を当て、シンプルながらも深い感情を引き出している。特にクライマックスに向かって盛り上がるギターソロが楽曲を引き立てる。
3. Holding On
   　アルバムの中でも最もキャッチーでポップなトラック。軽快なリズムと希望を感じさせるメロディが印象的だが、歌詞には苦悩や過去への葛藤が込められている。シンセとギターが重なり合い、ドライブ感のあるサウンドが楽曲に勢いを与えている。
4. Strangest Thing
   　ゆったりとしたテンポで、広がりのあるサウンドスケープが印象的な曲。アメリカーナ的な要素とサイケデリックなサウンドが融合し、失われた時間や過去を振り返るような、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。ギターソロが楽曲に感情的な深みを与えている。
5. Knocked Down
   　短めのトラックで、ピアノとシンセが繊細に絡み合うバラード。感情的な歌詞が直接的にリスナーに訴えかけ、グランデュシエルの柔らかなボーカルが心に響く。シンプルな楽器編成ながらも、深い感情を表現する楽曲だ。
6. Nothing to Find
   　シンセとギターが絡み合い、エネルギッシュなビートが前に進む感覚を強調するトラック。旅や新しい発見をテーマにした歌詞が、楽曲の開放感とリンクし、自由と冒険心が感じられる。後半のギターソロが印象的で、アルバムの中でも特に活力のある一曲。
7. Thinking of a Place
   　11分に及ぶ壮大なトラックで、アルバムのハイライトとも言える楽曲。スローなビートと繰り返されるギターリフが、瞑想的な雰囲気を作り出し、広大なサウンドスケープが時間を超越した感覚を生み出している。旅や自己探求をテーマにした歌詞が、幻想的で夢のような世界を描き出している。
8. In Chains
   　シンセサイザーが主導する楽曲で、内面的な葛藤や感情の揺れ動きを表現している。ドラマチックなアレンジとテンポの速いリズムが、楽曲にエネルギーと緊張感を与え、歌詞の苦悩を際立たせている。
9. Clean Living
   　穏やかなトーンで始まるこのトラックは、ギターとピアノがメインとなって進行する。清々しいメロディが、自己浄化や再生をテーマにした歌詞とリンクし、アルバム全体に安定感と希望をもたらしている。
10. You Don’t Have to Go
    　アルバムを締めくくる感動的なトラックで、グランデュシエルの感情的なボーカルが心に響く。シンプルなギターリフとシンセサウンドが絡み合い、穏やかなフィナーレを演出している。別れや再生をテーマにした歌詞が、アルバム全体を美しくまとめ上げている。

アルバム総評:

『A Deeper Understanding』は、The War on Drugsが音楽的に成熟し、広がりと深みを増した作品だ。アンビエントなサウンドとエレクトロニカの要素を取り入れつつ、ロックとアメリカーナの美学を維持している。アダム・グランデュシエルの内省的な歌詞と、ドラマチックに展開されるサウンドが融合し、時間を超越したかのような感覚をリスナーに与える。感情的に豊かでありながら、繊細な音の層が美しく重なり合い、深い理解や探求をテーマにした壮大な作品となっている。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

1. Currents by Tame Impala
   サイケデリック・ロックとエレクトロニカを融合させた作品。広がりのあるサウンドスケープと内省的な歌詞が、『A Deeper Understanding』に共鳴する。
2. High Violet by The National
   感情的で詩的な歌詞と、壮大なサウンドが特徴。内面的な苦悩や孤独感を描くリリックが、The War on Drugsの音楽と通じる部分が多い。
3. To Pimp a Butterfly by Kendrick Lamar
   ジャンルは異なるが、深く内省的なリリックと、重厚なサウンドが感情的な旅を提供する点で、『A Deeper Understanding』に近い。
4. Morning Phase by Beck
   フォークロックとアンビエントサウンドを融合させた作品。内省的で、ゆったりとした音楽が、The War on Drugsのファンに響く。
5. Sky Blue Sky by Wilco
   アメリカーナとロックをベースにした作品。感情の深みと繊細なギターサウンドが特徴で、『A Deeper Understanding』と共通する要素が多い。