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サイケデリック・ロックを知るなら、まず名盤から
サイケデリック・ロックは、1960年代半ばのロックが録音技術や楽器、楽曲構成の可能性を急速に広げていくなかで形成された音楽である。ファズ・ギター、フィードバック、テープ操作、逆回転、オルガン、シタールなどを取り込み、それまでのロックンロールとは異なる音響を作り出した。
重要なのは、単に「奇妙な音」を使ったジャンルではないことだ。The Beatlesのスタジオ実験、Jimi Hendrixのギター、Pink Floydの即興、The Doorsのオルガン、Jefferson Airplaneのフォーク由来のハーモニーなど、アーティストごとに方法は大きく異なる。
まず代表的なアルバムを聴けば、サイケデリック・ロックがポップ、ブルース、フォーク、ガレージ、ジャズなどを横断しながら発展したことが見えてくる。ここでは1960年代の重要作を中心に、ジャンルの広がりまで理解できる10枚を紹介する。
サイケデリック・ロックとはどんなジャンルか
サイケデリック・ロックが本格的に発展したのは1960年代半ばである。アメリカ西海岸やロンドンをはじめとするシーンで、従来のロックやポップの形式を拡張する試みが相次いだ。
音楽的には、ファズやフィードバックを使ったギター、長い即興演奏、ドローン的な反復、テープ・エフェクト、電子音、非西洋圏の楽器などが特徴として挙げられる。ただし、これらすべてを備えている必要はない。3分程度のサイケデリック・ポップから10分を超える即興まで、作品の形態は幅広い。
また、当時急速に発達していたマルチトラック録音も重要だった。スタジオを単なる演奏記録の場所ではなく、現実にはそのまま演奏できない音を構築する「楽器」として扱う発想が広がったのである。
ガレージ・ロックとも密接な関係があり、荒々しいファズ・サウンドからサイケデリックへ接近した1960年代のバンドも少なくない。
サイケデリック・ロックの名盤10選
1. Revolver by The Beatles
The Beatlesが1966年に発表した『Revolver』は、サイケデリック・ロックの発展を考えるうえで重要なアルバムである。ポップソングとしての簡潔さを維持しながら、スタジオ技術によって従来のロックにはなかった音響を作り出した。
「Tomorrow Never Knows」では反復するドラムとドローン、テープ・ループ、加工されたボーカルを組み合わせ、「Love You To」ではインド音楽の要素を大胆に取り入れている。その一方、「Eleanor Rigby」のようにロックバンドの通常編成から離れた曲も収録された。
サイケデリックという言葉に難解な印象を持っている初心者でも入りやすく、1960年代のポップが実験音楽へ接近した過程を理解できる。
2. The Piper at the Gates of Dawn by Pink Floyd
Pink Floydが1967年に発表したデビューアルバム『The Piper at the Gates of Dawn』は、英国サイケデリックを代表する作品である。当時の中心人物Syd Barrettの作曲とギターが、アルバムの個性を決定づけている。
「Astronomy Domine」では反復するギター、オルガン、エコーを使い、宇宙的な音響を構築する。一方で「The Gnome」「Bike」のような短い曲には、英国的なユーモアや童話的な感覚も強い。
後年のPink Floydの大作志向とはかなり異なり、1960年代ロンドンのアンダーグラウンドなサイケデリック・シーンを知るために最初に聴きたい作品だ。
3. Are You Experienced by The Jimi Hendrix Experience
1967年に登場したThe Jimi Hendrix Experienceの『Are You Experienced』は、エレクトリック・ギターの可能性を大きく広げたアルバムである。
Jimi Hendrixはブルースを基盤としながら、ファズ、フィードバック、ワウなどを駆使し、ギターそのものを音響装置のように扱った。「Purple Haze」「Foxy Lady」などでは強力なリフとサイケデリックな音色が結びついている。
サイケデリック・ロックと聞いて長い実験音楽を想像する人にもおすすめしやすい。楽曲自体はブルースやロックンロールに根差しており、そこへ革新的なギターサウンドが加えられているからだ。
4. Surrealistic Pillow by Jefferson Airplane
サンフランシスコのJefferson Airplaneが1967年に発表した『Surrealistic Pillow』は、アメリカ西海岸のサイケデリック・ロックを代表するアルバムである。
Grace Slickの力強いボーカルを生かした「Somebody to Love」や、幻想的な「White Rabbit」が特に有名だ。フォーク・ロック由来のハーモニーとエレクトリックなバンド演奏を組み合わせ、サンフランシスコのカウンターカルチャーを象徴する作品のひとつとなった。
実験性を持ちながら曲がコンパクトで、メロディも明確である。サイケデリック・ロック初心者が1967年前後の西海岸サウンドへ入るには適した一枚だ。
5. The Doors by The Doors
The Doorsが1967年に発表したセルフタイトルのデビューアルバムは、ロサンゼルスのサイケデリック・ロックを代表する作品である。
Ray Manzarekのオルガン、Robby Kriegerのギター、John Densmoreのジャズ的なドラム、Jim Morrisonの低いボーカルという編成が独自のサウンドを作った。「Light My Fire」では長いインストゥルメンタル・パートを展開し、「The End」では約12分にわたる演奏によってアルバムを締めくくる。
ブルース、ジャズ、ロック、即興演奏が交差しており、ギターだけではないサイケデリック・ロックの面白さがよくわかる。
6. Disraeli Gears by Cream
Creamが1967年に発表した『Disraeli Gears』は、ブルースロックとサイケデリック・ロックが交差した代表作である。
Eric Claptonのギター、Jack Bruceのベースとボーカル、Ginger Bakerのドラムという強力な演奏陣を中心に、「Sunshine of Your Love」のような重量感のあるリフと、当時のサイケデリックな音色や楽曲構成を組み合わせている。
ブルースを出発点としたロックが、1960年代後半にどのようにハードで実験的な方向へ変化したのかを理解しやすい。後のハードロックへつながる作品としても重要である。
7. Forever Changes by Love
ロサンゼルスのLoveが1967年に発表した『Forever Changes』は、サイケデリック・ロックとフォーク・ロック、バロック・ポップが交差する作品である。
Arthur Leeを中心に作られた楽曲は、アコースティック・ギターを基盤としながら、ストリングスやホーンを加えた緻密なアレンジを特徴とする。「Alone Again Or」ではフラメンコ的なギターと華やかな管楽器が組み合わされ、一般的なサイケデリック・ロックとは異なる響きを作っている。
轟音や長い即興よりも、作曲やアレンジを重視したサイケデリアを聴きたい人におすすめである。
8. Easter Everywhere by The 13th Floor Elevators
テキサス州オースティンのThe 13th Floor Elevatorsが1967年に発表した『Easter Everywhere』は、アメリカの初期サイケデリック・ロックを語るうえで重要な作品である。
Roky Ericksonの切迫したボーカルとギターに、Tommy Hallのエレクトリック・ジャグが加わり、独特の脈動するサウンドを生み出している。冒頭の「Slip Inside This House」は長尺の演奏と反復を使った代表曲だ。
ガレージ・ロックの荒々しさとサイケデリックな反復が密接に結びついており、1960年代アメリカの地下ロックを掘り下げたい人には欠かせない。
9. Electric Ladyland by The Jimi Hendrix Experience
1968年の『Electric Ladyland』は、Jimi Hendrixがスタジオでの実験をさらに押し広げた作品である。『Are You Experienced』よりも音楽的な範囲が広く、ブルース、ファンク、サイケデリア、長尺のジャムなどが混在している。
「Voodoo Chile」や「1983… (A Merman I Should Turn to Be)」では長い演奏と音響実験を展開し、Bob Dylanのカバー「All Along the Watchtower」では多重録音されたギターによって原曲を大胆に作り替えた。
サイケデリック・ロックにおけるスタジオ制作とギター表現の到達点のひとつとして聴きたいアルバムである。
10. In-A-Gadda-Da-Vida by Iron Butterfly
Iron Butterflyが1968年に発表した『In-A-Gadda-Da-Vida』は、サイケデリック・ロックからハードロックへ向かう流れを示す作品である。
最大の特徴は、アルバム片面を占める約17分のタイトル曲だ。重いギターリフとオルガンを反復しながら、ギター、オルガン、ドラムなどのソロを展開する。短いポップソングとは異なる、長尺の演奏そのものを作品の中心へ置く発想が明確に表れている。
重量感のあるリフは後のハードロックやヘヴィメタルにもつながる。サイケデリックが1960年代末にどの方向へ拡張していったのかを知るために面白い一枚だ。
初心者におすすめの3枚
最初の一枚ならThe Beatlesの『Revolver』がおすすめである。メロディが明確で楽曲も比較的コンパクトでありながら、テープ操作、インド音楽、ドローン、加工されたボーカルなど、サイケデリック・ロックへつながる重要なアイデアが詰まっている。
ギターを中心に聴きたいならThe Jimi Hendrix Experienceの『Are You Experienced』がわかりやすい。ブルースやロックンロールの強力なリフを基盤としているため入りやすく、その上でファズやフィードバックを使ったサイケデリックなギター表現を楽しめる。
もう一枚はPink Floydの『The Piper at the Gates of Dawn』である。ポップソングと長めの実験的な演奏が共存しており、英国サイケデリックの奇妙さと自由な構成をまとめて体験できる。
関連ジャンルへの広がり
サイケデリック・ロックからさらに重い音を求めるなら、ハードロックへ進むと流れがわかりやすい。Cream、Jimi Hendrix、Iron Butterflyなどが押し広げた大音量のギター、重いリフ、長い即興は、1960年代末から1970年代初頭のハードロック形成と深く関係している。
一方、The BeatlesやLoveのような緻密なアレンジが気に入ったなら、サイケデリック・ポップやバロック・ポップへ広げることができる。Pink Floydなどの長尺曲や音響実験からは、プログレッシブ・ロックへ進む道も見えてくる。
さらにガレージ・ロックへさかのぼれば、ファズ・ギターや荒々しい演奏がどのようにサイケデリアと結びついたのかも理解しやすい。サイケデリック・ロックは、1960年代後半の多くのロック・ジャンルが交差した場所なのである。
まとめ
サイケデリック・ロックの名盤を聴くと、ひとつの音楽様式だけでは説明できないジャンルであることがわかる。The Beatlesはスタジオ技術、Jimi Hendrixはエレクトリック・ギター、Pink Floydは即興と音響、Jefferson Airplaneはフォーク、The Doorsはオルガンやジャズ的な演奏を通じて、それぞれ異なる方向からロックを拡張した。
初心者なら『Revolver』『Are You Experienced』『The Piper at the Gates of Dawn』の3枚を軸にすると理解しやすい。そこから『Surrealistic Pillow』『The Doors』『Forever Changes』へ広げれば、1967年前後のサイケデリック・ロックが持っていた多様性が見えてくる。
さらに『Electric Ladyland』や『In-A-Gadda-Da-Vida』まで進むと、サイケデリアが長尺化、重量化し、ハードロックやプログレッシブ・ロックなど次の時代の音楽へつながっていった過程まで追うことができる。

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