発売日: 1982年10月
ジャンル: ポストパンク、アートパンク
1982年にリリースされたMission of BurmaのフルアルバムVs.は、ポストパンクの可能性を押し広げた画期的な作品だ。ボストン出身のこのバンドは、1979年の結成から短期間でオルタナティブシーンの重要な位置を占める存在となった。Vs.は、彼らの実験的で複雑なサウンドを極限まで突き詰めたアルバムであり、商業的な成功には恵まれなかったものの、その影響力は計り知れない。後続のバンド—特にPixiesやSonic Youth、さらにはNirvanaにまで—多大な影響を与えたのは言うまでもない。
このアルバムでは、彼らのトレードマークであるノイズ、メロディ、そして緊張感が見事に融合している。独特のギターリフと複雑なリズム構成が聴き手を圧倒し、そこにRoger Millerの斬新なギターエフェクトと、Clint ConleyやPeter Prescottの緊密なアンサンブルが加わる。録音技術も先鋭的で、Martin Swopeのテープループやエフェクトがアルバム全体の音像をさらに広げている。以下は、その12曲についての詳細なレビューだ。
トラックごとの解説
1. Secrets
アルバムの冒頭を飾るこの曲は、即興的なエネルギーと緊張感に満ちている。反復されるギターリフが支配的で、そこに鋭いドラムとRoger Millerの冷淡なボーカルが絡む。歌詞は抽象的だが、その中に不穏なエネルギーが感じられる。
2. Train
疾走感のあるリズムが特徴的な一曲。反復的でありながらも予測不可能な展開を見せる。電車のような勢いで突き進むこの曲は、聴き手を物理的に揺さぶるような力強さを持っている。
3. Trem Two
アルバムの中でも特にメロディアスなトラック。重層的なギターラインと叙情的なベースラインが交差し、儚くも美しい雰囲気を作り出している。歌詞には孤独感と内省が漂い、アルバムの中で異彩を放つ存在だ。
4. New Nails
パンク的なエネルギーが炸裂するトラックで、短くて鋭い。タイトルが示すように、痛烈な鋭さが特徴だ。Peter Prescottのリズムワークが特に際立つ。
5. Dead Pool
ノイズと静寂の対比が印象的な実験的な楽曲。Martin Swopeによるテープループが不穏な空気を作り出し、耳を奪われる。
6. Learn How
歌詞と音楽の両方に皮肉が込められた一曲。ギターリフは単調に聞こえるが、その中に細かな変化が散りばめられており、リピートするたびに新しい発見がある。
7. Mica
美しいベースラインが主導する楽曲で、ポストパンクの典型的な構造を持ちながらも独自性を感じさせる。Clint Conleyのボーカルが、優しさと激しさを絶妙に行き来する。
8. Weatherbox
荒々しいエネルギーが爆発する一曲。ギターとドラムが複雑に絡み合いながらも、一種の秩序が保たれているのが見事だ。
9. The Ballad of Johnny Burma
皮肉とユーモアに満ちたトラックで、Mission of Burmaの遊び心が光る一曲だ。タイトル自体が彼らのセルフパロディとも取れる。
10. That’s How I Escaped My Certain Fate
アルバムを象徴する一曲で、ミニマルなギターリフと緊張感のあるリズムが特徴的だ。歌詞には逃避と自由への欲望が反映されており、その詩的な世界観がリスナーの想像力を刺激する。
11. Fame and Fortune
ややスローテンポの楽曲で、アルバム全体の中で異彩を放つ。ギターとベースが美しく調和し、Roger Millerの歌声が詩的な深みを与えている。
12. That’s When I Reach for My Revolver
アルバムのハイライトであり、バンドの代表曲とも言える名作。内省的な歌詞とメロディアスなサウンドが融合し、ポストパンクの名曲として語り継がれている。イントロのギターリフは、何度聴いてもその魅力を失わない。
ポストパンクの美学を極めた一枚
Vs.は、ポストパンクの実験的な側面を存分に発揮したアルバムであり、同時代のバンドにはない独特の深みと構造美を持っている。特にMartin SwopeのテープループやRoger Millerのギターエフェクトは、サウンドスケープに劇的な広がりを与えている。また、個々の曲が単独で魅力を持ちながらも、アルバム全体として一つの作品として完結している点が素晴らしい。
アルバム総評
Vs.は、Mission of Burmaの音楽的野心と鋭い感性が詰まったアルバムだ。その影響力は、後のオルタナティブ・ロックやインディー・シーンに大きな足跡を残した。時代を超えてなお、新鮮で斬新な響きを持つこの作品は、ポストパンクの金字塔として評価され続けている。複雑でありながらも感情的な響きがあり、聴くたびに新しい発見をもたらすだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Entertainment! by Gang of Four
鋭い政治的メッセージとファンキーなギターリフが特徴的。ポストパンクの黎明期を代表する名作。
Marquee Moon by Television
ギター中心の複雑なアレンジと詩的な歌詞が、Mission of Burmaファンにも響くだろう。
Pink Flag by Wire
短く鋭い楽曲が連なるアルバムで、ポストパンクの原点といえる作品。
Daydream Nation by Sonic Youth
ノイズとメロディが融合した革新的なアルバムで、Mission of Burmaの影響が感じられる。
Surfer Rosa by Pixies
エッジの効いたサウンドと予測不能な展開が魅力の一枚。Mission of Burmaと同様に、独自の世界観を持つ。
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