
発売日:2009年11月16日
ジャンル:ハードロック、オルタナティヴ・ロック、ストーナー・ロック、ブルースロック、プログレッシヴ・ロック
概要
Them Crooked VulturesのThem Crooked Vulturesは、2009年に発表された唯一のスタジオ・アルバムであり、21世紀ロックにおけるスーパーグループ作品の中でも特に強い存在感を持つ一枚である。メンバーは、Queens of the Stone AgeのJosh Homme、Foo FightersおよびNirvanaで知られるDave Grohl、そしてLed ZeppelinのJohn Paul Jones。これだけでも、ハードロック、オルタナティヴ・ロック、グランジ、ストーナー・ロック、クラシック・ロックの歴史が一つのバンドに凝縮されていることが分かる。
本作の重要性は、単に有名ミュージシャンが集まった企画盤ではない点にある。スーパーグループはしばしば、参加メンバーの過去の名声に依存し、作品そのものは寄せ集めに終わることがある。しかしThem Crooked Vulturesの場合、各メンバーの個性が明確に存在しながら、アルバム全体はひとつのバンドとして機能している。Josh Hommeの乾いた色気と奇妙な旋律、Dave Grohlの圧倒的なドラム、John Paul Jonesの複雑で重いベースラインと鍵盤感覚が、互いを邪魔せず、むしろ緊張感のある三角形を作っている。
音楽的には、本作は1970年代ハードロックの巨大なリフと、1990年代以降のオルタナティヴ・ロックの歪んだ感覚、さらにストーナー・ロック特有の乾いた砂漠的なグルーヴを結びつけている。Led Zeppelinの遺伝子は当然感じられるが、単なる懐古ではない。むしろ、古典的なロックの重さを現代的な音圧、変拍子的な構成、皮肉な歌詞、危険なユーモアによって再構築している。重く、ねじれ、官能的で、時に悪夢的である。
Josh Hommeのキャリアにおいて、本作はQueens of the Stone Ageで築いた「砂漠のロック」の美学を、より巨大でクラシックなロック・スケールへ拡張した作品といえる。Hommeのギターは、ブルースに根を持ちながらも、一般的なブルースロックの土臭さより、乾いた機械的な反復と倒錯的なムードを重視する。彼のボーカルも、叫ぶというより、危険な誘いをかけるように歌う。そこにDave Grohlのドラムが加わることで、楽曲は一気に肉体性を増す。Grohlのドラミングは、Nirvana時代の爆発力と、Foo Fightersで培ったロック・アンセム的な推進力を持ちながら、本作ではより獰猛で、複雑なリフに対しても強烈な軸を与えている。
John Paul Jonesの存在は、本作を単なるオルタナティヴ・ハードロック以上のものにしている。彼のベースは、低音で支えるだけではなく、楽曲の構造そのものを動かす。時にファンク的で、時にプログレッシヴで、時に不気味なほど重い。Led Zeppelinで見せていたアレンジャーとしての能力も随所に表れており、楽曲の変化、間奏、リズムのねじれに深みを与えている。ギター、ドラム、ベースが主従関係ではなく、三つの巨大な力としてぶつかることが、このアルバム最大の魅力である。
歌詞面では、欲望、暴力、快楽、権力、自己破壊、皮肉、死の気配が繰り返し登場する。ただし、それらは真面目な告白としてではなく、グロテスクな寓話や悪趣味なジョークのように提示される。Josh Hommeの歌詞は、しばしば意味が明確に閉じず、聴き手を不穏なイメージの中に置く。悪徳、誘惑、腐敗、夜、砂漠、爬虫類的な感覚。そうした言葉と音が絡み合い、本作には一貫して危険な祝祭のようなムードがある。
日本のリスナーにとって本作は、Led Zeppelin、Queens of the Stone Age、Foo Fighters、Kyuss、Soundgardenなどをつなぐ作品として聴くことができる。70年代ハードロックの重量感を好むリスナーにも、90年代以降のオルタナティヴ・ロックの歪んだ美学を好むリスナーにも訴える。特に、リフ、グルーヴ、ドラムの音圧、ベースの動きに注目すると、このアルバムが単なる豪華メンバーの余技ではなく、非常に高度なバンド・アルバムであることが分かる。
全曲レビュー
1. No One Loves Me & Neither Do I
アルバム冒頭の「No One Loves Me & Neither Do I」は、Them Crooked Vulturesというバンドの性格を鮮烈に提示する楽曲である。タイトルからして自己嫌悪と皮肉に満ちており、「誰も自分を愛していないし、自分自身も愛していない」という言葉には、ロック的な虚無と悪趣味なユーモアが同居している。だが曲調は沈み込むのではなく、むしろ危険な余裕を持って進む。
前半は比較的抑制されたグルーヴで始まる。Josh Hommeのボーカルは、低く、滑らかで、相手をからかうような響きを持つ。ギターは重いが、単純に歪みを押しつけるのではなく、間を使いながら不穏な空気を作る。John Paul Jonesのベースは楽曲の底を這い、Dave Grohlのドラムは鋭く反応しながら、爆発を待っているような緊張を保つ。
曲の大きな魅力は、中盤以降の展開である。楽曲は突然、よりヘヴィで巨大なリフへ変化し、バンド全体が一気に牙をむく。この構成は、Led Zeppelin的なダイナミクスと、Queens of the Stone Age的なリフの反復を結びつけたものといえる。静かな毒から暴力的な解放へ進む流れは、アルバム冒頭として非常に効果的である。
歌詞のテーマは、愛の欠如と自己否定でありながら、完全に悲劇的ではない。むしろ、その虚無を笑い飛ばすような態度がある。自分が壊れていることを理解しながら、それを魅力や武器に変える。Them Crooked Vulturesの世界では、健康的な愛や救済はあまり重要ではない。むしろ、歪み、退廃、自己嫌悪こそが音楽を動かす燃料になっている。
2. Mind Eraser, No Chaser
「Mind Eraser, No Chaser」は、タイトルからして薬物的な忘却や、強い酒を薄めずに飲むような危険な快楽を連想させる楽曲である。「No Chaser」という表現は、刺激を和らげるものなしに受け入れることを意味し、この曲全体にも、逃げ場のないグルーヴと中毒性がある。
音楽的には、非常にタイトでロックンロール的な推進力を持つ。Dave Grohlのドラムは重く、正確で、曲を強引に前へ運ぶ。Josh Hommeのギターは鋭いリフを刻み、John Paul Jonesのベースはその下で不穏に動く。全体としてはストレートに聴こえるが、細部にはリズムのずれやフレーズのねじれがあり、単純なハードロックにはならない。
歌詞では、忘却、快楽、破滅的な自己麻酔がテーマになっている。何かを忘れたい、思考を消したい、現実から離れたいという欲望は、ロックの歴史の中で繰り返し歌われてきた。しかしThem Crooked Vulturesの場合、その欲望はロマンティックではなく、むしろ毒々しい。快楽は救済ではなく、さらに深い混乱への入口として響く。
Hommeのボーカルは、曲の危険な雰囲気を支える。彼は苦しみを叫ぶのではなく、楽しげに破滅へ誘うように歌う。その軽やかさが、歌詞の暗さを逆に際立たせる。楽曲はコンパクトでありながら、アルバム全体の退廃的なムードを強く補強している。
3. New Fang
「New Fang」は、本作からの代表的な楽曲であり、Them Crooked Vulturesの三者の個性が最もキャッチーな形で結びついた曲のひとつである。タイトルの「新しい牙」は、攻撃性、欲望、動物的な衝動を連想させる。曲そのものも、まさに牙をむくようなリフとグルーヴを持っている。
音楽的には、ファンキーでありながらヘヴィである。ギターのリフは鋭く、ベースは弾力を持って動き、ドラムは前のめりなエネルギーを生む。特にGrohlのドラムは、曲に巨大な身体性を与えている。彼の演奏は派手な技巧を誇示するというより、リフに対して最も強烈な打撃を与える形で機能している。
歌詞は、欲望や支配、関係性の中の動物的な側面を暗示する。Josh Hommeの歌詞は明確なストーリーを語るというより、危険なイメージを連ねることで世界を作る。この曲でも、「牙」というイメージが、恋愛や性的な緊張、攻撃性を象徴しているように響く。愛情は優しさではなく、噛みつくような衝動として描かれる。
「New Fang」は、本作の中では比較的分かりやすいフックを持つ曲である。しかし、親しみやすいからといって軽いわけではない。ロックの原始的な快楽、ファンク的なグルーヴ、ストーナー・ロック的な重さが、非常に高い密度でまとまっている。スーパーグループの名にふさわしい演奏の強度を、最も即効性のある形で示した楽曲である。
4. Dead End Friends
「Dead End Friends」は、タイトルからして行き止まりの人間関係や、出口のない仲間意識を連想させる楽曲である。Them Crooked Vulturesの歌詞世界では、友情や共同体も必ずしも温かいものではない。ここでの「友人」は、互いに救い合う存在というより、同じ袋小路にいる者たちとして描かれる。
音楽的には、比較的メロディアスで、アルバムの中では少し開けた感覚を持つ。しかし、その開放感は明るい希望というより、荒野を走るような乾いたものだ。ギターは広がりを持ち、ベースは安定した推進力を作り、ドラムは曲を大きく押し出す。Hommeのボーカルも、他の曲に比べて少し歌心が前面に出ている。
歌詞のテーマは、行き場のない人々の連帯として読める。Dead endとは、文字通り袋小路であり、未来が閉ざされた場所である。しかし、そこに友人がいることで、絶望は少しだけ形を変える。これはポジティブな友情賛歌ではない。むしろ、壊れた者同士が同じ場所にいることの奇妙な安心感が描かれている。
この曲は、アルバム前半の中で重要なバランスを担っている。重く、毒々しい曲が続く中で、少しだけ広い空間を作る。ただし、その空間にも乾いた諦念がある。Them Crooked Vulturesのロマンティシズムは、いつも傷や行き止まりと結びついている。
5. Elephants
「Elephants」は、本作の中でも特に重く、複雑で、バンドの演奏力が全面に出た楽曲である。タイトルの「象」は巨大さ、鈍重さ、力、記憶を連想させる。曲そのものも、まるで巨大な動物が地面を踏み鳴らすようなリフとリズムによって進む。
音楽的には、プログレッシヴな構成とストーナー・ロックの重量感が強く結びついている。リフは重く、変化に富み、曲の展開も単純なヴァースとコーラスだけではない。John Paul Jonesのベースは、Led Zeppelin時代から続く複雑なグルーヴ感覚を感じさせる。Dave Grohlのドラムは、その複雑さを力でまとめ上げる。Josh Hommeのギターは、鋭利というより、巨大な歯車のように曲を動かす。
歌詞は抽象的で、不穏なイメージが多い。象というイメージは、楽曲内で圧倒的な存在として機能している。自分では制御できない巨大な力、記憶、欲望、あるいは社会的な重圧。そうしたものに踏みつけられるような感覚がある。Hommeのボーカルは、この重い楽曲の上で、過剰に叫ばず、むしろ冷たく言葉を放つ。
「Elephants」は、Them Crooked Vulturesが単にキャッチーなロックを作るバンドではなく、複雑なリズムと巨大な音像を扱えるバンドであることを示す。アルバムの中でも特に演奏面の聴きどころが多く、三人のミュージシャンが対等にぶつかり合う迫力を味わえる曲である。
6. Scumbag Blues
「Scumbag Blues」は、タイトル通り、ブルースの伝統を悪趣味でねじれた形に変換した楽曲である。「Scumbag」という言葉には、ろくでなし、最低な人物という意味があり、この曲ではロックにおける悪漢的なキャラクターが前面に出ている。だが、それは古典的なブルースマンの苦悩ではなく、現代的な皮肉と退廃をまとったブルースである。
音楽的には、Led Zeppelin的なブルースロックの遺伝子が濃厚に感じられる。リフの組み立て、ベースの動き、ドラムの重さ、ファルセット気味のボーカルの使い方には、70年代ロックへの明確な接続がある。しかし、Them Crooked Vulturesはそれを単に再現するのではなく、より乾いた、グロテスクな質感に変えている。
歌詞では、自己中心的で信用ならない人物像が浮かび上がる。語り手は自分の悪さを隠さない。むしろ、それを魅力の一部として扱っている。これはロックの伝統にある「悪い男」の系譜に属するが、Josh Hommeの歌い方にはどこか演劇的な距離がある。彼は本気で悪ぶっているというより、悪ぶることの滑稽さも理解している。
「Scumbag Blues」は、本作におけるクラシック・ロック色の強い曲のひとつである。同時に、ブルースロックの伝統を現代的な皮肉で汚し直すような曲でもある。Them Crooked Vulturesが過去のロックを尊重しつつ、それをきれいな博物館展示にはしない姿勢がよく表れている。
7. Bandoliers
「Bandoliers」は、アルバム中盤に置かれた、比較的メロディアスで哀愁を帯びた楽曲である。タイトルの「Bandoliers」は弾帯を意味し、戦闘、武装、防衛、荒野のイメージを呼び込む。しかし曲調は単純な攻撃性だけでなく、どこかロマンティックで、疲れた旅のような感覚を持つ。
音楽的には、ギターの響きに広がりがあり、Hommeの歌もより感情的に聴こえる。とはいえ、一般的なバラードではない。リズムには重さがあり、ベースは曲の底で複雑に動き、ドラムも安定した力を保っている。荒野を進むキャラバンのようなグルーヴがあり、タイトルの武装したイメージとも合っている。
歌詞のテーマは、愛や関係性を戦闘や防衛の比喩で捉えるものとして読める。弾帯を身につけるということは、いつでも傷つけ、傷つけられる準備をしているということでもある。Them Crooked Vulturesの世界では、親密さは安全なものではなく、常に危険を伴う。この曲では、その危険が少し叙情的な形で描かれている。
「Bandoliers」は、アルバムの中で重要な陰影を与える曲である。重さとメロディ、荒々しさと寂しさが同居しており、Them Crooked Vulturesが単に獰猛なリフを鳴らすだけのバンドではないことを示している。
8. Reptiles
「Reptiles」は、タイトルが示す通り、爬虫類的な冷たさ、低く這う感覚、原始的な本能を想起させる楽曲である。Them Crooked Vulturesの音楽にはしばしば動物的なイメージが現れるが、この曲ではそれが特に不気味な方向へ向かう。
音楽的には、リフが低く、ねばり、曲全体が地面を這うように進む。ベースとギターの絡みは非常に重く、Dave Grohlのドラムはその上に強い打撃を加える。曲は単純な速度ではなく、重力によって聴き手を引きずり込むような力を持つ。John Paul Jonesのベースの動きは、まさに爬虫類のように滑らかで不穏である。
歌詞では、冷血性、欲望、捕食、変温動物的な感情のなさが暗示される。人間が理性や道徳をまとっていても、その下には本能的で爬虫類的な部分が残っている。この曲は、その暗い本能を音として描いているように聴こえる。Hommeのボーカルは、甘くもあるが、どこか毒を含んでいる。
「Reptiles」は、アルバムの中でも特にストーナー・ロック的な重さと、動物的な不気味さが強い曲である。聴き手を高揚させるというより、暗い穴へ引きずり込む。Them Crooked Vulturesの危険な魅力が濃く表れた楽曲である。
9. Interlude with Ludes
「Interlude with Ludes」は、アルバムの中で異様な小休止のように機能する楽曲である。タイトルには「ludes」、つまり鎮静剤を連想させる言葉が含まれ、薬物的なぼんやりした感覚、意識の変化、間奏的な脱力が示されている。だが、その脱力は決して穏やかではなく、むしろ不気味である。
音楽的には、ゆらぎのあるサウンド、奇妙なコード感、ゆっくりとしたグルーヴが中心になっている。アルバムの他の曲のような巨大なリフの衝突ではなく、少し歪んだラウンジ音楽のような雰囲気がある。Hommeのボーカルも、陶酔と皮肉の間を漂うように響く。
歌詞のテーマは、薬物的な逃避や、意識が緩んだ状態で見える奇妙な世界として読める。Them Crooked Vulturesのアルバム全体には快楽と破滅が結びついているが、この曲ではその快楽が少しスローモーション化される。激しいロックではなく、悪い夢の中の休憩室のような感覚がある。
「Interlude with Ludes」は、アルバムの構成上重要である。重いリフが続く中で、聴き手を別の酩酊状態へ移す。短いながらも、Them Crooked Vulturesの悪趣味でサイケデリックな側面を示す曲である。
10. Warsaw or the First Breath You Take After You Give Up
「Warsaw or the First Breath You Take After You Give Up」は、アルバム中でも最も長いタイトルを持つ楽曲であり、その内容も複雑でドラマティックである。タイトルに含まれる「Warsaw」は都市名としてのワルシャワを連想させる一方、「諦めた後に吸う最初の息」という表現は、降伏、解放、敗北後の奇妙な安堵を示している。Them Crooked Vulturesらしい、重くて皮肉な言葉の組み合わせである。
音楽的には、曲の展開が非常に重要である。序盤は重く、不穏なグルーヴを保ちながら進むが、曲は途中で形を変え、より広がりのあるパートへ展開していく。これは単なるハードロックではなく、プログレッシヴな構成力を持った楽曲である。John Paul Jonesのアレンジ感覚が強く感じられ、バンド全体が長尺曲を緊張感を保ったまま動かしている。
歌詞のテーマは、敗北、諦念、そしてその後に残る奇妙な自由として読める。人は何かにしがみついている間は苦しいが、諦めた瞬間に別の呼吸が生まれることがある。この曲は、その苦い解放感を描いているように響く。タイトルの長さそのものも、敗北と再生の複雑さを示している。
「Warsaw or the First Breath You Take After You Give Up」は、本作の中でも特に聴き応えのある楽曲である。リフの重さ、構成の変化、歌詞の不穏さが結びつき、Them Crooked Vulturesが単なるセッション的なバンドではなく、長い曲を構築できる強いバンドであることを示している。
11. Caligulove
「Caligulove」は、タイトルがローマ皇帝カリグラと愛を組み合わせた造語のように響く楽曲である。カリグラは暴君、狂気、権力、退廃の象徴としてしばしば語られる。その名に「love」を接続することで、この曲は愛と支配、欲望と暴力、親密さと専制を結びつけている。
音楽的には、ねじれたリフと不穏なグルーヴが中心にある。曲はダンサブルとも言えるが、その踊りは健康的なものではなく、退廃的な宮廷の中で行われる奇妙な儀式のように響く。ベースは太く、ギターは乾いており、ドラムは曲を獰猛に支える。
歌詞では、愛が支配や倒錯と結びつく。Them Crooked Vulturesの恋愛観は、甘い相互理解ではなく、欲望、権力、損傷の場として描かれることが多い。この曲では、その傾向が極端な形で表れている。愛は美しいものではなく、狂った権力者の遊戯のように響く。
「Caligulove」は、アルバムの退廃性を象徴する曲のひとつである。歴史的な暴君のイメージをロックの欲望と結びつけることで、Them Crooked Vulturesらしい悪趣味で魅力的な世界を作っている。
12. Gunman
「Gunman」は、アルバム終盤に置かれた、鋭いリズムと緊張感を持つ楽曲である。タイトルは銃を持つ男、あるいは暴力の実行者を意味する。Them Crooked Vulturesの歌詞世界では、暴力はしばしば直接的な行為であると同時に、欲望や支配の比喩でもある。
音楽的には、リズムの切れ味が非常に強い。ドラムは鋭く、ベースは動き回り、ギターは短いリフを刻む。曲全体には追跡劇のような緊張があり、止まることなく進む。Hommeのボーカルは、危険な人物を演じるように冷静で、かえって不気味である。
歌詞では、狙う者と狙われる者の関係、力の行使、危険な男性性が暗示される。銃を持つ人物は、支配力を持っているようでありながら、同時に暴力に取り憑かれた存在でもある。Them Crooked Vulturesは、そうした人物像を英雄化せず、むしろ不穏なキャラクターとして描く。
「Gunman」は、短く鋭い緊張感によって、アルバム終盤に再び攻撃性をもたらす。リフとリズムの機能性が非常に高く、三人の演奏が一体となって危険なスピード感を生み出している。
13. Spinning in Daffodils
アルバムの最後を飾る「Spinning in Daffodils」は、本作の終曲にふさわしい、壮大で不穏な余韻を持つ楽曲である。タイトルは一見すると詩的で、花の中で回るような幻想的なイメージを持つ。しかしThem Crooked Vulturesの文脈では、その美しいイメージもどこか狂気や酩酊と結びつく。
音楽的には、ゆっくりとした導入から、徐々に重さと広がりを増していく。ピアノや鍵盤的な響きも含まれ、John Paul Jonesの存在感が強く感じられる。曲は単純なハードロックではなく、サイケデリックで、プログレッシヴで、終末的な雰囲気を持つ。アルバム全体の毒と重さが、最後にゆっくりと沈殿していくような構成である。
歌詞では、幻想、酩酊、回転、自然のイメージが混ざり合う。水仙の中で回るという美しい光景は、無邪気な幸福ではなく、意識が揺らぎ、現実感が失われる場面として響く。Them Crooked Vulturesの音楽では、美しいものも常に不気味さを帯びる。この曲は、その感覚を最もゆっくり、深く表現している。
終曲としての「Spinning in Daffodils」は、本作を単なるリフのアルバムとして終わらせない。アルバム全体を覆っていた快楽、暴力、退廃、酩酊が、最後にサイケデリックな夢の中へ溶けていく。聴後には、巨大なロックの音塊を浴びた後の疲労と陶酔が残る。
総評
Them Crooked Vulturesは、スーパーグループ作品にありがちな名義先行の弱さを回避し、三人の個性が本物のバンド・サウンドとして結実した稀有なアルバムである。Josh Homme、Dave Grohl、John Paul Jonesという顔ぶれはあまりに強力だが、本作の価値はその経歴ではなく、実際に鳴っている音の強度にある。ギター、ドラム、ベースが互いに譲らず、それでいて崩壊しない。そこに、このバンドの魅力がある。
音楽的には、70年代ハードロック、ストーナー・ロック、ブルースロック、オルタナティヴ・ロック、プログレッシヴ・ロックが混ざり合っている。Led Zeppelin的な巨大なリフとダイナミクスは当然感じられるが、それだけではない。Queens of the Stone Age的な乾いた反復、Nirvana以降の爆発的なドラム、現代ロックの重い音圧が組み合わさり、過去のロックを現代的に再起動している。
Dave Grohlのドラムは、本作の大きな聴きどころである。Foo Fightersではフロントマンとしての印象が強いが、ここではドラマーとしての凄みが改めて前面に出る。彼のドラムは、重いだけでなく、リフの隙間を埋め、楽曲を押し出し、時に暴力的なほどの推進力を生む。Nirvana時代の身体性を思い出させながら、より成熟したロック・ドラマーとしての技術も感じさせる。
John Paul Jonesの存在も決定的である。彼は単なる伝説的ゲストではなく、バンドの構造そのものを作っている。ベースラインはしばしばギターと同じくらい主張し、楽曲の展開を導く。鍵盤やアレンジの感覚も、アルバムにクラシック・ロック以上の奥行きを与えている。彼がいることで、本作はただの重いロックではなく、構築性と知性を備えた作品になっている。
Josh Hommeは、この強力な二人の間で、バンドの美学を統一している。彼のギターとボーカルは、砂漠的な乾き、倒錯的なユーモア、官能と不気味さをアルバム全体に与えている。Hommeの歌詞は、明確なメッセージを語るというより、腐敗した夢、危険な人物、暴力的な愛、薬物的な忘却、動物的な本能を断片的に提示する。その断片性が、本作のダークで魅力的な世界観を作っている。
本作は、聴きやすいロック・アルバムではあるが、単純ではない。曲はリフ中心で身体的に楽しめる一方、構成は複雑で、歌詞はねじれており、ムードはかなり暗い。特に「Elephants」「Warsaw or the First Breath You Take After You Give Up」「Spinning in Daffodils」のような曲では、長尺の展開やサイケデリックな質感が強く、プログレッシヴなロックとしての側面も見える。
歌詞面では、愛や欲望が常に危険なものとして描かれる。健全な関係や癒やしはほとんど存在しない。代わりに、自己嫌悪、忘却、牙、爬虫類、暴君、銃、悪党、薬物的な酩酊が並ぶ。これは単なる暗さではなく、ロックが本来持っていた危険な遊戯性を現代的に再構築したものといえる。Them Crooked Vulturesは、ロックを清潔で安全な娯楽にしない。むしろ、危険で、滑稽で、悪趣味で、肉体的なものとして鳴らしている。
日本のリスナーにとっては、まずメンバーの経歴から入る作品かもしれない。Led Zeppelin、Nirvana、Foo Fighters、Queens of the Stone Ageという名前が並ぶだけで、ロック史の巨大な接点として興味を引く。しかし実際に聴くと、本作はそれらの過去を単純に足し算したものではない。むしろ、三人が過去の自分たちを材料にしながら、別の怪物のようなバンドを作り上げている。
Them Crooked Vulturesは、2000年代末において、ロックがまだ巨大なリフと生々しい演奏によって聴き手を圧倒できることを示したアルバムである。懐古的でありながら新しく、クラシックでありながら毒々しい。スーパーグループの理想的な成功例であり、ハードロック、ストーナー・ロック、オルタナティヴ・ロックの交差点に立つ重要作である。
おすすめアルバム
1. Queens of the Stone Age – Songs for the Deaf
Josh HommeとDave Grohlが共演した重要作であり、Them Crooked Vulturesの前史として欠かせないアルバム。砂漠的な乾き、巨大なリフ、ラジオ番組風の構成、狂気とユーモアの混在が特徴である。本作のリフ感覚やドラムの爆発力を理解するうえで最も関連性が高い。
2. Led Zeppelin – Physical Graffiti
John Paul Jonesが参加したLed Zeppelinの大作であり、ハードロック、ブルース、ファンク、プログレッシヴな構成が混ざった作品。Them Crooked Vulturesの重厚なリフ、複雑なグルーヴ、長尺曲の構築力の源流を知るために重要である。クラシック・ロックの巨大さを味わえる一枚である。
3. Foo Fighters – The Colour and the Shape
Dave Grohlのメロディアスなロック・ソングライティングと、強力なドラム/ギター・サウンドが結びついた代表作。Them Crooked Vulturesほど暗くねじれてはいないが、Grohlのロックに対する肉体的な感覚を理解するうえで有効である。
4. Kyuss – Welcome to Sky Valley
ストーナー・ロック/デザート・ロックの重要作であり、Josh Hommeの初期キャリアを理解するうえで不可欠なアルバム。重いリフ、乾いた音像、サイケデリックな反復が特徴で、Them Crooked Vulturesの砂漠的なヘヴィネスの背景を知ることができる。
5. Soundgarden – Superunknown
90年代オルタナティヴ・ハードロックの代表作。ヘヴィなリフ、変拍子的な構成、暗い歌詞、クラシック・ロックからの影響を現代的に再構築する姿勢において、Them Crooked Vulturesと比較しやすい。重さと知性を兼ね備えたロックを好むリスナーに適している。

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