
発売日:2006年4月11日
ジャンル:ガレージロック、ハードロック、ブギー・ロック、オルタナティヴ・ロック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. I Want You So Hard (Boy’s Bad News)
- 2. I Gotta Feelin (Just Nineteen)
- 3. Cherry Cola
- 4. I Like to Move in the Night
- 5. Solid Gold
- 6. Don’t Speak (I Came to Make a Bang!)
- 7. Keep Your Head Up
- 8. The Ballad of Queen Bee and Baby Duck
- 9. Poor Doggie
- 10. Chase the Devil
- 11. Eagles Goth
- 12. Shasta Beast
- 13. Bag O’ Miracles
- 総評
- おすすめアルバム
概要
Eagles of Death Metalの『Death By Sexy』は、2006年に発表された2作目のスタジオ・アルバムである。バンド名に「Death Metal」と入っているが、音楽性はデスメタルではない。実際には、1970年代のブギー・ロック、ガレージロック、グラムロック、ブルース・ロックを、軽薄さとユーモアを交えて再構成したロックンロール作品である。
中心人物はJesse HughesとJosh Hommeである。Josh HommeはQueens of the Stone Ageの中心人物として知られ、ストーナー・ロックや砂漠的なヘヴィ・グルーヴを代表する存在だが、Eagles of Death Metalではより軽快でダンス可能なロックンロールを志向している。重さよりもノリ、暗さよりも享楽性、複雑な構築よりも即効性が重視されている。
前作『Peace, Love, Death Metal』がバンドの基本的なキャラクターを提示した作品だとすれば、『Death By Sexy』はその方向性をより明確に磨き上げたアルバムである。ギター・リフはシンプルで、リズムは跳ね、ボーカルは挑発的でコミカルに響く。性的な冗談、パーティー感覚、ロックンロールの過剰な身振りが全編を貫いている。
本作の重要性は、2000年代ロック・リバイバルの文脈にもある。The Strokes、The White Stripes、The Hivesなどがガレージロックの簡潔さを再評価した時期に、Eagles of Death Metalはそこへさらにブギー、グラム、ハードロックの悪ふざけを加えた。洗練されたクールさよりも、汗、腰の動き、冗談、いかがわしさを前面に出した点が特徴である。
全曲レビュー
1. I Want You So Hard (Boy’s Bad News)
アルバム冒頭を飾る代表曲であり、本作の性格を一気に提示する楽曲である。シンプルなギター・リフ、手拍子的なリズム、挑発的なボーカルが組み合わされ、ロックンロールの原始的な快楽を押し出している。
歌詞は欲望を直接的に扱っており、深い心理描写よりも、誇張された誘惑の身振りが中心である。Eagles of Death Metalの特徴は、こうした性的な表現を深刻にせず、ほとんど漫画的なキャラクターとして演じる点にある。曲全体がロックンロールの決めポーズをパロディ化しながら、同時に本気で楽しんでいる。
2. I Gotta Feelin (Just Nineteen)
軽快なテンポとキャッチーなコーラスが印象的な楽曲である。ガレージロック的な荒さを持ちながら、メロディは非常にわかりやすく、ポップな即効性がある。
歌詞では若さ、衝動、恋愛、危うい魅力が扱われる。タイトルにある「Just Nineteen」は、未成熟さや無鉄砲さの象徴として機能している。ここでも重要なのは、真面目な青春の告白ではなく、ロックンロール的な誇張表現として若さが使われている点である。
3. Cherry Cola
本作の中でも特にポップで親しみやすい楽曲である。タイトルの「Cherry Cola」は甘さ、人工的な刺激、アメリカ的なポップ文化を想起させる。楽曲もそのイメージ通り、軽く、甘く、すぐに耳に残る。
サウンドはシンプルながら、リズムの跳ね方が巧みで、踊れるロックとして機能している。歌詞の内容は直接的な物語よりも、甘い誘惑や欲望のイメージを並べる形に近い。Eagles of Death Metalの音楽が持つ、低俗さをあえて魅力に変える姿勢がよく表れている。
4. I Like to Move in the Night
夜の移動、パーティー、欲望、秘密めいた行動をテーマにした楽曲である。タイトルからもわかる通り、夜のロックンロール的なイメージが中心にある。
音楽的には、ブギー・ロックの反復的なグルーヴが強く、身体を揺らすことを目的にした構成になっている。歌詞も抽象的な内省ではなく、夜の街を動き回る人物像を演じるように作られている。シンプルな反復が、楽曲に中毒性を与えている。
5. Solid Gold
タイトル通り、きらびやかで少し安っぽいゴージャスさを持つ楽曲である。グラムロック的な感覚が強く、ロックンロールの虚飾やスター性を茶化しながら肯定している。
ギターのリフは無駄がなく、リズムもタイトである。歌詞では、価値、輝き、魅力が誇張された言葉で扱われる。Eagles of Death Metalにとって「金色」は本物の高級感ではなく、ショー的な派手さの象徴である。本曲はその美学を端的に示している。
6. Don’t Speak (I Came to Make a Bang!)
アルバム中でも特に攻撃的で勢いのある楽曲である。タイトルの「話すな、爆発しに来た」という姿勢は、理屈よりも行動、説明よりも衝動を重視するバンドの哲学そのものを表している。
音楽的には、パンク的な直線性とハードロック的なリフが結びついている。複雑な構成はなく、短いフレーズを勢いよく押し切る。歌詞もまた、会話や理解ではなく、騒ぎを起こすことを目的にしている。ライブでの機能性が高い楽曲である。
7. Keep Your Head Up
本作の中では比較的ポジティヴなメッセージを持つ楽曲である。タイトルは「顔を上げろ」「落ち込むな」という意味を持ち、パーティー・ロックの中に簡潔な励ましが込められている。
ただし、Eagles of Death Metalの励ましは、深刻な人生訓ではない。軽いリズムと明るいメロディによって、重苦しさを避けながら前向きさを表現している。落ち込んだ感情を分析するのではなく、身体を動かすことで気分を変えるような曲である。
8. The Ballad of Queen Bee and Baby Duck
タイトルからして寓話的で、少し奇妙な物語性を持つ楽曲である。Queen BeeとBaby Duckというキャラクター名は、ロックンロール的な神話というより、悪ふざけに近い演劇性を感じさせる。
音楽的には、バラードという言葉が入っているものの、感傷的というよりはユーモラスで軽快である。歌詞では男女関係やキャラクター同士の力関係が、コミカルに描かれる。Eagles of Death Metalの作品において、物語性は深いドラマではなく、パーティーの余興のように機能する。
9. Poor Doggie
ブルース的なユーモアと哀愁を感じさせる楽曲である。「かわいそうな犬」というタイトルは、負け犬的な自己像や、情けない男の姿を茶化すように使われている。
サウンドは軽く、泥臭いブルースをそのまま再現するのではなく、ガレージロック的に簡略化している。歌詞は自己憐憫を深刻に描くのではなく、情けなさを笑いに変える。ここには、ロックンロールの古典的な「だらしない男」のイメージが現代的に再利用されている。
10. Chase the Devil
タイトルはレゲエやブルースにも通じる悪魔払いのイメージを持つ。Eagles of Death Metalの場合、悪魔は宗教的な恐怖というより、欲望、誘惑、夜遊び、ロックンロールの象徴として扱われている。
楽曲は反復的なリズムを持ち、呪術的というよりダンス的である。悪魔を追い払うというより、悪魔と遊んでいるような感覚がある。バンド名の冗談性ともつながる、軽薄で危険な雰囲気を持つ曲である。
11. Eagles Goth
タイトルはバンド名とゴス的なイメージを掛け合わせたようなユーモラスなものになっている。ゴス・ロックの暗さを本格的に追求するというより、暗黒趣味を軽く茶化すような楽曲である。
サウンドは過度に陰鬱ではなく、むしろいつものEagles of Death Metalらしいリズム感が残っている。歌詞や雰囲気には、黒い服、夜、演劇的な不気味さへのパロディが感じられる。ロックのサブカルチャー的な記号を遊びとして扱う姿勢が表れている。
12. Shasta Beast
アルバム後半で異彩を放つ楽曲である。タイトルの「Beast」は獣性を示し、バンドの持つ野性的な側面を象徴する。
音楽的には、リフの反復とリズムの押し出しが中心で、歌詞の意味よりも音の感触が重要である。Eagles of Death Metalの楽曲では、しばしば言葉は深い物語を語るためではなく、リズムとキャラクターを作るために使われる。本曲もその典型であり、獣のようなノリを演出している。
13. Bag O’ Miracles
アルバムを締めくくる楽曲として、少し奇妙で余興的な雰囲気を持つ。タイトルは「奇跡の袋」という意味で、いかにも見世物小屋的なユーモアがある。
サウンドは肩の力が抜けており、アルバム全体のパーティー的な空気を軽く締める役割を果たしている。大きな感動や劇的な結論ではなく、冗談めいた余韻で終わる点がEagles of Death Metalらしい。最後まで深刻さを拒む姿勢が貫かれている。
総評
『Death By Sexy』は、Eagles of Death Metalの美学が最もわかりやすく結晶化した作品である。ここで鳴っているのは、重厚なメタルでも、思想的なパンクでも、複雑なオルタナティヴ・ロックでもない。シンプルなリフ、跳ねるリズム、挑発的なボーカル、性的な冗談、ロックンロールの過剰な演技で構成された、極めて身体的なアルバムである。
本作の魅力は、音楽的な軽さを徹底している点にある。多くのロック作品が深刻さや芸術性によって価値を示そうとする中で、Eagles of Death Metalは軽薄さ、馬鹿馬鹿しさ、下品さを意識的に武器にしている。しかしそれは手抜きではない。リフは簡潔で効果的に作られており、リズムは踊りやすく、曲は短くまとまっている。無駄を削ぎ落としたからこそ、パーティー・ロックとしての即効性が強い。
また、Josh Hommeの関与によって、サウンドには乾いた質感とタイトなグルーヴがある。Queens of the Stone Ageのような重さや陰影は控えめだが、反復リフの快楽やリズムの粘りには共通点がある。Jesse Hughesのボーカルは、ロックスターの誇張されたキャラクターを演じることで、楽曲にコミカルな色気を与えている。
歌詞の面では、欲望、誘惑、若さ、夜、パーティー、自己演出が繰り返し扱われる。深い内省よりも、ロックンロールの記号をいかに楽しく鳴らすかが重視されている。そのため、本作は歌詞を文学的に読み解くよりも、言葉の響きや態度、キャラクター性を楽しむべき作品である。
日本のリスナーにとっては、Queens of the Stone Age周辺の重いロックを期待すると意外に感じられるかもしれない。しかし、The Rolling Stones、T. Rex、The Stooges、AC/DC、The Cramps、The Hivesなどに通じる、シンプルで踊れるロックンロールを好むリスナーには非常にわかりやすい魅力を持つ。
『Death By Sexy』は、ロックを深刻な芸術としてではなく、身体を動かし、笑い、少し下品に楽しむものとして提示した作品である。その軽さは欠点ではなく、むしろ本作の核である。2000年代ガレージロック・リバイバルの中でも、特にユーモアと享楽性に振り切った一枚として評価できる。
おすすめアルバム
- Eagles of Death Metal – Peace, Love, Death Metal (2004)
バンドの基本スタイルを確立したデビュー作。より荒削りで、ガレージロック的な勢いが強い。
– Queens of the Stone Age – Songs for the Deaf (2002)
Josh Hommeの重厚なリフ感覚と砂漠的グルーヴを知るうえで重要な作品。
– The Hives – Veni Vidi Vicious (2000)
2000年代ガレージロック・リバイバルを代表する作品。短く鋭いロックンロールが特徴。
– The Cramps – Songs the Lord Taught Us (1980)
ガレージ、ロカビリー、ホラー趣味、ユーモアを融合した作品で、Eagles of Death Metalの悪ふざけ感覚と相性がよい。
– T. Rex – Electric Warrior (1971)
グラムロックの色気とシンプルなリフの魅力を示す名盤。『Death By Sexy』の軽薄なセクシーさの源流として聴ける。



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