
1. 楽曲の概要
「Submission」は、Sex Pistolsが1977年に発表した楽曲である。バンド唯一のスタジオ・アルバム『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols』に収録された曲として知られるが、初回の英国盤では扱いがやや特殊だった。初期の一部プレスではアルバム本編に入らず、片面7インチ・シングルとして添付される形が取られ、その後の12曲入り盤や各種再発盤でアルバム収録曲として定着した。
作曲クレジットは、John Lydon、Steve Jones、Paul Cook、Glen Matlockに置かれている。Sex Pistolsの楽曲の多くと同様、クレジット上はバンド名義に近い形で整理されているが、「Submission」はGlen Matlockの作曲面での貢献が比較的強く感じられる曲である。Matlockはアルバム完成前にバンドを離れ、Sid Viciousが後任として加入したが、アルバムの楽曲形成にはMatlock在籍時の要素が多く残っている。
「Submission」は、Sex Pistolsの代表曲としてすぐに挙げられる「Anarchy in the U.K.」「God Save the Queen」「Pretty Vacant」ほど政治的なスローガン性は強くない。むしろ、性的な言葉遊び、鈍いグルーヴ、湿った音色を使い、アルバム内で異なる質感を生み出している曲である。タイトルは「服従」「提出」を意味する英語であると同時に、「sub-mission」という分解によって潜水艦や水中のイメージにも結びつく。Sex Pistolsらしい低俗さ、ユーモア、攻撃性が、比較的スローなテンポの中に収められている。
2. 歌詞の概要
「Submission」の歌詞は、表面的には性的な誘惑や支配関係をめぐる曲として読める。語り手は相手に引き寄せられ、抵抗できない状態にある。その感覚が「submission」、つまり服従や屈服という言葉に重ねられている。
ただし、この曲の面白さは、単純なラブソングや欲望の歌に収まらないところにある。歌詞には水中、潜航、海に沈むようなイメージが使われており、タイトルの言葉遊びと結びついている。欲望に飲み込まれる感覚が、海の中へ引きずり込まれる感覚として表される。Sex Pistolsの曲としては、直接的な怒号よりも、粘りのある比喩と語感の反復が目立つ。
Johnny RottenことJohn Lydonの歌唱は、ここでも歌詞を素直な感情表現として響かせない。彼は誘惑される人物を演じているようでもあり、その状況を嘲笑しているようでもある。性的な支配や服従を扱っていながら、曲全体にはロマンティックな温度がほとんどない。むしろ、欲望そのものが不快で滑稽なものとして提示される。
「Submission」という言葉には、パンク的な反抗と反対の意味が含まれている。Sex Pistolsは一般に、権威への反発を象徴するバンドとして語られる。しかしこの曲では、語り手が何かに支配され、沈み、抵抗できない状態に置かれる。その反転が、アルバム全体の中で独特の位置を作っている。
3. 制作背景・時代背景
『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols』は、1977年10月にVirgin Recordsから発表された。Sex Pistolsにとって唯一のオリジナル・スタジオ・アルバムであり、英国パンクを象徴する作品である。プロデュースはChris ThomasとBill Priceが担当した。録音はWessex Sound Studiosを中心に行われ、バンドの混乱した状況にもかかわらず、完成した音は非常に整理されている。
「Submission」は、アルバム制作と発売形態の混乱を象徴する曲でもある。初期の英国盤では、11曲入りのアルバム本編とは別に片面シングルとして付属する形が取られた。これは、フランス盤との収録内容や発売時期の事情、またアルバムのプレスを急いだ状況とも関係している。その後、12曲入りの形が一般化したことで、「Submission」はアルバムの一部として認識されるようになった。
Sex Pistolsは1977年当時、音楽的な存在であると同時に社会的な事件として扱われていた。「God Save the Queen」は王室批判として大きな論争を呼び、バンドはテレビ、新聞、レコード会社、警察、世論のすべてと衝突していた。『Never Mind the Bollocks』のタイトル自体も猥褻性をめぐる裁判の対象となった。そうした状況の中で、「Submission」は表立った政治性よりも、より身体的で下世話な方向からアルバムの反抗性を補っている。
当時の英国ロックでは、パンクが既存のロック文化を壊す勢いを持っていた。長いソロや技巧的な演奏を重視するプログレッシブ・ロック、商業的に成熟したハードロック、ブリティッシュ・ロックの伝統に対し、Sex Pistolsは短く、粗く、挑発的な曲で対抗した。ただし「Submission」は、その中では比較的テンポが遅く、演奏にも粘りがある。アルバム内で一息つかせる曲でありながら、内容は安全地帯には入らない。
4. 歌詞の抜粋と和訳
Submission
和訳:
服従、あるいは屈服
この一語は、曲全体の構造を示している。Sex Pistolsの多くの曲が、外側の権力や社会制度に向かって反抗を投げつけるのに対し、「Submission」は、語り手自身が何かに飲み込まれていく状態を扱う。反抗のバンドが「服従」という言葉をタイトルに置くこと自体が、皮肉として機能している。
また、この言葉は「sub-mission」と分けて読むことで、潜水艦的な任務、水中への下降というイメージにもつながる。歌詞中の海や潜航の感覚は、単なる装飾ではなく、欲望に支配される状態を表す比喩として働いている。
歌詞引用は、著作権への配慮から最小限にとどめている。全文を確認する場合は、正規の歌詞掲載サービスや公式音源を参照するのが適切である。
5. サウンドと歌詞の考察
「Submission」は、Sex Pistolsの楽曲の中では比較的ミドルテンポで進む。冒頭から爆発する「Holidays in the Sun」や、鋭いリフで押し切る「God Save the Queen」と比べると、リズムには余白がある。この余白が、曲に湿った感触を与えている。
Steve Jonesのギターは、ここでも厚く重ねられている。Jonesは『Never Mind the Bollocks』において、単純なパワーコードをただ荒く鳴らすのではなく、音の壁としてギターを配置した。パンクの粗さを持ちながら、録音物としては非常に太く、明瞭である。「Submission」では、そのギターが疾走よりも重心の低さを作っている。
ベースは、アルバム全体の複雑な制作事情を反映している。Sex Pistolsの録音では、Steve Jonesが多くのベースパートを担当したとされるが、Glen Matlockが残した作曲的な感覚は楽曲構造に残っている。「Submission」は、Matlock的なポップ感覚と、Jonesの無骨なギターサウンドがぶつかる曲といえる。メロディや構成には引っかかりがあり、単なる3コードの突進にはなっていない。
Paul Cookのドラムは、曲の鈍い推進力を支えている。速さで押すのではなく、一定の重さで前に進むため、歌詞の「沈む」「引き込まれる」感覚と結びつく。キックとスネアは明快だが、曲全体の空気は乾きすぎていない。パンクでありながら、わずかにガレージロックや初期ロックンロールの粘りも感じられる。
John Lydonのボーカルは、この曲の決定的な要素である。彼の声は、欲望に身を任せる歌い方ではなく、言葉をねじるように発音する。歌詞の性的な含意は明らかだが、Lydonの歌唱によって、それは官能的というより不穏なものになる。語り手は相手に惹かれているのか、支配される状況を嫌悪しているのか、あるいはその両方なのかが曖昧である。
この曖昧さは、Sex Pistolsの表現において重要である。彼らは単に怒りを表現したバンドではない。下品さ、冗談、悪意、誇張、自己破壊が混ざった表現を行った。「Submission」はその中でも、政治的な怒りより身体的な違和感に近い。社会への攻撃ではなく、欲望や支配関係そのものの不快さを扱っている。
アルバム内で見ると、「Submission」は後半の流れに変化をつける曲である。「Pretty Vacant」や「New York」のような明快な攻撃性に比べ、曲の焦点はやや内側へ向かう。テンポを落とすことで、アルバムの一面的な疾走を避け、Sex Pistolsの曲作りにある幅を示している。
また、この曲は「Bodies」と比較すると興味深い。「Bodies」は妊娠、中絶、身体への嫌悪を露骨に扱い、聴き手に強い衝撃を与える曲である。それに対して「Submission」は、性的な主題を扱いながらも、直接的な暴力性より言葉遊びとグルーヴで進む。どちらも身体をめぐる曲だが、表現の角度が異なる。
「Submission」が代表曲の陰に隠れやすい理由は、シングルとしての強烈なスローガン性に欠けるためである。しかし、Sex Pistolsの音楽が単なる速さや怒号だけではなかったことを理解するには重要な曲である。パンクの単純化されたイメージから外れた、鈍く、湿り、皮肉な側面がここにある。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Bodies by Sex Pistols
『Never Mind the Bollocks』の中でも、身体性と嫌悪感が最も露骨に表れた曲である。「Submission」が欲望に飲み込まれる感覚を扱うのに対し、「Bodies」は身体そのものへの嫌悪と混乱を前面に出している。
- No Feelings by Sex Pistols
冷笑的な語り口と分厚いギターが目立つ曲である。「Submission」よりもテンポは速いが、感情を素直に表さず、攻撃的な距離感を保つ点で近い。
- Pretty Vacant by Sex Pistols
Sex Pistolsのポップな作曲能力がよく表れた代表曲である。「Submission」にあるGlen Matlock的なメロディ感覚を理解するうえでも聴き比べやすい。攻撃性とキャッチーさの両立が明確である。
- New Rose by The Damned
英国パンク初期の勢いを示す重要曲である。Sex Pistolsよりもロックンロール色が強く、スピード感が前面に出ているが、1977年前後のロンドン・パンクの空気を共有している。
- Complete Control by The Clash
Sex Pistolsと同時代の英国パンクを代表する曲である。レコード会社や音楽業界への怒りを扱っており、「Submission」より政治的・社会的な輪郭が明確だが、当時のパンクが置かれた緊張を理解するうえで重要である。
7. まとめ
「Submission」は、Sex Pistolsの楽曲の中では、代表曲のような即時的なスローガン性を持たない。しかし、その分、バンドの別の側面をよく示している。性的な言葉遊び、服従というタイトルの皮肉、水中へ沈むようなイメージ、ミドルテンポの重いグルーヴが組み合わさった曲である。
『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols』は、しばしば怒りと挑発のアルバムとして語られる。その理解は正しいが、「Submission」を聴くと、Sex Pistolsの音楽には単なる直線的な攻撃だけでなく、下世話なユーモアや身体的な不快感も含まれていたことがわかる。
アルバム初期プレスでの特殊な扱いも、この曲の位置づけを複雑にしている。最初から当然のように本編に収まっていた曲ではなく、付属シングルや再発を通じてアルバムの一部として定着していった。その経緯は、Sex Pistolsというバンドそのものの混乱した歴史とも重なる。
「Submission」は、Sex Pistolsの最も有名な曲ではない。しかし、アルバムを単なるパンクの記号ではなく、具体的なサウンドと歌詞の集合として聴くうえでは欠かせない。怒り、皮肉、欲望、支配、悪趣味な言葉遊びが、短いバンド活動の中で濃く凝縮された一曲である。
参照元
- Universal Music Publishing Group – Sex Pistols “Submission” Song Details
- Discogs – Sex Pistols: Never Mind The Bollocks Here’s The Sex Pistols
- Rolling Stone – Sex Pistols Break Down Never Mind the Bollocks Track by Track
- Pitchfork – Sex Pistols to Release 35th Anniversary Box Set Reissue of Never Mind the Bollocks
- Classic Rock / Louder – Never Mind The Bollocks retrospective review
- YouTube – Sex Pistols “Submission (Remastered 2012)”

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