
楽曲の概要
「Starcrossed Losers」は、スコットランド・グラスゴー出身のThe Fratellisが2018年に発表した楽曲で、5作目のスタジオ・アルバム『In Your Own Sweet Time』の2曲目に収録されている。アルバムに先駆けてシングルとして公開され、プロデュースはデビュー作『Costello Music』以来バンドと関係の深いTony Hofferが担当した。Jon Fratelli自身が、この曲はアルバムで目指したものをよく表していると語っており、後には「これ以上うまく作れなかったと思う」ほど高く評価している。
題材は「Romeo and Juliet」を下敷きにした、うまく噛み合わない男女の恋愛である。ただしShakespeareの悲劇をそのまま現代化したものではなく、登場人物はもっと不器用で、少し滑稽な「負け犬たち」として描かれる。明るく華やかなポップ・ロックの中に、報われない恋愛とブラックユーモアを入れる構造が特徴であり、初期The Fratellisの荒々しいインディー・ロックから、よりカラフルで演劇的なポップへ進んだ2010年代の彼らをよく示す一曲である。
歌詞の概要
歌詞には、互いにRomeoとJulietとして呼び合う男女が登場する。女性側は相手に強く惹かれており、自分こそ彼がまだ見つけていない幸福なのだと訴える。彼女は相手の注意を引こうとし、プレゼントまで渡すが、あと少しのところで距離を縮められない。男性側も彼女の言葉を完全に拒絶しているわけではないものの、関係に身を任せることができず、どこか現実から逃げ続けている。
この二人の面白さは、典型的な「運命によって引き裂かれた恋人」ではないところにある。外部に絶対的な障害があるというより、本人たちがうまく相手へ到達できない。女性は自分が相手を完成させられると信じ、男性は彼女を認めながらも、自分はただ通り過ぎているだけだという態度を取る。愛情が存在しないのではなく、そのタイミングと方向が揃わないのである。
タイトルの「Starcrossed Losers」は、Shakespeareの『Romeo and Juliet』を連想させる「star-crossed lovers」を意図的に崩した言葉である。「星回りの悪い恋人たち」が「星回りの悪い負け犬たち」へ変わることで、壮大な悲劇が急に日常的で自嘲的なものになる。二人は文学史に残る恋人ではなく、恋愛で何度も判断を間違える普通の男女だ。それでも本人たちにとっては、その失敗が世界の終わりほど重大である。この大げささと情けなさの同居が、The Fratellisらしいユーモアになっている。
制作背景・時代背景
『In Your Own Sweet Time』は、2015年の『Eyes Wide, Tongue Tied』に続くアルバムで、2018年3月にCooking Vinylから発売された。The Fratellisは2006年の『Costello Music』でブレイクし、「Chelsea Dagger」に代表されるギター主体の騒々しいロックンロールで知られるようになったが、再結成後は作品ごとにサウンドの幅を広げていった。『In Your Own Sweet Time』では特に、ポップ、ファンク、電子音、ストリングスなどが以前より積極的に使われている。
Jonはこの時期、従来とは異なりコンピューターを使って曲を書く方法を取り入れていた。本人によれば、以前はギターやピアノで曲を書いていたが、このアルバムではコンピューター上で音を組み立てることで、自分では演奏できない楽器の音まで作曲段階から試せるようになった。「Starcrossed Losers」の細かく作り込まれたアレンジにも、この制作方法の変化が表れている。バンドの一発録り的な勢いだけでなく、レイヤーを重ねて一曲の世界を設計する方向へ進んでいるのである。
Tony Hofferのプロダクションも重要である。Jonは「Starcrossed Losers」について、アルバムの他曲より少し滑らかな仕上がりだが、それが曲に必要だったと説明している。実際、Barry Fratelliの太いベースとMince Fratelliの力強いドラムというバンドの骨格を残しながら、その周囲にはきらめく高音、コーラス、ファルセットなどが配置されている。The Fratellisの荒っぽいエネルギーを消すのではなく、より精密なポップ・プロダクションの中へ移した曲といえる。
歌詞の抜粋と和訳
この曲で最も重要なのは、RomeoとJulietという名前を使いながら、原作の物語を再現していないことである。女性は自分をJuliet、男性をRomeoとして扱い、二人の恋愛を最初から大きな物語として捉えている。しかし男性側は、そのロマンティックな筋書きに完全には参加しようとしない。
この食い違いが「Starcrossed Losers」というタイトルにつながる。本来なら悲劇的な運命に翻弄される恋人たちであるはずなのに、ここでは本人たちの不器用さも関係を失敗させている。運命の恋という壮大な言葉と、どうしてもタイミングが合わない現実の恋愛との差が、この曲のユーモアと切なさを同時に作っている。
サウンドと歌詞の考察
「Starcrossed Losers」はかなり速いテンポで進み、最初からリズムに強い推進力がある。Minceのドラムは細かく揺らすというより拍をはっきり押し、Barryのベースはその下で太く動く。そのため歌詞だけなら未練やすれ違いを扱う悲しい曲なのに、実際に聴くと身体が動くような明るさがある。この矛盾が重要で、登場人物たちは自分たちの恋愛を悲劇だと思っているかもしれないが、音楽はそれを少し離れた場所から楽しげに眺めているように聞こえる。
その上に置かれる高音の装飾も特徴的である。ベルやチャイムを思わせるきらめく音が、太いリズム隊の上で軽く跳ねるため、曲にはロックンロールの泥臭さとポップの光沢が同時にある。Jon自身がこの曲を「shimmer, tale-telling, light and shade」の混合として説明したのは、この音像をよく表している。物語そのものには報われない恋の暗さがある一方、アレンジはその悲劇を華やかな舞台装置で包み込む。恋愛の失敗を暗い部屋で告白するのではなく、照明のついたステージで演じるような曲なのである。
Jonの歌い方も、その演劇性を強めている。ヴァースでは物語を早いテンポで運び、男女が何をしているのかを次々と描写するが、RomeoとJulietが互いに語りかける部分になると、歌詞が会話劇へ変わる。特に高いファルセットが混ざることで、一人の男性ボーカリストが歌っているにもかかわらず、声の中に複数の人物がいるような感触が生まれる。普通のラブソングなら感情移入の中心となるはずのリード・ボーカルが、ここでは歌手であると同時に登場人物を演じ分ける語り手になっている。
曲の構造も歌詞のすれ違いを巧みに利用している。女性は「ここにいる」と存在を主張し、男性も同じように自分の場所から返事をする。それなのに二人は結びつかない。物理的には近いはずなのに、心理的には互いを通過し続けるのである。同じ形式の呼びかけと応答を反復することで、「あと一歩で成立しそうなのに成立しない」という状態が曲そのもののフックになる。通常なら恋人同士のデュエットとして成立しそうな構造が、ここでは会話が噛み合わないことを示すために使われている。
「And they all fall down」に象徴される崩壊の感覚が入っても、演奏は深刻なバラードへ転換しない。ここにもThe Fratellisらしいブラックユーモアがある。恋愛が壊れることを人生最大の悲劇として扱いながら、曲はその悲劇を踊れるポップへ変えてしまう。この距離感はデビュー期からJonのソングライティングに見られたものだが、「Starcrossed Losers」では初期の酒場的なロックンロールより、さらに色彩豊かなアレンジによって表現されている。
歌詞にAdamとEve、RomeoとJuliet、天使、虹の先の宝といった大きなイメージが次々と現れることも、サウンドの過剰さと対応している。普通の男女のすれ違いを説明するだけなら必要のないほど大げさな比喩を使い、音楽の側もファルセットやきらびやかな装飾を加えて、それをさらに膨らませる。しかしタイトルだけは「Losers」と自嘲的だ。この一語によって、曲が自分自身のロマンティックな大げささを分かっていることが示される。壮大な恋愛物語を作りながら、同時にそれを笑っているのである。
この曲がThe Fratellisの後の作品にとって重要だったことも見逃せない。Jonは次作『Half Drunk Under a Full Moon』を制作する際、『In Your Own Sweet Time』で生まれたアイデア、とりわけ「Starcrossed Losers」を出発点に発展させたと説明している。実際、次作ではストリングス、ブラス、大人数のバック・ボーカルなどを使った、さらに演劇的で豪華なポップへ進んだ。「Starcrossed Losers」は単に2018年の一シングルではなく、The Fratellisが初期のギター・ロックから、物語性と大掛かりなポップ・アレンジを組み合わせるバンドへ変化していく中継点でもあった。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Stand Up Tragedy」 by The Fratellis
同じ『In Your Own Sweet Time』のオープニング曲。ファルセット、強いビート、華やかなポップ感覚という共通点があり、「Starcrossed Losers」で聞ける2018年型The Fratellisのサウンドをさらに直接的に味わえる。
「The Next Time We Wed」 by The Fratellis
結婚や恋愛を題材にしながら、素直なロマンスへ着地しないひねくれた歌詞が特徴。「Starcrossed Losers」と同様、男女関係の面倒さを軽快なポップ・ロックへ変換するJonの作風がよく表れている。
「Half Drunk Under a Full Moon」 by The Fratellis
次作のタイトル曲で、「Starcrossed Losers」で試した演劇的なポップをさらに拡大した楽曲。ストリングス、ブラス、コーラスまで投入し、ロック・バンドというよりミュージカルに近い華やかさへ進んでいる。
「The Boy with the Arab Strap」 by Belle and Sebastian
同じグラスゴーのバンドによる、明るいメロディと皮肉を含んだ人物描写が魅力の一曲。サウンドはThe Fratellisより柔らかいが、軽快なポップの中で人間の滑稽さを描く感覚に共通点がある。
「A Well Respected Man」 by The Kinks
キャッチーな英国ポップの形を使いながら、登場人物を皮肉な距離から描くRay Daviesの代表的な作風が味わえる。「Starcrossed Losers」の物語性や、笑いと観察を同居させる歌詞の遠い先例として比較できる。
まとめ
「Starcrossed Losers」の面白さは、「Romeo and Juliet」という究極の悲恋を借りながら、その登場人物をもっと不器用で身近な男女へ引き下ろしたことにある。女性は運命の恋を信じ、男性は惹かれながらも通り過ぎようとし、二人は同じ場所にいるのに最後まで噛み合わない。その切なさを、太いベースと力強いドラム、きらめく装飾音、Jonのファルセットによる華やかなポップ・ロックで包んだことで、悲劇とコメディが同時に成立している。Jon自身が『In Your Own Sweet Time』を象徴する曲として挙げ、さらに次作の方向性を考える出発点にもしたように、「Starcrossed Losers」はThe Fratellisが荒々しいギター・バンドから、物語と色彩豊かなアレンジを楽しむポップ・バンドへ変化していく過程をよく示す楽曲である。
参照元
- The Pop Break「The Fratellis on ‘In Your Own Sweet Time,’ Technology in Songwriting & More」
- Billboard / The Fratellis「Starcrossed Losers」ミュージックビデオ関連記事
- Cooking Vinyl『In Your Own Sweet Time』
- XS Noize「The Fratellis Release New Single ‘Starcrossed Losers’」
- Wired Noise「Interview with Jon Fratelli」

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