1. 歌詞の概要
Iron Maidenの「Heaven Can Wait」は、1986年のアルバム『Somewhere in Time』に収録された楽曲であり、ライブでの観客参加型パートで特に有名なナンバーである。歌詞は「臨死体験」をテーマにしており、死の淵に立たされた主人公が、天国に迎え入れられそうになりながらも「まだ行きたくない、今を生きたい」と願う姿を描いている。
「Heaven can wait(天国は待ってくれるさ)」というフレーズには、死を恐れるのではなく「生を肯定する」という前向きな意思が込められている。楽曲全体を貫くのは「死の不可避性」と「今を生きる力強さ」の対比であり、同時に「来世や死後の世界」への好奇心もにじむ。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Somewhere in Time』は、過酷な「World Slavery Tour」の後に制作されたアルバムであり、未来的・哲学的テーマが強く表れている。「Heaven Can Wait」はスティーヴ・ハリス(ベース)が書いた曲で、彼が死後の世界や臨死体験に関心を持っていたことが背景にある。
ライブでは1986年以降のツアーで定番曲となり、中盤の「Whoa-oh-oh-oh-oh」というシンガロング・パートで観客が合唱に参加するのが大きな見せ場となった。特に「Seventh Son of a Seventh Son Tour」や90年代以降の演奏では、この観客との一体感がIron Maidenライブの象徴的瞬間となっている。
歌詞が「死」と「生」の境界を描いているにもかかわらず、メロディは力強くキャッチーで、むしろ「生きる喜び」を高らかに歌い上げている点に、この曲の大きな魅力がある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Iron Maiden – Heaven Can Wait Lyrics | Genius)
Heaven can wait, Heaven can wait
天国は待ってくれる、天国はまだ先でいい
Heaven can wait ‘til another day
天国は別の日まで待ってくれればいい
I have a lust for the Earth below
俺はまだ地上での生に強く惹かれている
And Hell itself is my only foe
地獄そのものこそが俺の唯一の敵だ
歌詞はシンプルだが強い意志を感じさせ、死に抗い「今を生きる」ことを選び取る人間の姿を象徴している。
4. 歌詞の考察
「Heaven Can Wait」は、Iron Maidenの叙事詩的な歴史や神話のテーマとは異なり、非常に人間的で普遍的なテーマ――「死の淵で生を選ぶ」という根源的体験――を描いている。
主人公は臨死体験の中で光や天国を垣間見るが、「まだこの世でやるべきことがある」として戻る決意をする。そこには、死を単純に恐れるのではなく「生きることを愛する」という積極的な肯定が込められている。タイトルの「天国は待ってくれる」という表現は、死を先延ばしにする祈りであると同時に、「生にしがみつく強さ」の象徴ともいえる。
音楽的には、明るく伸びやかなメロディと力強いシンガロング・パートが特徴であり、歌詞のテーマを「死」ではなく「生」の側に引き寄せている。ブルース・ディッキンソンのドラマティックな歌声は、臨死体験の恐怖というよりも「生への情熱」を強調している。ライブでの観客合唱はまさに「今を共に生きる」体験であり、この曲のテーマと直結しているといえる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Wasted Years by Iron Maiden
同アルバム収録で、人生と時間を肯定的に捉える歌詞が共通する。 - Infinite Dreams by Iron Maiden
夢と死生観をめぐる哲学的テーマを扱った楽曲。 - Revelations by Iron Maiden
宗教的テーマと人間の生を描いたドラマティックな楽曲。 - Heaven and Hell by Black Sabbath
生と死、善と悪をテーマにした哲学的メタルの名曲。 - Holy Diver by Dio
死と冒険を神話的に描いたメタル・アンセム。
6. Iron Maidenのライブを象徴する「生の讃歌」
「Heaven Can Wait」は、Iron Maidenのディスコグラフィーの中でも特にライブ映えする楽曲であり、観客との一体感を象徴する存在である。歌詞が死と天国を描きながらも、「今を生き抜こう」という強い意志を鳴り響かせるため、ファンにとっては生きる力を与えてくれるアンセムとなっている。
アルバム『Somewhere in Time』が未来的・哲学的なテーマを持つ中で、この曲は人間的で普遍的な情熱を提示し、作品全体のバランスを取っている。「Heaven Can Wait」は、Iron Maidenが示した「死の恐怖を超えて、生きる力を祝福する」というメッセージを、最も明快な形で提示した永遠のライブ・クラシックなのである。
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