
1. 歌詞の概要
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、Elton Johnが1983年に発表した楽曲である。
17作目のスタジオ・アルバムToo Low for Zeroに収録され、同作からのシングルとしてリリースされた。作曲はElton JohnとDavey Johnstone、歌詞はBernie Taupin。プロデュースはChris Thomasである。
この曲は、Elton Johnの1980年代を代表するヒット曲のひとつだ。
1970年代のElton Johnは、Your Song、Rocket Man、Goodbye Yellow Brick Road、Candle in the Wind、Don’t Let the Sun Go Down on Meなど、数えきれないほどの名曲でポップ・ミュージックの中心にいた。だが1980年代に入ると、サウンドも時代も変わり、彼自身のキャリアもまた新しい局面へ入っていく。
その中でI Guess That’s Why They Call It the Bluesは、1970年代のソングライティングの温かさと、1980年代の洗練されたポップ感覚がうまく混ざった曲である。
歌詞の中心にあるのは、離れている恋人への語りかけだ。
今はそばにいられない。
時間が二人を隔てている。
寂しさはある。
不安もある。
でも、これは永遠の別れではない。
だから、今の痛みを大きく見すぎないでほしい。
語り手は、相手にそう伝えようとする。
タイトルのI Guess That’s Why They Call It the Bluesは、直訳すれば、だから人はそれをブルースと呼ぶのだろう、という意味になる。
ここでのブルースは、音楽ジャンルとしてのブルースであると同時に、寂しさ、憂鬱、胸の痛みを指す言葉でもある。
恋人と離れている時間。
会えない夜。
心配しすぎてしまう心。
自分の中の弱さや悪魔と向き合う必要。
それらを全部ひっくるめて、人はブルースと呼ぶのかもしれない。
この曲は、失恋の歌ではない。
完全に終わった関係を嘆く曲ではなく、離れている時間をどう耐えるかを歌っている。だから、悲しいのに、どこか希望がある。痛みはあるが、絶望ではない。
この温度がとてもElton Johnらしい。
メロディは甘く、少し懐かしい。
ピアノは軽やかに弾み、リズムには1950年代風のR&Bやドゥーワップの香りがある。
そこにStevie Wonderのハーモニカが入る。
このハーモニカが、曲の切なさを一段深くしている。
Stevie Wonderのハーモニカは、ただの装飾ではない。
歌詞で言いきれない寂しさを、息の音として鳴らしている。
少し笑っているようで、少し泣いているようでもある。
Elton Johnの声も、ここでは非常に優しい。
力で押し切るのではなく、相手の肩に手を置くように歌う。
慰めながら、自分自身も少し傷ついている。
その両方が声に出ている。
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、遠距離の恋、仕事で離れる時間、会えない相手を思う夜に寄り添う曲である。
悲しみを消すのではなく、悲しみに名前を与える。
それがこの曲の美しさなのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
I Guess That’s Why They Call It the Bluesが収録されたToo Low for Zeroは、Elton Johnのキャリアにおける重要な復調作として語られることが多い。
このアルバムでは、Elton John、Bernie Taupin、Davey Johnstone、Dee Murray、Nigel Olssonという、いわゆるクラシックなElton John Bandのメンバーが再び揃っている。これは、1970年代中盤以降の作品とは少し違う意味を持っていた。
1970年代のElton Johnは、信じがたいペースで傑作とヒットを連発していた。だが、長いキャリアの中では当然、浮き沈みもある。1980年代初頭の彼は、新しい時代の音に適応しながら、自分の強みをどう取り戻すかを探っていた時期でもあった。
Too Low for Zeroは、その答えのひとつだった。
アルバムには、I’m Still Standingというもうひとつの大ヒットも収録されている。I’m Still Standingが、倒れてもまだ立っているという明るいサバイバル宣言だとすれば、I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、もっと柔らかく、恋人に向けた手紙のような曲である。
この対比が面白い。
I’m Still Standingでは、Eltonはタフに笑う。
I Guess That’s Why They Call It the Bluesでは、彼はやさしく慰める。
どちらも1980年代のElton Johnの復活を示す曲だが、見せる表情は違う。
作詞を担当したBernie Taupinは、Elton Johnにとって最も重要な作詞パートナーである。二人の関係は、ポップ史に残る作曲家と作詞家のコンビのひとつだ。Eltonがメロディを生み、Taupinが言葉を差し出す。その組み合わせから、数多くの名曲が生まれてきた。
この曲の歌詞は、Taupinらしい詩的な表現と、誰にでも届くシンプルな感情がうまく重なっている。
離れている相手へ、大丈夫だと伝える。
時間を永遠のように見ないでくれと言う。
心の中の悪いものを払いのけて、待っていてくれと言う。
そして、今の寂しさをブルースと呼ぶ。
この言葉の流れには、手紙のような親密さがある。
また、この曲にはStevie Wonderがハーモニカで参加している。Elton Johnの公式サイトでも、1982年9月にStevie Wonderがこの曲でハーモニカを演奏したことが紹介されている。彼の参加は、曲の雰囲気を決定づける大きな要素だ。
Stevie Wonderのハーモニカは、ブルースやソウルの感覚を一瞬で曲に持ち込む。
ただし、この曲は純粋なブルースではない。
もっとポップで、ソフトロックで、ドゥーワップ的な懐かしさもある。
それでもタイトルにブルースという言葉があることで、曲はアメリカ音楽の古い感情の流れに接続される。
ブルースとは、悲しみを歌う音楽である。
だが、悲しみそのものに沈み込むだけではない。
悲しみを歌にすることで、少しだけ生きやすくする音楽でもある。
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、まさにその意味でブルース的である。
悲しみをなくすのではない。
悲しみを歌える形にする。
それによって、離れている二人の時間を耐えられるものにする。
1983年のポップ・シーンの中で、この曲は非常にクラシックな魅力を持っていた。シンセポップやニューウェーブが勢いを持つ時代に、Elton Johnはピアノ、バンド、ハーモニカ、温かいメロディによって、時代に流されない普遍性を示した。
だから、この曲は80年代のヒットでありながら、どこか70年代のElton Johnの延長にも聞こえる。
懐かしい。
でも古くない。
甘い。
でも甘すぎない。
悲しい。
でも前を向いている。
そのバランスが、長く愛される理由である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Don’t wish it away
和訳:
その時間を消し去ろうとしないで
Don’t look at it like it’s forever
和訳:
それを永遠のように見つめないで
And I guess that’s why they call it the blues
和訳:
だから人はそれをブルースと呼ぶのだろう
この曲の冒頭は、とてもやさしい。
Don’t wish it away。
その時間を消したいと願わないで。
恋人と離れている時間はつらい。できるなら、飛ばしてしまいたい。眠っている間に過ぎてほしい。早送りしたい。そんなふうに思うことがある。
だが、語り手はそれを否定する。
この時間にも意味がある。
ただの空白ではない。
二人の関係の中に含まれる時間なのだ。
Don’t look at it like it’s foreverという言葉も重要だ。
寂しい時間は、永遠のように感じる。
会えない日々は、終わらないもののように思える。
けれど、それは永遠ではない。
この言葉は、相手を慰めるだけでなく、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。
語り手も寂しい。
だからこそ、相手に大丈夫だと言いながら、自分もその言葉に支えられている。
そして、タイトル・フレーズが出てくる。
I guess that’s why they call it the blues。
これは、非常に美しい言い方だ。
悲しいからブルースなのだ。
でも、ブルースと呼べるなら、その悲しみは歌になる。
歌になるなら、ただの苦しみでは終わらない。
この曲は、悲しみを否定しない。
そのかわり、悲しみに名前を与える。
それがブルースなのだ。
歌詞の権利はBernie Taupin、Elton John、Davey Johnstoneおよび各権利管理者に帰属する。ここでは批評・解説を目的として、短い範囲に限定して引用している。
4. 歌詞の考察
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、離れている時間をどう見つめるかについての曲である。
恋愛の歌には、相手と一緒にいる瞬間を描くものが多い。
出会い、抱擁、夜、別れの瞬間。
でも、この曲が描くのは、その間にある時間だ。
会えない時間。
待っている時間。
寂しさが心に溜まっていく時間。
この時間は、とても扱いにくい。
なぜなら、何か大きな事件が起きているわけではないからだ。
ただ離れているだけ。
ただ待っているだけ。
ただ日々が過ぎていくだけ。
しかし、そのただが苦しい。
相手がいない部屋。
いつもなら話すはずの時間。
電話や手紙を待つ心。
夜になるとふくらむ不安。
そういう小さな寂しさが、この曲の中にはある。
ただし、歌詞はその寂しさを悲劇として扱いすぎない。
Don’t look at it like it’s forever。
永遠のように見ないで。
この言葉には、時間への知恵がある。
つらい時間は、永遠のように感じる。
でも実際には、時間は動いている。
痛みは同じ形では残らない。
会えない日々も、いつか終わる。
この曲の語り手は、相手にそのことを伝えようとしている。
だが、ここで重要なのは、語り手が単に楽観的ではないことだ。彼は、寂しさがあることを知っている。ブルースが何かを知っている。だからこそ、言葉が軽くならない。
本当に悲しみを知らない人が、大丈夫だと言っても響かない。
でも、悲しみを知っている人が、大丈夫だと言うとき、その言葉には重みがある。
Elton Johnの歌声には、その重みがある。
この曲でのEltonは、派手に歌い上げすぎない。もちろんサビでは大きく開くが、全体の感触はとても親密だ。相手を励ますようで、自分も少し泣きそうな声をしている。
だから、曲は単なる慰めの歌にならない。
慰める側も、慰めを必要としているように聞こえる。
ここがとても人間的である。
歌詞の中には、心の中の悪魔を払いのけるような表現もある。これは、会えない時間の中で湧いてくる不安や疑いを指しているように聞こえる。
本当に戻ってくるのか。
相手は変わってしまわないか。
自分は忘れられないか。
この関係は続くのか。
離れている恋には、そうした悪魔が住みつく。
語り手は、それを追い払ってほしいと言う。
二人はまた一緒に走り出せるから、と言う。
この言葉には、恋愛における信頼のテーマがある。
会えない時間に必要なのは、情熱だけではない。
信頼である。
相手が見えないときに、相手を信じられるか。
寂しさに飲み込まれず、関係を未来へつなげられるか。
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、その信頼の歌でもある。
サウンド面では、曲のリズムが非常に重要だ。
ブルースというタイトルではあるが、12小節ブルースのような形式そのものではない。むしろ、1950年代のR&Bやドゥーワップ、ソフトロックの香りがある。ピアノは軽快に転がり、リズムは柔らかくスウィングし、メロディは甘く開いていく。
この少し懐かしい音が、歌詞のテーマによく合っている。
離れている相手への手紙。
昔のラジオから流れてくるようなメロディ。
夜の部屋に響くハーモニカ。
曲全体が、思い出の中で少しセピア色に見える。
Stevie Wonderのハーモニカは、その感覚をさらに強める。
彼のハーモニカは、歌の途中に現れるもうひとつの声のようだ。
Eltonが言葉で慰める。
Stevieのハーモニカが、その言葉の奥にある寂しさを吹く。
とくにハーモニカ・ソロには、曲のタイトルそのものが宿っている。
それはブルースだ。
でも、沈み込むだけのブルースではない。
寂しさを抱えながら、どこか温かい。
この温かさが、この曲を名曲にしている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Blue Eyes by Elton John
1982年のアルバムJump Up!に収録されたバラードで、I Guess That’s Why They Call It the Bluesと近い時期のElton Johnの柔らかい歌声を味わえる。タイトルにもblueが入っており、恋の寂しさを穏やかに描く感覚が近い。派手さよりも、声の温度とメロディの美しさが残る曲である。
- Sad Songs (Say So Much) by Elton John
1984年のアルバムBreaking Heartsに収録されたヒット曲で、悲しい歌がなぜ人を救うのかを明るいポップにした楽曲である。I Guess That’s Why They Call It the Bluesが悲しみにブルースという名前を与える曲なら、こちらは悲しい歌そのものの効能を歌っている。テーマの面で強くつながる。
- I’m Still Standing by Elton John
Too Low for Zeroに収録されたもうひとつの代表曲で、同時期のElton Johnの復活感を象徴する曲である。I Guess That’s Why They Call It the Bluesがやさしく耐える曲だとすれば、I’m Still Standingは痛みを笑い飛ばして立ち上がる曲だ。アルバム全体の幅を知るためにも聴きたい。
- Just the Way You Are by Billy Joel
ピアノを軸にした大人のポップ・バラードとして、Elton Johnのこの曲と相性が良い。相手に向けたやさしい言葉、過剰に飾らないメロディ、1970年代から80年代へ続くソングライター的な温かさがある。恋人へ静かに語りかける曲が好きな人に合う。
- Isn’t She Lovely by Stevie Wonder
Stevie Wonderの明るく幸福な名曲であり、ハーモニカの魅力を堪能できる楽曲でもある。I Guess That’s Why They Call It the Bluesでのハーモニカに惹かれた人なら、Stevie自身の歌とハーモニカが持つ生命力も深く楽しめるだろう。
6. 悲しみに名前をつけることで、人は少しだけ耐えられる
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、Elton Johnの中でも特に優しい名曲である。
派手なロック曲ではない。
壮大なバラードでもない。
大きな人生の宣言でもない。
しかし、この曲には、誰かを本当に思うときのやさしさがある。
離れている相手に、時間を怖がりすぎないでと言う。
今の寂しさを永遠だと思わないでと言う。
心の中の悪いものを払いのけてほしいと言う。
そして、この痛みはブルースなのだと歌う。
このブルースという言葉が素晴らしい。
悲しみは、名前がないとただの苦しみになる。
だが、名前がつくと少し形になる。
形になると、見つめることができる。
そして、歌にすることができる。
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、その過程をそのまま音楽にしている。
寂しい。
でも、それをブルースと呼ぼう。
そうすれば、ただの孤独ではなくなる。
歌える孤独になる。
この考え方は、とても音楽的である。
音楽は、問題を解決するわけではない。
会えない相手を今すぐ連れてくることはできない。
時間を早送りすることもできない。
不安を完全に消すこともできない。
それでも、音楽は感情に形を与える。
この曲を聴くと、離れている時間も人生の一部なのだと思える。寂しさも、待つことも、ブルースのように歌えるなら、ただ無駄に過ぎるものではないのかもしれない。
Elton Johnの声は、その気持ちを静かに支える。
彼は、相手を急かさない。
泣くなとも言わない。
強くなれと押しつけない。
ただ、その時間を永遠のように見ないで、と言う。
この言い方がいい。
本当にやさしい慰めは、悲しみを否定しない。
悲しみがあることを認めたうえで、それがすべてではないと伝える。
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、まさにそういう慰めの曲である。
そして、Stevie Wonderのハーモニカがその慰めに息を与える。
ハーモニカは、人間の呼吸に近い楽器だ。吸って、吐いて、音が出る。だから、歌詞のない部分でも、まるで誰かが胸の奥の感情をそのまま吹き出しているように聞こえる。
この曲において、ハーモニカは涙ではない。
ため息でもない。
その両方でありながら、少し微笑んでいる。
だから、曲全体が暗くなりすぎない。
悲しみはある。
でも、温かい。
寂しい。
でも、信じている。
ブルース。
でも、希望がある。
このバランスが、Elton Johnらしいポップの強さである。
Too Low for Zeroというアルバムの中で、この曲は重要な役割を果たしている。I’m Still Standingのような明るい復活の曲だけでなく、I Guess That’s Why They Call It the Bluesのような成熟したラブソングがあることで、アルバム全体に深みが出ている。
人生は、立ち上がることだけではない。
待つこともある。
耐えることもある。
寂しさに名前をつけることもある。
Elton Johnは、その時間を美しいメロディにした。
この曲は、遠距離恋愛の歌としても聴ける。
ツアーに出るミュージシャンから恋人への歌としても聴ける。
仕事や生活の事情で離れている人たちの歌としても聴ける。
あるいは、過ぎていく時間そのものに不安を抱く人の歌としても聴ける。
その広がりが、名曲の証である。
I Guess That’s Why They Call It the Bluesは、悲しみを大げさに飾らない。
ただ、やわらかく手渡す。
これがブルースなんだろうね、と言う。
その一言で、人は少しだけ楽になる。
だからこの曲は、1983年のヒット曲である以上に、長く聴かれるスタンダードのような強さを持っている。
寂しさを消せない夜に、この曲はそばにいてくれる。
そして、悲しみをブルースと呼ぶことを教えてくれる。
参照元
- I Guess That’s Why They Call It the Blues – Wikipedia
- Too Low for Zero – Wikipedia
- Elton John and Stevie Wonder: A History – Elton John Official
- I Guess That’s Why They Call It the Blues – Discogs
- I Guess That’s Why They Call It the Blues – AllMusic
- Too Low for Zero – Apple Music

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