
1. 歌詞の概要
「Out of the Woods」は、ノラ・ジョーンズの6作目『Day Breaks』(2016年)に収録された楽曲である。アルバムは彼女が原点回帰を掲げ、再びピアノを主体にしたジャズ的アプローチを打ち出したことで話題を呼んだ。本作における「Out of the Woods」は、静謐でありながらも強い余韻を残すバラードであり、暗い森の中を抜けるという比喩を通して、人間関係や心の迷いを描き出している。
歌詞は、ある状況や関係から抜け出そうとする心の動きをテーマにしている。森はしばしば人生の困難や混乱を象徴するが、この曲でも「まだ森を抜けていない」という表現を用い、そこからの出口を模索する心境が示されている。単純なラブソングというよりは、内面的な葛藤や自己解放への渇望を表現している点に特徴がある。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Day Breaks』は、ノラ・ジョーンズが2000年代初頭に築き上げたジャズとポップスの融合路線へと立ち戻ったアルバムである。前作『Little Broken Hearts』(2012年)ではデンジャー・マウスを迎えてエレクトロやロック的要素を取り込んだ挑戦的な作品を作り上げたが、その後彼女は再び自らのルーツへと回帰することを選んだ。
このアルバムには、ウェイン・ショーター(サックス)、ロン・カーター(ベース)、ブライアン・ブレイド(ドラム)といったジャズの巨匠たちが参加しており、「Out of the Woods」も彼らの演奏によって、即興性と緊張感を伴った深い響きを獲得している。特に、ピアノのシンプルなフレーズとサックスの余韻が絡み合い、歌詞のテーマである「抜け出せない心の森」という比喩を音楽的に補強している。
この曲が収録された『Day Breaks』は、デビュー作『Come Away With Me』の成熟版ともいえる雰囲気を持ち、ノラのキャリアの中でも「初心への回帰」と「深化」を同時に体現した重要な作品と位置づけられている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Norah Jones – Out of the Woods Lyrics | Genius Lyrics
Out of the woods, out of the night
森を抜けて、夜を抜け出して
Still so far, still out of sight
それでもまだ遠く、まだ見えない
No silver lining, clouded view
銀の縁どりはなく、視界は曇ったまま
Waiting for something, waiting for you
何かを待っている、あなたを待っている
この抜粋部分だけでも、楽曲の比喩的性質がよくわかる。森や夜というイメージは、困難や閉塞感を示す。一方で「waiting for you」というフレーズが差し込まれることで、困難の中にも希望や出口を見出そうとする心情が浮かび上がる。
4. 歌詞の考察
「Out of the Woods」は、人生における不安や迷いを象徴的に描いた楽曲である。森は混乱や絶望を、夜は孤独や停滞を表す。語り手はそこから抜け出そうとするが、出口はまだ見えず、曖昧な未来に対する不安を抱え続けている。しかし同時に、誰かを待ち望む姿勢や「抜け出せるはずだ」という淡い希望も感じられる。この二重性こそが歌の核心にある。
ノラの歌声は、どこか祈るような響きを持ち、低めのトーンで静かに展開していく。そこにピアノとサックスの響きが絡み合い、リスナーに「夜明けを待つ時間」のような緊張感と安らぎを同時に与える。特定のストーリーに縛られることなく、誰もが自分自身の「森」と重ね合わせられる普遍性を持つため、聴き手は曲を通じて内省的な体験を得るのだ。
この曲はまた、ノラがシンガーソングライターとしてだけでなく、ジャズ的な即興性を備えた音楽家であることを証明する。ポップとジャズの境界線を越えたこの表現は、彼女の音楽の本質を象徴しているといえる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Norah Jones / Carry On
同じアルバム収録のバラードで、穏やかさと内省的な雰囲気を共有している。 - Norah Jones / Nightingale
初期作品『Come Away With Me』から。夜の静けさをテーマにした象徴的な一曲。 - Joni Mitchell / Both Sides Now
人生の光と影を見つめる名曲で、比喩的表現と深い感情が共通している。 - Diana Krall / Narrow Daylight
暗闇から光へ向かう希望を静かに描くジャズ・バラード。 - Laura Nyro / Timer
ポップとジャズの間を漂う独自の世界観を持つ、内面的なテーマを扱った一曲。
6. ジャズへの回帰と深化
「Out of the Woods」は、『Day Breaks』においてノラ・ジョーンズが自身のルーツであるジャズへ回帰したことを象徴する一曲である。ただし、それは単なる懐古ではなく、キャリアを重ねたからこそ生まれた深化の表現である。
彼女の歌とピアノは、今や若きデビュー時の瑞々しさだけではなく、人生経験から滲み出る重みと余韻を帯びている。この曲は、その両面を感じ取れる「静けさの中の深さ」を体現した楽曲といえるだろう。
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