
1. 歌詞の概要
「If Only」は、アメリカの兄弟バンドHanson(ハンソン)が2000年に発表したセカンドアルバム『This Time Around』のリードシングルであり、彼らのイメージを大きく塗り替えたパワフルなロックナンバーである。タイトルの「If Only(もしも〜だったなら)」が示すように、この楽曲は叶わなかった思い、言えなかった気持ち、そして後悔や焦燥といった感情を疾走感のあるビートとともに吐き出すように歌い上げている。
歌詞の核にあるのは、“言葉にできなかった想い”への悔しさと切実さである。誰かを強く想っているのに、その気持ちをどう伝えたらいいか分からない。そんな青春のもどかしさが、ギターリフとハーモニカの音色、そしてテイラー・ハンソンのエモーショナルなヴォーカルに乗って鮮烈に描かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「If Only」は、Hansonが“MMMBopの可愛い少年たち”というイメージからの脱却を図った象徴的な楽曲でもある。前作『Middle of Nowhere』のポップでソウルフルなサウンドから一転し、この曲ではよりロック色の強いギター・ドリブンな構成が採用されている。
彼らはこの頃、音楽業界との摩擦、過剰なアイドル視、そして本来のアーティスト性の誤解など、若くして様々な壁にぶつかっていた。「If Only」は、そうした状況下で制作された『This Time Around』の先陣を切る曲として、バンドの“変化”と“意志”を世に問う形となった。
注目すべきは、ブルース・スプリングスティーンやトム・ペティにも通じるアメリカン・ロックの土壌に、自分たちの声と魂をぶつけた点である。ハーモニカの導入も、単なる装飾ではなく、失われたものへの郷愁や、言葉にならない感情の象徴として機能している。プロデューサーにはスティーヴ・リプソンが参加し、サウンドは生々しくも洗練された質感を備えている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
If only I had the guts to feel this way
こんな風に感じているって、勇気を出して言えたならIf only you’d look at me and want to stay
君が僕を見て、そばにいたいと思ってくれたならIf only I’d take you in my arms and say
君を抱きしめて、言葉にできたならI won’t go, ‘cause I need you
僕はどこにも行かない、だって君が必要なんだI need you, yeah
君がいなきゃ、ダメなんだIf only
もしも…
引用元: Genius Lyrics – Hanson / If Only
4. 歌詞の考察
「If Only」は、シンプルに見えて非常に奥行きのある楽曲である。誰もが一度は経験する「言えなかった一言」「逃した瞬間」への後悔と、どうしようもない自分への苛立ち。そうした“言葉未満の感情”を、激しいギターとハーモニカの音に乗せて吐き出すこの曲は、まさに“感情の爆発”の記録と言える。
とりわけ印象的なのは、「If only(もしも〜だったら)」というフレーズが、過去への未練ではなく、現在の行動を促すような力を持っている点だ。これは単なる回想ではなく、“今ここから何かを変えたい”という前向きな焦燥に満ちている。つまり、後悔の中に希望の光が差しているのだ。
また、主人公は決して強くない。想いを伝える勇気が持てず、自分の弱さを自覚しながら、それでも感情だけはどうしようもなく溢れてしまう。その“不完全さ”が、この曲の最大のリアリズムとなっている。完璧ではないが、真剣で、必死で、だからこそ共感を呼ぶ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “One Headlight” by The Wallflowers
情感豊かでアメリカン・ロック的叙情を持つ楽曲。若さと喪失が共鳴する。 - “Slide” by Goo Goo Dolls
恋と人生の狭間で揺れる感情を、メロディアスに描いた名曲。 - “Name” by Goo Goo Dolls
アイデンティティの揺らぎと、心の奥底にある言えない想いをテーマにしたバラード。 - “Chasing Cars” by Snow Patrol
ただ隣にいてほしいという切実な願いを、抑制された情熱で歌うバラード。 - “Bittersweet Symphony” by The Verve
美しくも苦い人生の実感を、壮大なスケールで描いた楽曲。内省と力強さが交錯する。
6. “未完成の声が叫ぶとき”
「If Only」は、Hansonがポップアイドルとしての殻を破り、“言葉にならない衝動”をロックという形で解放した一曲である。その叫びはまだ洗練されきってはいないかもしれない。むしろその“未完成さ”こそが、この曲の核心にある。
Hansonはこの曲で、“語ることができなかった想い”を歌ったのではない。むしろ、“語れないまま残ってしまった感情”そのものを、そのまま楽曲に封じ込めている。そして聴く者に問いかけてくる——「君には、言えなかったことはないか?」「今も、伝えたいことがあるんじゃないか?」と。
だからこそ「If Only」は、若さや恋の歌にとどまらない。生きること、表現すること、そして本当の気持ちと向き合うことの難しさと美しさを描いた、極めて誠実な楽曲なのだ。時代を超えて、未完成な誰かの心に、きっと今も響き続けている。
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