
発売日:2001年7月24日
ジャンル:ポップ、R&Bポップ、ダンス・ポップ、ファンク、エレクトロ・ポップ、ティーン・ポップ、ヒップホップ・ソウル
概要
NSYNCの3作目のスタジオ・アルバム『Celebrity』は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて世界的なボーイ・バンド現象を牽引した彼らが、単なるティーン・ポップのスターから、よりR&B、ヒップホップ、ファンク、エレクトロ・ポップを取り込む成熟したポップ・グループへ移行しようとした作品である。前作『No Strings Attached』は、発売初週売上の記録を打ち立て、NSYNCを商業的な頂点へ押し上げた。しかし、その成功の直後に発表された『Celebrity』では、彼らは同じ型を繰り返すのではなく、名声、メディア、消費されるスター像、恋愛、孤独をテーマに、より自意識の強いアルバムを作り上げた。
本作のタイトル「Celebrity」は、直訳すれば「有名人」「セレブリティ」である。これは単なる華やかさの象徴ではなく、2001年時点の*NSYNC自身が置かれていた状況を反映している。彼らはもはや新人ボーイ・バンドではなく、雑誌、テレビ、MTV、ラジオ、ツアー、ファン文化の中心にいる巨大なポップ・ブランドだった。タイトル曲「Celebrity」や「Pop」では、名声を取り巻く誤解、批判、メディアの視線、商業的ポップへの軽視に対して、彼ら自身が反論するような姿勢が見られる。
音楽的には、『Celebrity』はNSYNCのカタログの中でも最も実験的で、後のJustin Timberlakeのソロ・キャリアへ直結する作品である。デビュー作『NSYNC』ではユーロポップ的なダンス・サウンドと甘いバラードが中心だった。『No Strings Attached』では「Bye Bye Bye」「It’s Gonna Be Me」に代表される強烈なフックと、独立宣言的なイメージが強まった。そして『Celebrity』では、The Neptunes、Timbaland、BT、Rodney Jerkins、Wade Robson、Brian McKnightらの関与により、よりブラック・ミュージック寄りのリズム感、エレクトロニックな質感、未来的なポップ・プロダクションが導入された。
特に重要なのは、The Neptunesが手がけた「Girlfriend」である。この曲は、後にNellyを加えたリミックスでも知られ、Justin Timberlakeがソロ・デビュー作『Justified』で本格的に展開することになるR&B/ヒップホップ寄りのスタイルを先取りしている。乾いたドラム、ミニマルなベース、滑らかなファルセット、控えめながら中毒性のあるグルーヴは、従来のボーイ・バンド・ポップとは明らかに異なる質感を持っていた。
また、Timbalandが関わった「Tell Me, Tell Me… Baby」も、本作の重要な転換点である。Timbaland特有の変則的なビート感、隙間の多いプロダクション、ヴォーカル断片のリズム処理は、後の2000年代R&B/ポップの流れを予感させる。*NSYNCはここで、Max Martin型の大きなサビとユーロポップ的な明快さから、よりリズムと音響に重心を置く方向へ踏み出している。
一方で、本作には従来の*NSYNCらしいバラードも収録されている。「Gone」はJustin Timberlakeが大きくフィーチャーされたメロウなR&Bバラードであり、グループの楽曲でありながら、ほとんどJustinのソロへの橋渡しのように聴こえる。「Selfish」はBrian McKnightが関わったバラードで、より伝統的なR&Bの甘さとグループのハーモニーが結びついている。「Something Like You」では、結婚式にも似合うような穏やかな愛の表現が展開される。こうしたバラード群は、ダンス・トラックの実験性と対照をなし、アルバムに感情的な幅を与えている。
歌詞面では、恋愛曲が中心であることに変わりはない。しかし、前作までの「君が好き」「戻ってきてほしい」「別れを乗り越えたい」というティーン・ポップ的な単純さに比べると、本作ではより大人びた視点が増えている。「Girlfriend」では、相手を大切にしない恋人から女性を奪い取ろうとする構図が描かれ、「Gone」では失われた愛への喪失感がより深く表現される。「The Two of Us」や「Up Against the Wall」では、身体的な親密さやクラブ的なムードが前面に出る。彼らはここで、少年から大人へ移行する過程にあるポップ・グループとして、自分たちの恋愛表現を更新しようとしている。
『Celebrity』は、結果的にNSYNCの最後のスタジオ・アルバムとなった。その後、メンバーは活動休止状態に入り、Justin Timberlakeは2002年の『Justified』でソロ・アーティストとして大きな成功を収める。したがって本作は、NSYNCの到達点であると同時に、Justin Timberlakeのソロ時代への序章でもある。グループとしての完成度、商業的な大規模ポップ、R&Bへの接近、名声への自意識が一枚の中に凝縮されている。
日本のリスナーにとって『Celebrity』は、2000年代初頭のアメリカン・ポップがティーン・ポップからR&B/ヒップホップ寄りのサウンドへ移行していく過程を理解するうえで重要な作品である。Backstreet Boys的な王道ボーイ・バンド・バラードや、初期NSYNCのユーロポップ感とは異なり、本作ではよりビート、グルーヴ、プロデューサー主導の音作りが前面に出る。NSYNCの最終章であり、2000年代ポップの次の時代を予告したアルバムである。
全曲レビュー
1. Pop
アルバム冒頭の「Pop」は、『Celebrity』の主張を最も直接的に示す楽曲である。タイトル通り、この曲はポップ・ミュージックそのものをテーマにしている。*NSYNCはここで、ポップは軽い、作られた音楽だ、すぐに消費されるものだという批判に対して、正面から反論するような姿勢を見せる。
サウンドは、BTによるエレクトロニックなプロダクションが強く出ており、前作までの明快なダンス・ポップよりも、より機械的で分断的で、実験的な質感を持つ。ビートは細かく刻まれ、ヴォーカルは加工され、ギターやシンセの断片が飛び交う。これは、2001年時点のメインストリーム・ポップとしてはかなり攻めた音作りである。
歌詞では、ポップが多くの人を動かす力を持っていることが語られる。批評家や外部の視線がどう見ようと、リスナーが踊り、歌い、反応するならば、それがポップの力であるという考えがある。これは、当時の*NSYNC自身が受けていた「作られたボーイ・バンド」という批判への回答でもある。
ヴォーカル面では、Justin TimberlakeとJC Chasezのリードが中心だが、曲全体は個々の歌唱よりも、加工された声とリズムの集合体として機能している。「Pop」は、*NSYNCが自分たちの音楽的立場を自覚し、それを攻撃的に提示した重要曲である。アルバムの幕開けとして、非常に強い宣言になっている。
2. Celebrity
タイトル曲「Celebrity」は、名声と金銭、恋愛、社会的な利用関係をテーマにした楽曲である。ここでの「セレブリティ」は、華やかで憧れられる存在であると同時に、周囲から利用され、消費される存在として描かれている。*NSYNCが自分たちの状況を皮肉交じりに見つめる曲である。
サウンドは、ファンク的なベースとダンス・ポップのビートを組み合わせた作りで、全体に少し鋭いグルーヴがある。前曲「Pop」ほど実験的ではないが、従来の甘いボーイ・バンド・ポップよりも乾いた感触を持つ。リズムには硬さがあり、歌詞の皮肉な視点と合っている。
歌詞では、相手が本当に自分を愛しているのか、それとも有名人としての地位や金銭に惹かれているのかという疑問が描かれる。これは、スターになった彼らだからこそ歌えるテーマである。恋愛の不信感が、名声への不信感と結びついている点が重要である。
この曲では、*NSYNCが単なる恋愛ポップの語り手ではなく、セレブリティ文化の内部にいる当事者として声を上げている。「Celebrity」は、アルバム全体のコンセプトを支える楽曲であり、名声の裏側にある不安と皮肉をポップに表現している。
3. The Game Is Over
「The Game Is Over」は、恋愛における駆け引きや欺瞞の終わりを宣言するダンス・ポップ・トラックである。タイトルは「ゲームは終わった」という意味で、相手の策略や嘘を見抜き、関係を終わらせる姿勢が歌われる。
サウンド面で特徴的なのは、ゲーム音楽的な電子音や効果音が取り入れられている点である。2000年代初頭のデジタル感覚が強く、恋愛をビデオゲームのような勝負や戦略として描く歌詞と音響が結びついている。これは、当時のポップがテクノロジーやゲーム文化の音を取り込んでいく流れとも関係している。
歌詞では、相手が自分を操ろうとしていたこと、関係をゲームのように扱っていたことへの拒絶が描かれる。語り手はもはやそのゲームに参加しない。これは「Bye Bye Bye」にも通じる関係からの離脱のテーマだが、ここではよりデジタルで、冷たく、システム的な比喩が使われている。
「The Game Is Over」は、本作の中でややコンセプト色の強い楽曲である。歌詞、サウンド、電子音の演出が一体となり、*NSYNCが2000年代初頭のポップ・テクスチャーに積極的に対応していたことを示している。
4. Girlfriend
「Girlfriend」は、本作の中でも特に重要な楽曲であり、The Neptunesによるプロダクションが*NSYNCの音楽性を大きく更新している。後にNellyを加えたリミックスも広く知られ、Justin Timberlakeのソロ・キャリアへ直結するR&B/ヒップホップ路線の先駆けとして聴くことができる。
サウンドは非常にミニマルで、乾いたドラム、滑らかなベース、控えめなシンセ、余白のあるグルーヴが中心である。それまでの*NSYNCの大きなサビ、厚いシンセ、派手なダンス・ポップとは異なり、「Girlfriend」は音数を絞ることで、大人びたR&B感を作っている。この引き算の美学が、The Neptunesらしい。
歌詞では、相手の女性が現在の恋人に大切にされていないことを指摘し、自分ならもっとよく扱えると語る。タイトルの「Girlfriend」は、相手に「自分の彼女になってほしい」という誘いとして使われる。構図としては典型的なR&Bの口説き歌だが、*NSYNCが歌うことで、ボーイ・バンド・ポップから大人のR&Bへの移行が感じられる。
Justin Timberlakeの声は、この曲で特に自然に響く。ファルセットや軽いR&B的なフレージングは、後の『Justified』でさらに発展する。「Girlfriend」は、*NSYNCの楽曲でありながら、Justin Timberlakeの未来を最も強く感じさせる曲である。
5. The Two of Us
「The Two of Us」は、恋人同士の親密な時間をテーマにしたミッドテンポのポップR&Bである。タイトルは「僕たち二人」を意味し、外の世界から離れて、二人だけの関係に集中する感覚が中心にある。
サウンドは、柔らかなR&Bポップを基盤にしており、ビートは強すぎず、メロディとグルーヴのバランスが取れている。アルバム前半の「Pop」「Celebrity」「The Game Is Over」のような自意識の強い楽曲から少し離れ、ここではよりロマンティックな空気が前に出る。
歌詞では、二人だけの時間、親密さ、相手とのつながりが描かれる。従来のティーン・ポップ的な純粋な恋愛表現よりも、やや大人びたムードがある。身体的な距離の近さや夜の雰囲気が感じられ、*NSYNCが成熟した恋愛表現へ向かっていることが分かる。
「The Two of Us」は、本作の中では大きなシングルではないが、アルバムのR&B寄りの流れを支える重要曲である。派手な主張ではなく、グルーヴと親密な雰囲気によって聴かせるタイプの楽曲である。
6. Gone
「Gone」は、『Celebrity』の中でも最も重要なバラードのひとつであり、Justin Timberlakeのソロ的な存在感が非常に強く表れた楽曲である。曲の大部分でJustinがリードを取り、グループのハーモニーは背景的に機能する。そのため、後のソロ・デビューへの橋渡しとして非常に重要である。
サウンドは、メロウなR&Bバラードで、ギター、控えめなビート、柔らかなコーラスが中心にある。前作までのボーイ・バンド的な大きなバラードと比べると、より抑制され、内省的で、大人びた質感を持つ。派手なストリングスで感動を煽るのではなく、喪失感を静かに積み重ねる。
歌詞では、去ってしまった恋人への喪失感が歌われる。相手がいなくなった後の空白、戻ってこないことへの痛み、後悔が中心にある。タイトルの「Gone」は非常にシンプルだが、その単語の反復が、失われたものの大きさを強調している。
Justinの歌唱は、ファルセットと息遣いを活かし、静かな悲しみを表現している。JCや他のメンバーの存在感は控えめだが、コーラスが曲全体に温かさを与える。「Gone」は、*NSYNCのバラードの中でも特に成熟した楽曲であり、Justin Timberlakeのソロ・アーティストとしての可能性を明確に示している。
7. Tell Me, Tell Me… Baby
「Tell Me, Tell Me… Baby」は、Timbalandが関わった楽曲であり、本作の中でもリズム面で非常に興味深い一曲である。タイトルは「教えて、教えて」という問いかけで、恋愛における相手の本心を知りたいという焦りが中心にある。
サウンドは、Timbalandらしい変則的なビート、打楽器的な音の配置、隙間の多いプロダクションが特徴である。大きなシンセや分厚いサビで押すのではなく、細かなリズムの動きが楽曲を支配する。これは、*NSYNCの従来のボーイ・バンド・ポップから明らかに一歩進んだ音である。
歌詞では、相手が自分を本当に愛しているのか、関係をどう考えているのかを問い続ける。問いかけの反復が、楽曲のリズムと結びつき、心理的な焦りを生む。恋愛の不安が、Timbalandのビートによって神経質な緊張感に変換されている。
「Tell Me, Tell Me… Baby」は、*NSYNCが2000年代R&B/ポップの最前線に接近していたことを示す重要曲である。後のJustin TimberlakeとTimbalandの協力関係を考えると、この曲は歴史的にも興味深い位置にある。
8. Up Against the Wall
「Up Against the Wall」は、クラブやダンスフロアの身体的な親密さをテーマにした楽曲である。タイトルは「壁際に押しつけられて」という意味を持ち、従来の*NSYNCの純粋な恋愛表現よりも、明らかにセクシュアルで大人びたムードを持つ。
サウンドは、ダンス・ポップとR&Bの中間にあり、ビートは比較的硬く、夜のクラブ的な雰囲気がある。アルバム全体の成熟路線の中でも、特に身体性を前面に出した曲である。リズムは密度が高く、ヴォーカルもリードより全体のグルーヴを作る役割が強い。
歌詞では、ダンスフロアでの接近、身体の動き、欲望が描かれる。これは初期*NSYNCのファン層を考えると、かなり大人向けの表現であり、彼らがティーン・アイドルから成人した男性グループへ移行しようとしていたことを示している。
「Up Against the Wall」は、単独で代表曲として語られることは少ないが、『Celebrity』の大人びた方向性を理解するうえで重要である。*NSYNCがポップR&Bのセクシュアルな表現へ踏み込んだ楽曲である。
9. See Right Through You
「See Right Through You」は、相手の嘘や打算を見抜くことをテーマにした楽曲である。タイトルは「君のことは見透かしている」という意味で、名声や金銭に惹かれて近づく相手への不信感が感じられる。これはタイトル曲「Celebrity」とも関連するテーマである。
サウンドは、ダンス・ポップとファンクの要素を含み、鋭いリズムとやや皮肉なムードを持つ。恋愛曲でありながら、甘さよりも疑いと拒絶が中心にあるため、アルバム全体のセレブリティ批判的な視点とよく合っている。
歌詞では、相手が本当に自分を愛しているわけではなく、自分の地位や成功に惹かれていることを見抜く語り手が描かれる。これは、巨大な成功を収めた*NSYNCが実際に直面していたであろう人間関係の不信と重なる。
「See Right Through You」は、本作の名声への自意識を補強する楽曲である。単なる恋愛不信ではなく、スターであることによって生じる人間関係の不安をポップに変換している。
10. Selfish
「Selfish」は、Brian McKnightが関わったR&Bバラードであり、本作の中でも最も伝統的な甘さを持つ楽曲のひとつである。タイトルは「わがまま」「自分勝手」を意味するが、ここでは愛する相手を独占したいという感情として歌われる。
サウンドは、滑らかなR&Bバラードを基盤にしており、Brian McKnightらしいメロディの美しさと、*NSYNCのハーモニーが組み合わされている。前半の実験的なダンス・トラックやエレクトロニックな曲に比べると、非常に王道で、温かい質感を持つ。
歌詞では、相手を誰にも渡したくない、自分だけのものにしたいという気持ちが歌われる。これは恋愛における独占欲でありながら、曲調は攻撃的ではなく、甘く切実である。ボーイ・バンド・バラードとしての魅力が非常に分かりやすい。
ヴォーカル面では、グループのハーモニーが大きな役割を果たす。JustinやJCのリードに加え、全体のコーラスが曲を包み込む。「Selfish」は、本作における伝統的なR&Bバラードの代表であり、実験性の中にある*NSYNCらしい甘さを再確認させる楽曲である。
11. Just Don’t Tell Me That
「Just Don’t Tell Me That」は、相手の裏切りや不誠実さに対する痛みを歌った楽曲である。タイトルは「それだけは言わないでくれ」という意味で、聞きたくない真実、認めたくない現実への拒否が中心にある。
サウンドは、ポップ・ロック的なギター感とダンス・ポップのビートを組み合わせている。アルバムの中では比較的ストレートで、従来の*NSYNCのポップ感覚に近いが、歌詞には苦さがある。テンポは軽快だが、内容は関係の崩壊を扱っている。
歌詞では、相手が自分を愛していない、あるいは他の誰かを選んでいるという現実に向き合いたくない心情が描かれる。聞けばすべてが終わってしまう言葉を避けたいという心理が、タイトルに凝縮されている。
「Just Don’t Tell Me That」は、アルバム後半に感情的な緊張を加える楽曲である。大きな実験性はないが、ポップ・ソングとしての分かりやすさと失恋の痛みがうまく結びついている。
12. Something Like You
「Something Like You」は、穏やかで誠実な愛を歌ったバラードであり、本作の中で最も正統派のロマンティックな楽曲のひとつである。Stevie Wonderがハーモニカで参加していることでも知られ、楽曲に温かくクラシックなソウルの響きを加えている。
サウンドは、ピアノを中心にした柔らかなバラードで、過度に現代的なビートや加工は少ない。アルバムの中では非常に落ち着いた曲であり、恋愛を派手な欲望や駆け引きではなく、感謝と奇跡のような出会いとして描いている。
歌詞では、相手のような存在に出会えたことへの驚きと感謝が歌われる。タイトルの「Something Like You」は、「君のようなもの」「君のような存在」という意味で、相手が唯一無二であることを柔らかく表現している。愛を神秘的に賛美する点では、初期の「God Must Have Spent a Little More Time on You」にも通じるが、こちらの方がより大人びて穏やかである。
Stevie Wonderのハーモニカは、曲に特別な温度を与えている。*NSYNCがポップ・ボーイ・バンドでありながら、ソウルの伝統と接続しようとしていることも感じられる。「Something Like You」は、本作の終盤に優しい余韻を与える美しいバラードである。
13. Do Your Thing
アルバムの最後を飾る「Do Your Thing」は、他人の評価を気にせず自分らしく進むことをテーマにした楽曲である。タイトルは「自分のやるべきことをやれ」「自分らしくやれ」という意味で、アルバム全体の名声や批判への自意識を前向きにまとめる役割を果たしている。
サウンドは、ファンク、R&B、ポップを組み合わせた軽快なグルーヴを持つ。重いバラードで締めくくるのではなく、前向きでリズミックな曲で終わることで、アルバムは明るい余韻を残す。コーラスも開放的で、グループ全体のエネルギーが感じられる。
歌詞では、周囲が何を言っても、自分の道を進めばよいというメッセージが歌われる。これは「Pop」で示されたポップ批判への反論ともつながる。アルバムの最初で「ポップは軽い」という外部の視線に対抗した彼らは、最後に「自分たちは自分たちのことをやる」と宣言する。
「Do Your Thing」は、*NSYNCのグループとしての最終アルバムを締めくくる楽曲としても象徴的である。その後彼らは長期の活動休止へ向かうが、この曲には、ポップ・スターとしての自負と、自分たちの進む道を肯定する姿勢が刻まれている。
総評
『Celebrity』は、NSYNCのキャリアにおける最も成熟したアルバムであり、同時に彼らの最終スタジオ・アルバムとして重要な意味を持つ作品である。デビュー作のユーロポップ的な明るさ、『No Strings Attached』の爆発的なティーン・ポップの完成度を経て、本作ではR&B、ファンク、ヒップホップ、エレクトロニック・ポップの要素が大きく取り入れられた。これにより、NSYNCはボーイ・バンドという枠の中で可能な限り音楽的な広がりを追求した。
本作の大きなテーマは、名声への自意識である。「Pop」ではポップ・ミュージックへの批判に反論し、「Celebrity」では有名人であることによって生じる人間関係の歪みを描き、「See Right Through You」では地位や金銭に惹かれて近づく相手を見抜く。これは、彼らが巨大な商業的成功の中心にいたからこそ可能なテーマである。『Celebrity』というタイトルは、単に華やかさを示すのではなく、スターであることの不安と皮肉も含んでいる。
音楽的には、プロデューサー陣の多様性が本作を大きく特徴づけている。BTによる「Pop」はエレクトロニックで攻撃的なアルバムの入口を作り、The Neptunesによる「Girlfriend」はミニマルで大人びたR&Bの方向性を提示する。Timbalandが関わった「Tell Me, Tell Me… Baby」は、変則的なリズムと隙間のあるプロダクションによって、後の2000年代ポップを予告する。こうした楽曲は、従来のボーイ・バンド・ポップの型を明らかに押し広げている。
一方で、本作は完全に実験的なアルバムではない。「Gone」「Selfish」「Something Like You」といったバラードは、*NSYNCが持っていた甘いハーモニーとロマンティックな魅力を引き継いでいる。特に「Gone」は、Justin Timberlakeのソロ的な存在感が非常に強く、後の『Justified』へ直結する重要曲である。グループの作品でありながら、個人のスター性が前面に出てくる点に、本作の歴史的な意味がある。
Justin Timberlakeの存在感は、『Celebrity』において非常に大きい。もちろんJC Chasezも強力なリード・ヴォーカリストであり、グループ全体のハーモニーも重要である。しかし、「Gone」や「Girlfriend」を聴くと、Justinがすでに次の段階へ進む準備をしていたことが分かる。彼のファルセット、R&B的なフレージング、The NeptunesやTimbalandとの相性は、ソロ・キャリアの成功を明確に予感させる。
JC Chasezの役割も見逃せない。彼は、NSYNCの歌唱面を支える非常に重要な存在であり、本作でも力強いヴォーカルによって楽曲に厚みを与えている。Justinがソロ的な未来を感じさせる一方で、JCはグループとしてのNSYNCの歌唱力を支える中心だった。この二人のバランスが、*NSYNCを単なるダンス・アイドル・グループ以上の存在にしていた。
歌詞面では、恋愛が中心でありながら、その恋愛は前作までよりも複雑になっている。純粋な憧れや失恋だけでなく、名声による不信、身体的な欲望、関係の駆け引き、相手の本心への疑いが増えている。これにより、*NSYNCの音楽はティーン向けの甘い恋愛ポップから、より大人のポップR&Bへ移行している。
ただし、『Celebrity』には過渡期の作品らしい不均一さもある。実験的な曲、王道バラード、ファンク寄りの曲、ティーン・ポップ的な曲が混在しており、アルバム全体として完全に一つの音像にまとまっているわけではない。だが、その不均一さこそが、グループが変化の途中にあったことを示している。*NSYNCはここで、過去の成功を保ちながら、新しいポップの方向を探っていた。
2001年という時代背景も重要である。ティーン・ポップ・ブームはまだ大きな商業的力を持っていたが、同時にR&B、ヒップホップ、エレクトロニックなプロダクションがメインストリーム・ポップの中心へ入り込みつつあった。『Celebrity』は、その境界線に立つアルバムである。Max Martin型の大きなポップ・フックから、The NeptunesやTimbaland型のグルーヴと音響の時代へ移行する流れが、この作品には刻まれている。
日本のリスナーにとって『Celebrity』は、*NSYNCを「Bye Bye Bye」のグループとしてだけでなく、2000年代R&Bポップへの橋渡しを担った存在として理解するために重要なアルバムである。『No Strings Attached』のような分かりやすいティーン・ポップの爆発力を期待すると、本作は少し複雑に感じられるかもしれない。しかし、Justin Timberlakeのソロ作や、2000年代前半のR&B/ポップに関心があるリスナーにとっては、非常に興味深い作品である。
『Celebrity』は、*NSYNCの終着点であると同時に、次の時代の出発点でもある。名声への自意識、ポップ批判への応答、R&B/ヒップホップ・プロダクションへの接近、Justin Timberlakeのソロへの布石、グループとしての最後の成熟。それらが一枚に集約されている。ボーイ・バンド・ポップの枠を押し広げ、2000年代のポップR&Bへ道をつないだ、重要な最終章である。
おすすめアルバム
*1. No Strings Attached by NSYNC
2000年発表の前作であり、*NSYNC最大の商業的成功作。「Bye Bye Bye」「It’s Gonna Be Me」「This I Promise You」などを収録し、ティーン・ポップ時代の彼らの完成形を示している。『Celebrity』での成熟と実験性を理解するためには、まずこの前作との比較が重要である。
2. Justified by Justin Timberlake
2002年発表のJustin Timberlakeのソロ・デビュー作。The NeptunesとTimbalandのプロダクションを軸に、R&B、ファンク、ヒップホップ、ポップを融合している。『Celebrity』の「Girlfriend」や「Gone」で見えた方向性が、Justin個人の作品として本格化したアルバムである。
3. FutureSex/LoveSounds by Justin Timberlake
2006年発表のJustin Timberlakeの2作目。Timbalandとの共同作業によって、より未来的でエレクトロニックなR&B/ポップへ進んだ作品である。『Celebrity』で始まったTimbaland的なリズム感や音響実験が、さらに大胆に展開されている。
4. Millennium by Backstreet Boys
1999年発表のBackstreet Boysの代表作。*NSYNCと同時代のボーイ・バンド・ポップを理解するうえで欠かせないアルバムであり、「I Want It That Way」「Larger Than Life」などを収録している。『Celebrity』と比較すると、Backstreet Boysがより王道バラードとポップの完成度に重きを置いていたことが分かる。
5. Invincible by Michael Jackson
2001年発表のMichael Jacksonのアルバム。Rodney Jerkinsらを起用し、R&B、ダンス・ポップ、エレクトロニックなプロダクションを取り入れた作品である。時代的にも『Celebrity』と近く、2000年代初頭のメインストリーム・ポップがどのようにR&B化していたかを比較するうえで関連性が高い。

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