
発売日:2000年3月21日
ジャンル:ティーン・ポップ、ダンス・ポップ、ポップR&B、ユーロポップ、ファンク・ポップ、アダルト・コンテンポラリー、ボーイ・バンド・ポップ
概要
NSYNCの2作目のスタジオ・アルバム『No Strings Attached』は、2000年代初頭のティーン・ポップ・ブームを象徴する決定的な作品である。Justin Timberlake、JC Chasez、Chris Kirkpatrick、Joey Fatone、Lance Bassの5人からなるNSYNCは、デビュー作『*NSYNC』で「I Want You Back」「Tearin’ Up My Heart」などをヒットさせ、Backstreet Boysと並ぶ1990年代後半のボーイ・バンド現象の中心に立った。しかし、本作『No Strings Attached』は単なる成功作ではない。商業的には発売初週に驚異的な売上を記録し、音楽業界におけるCDバブル末期の巨大なポップ現象を象徴するアルバムとなった。
タイトルの「No Strings Attached」は、「ひもがついていない」「束縛されていない」という意味を持つ。この言葉は、単なる恋愛上の自由を示すだけでなく、当時の*NSYNCが所属事務所やマネジメントとの契約問題を経て、より自由な立場で活動を再開した状況とも重なる。アルバム・ジャケットやツアー演出では、メンバーが操り人形のようなイメージで表現されており、彼らが「誰かに操られる存在」から「自分たちの意志で動く存在」へ移行するというメッセージが込められている。
前作『*NSYNC』は、ユーロポップ的なダンス・サウンド、甘いバラード、若々しい恋愛ソングを中心としたデビュー作だった。そこではグループの基本的な魅力、すなわちJustinとJCのリード・ヴォーカル、厚いコーラス、ダンス・パフォーマンス、ティーン向けのロマンティックなイメージが提示されていた。一方、『No Strings Attached』では、その要素がはるかに大規模で、明快で、商業的に完成された形へ発展している。サウンドはより派手になり、フックはより強くなり、グループのイメージもより自信に満ちたものへ変化した。
本作の中心にあるのは、間違いなく「Bye Bye Bye」である。この曲は、2000年代ティーン・ポップを代表する楽曲のひとつであり、*NSYNCのキャリアを決定づけた曲でもある。鋭いストリングス風のシンセ、強力なビート、別れを告げる明快なフック、そして有名な手の振付が一体となり、音楽、映像、ダンス、ファン文化を結びつけるポップ・パッケージとして完成されている。「Bye Bye Bye」は、単なる失恋ソングではなく、過去の束縛を断ち切る宣言としても機能し、アルバム全体のコンセプトを象徴している。
もう一つの代表曲「It’s Gonna Be Me」も、本作のポップな完成度を示す重要曲である。Max MartinとRami Yacoubらが関わったこの曲は、スウェーデン産ポップの強烈なフック構造、硬いビート、やや機械的なヴォーカル処理を持ち、2000年前後のチャート・ポップの音を象徴している。Justin Timberlakeの独特な発音も含め、曲は非常に記憶に残るポップ・アンセムとなった。
本作には、アップテンポのダンス・ポップだけでなく、バラードも多く含まれている。「This I Promise You」はRichard Marxが手がけた王道のアダルト・コンテンポラリー・バラードであり、グループの甘いハーモニーを最大限に活かしている。「That’s When I’ll Stop Loving You」「I Thought She Knew」なども、彼らが単なるダンス・グループではなく、ヴォーカル・ハーモニーを武器にしたボーイ・バンドであることを示す楽曲である。
音楽的には、『No Strings Attached』は非常に多面的である。Max Martin系のスウェーデン・ポップ、アメリカンR&B、ファンク・ポップ、ユーロダンス、アダルト・コンテンポラリー、アカペラ風ハーモニーが混在している。完全に統一されたコンセプト・アルバムというより、当時のメインストリーム・ポップの成功要素を最大限に詰め込んだ作品である。しかし、その詰め込み方が非常に巧みであり、シングル曲の強さ、バラードの甘さ、ダンス曲の勢いが絶妙に配置されている。
歌詞の中心にあるのは、恋愛、別れ、自己主張、誠実な愛、関係の主導権である。「Bye Bye Bye」では相手に操られる関係から離れることが歌われ、「It’s Gonna Be Me」では最終的に自分が選ばれると確信する男性像が描かれる。「Space Cowboy」ではSF的な比喩を使い、「Digital Get Down」では当時としては先進的なデジタル時代の恋愛や遠隔コミュニケーションが扱われる。一方、「This I Promise You」では永遠の愛が非常にストレートに歌われる。この振れ幅が、本作を単なる同質的なティーン・ポップ集ではなく、時代のポップ欲望を多角的に映すアルバムにしている。
『No Strings Attached』は、CD時代末期の巨大なポップ・ビジネスを象徴する作品でもある。MTV、ラジオ、CDショップ、テレビ出演、雑誌、アリーナ・ツアー、ファン・クラブ、音楽ビデオ、振付が一体となって、アルバムそのものを巨大な文化現象にした。現代のストリーミング時代とは異なり、当時はアルバム発売が大きなイベントであり、ファンがCDを購入する行為そのものがポップ文化の中心にあった。本作は、その最後の黄金期を代表するアルバムである。
また、本作はJustin Timberlakeの後のソロ・キャリアを考える上でも重要である。彼はこの時点ですでにグループ内で大きな存在感を示しており、声の個性、リズム感、R&B的なフレージングが際立っている。しかし、同時にJC Chasezのリード・ヴォーカルも非常に重要であり、彼の力強い歌唱がグループの音楽的な支柱となっている。『No Strings Attached』は、Justin一人の作品ではなく、5人組ボーイ・バンドとしての*NSYNCが最も大きな商業的完成を見せた作品である。
全曲レビュー
1. Bye Bye Bye
「Bye Bye Bye」は、『No Strings Attached』の幕開けを飾るだけでなく、*NSYNCというグループの代表曲としてポップ史に刻まれた楽曲である。タイトルの「Bye Bye Bye」は、相手に別れを告げる非常にシンプルな言葉だが、その反復によって、恋愛関係からの離脱だけでなく、支配や操作からの解放も表現されている。
サウンドは、鋭いストリングス風のシンセ、タイトなビート、強いコーラスによって構成されている。イントロから非常に印象的で、曲が始まった瞬間に緊張感と勢いが生まれる。Max Martin系のスウェーデン・ポップの影響が強く、フックの配置、サビの爆発力、リズムの明快さが徹底されている。
歌詞では、相手に振り回される関係を終わらせる決意が描かれる。語り手は、もう相手のゲームには付き合わない。これは恋愛の歌であると同時に、アルバム・タイトルの「No Strings Attached」とも結びつく。操り人形の糸を断ち切るように、語り手は相手に「Bye Bye Bye」と告げる。
ヴォーカル面では、Justin TimberlakeとJC Chasezのリードが力強く、サビではグループ全体の声が大きく広がる。さらに、この曲は振付と不可分である。手を振る動きや操り人形的な動作は、楽曲の意味を視覚的に拡張した。「Bye Bye Bye」は、音楽、ダンス、映像、コンセプトが完璧に結びついた、2000年代初頭ティーン・ポップの象徴である。
2. It’s Gonna Be Me
「It’s Gonna Be Me」は、「Bye Bye Bye」と並ぶ本作の代表曲であり、*NSYNCのポップな完成度を示す楽曲である。タイトルは「最終的にそれは僕になる」という意味で、恋愛において相手が過去の失敗や他の男性を経た後、最後に自分を選ぶことになるという自信を歌っている。
サウンドは非常に硬質で、打ち込みのビート、シンセ・ベース、鋭いヴォーカル処理が特徴である。Max MartinとRami Yacoubによるプロダクションは、同時代のBritney SpearsやBackstreet Boysの作品とも共通する、明快で中毒性の高いポップ構造を持っている。曲は短く、フックが強く、無駄がない。
歌詞では、相手が過去に傷ついていることを理解しつつ、自分こそが本当にふさわしい存在だと語る。やや強引にも聞こえるが、ボーイ・バンド・ポップにおいては、リスナーに向けた自信あるラブソングとして機能する。恋愛の勝利宣言のような曲である。
この曲で特に有名なのは、Justin Timberlakeの「me」の発音である。独特な響きが後年インターネット文化でも再注目され、楽曲の記憶性をさらに高めた。ヴォーカルは全体的に加工感が強く、2000年前後のポップの機械的な美学がよく出ている。「It’s Gonna Be Me」は、ティーン・ポップがフックの力でどこまで大衆を動かせるかを示した代表的な一曲である。
3. Space Cowboy (Yippie-Yi-Yay) feat. Lisa “Left Eye” Lopes
「Space Cowboy (Yippie-Yi-Yay)」は、本作の中でも特に遊び心の強い楽曲であり、SF的なイメージ、カウボーイ的な掛け声、ダンス・ポップ、R&B的なゲスト参加が混ざった異色作である。TLCのLisa “Left Eye” Lopesが参加している点も重要であり、*NSYNCがR&B/ヒップホップの文脈へ接近しようとしていたことが分かる。
サウンドは、未来的なシンセと軽快なビートを中心にしており、タイトル通り宇宙的なイメージと西部劇的な掛け声が組み合わされている。これは非常に2000年前後らしい発想であり、ポップが未来感やデジタル感を積極的に取り込んでいた時代の空気を反映している。
歌詞では、宇宙へ飛び出すような自由や冒険が描かれる。深い物語性というより、イメージの面白さとパフォーマンス性が重視されている。グループの楽曲としては、シリアスなラブソングではなく、ステージで盛り上がるためのエンターテインメント性が強い。
Left Eyeのラップは、曲に独特のアクセントを加えている。TLCは1990年代R&Bガール・グループを代表する存在であり、彼女の参加は*NSYNCが単なる白人ティーン・ポップ・グループではなく、当時のR&B/ヒップホップ寄りのポップ市場にも接続しようとしていたことを示す。「Space Cowboy」は、やや奇抜ではあるが、本作の多様性を象徴する楽曲である。
4. Just Got Paid
「Just Got Paid」は、Johnny Kempの1988年のヒット曲をカバーした楽曲であり、本作の中でファンク/R&B的なパーティー感を担っている。タイトルは「給料が入ったばかり」という意味で、週末、自由、遊び、ダンス、夜の楽しさが中心にある。
*NSYNC版では、原曲のファンク感を2000年前後のポップ・プロダクションへ変換している。ビートはタイトで、コーラスは明るく、グループの若々しいエネルギーが前面に出ている。前半の大ヒット・シングル群に続き、アルバムにパーティー的な勢いを与える曲である。
歌詞では、給料日を迎え、街へ出て楽しむ様子が描かれる。恋愛の切なさや永遠の愛ではなく、日常から解放される一夜の高揚がテーマである。これはボーイ・バンドの作品としては少し大人びた題材でもあり、彼らがティーン向けの純愛ソングだけではない方向へ広がろうとしていたことを示している。
「Just Got Paid」は、*NSYNCのヴォーカル・グループとしての楽しさと、ステージ・パフォーマンスの明るさを感じさせる楽曲である。カバー曲でありながら、本作の流れに自然に組み込まれており、アルバムにR&Bファンク的な色を加えている。
5. It Makes Me Ill
「It Makes Me Ill」は、嫉妬と未練をテーマにしたポップR&B寄りの楽曲である。タイトルは「気分が悪くなる」という意味で、かつての恋人が別の相手といるのを見ることへの不快感、悔しさ、未練が描かれる。
サウンドは、ダンス・ポップとR&Bの中間にあり、リズムは少し跳ねるような質感を持つ。派手なシングル曲ではないが、アルバム曲として非常に完成度が高く、*NSYNCのR&B寄りの魅力を示している。ビートの配置やヴォーカルの掛け合いには、当時のアメリカン・ポップR&Bの影響が感じられる。
歌詞では、元恋人が現在の相手と幸せそうにしていることに耐えられない語り手の感情が歌われる。ここでの語り手は、別れを完全に乗り越えたわけではない。相手への未練と嫉妬が混ざり合い、感情的に不安定な状態が描かれる。
「It Makes Me Ill」は、本作の中で恋愛の負の感情を比較的リアルに扱う楽曲である。『No Strings Attached』には自信に満ちた曲が多いが、この曲では失った相手への苦い感情が前面に出る。グループのヴォーカルも、怒りと未練の間を行き来するように配置されている。
6. This I Promise You
「This I Promise You」は、本作を代表するバラードであり、*NSYNCの甘いハーモニーを最も分かりやすく堪能できる楽曲である。Richard Marxが手がけたこの曲は、アダルト・コンテンポラリーの王道的な構成を持ち、アルバムの中でも特に普遍的なラブソングとして機能している。
タイトルは「これを君に誓う」という意味で、歌詞では永遠の愛、献身、相手を守ることへの誓いが歌われる。ここには「Bye Bye Bye」のような別れの強さや、「It’s Gonna Be Me」のような恋愛の自信とは異なる、穏やかで誠実な愛がある。
サウンドは、ピアノ、ストリングス風のアレンジ、穏やかなリズムを中心にしたバラードである。過度に実験的な要素はなく、メロディとヴォーカルの美しさが重視されている。グループ全体のハーモニーが曲を包み込み、サビでは感情が大きく広がる。
「This I Promise You」は、結婚式でも使用されるようなタイプの正統派ラブ・バラードである。批評的には非常に王道で保守的な曲ともいえるが、*NSYNCのバラード・グループとしての魅力を示すには最適な楽曲である。本作の中で、甘く誠実な感情の核を担っている。
7. No Strings Attached
タイトル曲「No Strings Attached」は、アルバム全体のコンセプトを直接的に表現する楽曲である。操り人形や束縛の比喩を用いながら、自分たちはもう自由であり、誰かに支配される存在ではないという姿勢が示される。
サウンドは、ファンク・ポップとダンス・ポップを組み合わせた軽快な作りで、グルーヴ感が強い。タイトル曲でありながら、巨大なシングル曲のような派手さよりも、アルバムのテーマをリズミックに伝える役割を持つ。ベースラインやコーラスの掛け合いが印象的である。
歌詞では、誰かに動かされる操り人形ではなく、自分の意思で動くことが歌われる。これは恋愛にも読めるが、当時のグループの契約問題やマネジメントからの独立という文脈を考えると、非常に象徴的である。*NSYNCはここで、自分たちが商品として操られるだけの存在ではないと宣言している。
「No Strings Attached」は、アルバムのテーマを最も明示する楽曲である。大ヒット・シングル群に比べると知名度はやや低いが、作品全体を理解するうえでは非常に重要な曲である。
8. Digital Get Down
「Digital Get Down」は、本作の中でも最も時代を先取りしたテーマを扱う楽曲である。2000年というインターネットの普及期に、デジタル通信、遠距離の親密さ、オンライン上の恋愛や欲望を題材にしている。タイトルは、デジタル空間での接近や性的なやり取りを示唆している。
サウンドは、エレクトロ・ポップ、ファンク、R&Bが混ざった未来的な質感を持つ。ロボット的な音、デジタルな効果音、硬いビートが使われ、歌詞の内容と合っている。アルバム全体の中でも、特に2000年代初頭のテクノロジーへの期待と好奇心が感じられる。
歌詞では、距離が離れていても、ビデオ通話やデジタル通信によって親密さを保つような状況が描かれる。当時としてはかなり先進的であり、現在のオンライン恋愛やリモートな親密性を考えると、非常に興味深い曲である。ただし、表現はかなり軽く、コミカルで、ティーン・ポップの枠内に収められている。
「Digital Get Down」は、本作の中で最も異色の楽曲のひとつである。現在聴くとサウンドや言葉遣いに時代性はあるが、デジタル時代の恋愛を早くからポップに取り込んだ点で、歴史的にも面白い曲である。
9. Bringin’ da Noise
「Bringin’ da Noise」は、タイトル通り「音を持ち込む」「騒ぎを起こす」という意味を持つ、エネルギッシュなダンス・トラックである。アルバム後半に再び勢いを与える楽曲であり、ライブ・パフォーマンス向きの性格が強い。
サウンドは、ファンク・ポップ、ダンス・ポップ、軽いヒップホップ的なリズムを組み合わせている。ビートは強く、掛け声やコーラスが曲を前へ押し出す。歌詞よりも、ノリとエネルギーが中心にあるタイプの曲である。
歌詞では、音楽を鳴らし、場を盛り上げ、自分たちの存在感を示すことが歌われる。これは恋愛ソングというより、グループのパフォーマンス・アンセムである。*NSYNCがアリーナ・ポップの巨大な舞台で観客を巻き込む姿を想像しやすい曲である。
「Bringin’ da Noise」は、アルバム全体の中で大きな感情的深みを持つ曲ではないが、*NSYNCのショー的な側面を強く示している。踊るため、盛り上がるため、グループの勢いを見せるための楽曲である。
10. That’s When I’ll Stop Loving You
「That’s When I’ll Stop Loving You」は、永遠の愛を誓うバラードであり、アルバム後半の感情的な核となる楽曲である。タイトルは「その時に僕は君を愛するのをやめる」という意味だが、歌詞では事実上、愛が終わることはあり得ないと表現される。
サウンドは、アダルト・コンテンポラリー寄りのポップ・バラードで、穏やかなピアノ、ストリングス風のアレンジ、柔らかなコーラスが中心である。「This I Promise You」と同じく、ボーイ・バンド・バラードとして非常に王道的な構成を持つ。
歌詞では、もし星が輝かなくなったら、もし世界が止まったら、その時に愛をやめる、というような誇張された比喩によって、愛の永続性が歌われる。非常にロマンティックで、ある意味では古典的なラブソングの形式である。
「That’s When I’ll Stop Loving You」は、*NSYNCの甘いバラード路線を支える楽曲である。アルバムのアップテンポ曲に比べると派手さはないが、彼らのハーモニーと誠実なラブソング表現をしっかり聴かせる。ティーン・ポップのファン層だけでなく、より広いポップ・バラードのリスナーにも届く曲である。
11. I’ll Be Good for You
「I’ll Be Good for You」は、R&B色の強いミッドテンポ曲であり、本作の中でグループの大人びたグルーヴ感を示す楽曲である。タイトルは「君にとっていい存在になる」という意味で、相手に対して自分の誠実さや相性の良さを訴える内容になっている。
サウンドは、ファンク・ポップとR&Bを組み合わせた作りで、ベースラインとリズムが心地よい。大きなサビで押し切るタイプではなく、グルーヴに乗せて進む曲である。JustinやJCのリード・ヴォーカルも、ここでは比較的滑らかで、後の『Celebrity』におけるR&B路線への流れを感じさせる。
歌詞では、自分なら相手を大切にできる、相手にふさわしい存在になれるという姿勢が歌われる。これは「It’s Gonna Be Me」とも近い自信を持つが、こちらの方がより柔らかく、R&B的な口説きの雰囲気がある。
「I’ll Be Good for You」は、本作の中でシングル曲ほどの知名度はないが、*NSYNCがティーン・ポップからより成熟したポップR&Bへ向かう過程を示す重要なアルバム曲である。
12. I Thought She Knew
「I Thought She Knew」は、アルバムの最後を飾るアカペラ風のバラードであり、*NSYNCのヴォーカル・ハーモニー能力を最も直接的に示す楽曲である。派手なビートやシンセはなく、声の重なりそのものが中心に置かれている。
タイトルは「彼女は分かっていると思っていた」という意味で、愛していることを十分に伝えられていなかったことへの後悔が歌われる。語り手は、自分の気持ちは当然伝わっていると思っていたが、実際にはそうではなかった。その結果、相手を失ってしまったという内容である。
サウンドは極めてシンプルで、グループのハーモニーが曲のすべてを支えている。ここでは、*NSYNCが単なるダンス・パフォーマンス・グループではなく、声のアンサンブルを持つグループであることが明確に示される。低音から高音までの役割分担もよく、5人の声が一つの楽器のように機能している。
「I Thought She Knew」は、アルバムの締めくくりとして非常に効果的である。派手なポップ・ショーの後に、最後は声だけで感情を伝える。この構成によって、『No Strings Attached』は商業的な巨大ポップでありながら、ボーイ・バンドの基本であるハーモニーへ立ち返って終わる。
総評
『No Strings Attached』は、NSYNCのキャリアにおける最大の商業的成功作であり、2000年代初頭のティーン・ポップを象徴するアルバムである。『NSYNC』で確立したユーロポップ/ボーイ・バンドの基盤を、より大規模で、より強いフックを持つポップ作品へ発展させた本作は、当時の音楽産業、MTV文化、CD市場、ファン文化をすべて巻き込む巨大なポップ現象となった。
本作の中心にあるのは、自由と自己主張である。「Bye Bye Bye」は、相手や過去の束縛を断ち切る別れのアンセムであり、アルバム・タイトルの「No Strings Attached」と直接結びつく。「No Strings Attached」では、操り人形の糸を断つように、自分たちが自由であることを宣言する。これは恋愛の比喩であると同時に、当時の*NSYNCが置かれていた契約問題や業界構造からの解放とも重なる。
音楽的には、本作は非常に商業的に完成されている。「Bye Bye Bye」「It’s Gonna Be Me」は、2000年前後のMax Martin系ポップの頂点に位置するような楽曲であり、強烈なフック、明快な構成、記憶に残る振付と映像が一体になっている。一方で、「This I Promise You」や「That’s When I’ll Stop Loving You」は、アダルト・コンテンポラリー寄りの王道バラードとして、グループの甘い側面を支えている。
アルバム曲にも、本作の幅広さが表れている。「Space Cowboy」や「Digital Get Down」では、未来的・デジタル的なイメージが使われ、「Just Got Paid」ではファンク/R&Bのパーティー感が取り入れられる。「It Makes Me Ill」や「I’ll Be Good for You」では、ポップR&Bへの接近が見られる。こうした多様性は、後の『Celebrity』でさらに強まるR&B/ヒップホップ志向への前段階として重要である。
ヴォーカル面では、Justin TimberlakeとJC Chasezの二枚看板が特に重要である。Justinは高く軽い声、ファルセット、R&B的なフレージングによって後のソロ・キャリアを予感させる。JCはより力強く、安定した歌唱でグループの中核を支える。Chris、Joey、Lanceはハーモニー、低音、キャラクター面で全体を補強し、5人組としてのバランスを作っている。特に「I Thought She Knew」では、グループ全体の声の重なりが非常に美しく、*NSYNCがヴォーカル・グループとしても確かな力を持っていたことが分かる。
歌詞面では、恋愛が中心でありながら、単なる甘い愛の歌だけではない。「Bye Bye Bye」では関係の終了と自己解放が歌われ、「It Makes Me Ill」では嫉妬と未練が描かれる。「Digital Get Down」では、当時としては新しいデジタル時代の親密さが扱われる。「This I Promise You」では、永遠の愛が非常にストレートに表現される。このように、若い恋愛のさまざまな形が、分かりやすいポップの言葉で並べられている。
批評的に見れば、『No Strings Attached』は実験的な名盤というより、商業ポップの完成品である。サウンドには2000年前後の時代性が強く、シンセやドラムの質感、ヴォーカル処理には現在聴くと古さを感じる部分もある。また、アルバムとしての深い内省や統一された物語性は限定的である。しかし、本作の目的はそこではない。重要なのは、ポップ・ソング、振付、映像、ファン文化を完璧に機能させることであり、その点で本作は非常に高い完成度を持っている。
『No Strings Attached』は、CD時代の最後の巨大ポップ・アルバムのひとつでもある。発売日にCDショップへ向かい、アルバムを購入し、ブックレットを読み、テレビでミュージック・ビデオを見て、ツアーを追いかける。そのような消費体験が音楽文化の中心にあった時代を、本作は象徴している。ストリーミング時代の現在から見ると、このアルバムは音楽だけでなく、2000年前後のポップ産業全体の記録でもある。
日本のリスナーにとって本作は、2000年代初頭の洋楽ティーン・ポップを理解する上で欠かせない作品である。Backstreet Boysの『Millennium』が王道バラードと大きなポップ・メロディの完成形を示したとすれば、『No Strings Attached』はよりダンス・パフォーマンス、自己主張、若いエネルギーを前面に出したアルバムである。両者を比較すると、同時代のボーイ・バンドの違いが明確に見えてくる。
また、本作はJustin Timberlakeの後のソロ作品への入口としても重要である。『Justified』や『FutureSex/LoveSounds』で彼がR&B、ファンク、ヒップホップ、エレクトロニックなサウンドへ進む前に、『No Strings Attached』ではすでにその萌芽がいくつか聴こえる。特に「It Makes Me Ill」「I’ll Be Good for You」「Digital Get Down」などは、後の変化を予感させる曲である。
『No Strings Attached』は、*NSYNCの頂点を記録したアルバムである。若々しく、派手で、甘く、時に過剰で、徹底的にポップである。その音は時代に強く結びついているが、だからこそ歴史的価値がある。「Bye Bye Bye」「It’s Gonna Be Me」「This I Promise You」という代表曲を軸に、2000年前後のポップ・ミュージックが持っていた巨大なエネルギーを現在に伝える作品である。
おすすめアルバム
*1.
2001年発表の次作であり、*NSYNCの最後のスタジオ・アルバム。『No Strings Attached』の商業的成功を受け、よりR&B、ヒップホップ、エレクトロニックなサウンドへ踏み込んだ作品である。「Pop」「Gone」「Girlfriend」を収録し、Justin Timberlakeのソロ・キャリアへの橋渡しとしても重要である。
2. NSYNC *by NSYNC
1997年の欧州盤/1998年のアメリカ盤として知られるデビュー・アルバム。「I Want You Back」「Tearin’ Up My Heart」「God Must Have Spent a Little More Time on You」を収録し、グループの出発点を確認できる。『No Strings Attached』でどれほどスケールアップしたかを理解するために重要である。
3. Millennium by Backstreet Boys
1999年発表のBackstreet Boysの代表作。「I Want It That Way」「Larger Than Life」「Show Me the Meaning of Being Lonely」を収録し、90年代末のボーイ・バンド・ブームを象徴する一枚である。『No Strings Attached』と比較することで、Backstreet Boysの王道バラード志向と*NSYNCのダンス・ポップ志向の違いが見える。
4. Black & Blue by Backstreet Boys
2000年発表のBackstreet Boysのアルバム。『No Strings Attached』と同時代に発表され、ティーン・ポップからより成熟したポップ/R&Bへ向かう過程が聴ける作品である。2000年前後のボーイ・バンド市場の熱気を理解するうえで関連性が高い。
5. Justified by Justin Timberlake
2002年発表のJustin Timberlakeのソロ・デビュー作。The NeptunesやTimbalandと組み、R&B、ファンク、ヒップホップ、ポップを融合した作品である。『No Strings Attached』で見られるJustinの声とリズム感が、ソロ・アーティストとしてどのように発展したかを知るために欠かせないアルバムである。

コメント