発売日: 2009年12月15日
ジャンル: R&B、ヒップホップ・ソウル、アーバン・ポップ、セクシー・スロウジャム
概要
『Sex Therapy: The Session』は、Robin Thickeが2009年に発表した4作目のスタジオ・アルバムであり、彼のキャリアにおいて最も官能的かつ挑発的な作品として知られる。
これまでのクラシック・ソウル志向から一転、本作ではより現代的で都会的なアーバンR&B/ヒップホップサウンドを全面的に導入。
アルバム全体が「セクシュアリティと愛の治療室=セックス・セラピー」というコンセプトで統一されており、スローでスモーキーなバラードから、ダンスフロア仕様のトラックまで、濃密な性愛の世界観が展開される。
Ludacris、Jay-Z、Game、Kid Cudi、Estelle、Snoop Doggなど豪華なゲスト陣も多数参加し、Robin Thickeのセクシーなファルセットと絡みながら、夜の情景に彩りを加えている。
“白人R&Bシンガー”としての異色性を逆手に取った、最も大胆でエンターテインメント性に富んだ作品と言える。
全曲レビュー
Mrs. Sexy
オープニングを飾る短いイントロ。
都会的なセンスとダンディズムを漂わせながら、“セクシーの予兆”として幕を開ける。
Sex Therapy
アルバムの核であり、Robin Thicke史上でも屈指のヒット曲。
ミッドテンポのスロウ・ジャムに乗せて、「君のストレスを癒すセラピストになりたい」と誘惑する内容。
シンプルながら極上に艶やかなサウンドと、濃密なリリックが絶妙に絡む。
Meiple(feat. Jay-Z)
フランス語のような架空のワード「Meiple(ミープル)」をタイトルにしたトラック。
Jay-ZのクールなラップとThickeのファンキーなフックが共鳴。
エレガントなパーティー空間を思わせる大人の遊び心が光る。
Make U Love Me
しっとりとしたメロディに、情熱的なリリックが映えるミディアム・ナンバー。
愛と欲望のギリギリの境界線を漂うような官能美。
It’s in the Mornin’(feat. Snoop Dogg)
朝の時間帯に交わされる愛を描いた、ムーディでスモーキーな一曲。
Snoopのラップが“起きたての愛”にゆるさと色気を加える。
Shakin’ It 4 Daddy(feat. Nicki Minaj)
Nicki Minajとのクラブ・バンガー。
ハードなビートに乗せて、「君はパパのために腰を振る」というかなり挑発的な内容。
当時まだ駆け出しだったNickiのエネルギッシュなラップがアクセントになっている。
Elevatas(feat. Kid Cudi)
浮遊感あるサウンドが印象的な、サイケデリックR&B調のトラック。
Kid Cudiの内省的なヴァースが、性愛と精神世界の交錯を描き出す。
Rollacoasta(feat. Estelle)
Estelleとのデュエットで、関係の起伏を“ジェットコースター”に例えるナンバー。
アップテンポで、感情の波をそのまま音に乗せたような躍動感がある。
2 Luv Birds
しっとりとしたアコースティック・バラード。
“2羽の愛の鳥”という比喩で、互いに支え合う恋人の美しさを歌う。
アルバムの中で最も純愛的で清らかな一曲。
Million Dolla Baby
Michael Jackson風の80sファンク・ポップを思わせるダンサブルな楽曲。
煌びやかでフックの強いトラックが耳に残る。
She’s Always in My Head
Princeの影響を色濃く感じさせる、ファンキーかつエロティックなナンバー。
内面的な執着と性的な幻想が交差する一曲。
Jus Right
彼女の魅力を徹底的に称賛するバラード。
「どこをとっても完璧」と繰り返す歌詞に、Thickeの甘さと敬意がにじむ。
Diamonds(feat. Game)
愛を“ダイヤモンド”にたとえるドラマティックなトラック。
Gameの骨太なラップが、Thickeの繊細なヴォーカルと対照的な美を生む。
総評
『Sex Therapy: The Session』は、Robin Thickeのキャリアの中で最もセンシュアルな世界観に振り切ったアルバムである。
タイトルどおり「セックス」をキーワードにしながらも、それを単なる扇情的な方向ではなく、「癒し」「愛情」「儀式」としての性愛に昇華している点が本作の真価だ。
彼のファルセットは甘美で、時に中毒性すら感じさせるが、それを支えるサウンドもまた実に多彩である。
クラシック・ソウル、ネオ・ファンク、現代R&B、ヒップホップまでを大胆にミックスしながらも、どのトラックも“夜の雰囲気”に一貫性を持っている。
また、豪華なゲストとの共演も大きな魅力で、それぞれのラッパー/シンガーが“セラピーの一幕”を担う構成になっており、アルバム全体がセッション形式で進行するような流れを持つ。
『Sex Therapy』は、“愛と快楽を通して人を癒す”という一貫した哲学に基づいたR&Bコンセプト・アルバムの秀作である。
おすすめアルバム(5枚)
- The-Dream / Love vs. Money
性愛と中毒性のあるサウンドが交錯する、エロティックR&Bの代表作。 - Trey Songz / Ready
セクシー路線の完成形。スロー・ジャムの構成がThickeと重なる。 - Miguel / Kaleidoscope Dream
セクシュアリティと幻想が融合したR&Bのマスターピース。 - Justin Timberlake / FutureSex/LoveSounds
官能とビートの美学を追求したポップとR&Bの架け橋。 - R. Kelly / TP-2.com
性愛を大胆に扱いながらも、メロディアスかつ感情的な構成が秀逸。
歌詞の深読みと文化的背景
『Sex Therapy』の歌詞は、一見すると単なるセクシュアルな言葉遊びに見えるが、実は**“愛による癒し”という深い哲学**が根底にある。
特に「Sex Therapy」や「It’s in the Mornin’」では、身体的接触が“治療”や“回復”として機能し、性愛が単なる快楽ではなく“感情の回復手段”として描かれている。
また、「Tie My Hands」(前作)に続き、「Elevatas」や「Dreamworld」に漂っていた社会不安からの逃避/昇華のモチーフが、本作ではセラピーというかたちでより内面的に描かれている。
つまり、本作は“夜”という舞台を通じて、「自分を取り戻す時間」を描いたアルバムなのだ。
『Sex Therapy: The Session』は、単なるラブメイキング・サウンドではなく、精神と身体のための音楽的マッサージとも言える一枚である。
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