アルバムレビュー：Know. by Jason Mraz

発売日: 2018年8月10日
ジャンル: ポップ、アコースティック・ロック、オルタナティブ・ポップ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
ファンや評論家の反応

概要

『Know.』は、Jason Mrazが2018年に発表した6作目のスタジオアルバムであり、人生と愛への深い「理解＝Know」をテーマとした、温もりと成熟が共鳴する作品である。

2014年のアコースティック作品『Yes!』から4年ぶりにリリースされた本作は、再びRaining Janeとのコラボレーションを基盤としつつも、よりポップで開かれたトーンへと回帰している。
Mraz自身が「これはラブアルバムだ」と語ったように、全編にわたって肯定的な愛のメッセージが込められており、明るさと包容力が作品全体を包んでいる。

アルバムタイトルの『Know.』には、「知ること」「理解すること」だけでなく、同音異義語である「No.（否定）」との対比を感じさせる含意が込められており、単なる愛の喜びだけでなく、それを深く理解することの意味も問いかけている。

トランペットや弦楽器、ミュージカル風のアレンジまで含まれた本作は、肩の力を抜いたような軽やかさと、年齢を重ねたことで得られた穏やかな達観が共存している。

全曲レビュー

Let’s See What the Night Can Do

ロマンチックな夜の幕開けを予感させる、スローで幻想的なオープニング。
恋愛という“未知への航海”をテーマに、柔らかく揺れるコード進行とコーラスが夢幻的な空気を演出する。
アルバムのトーンを静かに設定する導入曲。

Have It All

リードシングルであり、Mrazのキャリアを象徴するようなポジティブ・アンセム。
「君がすべてを手にできますように（Have it all）」という祈りのようなメッセージが繰り返される。
元々はミャンマーでの訪問をきっかけに生まれた言葉が、世界的な希望の歌へと昇華した。

More Than Friends (feat. Meghan Trainor)

明るくキャッチーなポップナンバーで、友情から恋愛へと発展する瞬間を描いたデュエットソング。
Meghan Trainorのチャーミングなボーカルとの相性も良く、ラジオ映えする1曲に仕上がっている。
青春映画のサウンドトラックのような軽やかさがある。

Unlonely

タイトル通り、“一人じゃない”ことを伝える軽快なラブソング。
スカやレゲエのテイストを取り入れたリズムが楽曲に踊るような軽やかさを与え、聴く人の気分を一気に晴らしてくれる。
シンプルなフレーズが繰り返されることで、親しみやすく耳に残る。

Better with You

恋人といることで、すべてがより良く感じられる――そんな素朴な喜びを歌ったトラック。
アコースティックギターと柔らかいボーカルが、何気ない日常の幸福感を優しく描き出す。

No Plans

軽快なギターのリフとともに始まる、リラックスしたポップソング。
「今日は予定なんかいらない」と歌うこの曲は、自由で柔らかい時間を楽しむことの美しさを提示している。
都会の喧騒から距離を置いたような、心の余白を感じる1曲。

Sleeping to Dream

初期の代表曲の再録バージョン。
夢の中で恋人と会うという幻想的なモチーフは変わらず、より洗練されたアレンジと成熟したボーカルで新たな息吹を与えている。
ノスタルジックでありながら、今のMrazを感じさせるリメイク。

Making It Up

関係の中で迷いながらも、正解を探すのではなく“作っていく”という姿勢を描いた楽曲。
タイトルの通り、人生や愛には即答がなくてもよいという包容力を持つ。
中庸なテンポとハーモニーが、柔らかく説得力をもたらしている。

Might as Well Dance

「どうせなら踊ってしまおう」と、行動することの肯定を歌ったトラック。
軽快なワルツのリズムとユーモラスな表現が、肩の力を抜いてくれる。
結婚式やパーティーのBGMとしても親しまれている。

Love Is Still the Answer

アルバムのクロージングを飾る、静かな祈りのような楽曲。
世界が混乱し、個人が迷う中でも「愛こそが答えだ」と語るこの曲には、Mrazの哲学の集大成ともいえる深さがある。
ストリングスとコーラスによる包み込むような音像が、静かに余韻を残していく。

総評

『Know.』は、Jason Mrazのこれまでのキャリアの中で最も「自然体」でありながら、「成熟」したアルバムである。
過剰なプロダクションや実験性を排し、あくまで“伝えたい言葉”と“共に奏でる音”のみにフォーカスしたその姿勢は、音楽の本質を見つめ直すような誠実さを感じさせる。

テーマは一貫して「愛」と「理解」。
しかしここで語られる“愛”は、決して甘い言葉や劇的な恋の話にとどまらず、家族、友情、自己受容、さらには社会へのまなざしまで含んだ広がりを持っている。

また、初期のファンには懐かしい「Sleeping to Dream」の再録も、本作に“過去との対話”という文脈を加えており、時を経ても変わらないコアと、そこに重なる深みを感じさせる。

Jason Mrazはこのアルバムで、「ポップ・スターとしての姿」よりも、「誠実な語り手としての在り方」を選んだのかもしれない。
そしてその選択こそが、私たちリスナーにとって最も信頼できる「Yes」の答えであり、「Know」の本質なのだ。

ファンや評論家の反応

『Know.』はリリース当初、メディアからは「安心して聴ける良質なポップ」として評価され、前作よりもポップ寄りに回帰したことが好意的に受け止められた。
特に「Have It All」は多くの国でプレイリスト入りし、Mrazの代表曲のひとつとなっている。

一方で、アルバム全体の静かで平穏なムードに対して「安全すぎる」「刺激が足りない」と感じる声も一部から上がった。
しかし、そうした“過激さの不在”こそが本作の美徳であり、混沌とした世界においての“心の避難所”として、このアルバムは長く愛され続けている。