
発売日: 2018年1月26日
ジャンル: ポップ・ロック、ピアノ・ポップ、アダルト・コンテンポラリー
概要
『Giants』は、Daniel Powterが2018年に発表した通算5作目のスタジオ・アルバムであり、世界的ヒット「Bad Day」以降の軌跡を経て到達した、より開かれたメロディと内省的な成熟が融合した作品である。
アルバムタイトルの“Giants”とは、外の世界で立ちはだかるものではなく、自分の中に存在する感情やトラウマ、過去の自分という「巨人」たちを指しており、Powterはその“内なる巨人”と正面から向き合おうとしている。
この作品では、従来のピアノ・ポップに加えて、ストリングスやシンセ、レイヤードされたコーラスなどを取り入れ、より豊かな音像が特徴。
また、トラックの構成やリズム面にも細やかな工夫が加えられ、全体にモダンな聴き心地と深みのある感情表現が共存している。
ポップ・フォーマットにありながら、Daniel Powterというアーティストの進化が静かに、しかし確かに刻まれたアルバムである。
全曲レビュー
Perfect for Me
オープニングを飾る、温かく包み込むようなピアノ・バラード。
「君はありのままで完璧だよ」と歌うメッセージが、穏やかなメロディとともに胸に届く。
自己肯定のまなざしが優しい一曲。
Do You Want to Get Lucky
恋と希望に満ちたミッドテンポのポップ・ナンバー。
どこか80年代風のキーボードとポップなリズムが、軽やかさと懐かしさを同時に感じさせる。
Survivor
過去と傷を抱えながら、それでも歩き続けることを誓うアップリフティングな楽曲。
「僕はサバイバーなんだ」というサビが力強く、Danielの新たな決意が伝わる。
Delicious
ポップで洒脱なアレンジが光るラブソング。
恋愛の多幸感を、遊び心と粋な語り口で表現。
ファルセットとベースラインの絡みが心地よい。
Bad Boy
内面の“悪ぶった自分”を描く、ややロック寄りのナンバー。
Danielにしては珍しく攻めたサウンドで、ギターリフとビートが引き締まった印象を与える。
Giants
アルバムのタイトル・トラックであり、全体のコンセプトを象徴するスローバラード。
「僕の中の巨人が、時に僕を飲み込もうとするけど、それでも前を向く」という主題が、荘厳なストリングスとともに響く。
壮大かつ静謐なトラック。
Tell Them Who You Are
社会や他人の期待に流されず、自分を貫けというメッセージを持つ。
サビの高揚感とコーラスの広がりが印象的で、聴き手に寄り添いながらも励ます力を持つ。
Stupid Like This
恋における“愚かさ”をユーモラスに描いた軽快なミディアム・ナンバー。
無邪気さとほろ苦さが交錯し、リズミカルな構成で飽きさせない。
Cheers to Us
お互いの不完全さに乾杯しよう、と歌う温かいデュエット調のナンバー。
アルバム後半にふさわしい、人との絆を讃えるような優しい一曲。
Happy Xmas (War Is Over)【日本盤ボーナストラック】
ジョン・レノンの名曲をDaniel流に解釈したカバー。
静かで丁寧なアレンジが、彼の敬意と誠実さを感じさせる。
総評
『Giants』は、Daniel Powterがポップ・アーティストとしてだけでなく、人生と向き合う“語り手”としての成熟を見せた重要なアルバムである。
『Daniel Powter』での爆発的成功から10年以上が経ち、今や彼は「ただのヒットメーカー」ではなく、“生きることの難しさとやさしさ”を歌える存在へと変化を遂げた。
サウンド面でも、従来のピアノ中心の構成にとどまらず、ストリングスや打ち込み、コーラスワークを大胆に導入し、瑞々しい音像と深い感情の両立が実現している。
どの曲もメロディが美しく、しかし甘すぎず、少し背中を押してくれるような距離感が魅力だ。
内なる“巨人”と向き合いながら、それでも誰かと手を取り合って歩く。
そんなテーマが、Daniel Powterの誠実な歌声とともに、静かに、けれど力強く語られる一枚である。
おすすめアルバム(5枚)
- Gavin DeGraw / Something Worth Saving
爽やかで芯のあるポップ・ロックが魅力。内省と希望がバランスよく同居。 - Jamie Lawson / Jamie Lawson
人間関係の繊細さを丁寧に歌うシンガーソングライター系ポップの名盤。 - A Great Big World / When the Morning Comes
豊かなコーラスと温かいメロディが特徴。『Giants』の空気感と親和性あり。 - Tom Chaplin / The Wave
困難を乗り越える力を歌った感動的なピアノ・ポップアルバム。 - Greg Laswell / Everyone Thinks I Dodged a Bullet
失意や後悔を詩的に綴った大人のためのオルタナティブ・ポップ。
歌詞の深読みと文化的背景
『Giants』に込められた最大のテーマは、「自分自身とどう向き合うか」という問いである。
“巨人”は現実の敵ではなく、自己不信、後悔、トラウマ、あるいは過去の栄光に縛られた自分自身のこと。
Powterはそれを正面から見つめ、否定せず、受け入れるというプロセスを、歌という形で辿っている。
「Perfect for Me」や「Tell Them Who You Are」では、社会の評価ではなく、“自分であること”を信じる力が強調される。
また、「Cheers to Us」のように、不完全な者同士がそれでもつながりあうという、連帯と寛容のメッセージも随所に見られる。
つまり『Giants』は、Daniel Powterという個人の物語でありながら、聴く者すべてにとっての自己和解の物語でもある。
優しさと痛みが同居したこのアルバムは、誰かの小さな夜にそっと寄り添う、かけがえのない一枚だ。
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