
発売日:1968年9月12日
ジャンル:Psychedelic Rock / Acid Rock / Folk Rock
概要
Crown of Creationは、Jefferson Airplaneが1968年に発表した4作目のスタジオ・アルバムである。Surrealistic Pillowでサンフランシスコ・サイケデリアを代表する存在となり、続くAfter Bathing at Baxter’sで長い曲や即興、複雑な構成へ踏み込んだバンドが、本作ではその実験性を比較的短い歌曲へまとめ直した。Grace Slick、Marty Balin、Paul Kantnerという複数の作曲家と歌い手を擁し、Jorma Kaukonenの鋭いギター、Jack Casadyの大きく動くベース、Spencer Drydenの柔軟なドラムがそれぞれ独立した声を持つ。
1968年という社会的緊張の強い時期を反映し、歌詞には世代間の対立、戦争、共同体、個人の自由、恋愛関係の不安などが入り込む。ただし政治的な標語を並べる作品ではない。Paul KantnerはSF的なイメージから既存社会への違和感を描き、Grace Slickは親密な関係の中にある支配や距離へ目を向け、Marty Balinはより直接的な感情を歌う。異なる視点が同じバンドの中で衝突すること自体が作品の性格になっている。
サウンド面では、フォーク由来のアコースティックな感触と、ファズを含むエレクトリック・ギターの硬さが共存する。特にCasadyのベースは伴奏に留まらず、ギターとは別の旋律を弾いて曲の内部を動き回る。その上でSlick、Balin、Kantnerの声が単純な三声コーラスではなく、重なったり離れたりしながら緊張を作る。ヒッピー文化の理想だけでなく、その内部に生まれ始めた不安や対立まで聞こえてくる点で、1960年代後半のJefferson Airplaneをよく表した作品である。
全曲レビュー
1. 「Lather」
Grace SlickがSpencer Drydenの30歳の誕生日を念頭に書いた曲で、子供のような感覚を保った人物が、大人らしく振る舞うことを求められる状況を描く。アコースティックな伴奏に奇妙な効果音が入り、童話のような柔らかさと不安が同居する。Slickは人物を単純に未成熟だと笑うのではなく、年齢によって社会的役割を決められること自体を疑っている。サイケデリアを派手な音響ではなく、現実の常識を少しずらして見る方法として使ったオープニングだ。
2. 「In Time」
Paul KantnerとMarty Balinによる曲で、静かなギターから徐々に音を重ねながら、急がず大きくなっていく。タイトル通り時間の経過そのものを感じさせる構成で、一定のリフを強く押すより、ギター、ベース、声が少しずつ位置を変えることで流れを作る。KantnerとBalinの歌にも穏やかさがあり、前曲の不安定な童話性から、より開けた空間へ移る。即興性を短いスタジオ曲の中へ収めた、本作らしいアンサンブルを聞ける。
3. 「Triad」
David Crosbyが書いた曲のカバーで、三人による恋愛関係を題材にしている。アコースティック・ギターを中心とした静かな編成のため、Grace Slickの低く落ち着いた声と言葉が前面に出る。歌詞は一般的な一対一の恋愛規範を当然のものとせず、なぜ三人で愛し合うことが認められないのかと問いかける。大音量のサイケデリック・ロックではないが、社会的な常識そのものを疑うという意味では、本作でも特に1960年代末の対抗文化と近い曲である。
4. 「Star Track」
Jorma Kaukonen作の曲で、ここでは彼のギターが主役になる。硬く歪んだリフが曲を引っ張り、Casadyのベースはその下をなぞらず、別の方向へ動いて演奏を厚くする。フォーク的な静けさを持つ序盤3曲に対して、バンドの酸味の強いエレクトリック・サウンドを一気に取り戻す配置も効果的だ。ボーカルより楽器同士の緊張を楽しむ性格が強く、ライブで即興を得意としたJefferson Airplaneの身体的な側面が短い曲へ凝縮されている。
5. 「Share a Little Joke」
Marty Balinの書いた曲で、軽い題名とは対照的に演奏には落ち着かない緊張がある。Balinの声は滑らかなメロディを保ちながらも次第に力を増し、その周囲でギターとベースが細かく動くため、単純なポップ・ソングには収まらない。「少し冗談を共有する」という親密な行為を入口にしながら、他人と感覚を共有できるかという問題へ広がっていくように聞こえる。Balinのメロディ志向とバンドの実験的な演奏がうまく交差した曲だ。
6. 「Chushingura」
Spencer Drydenによる短いインストゥルメンタルで、通常のロック・ソングの構造から完全に離れる。タイトルは日本の「忠臣蔵」を指すが、具体的な物語を音で再現する作品ではなく、電子的な音響や断片的な響きを使った間奏として機能する。前半の歌曲をいったん切断し、次の「If You Feel」へ耳をリセットさせる役割が大きい。After Bathing at Baxter’sで前面に出ていたスタジオ実験の名残を、短い形で残したトラックである。
7. 「If You Feel」
Marty BalinとGary Blackmanによる曲で、リズム隊の力強い動きと荒いギターが前へ出る。Balinは自分の感情を細かく分析するより、感じるなら行動へ移せという直接的な態度で歌い、演奏もそれに合わせて躊躇なく進む。Casadyのベースは低音の土台を越えて頻繁に動き、ドラムとギターの間をつなぐ。複雑な象徴やSF的な題材が目立つアルバムの中で、身体感覚を優先したロックンロールとして良い対照になっている。
8. 「Crown of Creation」
Paul KantnerがJohn WyndhamのSF小説『The Chrysalids』から着想を得て書いたタイトル曲である。鋭いギターと重いリズムの上で、既存の価値観へ適応することと、変化を受け入れて新しい存在になることの対立を描く。「創造の頂点」という言葉も人間の優越を単純に称えるのではなく、自分たちこそ完成形だと思う社会への皮肉として響く。SFの言葉を1968年の世代間対立や社会変革へ接続する、Kantnerらしい作詞が最も明確に出た曲である。
9. 「Ice Cream Phoenix」
KantnerとCharles Cockeyによる曲で、奇妙なタイトルと柔らかな旋律がサイケデリックな曖昧さを作る。激しいタイトル曲の直後に置かれ、演奏はより流動的で、声と楽器が一つの大きな塊になるより互いの隙間を漂う。歌詞も論理的な物語よりイメージの連鎖を重視しており、意味を一つに固定しにくい。政治や社会を直接扱う曲の間にこうした夢のような歌を置くことで、アルバムが声明文のようになるのを避けている。
10. 「Greasy Heart」
Grace Slick作・歌唱による、鋭い社会観察を持ったロック・ナンバーである。外見を整え、商品や化粧によって自分を作り上げる人物を眺めながら、表面的な美しさと内面の空虚さのずれを皮肉る。Slickの低い声には冷たさとユーモアがあり、相手を感情的に非難するより観察して切り込む感覚が強い。ギターとリズム隊も硬く引き締まり、消費文化への違和感を説教ではなく、短く攻撃的なロックへ変えている。
11. 「The House at Pooneil Corners」
KantnerとBalinによる最終曲で、アルバムでも最も終末的な響きを持つ。ギター、ベース、ドラムが重く密集し、複数のボーカルが不穏に重なることで、穏やかな共同体ではなく崩壊へ向かう世界を描く。特にCasadyのベースは低い位置から曲全体を揺らし、ギターのノイズとともに巨大な圧力を作る。「Lather」の個人的な年齢への不安から始まった作品が、最後には文明そのものの破局を思わせる場所まで拡大する。希望的な解決を用意しない、強烈なクロージングである。
総評
Crown of Creationの面白さは、Surrealistic Pillowの親しみやすいサイケデリック・ポップと、After Bathing at Baxter’sの実験性の中間に単純に収まらないことにある。曲の多くは数分でまとまり、以前より構造も明瞭だが、その内部ではベースやギターがかなり自由に動いている。つまり実験をやめたのではなく、長い即興や組曲で行っていたことを、短い歌曲へ圧縮したのである。
この時期のJefferson Airplaneでは、誰か一人が絶対的な中心にならないことも重要だ。Slickは冷静で鋭い観察を、Balinは人間同士の感情を、Kantnerは社会や未来への想像を曲へ持ち込む。KaukonenとCasadyはそこへブルースや即興演奏の感覚を加え、Drydenは曲ごとにリズムの重さを変える。同じアルバムなのに「Triad」と「Star Track」、「Lather」と「The House at Pooneil Corners」が大きく異なるのは、この複数中心型のバンドだったからである。
歌詞からは1967年の「サマー・オブ・ラブ」的な楽観がすでに揺らいでいることも分かる。自由な関係や新しい共同体への期待は残っているが、「Crown of Creation」では旧社会との対立が強まり、「Greasy Heart」では消費社会への不信が現れ、最後には破局のイメージまで到達する。理想を捨てたわけではないが、理想だけで現実を変えられるという無邪気さは薄い。この緊張が翌年のより政治的で攻撃的なVolunteersへつながっていく。
サイケデリック・ロックというと、長い即興や大量のスタジオ効果がまず連想されやすい。しかし本作の価値は、サイケデリアが作曲、歌詞、アンサンブルの考え方にも存在し得ることを示した点にある。常識を別の角度から眺める歌詞、決められた伴奏に収まらないベース、性格の異なる声が衝突するコーラスによって、短い曲にも不安定な広がりが生まれている。1960年代の理想主義がより厳しい現実とぶつかり始めた瞬間を、Jefferson Airplane自身の変化とともに捉えた作品である。
おすすめアルバム
After Bathing at Baxter’s by Jefferson Airplane
1967年の前作。組曲的な構成、長い演奏、スタジオ実験を大胆に使い、Crown of Creationよりサイケデリアを拡散させている。本作がその自由さを短い歌曲へどう整理したのかを比較すると変化がよく分かる。
Volunteers by Jefferson Airplane
1969年作。本作で強まった社会への不信をさらに直接的な政治性と荒いロックへ進めた。Kantnerの共同体思想やSlickの攻撃的な歌唱も前面に出ており、Crown of Creationの緊張感が向かった次の地点を確認できる。
If I Could Only Remember My Name by David Crosby
1971年作。サンフランシスコ周辺の多数のミュージシャンが参加し、声の重なりと自由なアンサンブルから共同体的なサイケデリアを作った。Jefferson Airplaneのメンバーも参加しており、本作の静かな側面との接点が多い。
Anthem of the Sun by Grateful Dead
1968年作。ライブ演奏とスタジオ録音を組み合わせ、曲の境界そのものを曖昧にしたサンフランシスコ・サイケデリアの代表例である。Jefferson Airplaneとは方法が違うが、ロックの定型を集団演奏から崩していく同時代の動きを聞ける。
The Notorious Byrd Brothers by The Byrds
1968年作。フォーク・ロックを基礎に電子音、カントリー、複雑なコーラスを組み込み、社会的不安も簡潔なポップ・ソングへ落とし込んだ。実験性を短い曲の中へ圧縮するという点で、Crown of Creationと好対照をなす。

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