
1. 歌詞の概要
「My Drug Buddy(僕のドラッグ仲間)」は、The Lemonheads(レモンヘッズ)が1992年に発表したアルバム『It’s a Shame About Ray』に収録された楽曲で、恋愛と依存、日常と逃避、優しさと破滅性の狭間を漂う、静かで甘美なオルタナティブ・バラードである。
タイトルにある“ドラッグ・バディ”という言葉は、そのまま解釈すれば「薬物を一緒に使う仲間」だが、この曲では、薬物を通して結びついた一人の女性との関係を、穏やかで淡々とした語り口で描いている。
だが、この曲は単なる“ドラッグの歌”ではない。
それはむしろ、社会の外側に取り残された者たちの、刹那的で親密な関係性――言い換えれば「一緒に壊れていける誰か」を見つけたときの、奇妙な安堵や幸福感を描いている。
薬の陶酔よりも、誰かと寄り添う時間そのものに酔っているような、静かで危ういロマンスがここにはある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「My Drug Buddy」は、The Lemonheadsの中心人物エヴァン・ダンドー(Evan Dando)が書いた楽曲であり、彼自身の経験や90年代初頭のアメリカにおける若者文化を色濃く反映している。
ダンドーは、この時期にドラッグとの付き合いを深めていたことを隠しておらず、また彼の歌詞にはしばしば、社会的規範の外で生きる若者たちの姿が描かれている。
この曲に登場する“彼女”は、単なる恋人でもなく、ただの使用仲間でもなく、主人公にとっての“世界から隔絶された一時的な楽園”を共にする存在である。
彼女との夜のドライブ、薬局への買い出し、ベッドでの沈黙――それらはどれも派手ではないが、日常の中の逃避として、確かな“つながり”を示している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「My Drug Buddy」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“She’s coming over / We’ll go out walking / And make a call on the way”
「彼女がやってくる / 一緒に歩きながら / 途中で電話をかけるんだ」
“I’ve got a drug buddy / My drug buddy”
「僕にはドラッグ仲間がいる / 僕のドラッグ仲間さ」
“We really don’t care what’s going on / We really don’t care at all”
「外の世界で何が起きていても気にしない / 本当にどうでもいいんだ」
“I’m too much with myself / I wanna be someone else”
「自分の中に閉じこもりすぎてる / 誰か別の人間になりたいよ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
The Lemonheads – My Drug Buddy Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「My Drug Buddy」は、薬物という“禁忌”を通してしか心を許せない二人の、悲しくも美しい関係性を描いた楽曲である。
この歌において“ドラッグ”は、物質そのものというよりも、“心の逃げ場”の象徴として扱われている。
それは、人と深くつながることが難しい現代社会において、“一瞬だけでもすべてを忘れられる”時間を共有する手段であり、危うくも真実味のあるユニオンなのだ。
また、「I’m too much with myself / I wanna be someone else」というラインは、90年代の若者たちが抱えていた“自己嫌悪”と“自己超越への願望”を象徴している。
自分の存在を持て余し、別の誰かとして生きたい――その願いが、薬物という媒介を通じて可能になる一瞬を描いているとも言える。
この曲の魅力は、そうした非常に個人的で壊れやすい感情を、エヴァン・ダンドーがまったく声を荒げることなく、むしろ親しみのあるメロディと、やわらかな語り口で表現している点にある。
だからこそ、この曲は“自分がどこにも行き場のない夜”に、そっと寄り添ってくれる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Needle in the Hay by Elliott Smith
薬物と孤独を直視しながら、それでも心の奥に灯を残した名曲。 - Hurt by Nine Inch Nails(またはJohnny Cashカバー)
自己破壊と痛みの感覚を真正面から描いた、重くて美しいバラード。 - Nighttime by Big Star
夜にしか訪れない感情の残響を静かに受け止めるメランコリック・ポップ。 - Come Pick Me Up by Ryan Adams
愛と破滅が隣り合う“どうしようもない関係性”を描いた傑作。 - No Distance Left to Run by Blur
関係の終焉と、それを受け入れる無力な夜の描写が心に染みる一曲。
6. “崩れながら、つながる”
「My Drug Buddy」は、まっとうではない方法でしか人とつながれないときの、“救いに似た孤独の共有”を描いた楽曲である。
それは、社会からはみ出した関係でありながら、偽りのない感情が流れている。
依存と親密さの境界に立つその姿は、危うく、脆く、しかし限りなくリアルなのだ。
「My Drug Buddy」は、“どうしようもない自分”をそのまま抱きしめてくれる誰かとの、短くて濃密な夜の記録である。言葉にならない感情の残響を、静かに響かせる名バラードだ。
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