It’s a Hit by We Are Scientists（2005）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.22

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “この一撃が、人生を少しだけ動かす”

1. 歌詞の概要

「It’s a Hit（イッツ・ア・ヒット）」は、We Are Scientists（ウィー・アー・サイエンティスツ）が2005年に発表したデビュー・アルバム『With Love and Squalor』のオープニングを飾る楽曲であり、愛、衝動、そして自意識との葛藤を、疾走感あふれるギター・リフとともに叩きつけるように描いたロック・アンセムである。

タイトルの「It’s a Hit」とは、「これはヒット曲だ」という皮肉めいた言い回しであり、同時に「強烈な一撃」「一発食らわせる」などの意味も含まれる。
つまりこの曲は、恋愛や社会の中で繰り返される打撃＝感情のパンチの応酬を、音楽という形で昇華しようとする試みなのだ。

歌詞には、語り手が抱える苛立ちや皮肉、そしてそれらを乗り越えようとするエネルギーが満ちており、「We Are Scientists」というバンドの世界観がこの1曲に凝縮されている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「It’s a Hit」は、We Are Scientistsのデビュー・アルバム『With Love and Squalor』の冒頭に位置し、アルバムの幕開けを告げると同時に、バンドの姿勢とユーモアを象徴するような曲である。

2000年代初頭、インディーロックはThe StrokesやFranz Ferdinandなどの影響により、“ダンサブルなギター・ロック”という形で再評価されていたが、We Are Scientistsはそれに自虐的ユーモアと自己批評的な視点を加えることで独自のポジションを確立した。

この曲はシングルとしてはリリースされていないが、アルバムの中でも特にファンの間で人気が高く、ライブでも序盤の定番ナンバーとして機能する楽曲として長く演奏されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に印象的な歌詞の一部を抜粋し、和訳とともに紹介する。

“Any time, any day / It’s a hit”
「いつだって、どんなときだって / これは一撃さ」

“They say love is just a myth / So I guess I’ve bought into it”
「愛なんて幻想だって言うけど / じゃあ僕はすっかりそれにハマったってことだな」

“Don’t take it out on me / You know I’m just a friend”
「八つ当たりしないでくれ / 僕はただの友達なんだからさ」

“You say you’re over it / But I know better”
「もう乗り越えたって君は言うけど / 僕には分かってるよ、本当は違うって」

歌詞全文はこちら：
We Are Scientists – It’s a Hit Lyrics | Genius

4. 歌詞の考察

「It’s a Hit」が描くのは、感情の攻防戦とその中で翻弄される“僕”の姿である。
恋愛関係における“駆け引き”や“すれ違い”が、ボクシングのような一撃の応酬として表現されているのが面白い。
そして、そのやりとりに対する語り手のリアクションは、怒りでも悲しみでもなく、どこか他人事のような冷笑と照れ隠しだ。

この楽曲に通底するのは、We Are Scientistsらしい**“知的な諦観”**である。
相手の感情も、関係の行方も、自分ではどうしようもない。
それを理解したうえで、「まあ、これも一撃だな」と、痛みをユーモアに変換して飲み込もうとするその姿勢が、この曲に特有の味わいを与えている。

また、「愛は神話」と言いながら、それに“買い込んだ”と認めてしまう矛盾の表現も、自嘲気味のロマンティシズムとして非常に魅力的だ。
愛を信じていないふりをして、実は誰よりも求めている――そんな人間臭さが、この歌詞の根底には流れている。