1. 歌詞の概要
Feederの「High」は、彼らのデビュー・アルバム『Polythene』（1997年）に収録されている楽曲であり、バンドの初期を代表する重要なナンバーである。楽曲のタイトル「High」は文字通り「高揚感」や「高まる感情」を意味するが、その背後には人とのつながりや孤独からの救済、そして青春の不安定さと希望が交錯している。
歌詞の主題は、一見して“友情”や“支え合うこと”にフォーカスしているように見えるが、その実、孤独と葛藤しながら誰かとの関係にすがるような、繊細で切実な感情が込められている。特に「And I, I want to get high」などのリフレインは、文字通りの“陶酔”ではなく、心の浮上や、精神的な解放を求める声として響く。
「High」は、若者が抱える居場所のなさや、生きづらさ、そして誰かと分かち合いたいという深い欲望を、90年代後半のオルタナティブ・ロック特有のダイナミズムに乗せて届けたエモーショナルな一曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Feederは1994年にウェールズ出身のグラント・ニコラス（Vo/Gt）とタカ・ヒロセ（Ba）を中心にロンドンで結成されたバンドで、「High」は彼らの初期のキャリアを支えた代表的な曲の一つである。アルバム『Polythene』はUKオルタナティヴの文脈の中で登場し、Radiohead、Placebo、Ashなどと並んで、当時の若者の心情を代弁する存在として注目された。
「High」はアメリカでも注目されるきっかけとなり、MTVでもヘビーローテーションされるなど、イギリス国外での評価を押し上げた楽曲でもある。1998年にはアメリカ映画『キャンディマン2』や『Can’t Hardly Wait』のサウンドトラックにも使用され、徐々にインターナショナルなファン層を獲得していく重要な転機となった。
この曲が生まれた背景には、グラント自身の個人的な葛藤や、バンドとしての不安定な時期が色濃く反映されているとされる。Feederの楽曲にはよく見られることだが、表面上は前向きな言葉であっても、その奥には痛みや迷いが隠されており、「High」もまたその典型と言える。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「High」の印象的な歌詞を一部抜粋し、英語と日本語訳を紹介する。
“Guess I’m stuck in a dream”
「どうやら僕は夢の中に閉じ込められているみたいだ」
“Surrounded by colored leaves on the ground”
「足元を囲む色づいた葉に囲まれて」
“As I stare at the screen, I can’t find the dream”
「画面を見つめても、その夢は見つからない」
“And I, I want to get high”
「そして僕は、高く舞い上がりたいと思っている」
“Never give up the fight”
「その闘いを、決して諦めたりはしない」
歌詞全文はこちらで確認できる：
Feeder – High Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「High」は、青春期特有の“どこにも属せない”感覚を、詩的かつ内省的に描いている楽曲である。歌詞の冒頭から「夢の中に閉じ込められている」とあるように、主人公はどこか現実と乖離した、浮遊するような精神状態にある。その状態から抜け出したい、「高く舞い上がりたい」と願うその姿は、ただの逃避ではなく、“居場所”を探し求める切なる声として聴こえてくる。
注目すべきは、「high」という言葉が薬物的な意味ではなく、精神的な救済として使われている点である。この“高揚感”は、自分を支えてくれる誰かとのつながりや、未来に対する希望から来るものであり、同時に自分の弱さを肯定することでもある。
また、「画面を見つめても夢が見つからない」といったフレーズには、90年代末のメディア過多な環境や、人とのつながりの希薄さといった時代性も見て取れる。リアルな体験や共感を求めるがゆえに、主人公は“ただの夢”ではなく、“手触りのある関係”を欲しているのだ。
この曲の終盤にかけては、音が徐々に重なり、やがて爆発するように展開していく。これは主人公の心の内側が限界に達し、ついにはその内圧を突破して希望に手を伸ばそうとする瞬間であり、聴く者に深いカタルシスを与える。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Drive by Incubus
内省的な歌詞と、浮遊感のあるサウンドが「High」と共鳴する。 - Creep by Radiohead
自己否定と孤独の中で、なお他者とのつながりを求める感情の描き方に通じるものがある。 - Out of This World by Bush
90年代後半のUKオルタナティヴ・サウンドを象徴するような深みあるバラード。 - Swallowed by Bush
閉塞感と爆発的なエネルギーの同居が「High」と非常に似ている。 - 1979 by Smashing Pumpkins
思春期の記憶と孤独を美しく描いた名曲で、青春の不確かさを音に昇華している。
6. “浮遊感”と“重力”の間で鳴る、魂のサウンド
「High」は、ただのバラードでも、ただのオルタナティブロックでもない。そこにあるのは、“心の重さ”と“自由になりたいという願い”のせめぎ合いであり、言葉にならない感情が音としてあふれ出す瞬間である。
Feederというバンドが、単なるロックバンドとしてではなく、感情を扱う作家集団として評価される理由は、この曲のように「心の温度を持った楽曲」を作り続けてきたからに他ならない。
「High」は、あなたの中の誰にも言えない気持ちに、そっと名前を与えてくれる。そしてその感情が浮かび上がった瞬間、あなたはもうひとりではないと感じられるのだ。
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