1. 歌詞の概要
「Bigger than Us（ビガー・ザン・アス）」は、White Lies（ホワイト・ライズ）が2011年にリリースした2ndアルバム『Ritual』のリードシングルであり、“自分たちではどうにもならない大きな力に引き裂かれる愛”をテーマにした、壮大で切実なラブソングである。
曲の語り手は、愛する人を失いそうになっている。いや、すでに失ったのかもしれない。だが、その別れの理由は個人的なものではなく、もっと“大きなもの”――運命、病気、社会、あるいは時間そのもの――による不可抗力である。
それは、愛していたのに終わらざるを得なかったすべての関係に向けられた鎮魂歌でもあり、自分では抗えない運命の波にただ飲み込まれていく、圧倒的な無力感を描いている。
「It’s bigger than us（それは僕らよりも大きい）」というリフレインは、その無力感の象徴でありながら、同時にその愛が一時的なものではなく、普遍的で崇高なものであったことを証明する言葉でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、White Liesにとって商業的にも大きな成功を収めた代表曲のひとつであり、バンドのサウンドが初期のダークなポストパンクからよりモダンなロック・アンセムへと展開していく過渡期を象徴している。
『Ritual』というアルバムタイトルが示すように、この作品群には現代社会における精神的・宗教的儀式の不在と、それに伴う不安や喪失感が横たわっている。「Bigger than Us」はその中でも、最も人間的で感情的な曲であり、リスナーに即座に共鳴する普遍性を持っていた。
ミュージックビデオでは、1980年代のアメリカ映画『E.T.』をオマージュに、箱の中の少女が目覚めるまでの物語が展開され、不可解で象徴的な演出が楽曲の神秘性をさらに高めている。
この“目覚めない”彼女のイメージは、死、昏睡、別れ、距離、理解不能な変化といったモチーフの象徴であり、それを受け入れるしかない語り手の哀しみが、曲全体に満ちている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“You took the tunnel route home / You’ve never taken that way with me before”
「君はトンネルの道を通って帰った / 僕と一緒のときは、そんな道通らなかったのに」
“Did they see us / Coming out of the woods?”
「彼らは見ていたのか？ / 僕らが森から出てくるのを」
“It’s bigger than us / You don’t have to look back now”
「それは僕らよりも大きなものさ / もう振り返らなくていいんだ」
“We can live without you / But I can’t live without you”
「僕らは君なしでも生きていける / でも僕には、君なしの人生なんて考えられない」
このラストのラインは、語り手の中にある“自分”と“世界”の分裂、そしてそのはざまで揺れる愛の感情を象徴する名フレーズであり、White Liesらしい自己矛盾の美学が凝縮されている。
歌詞全文はこちら：
White Lies – Bigger Than Us Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Bigger than Us」は、White Liesが常に扱ってきた死、喪失、別れ、運命といった主題を、“現代的な恋愛のメタファー”として昇華した楽曲である。
冒頭の「トンネルを通って帰る」という描写は、日常の中に生まれた違和感を的確に表現しており、それがふたりの関係の終わりを予兆させる導入となっている。
以降、語り手は“彼女”を引き止めようとせず、ただそれを見守り、受け入れようとする。「振り返らなくていい」というフレーズには、優しさと自己犠牲、そして諦めが同時に宿る。
そして繰り返される「It’s bigger than us」は、それが“愛が壊れる理由”ではなく、“愛が存在した証”であることを示す魔法の言葉でもある。
また、社会的・政治的な読みをすれば、ここでの“us”はカップルという個人単位だけでなく、個人 vs. 世界、感情 vs. 構造、自由意志 vs. 運命という、より広義の対立軸にも拡張できる。
つまりこの曲は、“理解できない別れ”をただ悲しむのではなく、その不条理を肯定することで、“それでも愛は確かにあった”と語る詩なのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Take Me Out by Franz Ferdinand
恋の駆け引きと混乱をダンサブルに描く、モダン・ロックの代表曲。 - The Heinrich Maneuver by Interpol
別れを迎えた関係性における皮肉と冷静さを貫いた、ポストパンクの名曲。 - No One’s Gonna Love You by Band of Horses
失われた愛への誠実な眼差しと回復の予兆が感じられるバラード。 - Sometimes by James
運命に導かれるようにすれ違う恋の不確かさを、壮大に描いた名曲。 -
All These Things That I’ve Done by The Killers
無力感と希望が交差する、現代的祈りのようなアンセム。
6. “それでも僕らは、引き裂かれたことすら愛したかった”
「Bigger than Us」は、運命や社会や死といった“抗えないもの”に引き裂かれた愛を、無力であってもなお美しく見つめようとする歌である。
「それは僕らより大きなものだった」という言葉は、敗北の響きを持ちながら、同時に“それほど大きな愛だった”という逆説的な肯定にもなっている。
White Liesはこの曲で、“報われなかった愛”を、壮大なスケールで弔い、昇華する方法を提示した。
これは、失ったあとにしか語れない種類の愛の歌だ。
それでも私たちは、この歌を聴くたびに思うのだ。
「もしもう一度やり直せたとしても、きっとまた、この“僕らより大きなもの”を愛してしまうだろう」と。
コメント