1. 歌詞の概要
「A Little Respect(ア・リトル・リスペクト)」は、2001年にWheatus(ウィータス)がカバー・リリースした楽曲で、もともとは1988年にイギリスのシンセポップ・デュオ、Erasure(イレイジャー)が発表した名曲である。
Wheatusのバージョンでは、原曲の繊細で高揚感あるエレクトロポップの質感をギター・ポップ的に再構築し、オルタナティブ・ロックとしての新しい躍動感と10代の不安定さを注ぎ込んだ解釈がなされている。
歌詞の内容は、愛する人との関係において、“少しの敬意”と“誠実さ”を求める心情をストレートに表現したもの。
切実に愛を捧げているにもかかわらず、相手からは軽視されたり、思いがすれ違ったりする――そんな報われない愛に対するもどかしさと、それでも愛を信じたいという祈りが込められている。
Wheatus版では、その“愛と自己肯定感の揺らぎ”が、10代特有の青さと過剰さをまとって響き渡る。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、もともとErasureの3作目のアルバム『The Innocents』(1988年)に収録されたもので、イギリスを中心に世界的なヒットを記録した。
ソングライターであるVince ClarkeとAndy Bellのペアによって生まれたこの楽曲は、同性愛をはじめとする“少数派の愛”への敬意を訴える象徴的なバラードとしても捉えられてきた。
2001年にWheatusがカバーした背景には、彼らの**“ティーンエイジ・アウトサイダー”というバンドの立ち位置**がある。
前作「Teenage Dirtbag」で描かれた、“社会に受け入れられない自分たちへのエンパワメント”というテーマは、「A Little Respect」の“リスペクトを求める愛”のテーマと絶妙に重なっていたのだ。
音楽的には、シンセをギターに置き換え、バンドサウンドとして再構成されたこのバージョンは、原曲よりもラフでローファイ、でもその分、エモーショナルに訴えかける力が強い。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、印象的なフレーズを紹介する。
“I try to discover / A little something to make me sweeter”
「何か甘いもので僕を癒す方法を探してる」
“Oh baby refrain / From breaking my heart”
「ねえお願い / 僕の心をこれ以上壊さないで」
“I’m so in love with you / I’ll be forever blue”
「君に夢中なんだ / でもそのせいでずっと憂鬱だよ」
“Give a little respect / To me”
「ほんの少しでいい、僕に敬意を示してくれよ」
全文はこちら:
Erasure – A Little Respect Lyrics | Genius
(※Wheatus版も歌詞は基本的に同様)
4. 歌詞の考察
「A Little Respect」の中核にあるのは、“愛にはリスペクトが必要だ”というきわめて普遍的かつ本質的な感情である。
恋愛というと、情熱や魅力に注目が集まりがちだが、この曲は**“敬意”という最も地味だが重要な要素**にフォーカスしている。
語り手は傷ついている。しかし彼は、責めたり怒ったりするのではなく、心からの願いとして“もう傷つけないでくれ”と懇願する。
その姿は弱く見えるかもしれないが、実際にはとても強い。
なぜなら、自分の価値を相手に認めさせようとするその態度こそが、自己肯定への第一歩だからだ。
Wheatusのバージョンは、Erasureの洗練されたエレガンスを壊す代わりに、不器用で切実な声でこの願いを叫ぶ。
まるで、恋に不慣れな高校生が、本気で好きな相手に自分の価値を伝えようとするかのように――。
その“青さ”と“痛さ”が、このカバーに独特のリアリティと共感力を与えている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- There Is a Light That Never Goes Out by The Smiths
絶望とロマンスが絡み合う、誠実な愛の表現。 - Ocean Avenue by Yellowcard
青春の恋と葛藤を、疾走感のあるパンクサウンドで描いた名曲。 - Just Like Heaven by The Cure
とろけるような恋の幸福と、予感される儚さを同時に描いたロマンティック・ソング。 - Swing, Swing by The All-American Rejects
失恋と再生の瞬間をエネルギッシュに描く10代のアンセム。 -
She Will Be Loved by Maroon 5
愛する相手を理解し、寄り添おうとする優しい視点のラブソング。
6. “不器用でも、本気で伝えたいこの気持ち”
「A Little Respect」は、誰かを愛することの尊さと難しさ、そして“敬意”がなければ愛は成立しないという真理を、シンプルな言葉でまっすぐに歌い上げた楽曲である。
Wheatusのカバーは、原曲の完成度をなぞるのではなく、“愛されることに自信がない人間”の視点から、切実にリスペクトを求める声として昇華した。
その声は、決して完璧ではない。でもだからこそ、聴く者の心に深く届く。
「ねえ、少しでいいから、僕をちゃんと見てくれないか?」
そんな叫びが、ギターの音に乗って夜を走るとき――
それはきっと、誰かの心に寄り添う、もう一つの“愛のかたち”として響いているのだ。
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