発売日: 2024年4月5日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、グランジ、ダーク・ポップ
概要
『Black/Red』は、Feederが2024年に発表した通算12作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリア史上初の2枚組という大胆な構成を取った意欲作である。
バンドの核であるグラント・ニコラスとタカ・ヒロセは、前作『Torpedo』の衝動的で破壊的なエネルギーを土台に、より広範な感情と音楽性を探求し、本作では”闇”と”光”の二面性をあからさまに切り分けて提示している。
タイトルの『Black/Red』は、それぞれ“内省と怒り”、“情熱と破壊”という感情の色彩を象徴しており、聴く者に明確なコントラストと心理的カタルシスを与える構造となっている。
パンデミック以後の内省と、混沌とした現代社会に対するバンドなりの応答が詰まっており、2枚組それぞれが独立したテーマを持ちながら、最終的には一つの全体像へと昇華していく。
Feederの30年に及ぶキャリアの集大成であり、そして次のステージへの導入でもある――そんな重層的な意味を持つ作品である。
全曲レビュー
【Disc 1：Black】
1. Droids
冷たいシンセとヘヴィなギターが交錯するインダストリアル風のオープニング。
人間と機械の境界が曖昧になる現代を象徴し、不安と覚醒の幕開け。
2. ELF
タイトルは“Extremely Loud Frequency”の略ともとれる。
ノイジーなリフと緊迫感のあるボーカルが織りなす、ストレス社会の爆発的スナップショット。
3. Playing with Fire
危険と魅惑が同居するタイトル通り、官能的なコード進行と重厚なリズムが印象的。
“火遊び”の果てにある喪失と快楽がテーマか。
4. Sahara
中東風のスケールを取り入れた異色作。
灼熱の砂漠＝精神の孤立や極限状態を示唆し、幻視的な風景が広がる。
5. Hey You
ダイレクトなタイトルとパンク調の疾走感が融合した一曲。
怒りとコミュニケーションのすれ違いをストレートにぶつけてくる。
6. Perfume
ダウナーなテンポと妖艶なサウンド。
“香水”は記憶や過去の象徴であり、残り香のように心にこびりつく。
7. Soldiers of Love
Feederらしいメロディアスな構成ながら、戦争と愛の二律背反をテーマにした深い一曲。
“ラヴソング”の体をとりつつ、実は痛烈な反戦詩。
8. Sleeping Dogs Lie
“触れない方がいいもの”という英語表現をそのまま楽曲に昇華。
抑制された演奏と張り詰めた歌声が、終盤に向けて少しずつ爆発していく構成。
9. Here Comes the Hurricane
不穏なイントロから一気に炸裂するアルバム前半のハイライト。
“ハリケーン”は個人の感情爆発と世界の混乱を二重に象徴。
【Disc 2：Red】
1. Lost in the Wilderness
開放的なアコースティックギターから始まり、徐々にバンド全体が絡んでいく構成。
“荒野”に放り出された孤独と自由の狭間。
2. The Knock
ポストパンク調のギターと反復するリズムが印象的。
“ノック”＝外部からの干渉、あるいは内なる声の比喩。
3. Memory Loss
センチメンタルなメロディラインと喪失感のある歌詞が心を打つ。
老いや精神の崩壊、あるいは“情報過多時代の忘却”を描く。
4. Playing the River
サイケデリックな音響と美しいアルペジオが交錯する楽曲。
人生の流れ、選択の連続を“川を演奏する”という詩的表現で描いている。
5. Start All Over Again
アルバム後半における明確な希望の曲。
ゼロからの再出発を力強く歌い、聴く者の背中をそっと押す。
6. All We Ever Wanted
願いと現実、憧れと妥協のあいだで揺れるリリックが胸を刺す。
壮大なサビが、“欲しかったけれど得られなかったもの”への賛歌のように響く。
7. Ghosts
幽霊とは、実際には“心に残る誰か”なのかもしれない。
パーソナルで幻想的な歌詞とミニマルな編成が、聴く者の記憶を引きずり出す。
8. Come Back Around (Black/Red version)
過去曲の再録バージョン。原曲よりも荒々しく、より痛々しく、より情熱的。
本作のテーマ“分裂と統合”を象徴する存在。
9. The End is Where We Begin
アルバムの最終曲にして、再生の宣言。
終わりは始まりである——というループ構造が、2枚組アルバムとしての完成を高らかに告げる。
総評
『Black/Red』は、Feederがキャリアの頂点で放つ二面性のロック叙事詩であり、その深さと振れ幅は、彼らがいかにして音楽と世界に向き合ってきたかを物語っている。
“Black”は怒り、混沌、抑圧された感情を赤裸々に表現する。重厚なサウンドと不穏なリフが多く、社会批評的なトーンすら漂う。
一方で“Red”は個人的で、感情的で、詩的な側面を前面に押し出す。そこには再生、赦し、希望といった“人間の柔らかさ”が息づいている。
2枚組という構成は大きな賭けだったが、それぞれのディスクに明確なコンセプトが存在し、互いを補完し合うことで、より立体的なFeeder像を形成している。
音楽性の面でも、グランジやハードロックからポストロック、ダーク・ポップ、インダストリアルなアプローチまでを横断しつつ、いずれもFeederとしての輪郭を失っていない。
本作は、ただの2枚組アルバムではない。
それは、“世界が崩れかけた今”における、ひとつの音によるマニフェストであり、Feederがロックバンドであることの意味を再定義する、圧巻の現代的ロック作品である。
おすすめアルバム
- Radiohead『Hail to the Thief』
政治性と感情性のせめぎ合いが本作と同様に強く出たアルバム。 - Biffy Clyro『Opposites』
2枚組で構成された“対”の感情をテーマにしたUKロックの金字塔。 - Smashing Pumpkins『Mellon Collie and the Infinite Sadness』
怒りと耽美、破壊と再生の二極が交差する名作との共鳴。 - Muse『Drones』
近未来的なサウンドと社会的メッセージの融合。 - Editors『Violence』
ダークなサウンドとエレクトロニクス、感情の交差という点で近似。
ファンや評論家の反応
リリース直後から、Feederの過去最高傑作という呼び声も高い『Black/Red』。
特に2枚組での音楽的振れ幅、深い内省と社会性、そして完成度の高さに多くのメディアが注目し、UK国内チャートでは堂々の初登場2位を記録。
SNSやフォーラムでは、「これはただのアルバムではない。今の自分を映す鏡だ」という声もあり、特に30代〜40代のファン層から強い共感と感動を得ている。
2020年代のロックバンドに必要なのは、時代への誠実さと、自らのアイデンティティを更新し続ける意志。
Feederはそれを、この2枚で証明してみせたのである。
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