
発売日:2012年11月9日
ジャンル:Punk Rock / Garage Rock / Power Pop
概要
¡Dos!は、Green Dayが2012年に発表した10作目のスタジオ・アルバムであり、同年の¡Uno!、翌月の¡Tré!と合わせた3部作の第2作である。Billie Joe Armstrong、Mike Dirnt、Tré Coolにツアー・ギタリストとして長く活動してきたJason Whiteを加え、Rob Cavalloとバンドが共同プロデュースした。ロック・オペラ的な構成を持つAmerican Idiotや21st Century Breakdownから方向を変え、3部作では短く直接的なロックンロールへ戻っている。
その中でも¡Dos!は、パワーポップ色の強い¡Uno!と、より幅広い曲調を扱う¡Tré!の間で、ガレージ・ロックとパーティーの猥雑さを最も強く押し出した作品だ。荒いギター、単純なコード、手拍子やコーラスを生かし、1960年代のガレージ・ロックからThe Stoogesのような荒々しいロックンロールまでを思わせる音作りが目立つ。Green Dayの別プロジェクトFoxboro Hot Tubsに近い感触もあり、実際「Fuck Time」はもともと同プロジェクトで演奏されていた曲である。歌詞も政治や社会の大きな物語より、欲望、酩酊、恋愛、退屈といった目前の衝動へ焦点を合わせている。
全曲レビュー
1. 「See You Tonight」
アコースティック・ギターとBillie Joe Armstrongの声を中心にした1分ほどの導入曲である。激しい演奏を予告するのではなく、相手に今夜会いたいという単純な気持ちを素朴なメロディで繰り返す。少し古いポップソングのような甘さがあり、続く「Fuck Time」の露骨な欲望とは意図的な落差が生まれる。単独で大きく展開する曲ではなく、アルバムの扉を軽く開けるプロローグとして機能している。
2. 「Fuck Time」
太いギター・リフを何度も叩きつけ、性的な欲望をほとんどそのまま叫ぶガレージ・ロックである。細かな物語や比喩を作らず、タイトルのフレーズを繰り返すことで、考えるより先に身体が動くような馬鹿馬鹿しい勢いを狙っている。ギターの響きもGreen Dayの整ったパンクというより、汚れたロックンロールへ接近している。Foxboro Hot Tubsで演奏されていた出自も含め、本作が3部作の中で担う享楽的な方向を最初にはっきり提示する。
3. 「Stop When the Red Lights Flash」
ドラムとギターがほぼ一直線に突進し、短いリフを繰り返しながらサビまで速度を落とさない。Armstrongの歌もメロディを滑らかに聞かせるより、演奏へ噛みつくような強さを優先している。歌詞には欲望と危険が接近したイメージが並び、タイトルが示す「止まれ」という警告さえ衝動を加速させる材料になる。ポップパンク的な明るさより、狭い会場で大音量のバンドを聴くような粗さを前面に出した曲だ。
4. 「Lazy Bones」
騒々しい前半から少し内側へ視線を移し、精神的な疲労や他人と関わることへの苛立ちを歌う。ヴァースでは比較的抑えたギターの上でArmstrongが疲れた感情を吐き出し、サビになると歪みと声が一気に広がる。この音量差によって、単なる「怠け者」の歌ではなく、何もしたくないほど消耗した状態として聞こえるのが重要だ。¡Dos!の享楽性に最初の陰を差し込み、後半へつながる自己破壊的な感触も見せている。
5. 「Wild One」
テンポを落とし、ギターの余韻を長く残したサウンドによって、酔ったような揺れを作る。相手への強い執着を歌いながらも、爽快なラブソングにはならず、魅了されて判断力を失っていくような危うさが漂う。Mike DirntのベースとTré Coolのドラムは派手に走らず、反復するコードの下で重心を安定させている。前曲までの短距離的な勢いを止め、アルバムの快楽をよりぼんやりした陶酔へ変える曲である。
6. 「Makeout Party」
題名通り、パーティーと性的な高揚をほとんど説明抜きでロックンロールへ変換している。ギターは短く荒いフレーズを刻み、ドラムも細かな変化より勢いを優先するため、曲全体が狭い場所で鳴っているような密度を持つ。歌詞の単純さもここでは欠点というより、欲望しか頭にない人物の視野の狭さと一致している。「Lazy Bones」や「Wild One」で見えた陰をいったん振り払い、アルバムを再び乱痴気騒ぎへ戻す役割を果たす。
7. 「Stray Heart」
Motown系ポップを思わせる弾むベースが中心となり、アルバムの中でも特に軽快なメロディを持つ。Dirntのベースがギターの下で同じ音を支えるのではなく、細かく動いて曲を引っ張るため、Green Dayの通常のパンク曲とは違った柔らかな推進力が生まれている。歌詞では心変わりや不誠実さを認めながら相手との関係を取り戻そうとし、明るい演奏に後悔を重ねる。ガレージ志向を保ちながら、バンドのポップソング作家としての強みが最も素直に表れた曲だ。
8. 「Ashley」
再び短く鋭いギターへ戻り、特定の人物に呼びかける形で自己破壊的な生活を描いていく。ヴァースは細かい言葉を勢いよく運び、サビでは名前を繰り返すことで焦点を一気に絞る。相手を外側から断罪するというより、薬物や荒れた生活から抜けられない人物を見ながら、語り手自身もその世界と無関係ではいられないような距離感がある。キャッチーな構成の内側へ不穏な題材を入れる、Green Dayらしい書き方が戻ってくる。
9. 「Baby Eyes」
2分台を一気に走り抜ける、アルバムでも特に切迫したナンバーである。ギターとドラムはほとんど休まず前進し、Armstrongも短いフレーズを次々と押し込むため、曲そのものが制御を失いかけているように聞こえる。歌詞には欲望や暴力を思わせる危険なイメージが入り込み、序盤のパーティー的な興奮が次第に暗い方向へ変質してきたことが分かる。短さを生かし、考える時間を与えないまま次曲へ突入する構成も効果的だ。
10. 「Lady Cobra」
The Foxboro Hot Tubsにも参加したLady CobraことMonica Painterをフィーチャーし、ガレージ・ロックと夜遊びのイメージを直接結びつける。ざらついたギターと掛け合いのボーカルによって、整ったスタジオ作品というより、その場の熱気を優先したパーティー・バンドの感触が強い。誘惑される語り手は状況を冷静に観察することなく、その危険性も含めて楽しんでいるように聞こえる。本作の享楽的なキャラクターを人物として登場させたような一曲だ。
11. 「Nightlife」
アルバム最大の異色曲で、Lady Cobraのラップ調のボーカルと、低くうねるベース、抑えたビートを中心に組み立てられている。ギターを高速でかき鳴らす代わりに、夜のクラブを思わせる粘りのあるリズムを維持し、Armstrongの歌もそこへ断片的に絡む。従来のGreen Dayらしいメロディを期待すると意図的な違和感が残るが、パーティーが深夜へ進み、陽気さより退廃が目立ち始める場面としては理にかなっている。アルバムの統一感を崩すほど大胆な寄り道でもある。
12. 「Wow! That’s Loud」
題名そのままに、厚いギターと大きなコーラスで音圧を押し出すロックンロールへ戻る。ヴァースでは反復するリフを軸にし、サビで音の層を広げる単純な構造だからこそ、前曲の変則的なリズムから戻ってきたときの開放感が強い。歌詞も視覚や音、性的な魅力といった刺激への反応を並べ、深く考えるより感覚を優先する。アルバム冒頭から続いてきた過剰な刺激を、最後にもう一度大音量へ集約したような曲である。
13. 「Amy」
エレクトリック・ギターの騒音を止め、アコースティックを中心とした静かな曲で締めくくる。Amy Winehouseの死を受けて書かれた曲で、27歳で亡くなった歌手へ語りかけるように進み、ここまでのパーティーや薬物、夜遊びといった題材が突然現実的な重さを持つ。Armstrongは声を張り上げず、古いポップ・バラードを思わせる簡潔なメロディを丁寧に歌う。享楽を描いてきたアルバムの最後にその先にある喪失を置くことで、それまでの騒ぎを違う角度から見直させるエンディングとなっている。
総評
¡Dos!は3部作の中でも最もまとまりが粗く、その粗さ自体を個性にしたアルバムである。Green Dayが得意とする高速のパンクだけでなく、ガレージ・ロック、古いロックンロール、ソウル風のベースライン、クラブ的なリズムまで持ち込み、演奏の洗練より衝動を優先している。American Idiot以降の大規模な作品で目立っていた劇的な構成から離れ、数個のコードと強いリフだけでどこまで曲を押せるか試しているような感触がある。
その一方で、単純な「楽しいパーティー・アルバム」にはなっていない。序盤では性欲や夜遊びが無邪気な興奮として現れるが、「Lazy Bones」で疲労が入り込み、「Ashley」以降は薬物や自己破壊のイメージが濃くなる。「Nightlife」の奇妙に重いグルーヴを経て、最後の「Amy」では享楽と早すぎる死が隣り合わせに置かれる。この流れによって、騒いでいる最中には見えなかった代償が少しずつ表面へ出てくる。
弱点もその奔放さと表裏一体である。短期間に3枚分の楽曲を発表する企画だったこともあり、強いメロディを持つ曲と、一つのリフやアイデアを勢いで押し切る曲との差は大きい。「Nightlife」のように意図的にGreen Dayの型から外れた実験も、アルバムの猥雑さには合う一方、流れを大きく分断する。それでも全体を過度に整えなかったことが、¡Uno!とは異なる汚れた手触りにつながっている。
Green Dayのキャリアでは、政治的なロック・オペラで巨大化したバンドが、再び小さなクラブで演奏できるような音楽へ接近した時期の記録として見ると分かりやすい。初期作品への単純な回帰ではなく、1960年代のガレージやパワーポップ、Foxboro Hot Tubsで試していたロックンロール趣味まで混ぜている点が特徴だ。完成度を均一に整えた作品ではないが、欲望から疲労、自己破壊、喪失へ進む流れによって、3部作の中でも特に危うく生々しい性格を持った一枚である。
おすすめアルバム
¡Uno!
3部作の第1作で、同じ簡潔なロック路線でもこちらはパワーポップと明るいメロディを重視する。¡Dos!の汚れたガレージ感が、3部作の中で意図的に選ばれた色であることが分かる。
¡Tré!
3部作を締める作品。荒々しい¡Dos!に対し、バラードやスケールの大きな曲まで扱っており、3枚を通じてGreen Dayがシンプルなロックという枠をどう広げたか比較できる。
Stop Drop and Roll!!! by Foxboro Hot Tubs
Green Dayのメンバーによる別プロジェクトの2008年作。1960年代ガレージ・ロックへの愛情を正面から鳴らしており、「Fuck Time」を含む¡Dos!の猥雑なロックンロール志向に最も近い前段階である。
Raw Power by Iggy and the Stooges
巨大なギター、荒い演奏、性的で危険なエネルギーを凝縮した1973年作。¡Dos!がパンクの速度だけでなく、より古いガレージ/ロックンロールの粗暴さへ向かった背景を考える比較対象になる。
Go-Go Boots by Drive-By Truckers
2011年作。音楽的にはサザン・ロック寄りで¡Dos!より落ち着いているが、ロックンロールの快楽だけでなく、その裏側にある依存、危うい人間関係、死まで描く点で対照的に響き合う作品である。

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