
発売日:1983年11月
ジャンル:Alternative Rock / Post-Punk / Indie Rock
概要
Treeless Plainは、オーストラリア・パース出身のThe Triffidsが1983年に発表したデビュー・スタジオ・アルバムである。David McCombを中心に、Robert McComb、Alsy MacDonald、Martyn P. Casey、Jill Birtという編成で録音された。後のBorn Sandy Devotionalで知られる広大で映画的なサウンドと比べると、ここではギター、ベース、ドラム、キーボードを中心としたバンドの生々しさが強く、ポストパンクの緊張感とカントリー、フォークへの関心がまだ粗い状態で共存している。
タイトルの「Treeless Plain」は、西オーストラリアの乾燥した風景を連想させる言葉であり、The Triffidsの音楽を理解する重要な手がかりでもある。彼らは英国や米国のロックから影響を受けながら、都市から都市へ移動する距離の長さ、乾いた土地、孤立感といったオーストラリア特有の感覚を歌へ持ち込んだ。本作ではそれが後年ほど壮大な音像にはなっておらず、むしろ小さなクラブで鳴らすバンドの鋭さと結びついている。
録音期間が短く、限られた予算で制作されたことも、作品の直接的な感触につながっている。David McCombの低く陰のある声と、Jill Birtの柔らかな声を使い分けながら、恋愛、欲望、孤独、移動といった題材を短い曲へ収める。完成されたThe Triffidsの出発点というより、すでに独自の風景を持つバンドが、その風景に合った音の作り方を探している段階を記録した作品である。
全曲レビュー
1. 「Red Pony」
乾いたギターと引き締まったリズムによって、アルバムは装飾をほとんど置かずに始まる。David McCombの低い声にはすでに後年へ続く陰りがあり、馬という古典的なイメージも、牧歌的なカントリーではなく移動や逃走を思わせるものとして響く。演奏は必要以上に広げず、短いフレーズの反復から緊張を作るため、The Triffidsの荒涼とした世界を簡潔に提示するオープナーになっている。
2. 「Branded」
鋭いギターと前へ押すリズムを軸に、初期The Triffidsのポストパンク的な側面を強く出す。題名の「焼き印を押された」という言葉が示すように、人間に消えない印が残される感覚が曲を覆い、恋愛や人間関係も安らぎより傷に近いものとして聞こえる。McCombの歌唱も滑らかにメロディを運ぶより言葉を強く置き、短い演奏の中に切迫感を凝縮している。
3. 「My Baby Thinks She’s a Train」
カントリーやロカビリーの語法を明確に取り込み、列車のイメージを軽快なリズムへ結びつける。タイトルにはユーモアがあるが、単なるコミックソングではなく、止まらずどこかへ向かう人物を相手にする落ち着かなさも含んでいる。オーストラリアのインディー・バンドが米国ルーツ音楽を模倣するのではなく、自分たちの乾いた演奏感覚へ引き寄せているところが面白い。
4. 「Rosevel」
ギターを中心とした比較的簡潔なアレンジの中で、David McCombのメロディメーカーとしての側面が表れる。勢いのある前半の曲と比べると、楽器の隙間やボーカルの陰影が目立ち、言葉の曖昧さを残したまま曲が進む。後年の作品で大きく育つ、人物や場所を具体的に置きながら説明しすぎず、聞き手にその背後の物語を想像させる書き方の原型が見える。
5. 「I Am a Lonesome Hobo」
Bob Dylanの楽曲を取り上げたカバーで、The Triffidsがフォーク/カントリーの物語歌を重要なルーツとしていたことを示す。原曲の簡素な構造を生かしながら、バンドの乾いた演奏とMcCombの暗い声によって孤独がさらに強調される。放浪者が自らの失敗を振り返る歌詞は、移動と孤立を繰り返し扱う本作のオリジナル曲とも自然につながっている。
6. 「Place in the Sun」
明るさを連想させるタイトルに対して、演奏には完全な解放感がなく、希望と不安が同居する。ギターとリズム隊は比較的軽快に進むものの、McCombの声が陰を加えるため、理想の居場所を手にしたというより、それを探し続けているように聞こえる。幸福を単純に肯定せず、そこへ到達できるのかという距離まで曲に含めるところが、この時期からすでにThe Triffidsらしい。
7. 「Plaything」
恋愛関係の中で一方が「玩具」のように扱われる状況を思わせ、親密さの裏側にある支配や不均衡へ目を向ける。リズムには軽さがある一方、ボーカルはその楽しさに完全には同調せず、皮肉な距離を保っている。恋愛を理想化せず、欲望と傷つきやすさが隣り合うものとして描くDavid McCombの作詞は、後の作品でさらに重要になっていく。
8. 「Old Ghostrider」
西部劇やカントリー・ソングを連想させる題材を、The Triffids流の陰影の濃いロックへ変えている。幽霊のような騎手というイメージには過去から逃れられない感覚があり、乾いたギターの響きも人気のない土地を思わせる。米国音楽由来の図像を使いながら、西オーストラリアの広大な風景にも似合うものへ置き換えている点が、本作のルーツ音楽との付き合い方をよく示す。
9. 「Hanging Shed」
タイトルからして穏やかではなく、演奏にも暗い緊張が続く。ギターやリズムを必要以上に厚くせず、むしろ余白を残すことで、不吉な場所そのものを想像させるような音になっている。David McCombの作詞では風景が人物の心理と結びつくことが多いが、この曲でも建物や周囲の空気が単なる背景ではなく、歌の不安を形にする装置として働いている。
10. 「Hell of a Summer」
初期The Triffidsを代表する曲の一つで、夏という明るい季節を題材にしながら、そこで経験した関係の破綻や苦い記憶を歌う。覚えやすいメロディとバンドの素朴な演奏があるため、感情を過度に重くせず、それでもタイトルの「ひどい夏」という感覚は明確に残る。季節や気候を人間関係の記憶と結びつける方法は、後のMcCombの作詞へ直接つながる特徴である。
11. 「Madeline」
人物名をタイトルに置き、一人の相手へ視線を集中させることで、アルバム終盤に親密な感触を作る。McCombの歌には憧れと距離が同時にあり、相手を完全に理解した語り手として振る舞わない。簡潔なバンド演奏もその曖昧さを邪魔せず、壮大なクライマックスへ進む代わりに、個人的な記憶の断片を聞いているような感覚を残す。
12. 「Nothing Can Take Your Place」
タイトルは強い愛情の宣言に見えるが、The Triffidsらしく、その言葉には喪失の可能性が最初から付きまとう。誰かが代替不能であるということは、その人物を失ったときに空白も埋められないということだからだ。演奏はメロディを前に出し、McCombの声が持つ不器用な温かさを生かす。後半の暗い風景から、より直接的な感情へ焦点を戻す一曲である。
13. 「Paradise」
最後に置かれた「楽園」は、単純に到達した幸福としては描かれない。アルバムを通じて孤独、移動、傷ついた関係や荒涼とした土地を扱ってきただけに、その言葉自体がどこか皮肉にも聞こえる。演奏も巨大な解決を用意せず、The Triffids特有の乾いた余韻を残して終わる。理想の場所を思い描きながら、そこへ本当にたどり着けるのかという疑問を残す締めくくりである。
総評
Treeless Plainの魅力は、後のThe Triffidsが完成させる音楽の要素が、まだ整理されすぎない形で同居していることにある。ポストパンクの硬いギターとリズム、フォークの物語性、カントリーの列車や放浪者といったイメージ、そしてDavid McComb独特のロマンティシズムが一枚の中でぶつかっている。録音の粗さも含め、広大な風景を豪華なスタジオ技術で描くのではなく、小さなバンドの演奏から想像させる作品だ。
特に重要なのは「場所」の感覚である。The Triffidsの歌では、土地や天候は単なる背景にならない。夏の暑さ、乾燥した平原、移動の距離といったものが、登場人物の孤独や欲望と結びついている。アメリカのフォークやカントリーから借りた列車、馬、放浪者といった語彙も使われるが、それらを西オーストラリア出身のバンドが自分たちの地理感覚へ置き換えることで、単なるルーツ音楽への憧れとは違う個性が生まれている。
David McCombのソングライティングは、この段階では後年ほど精密ではない。曲によって輪郭の強さに差があり、荒い演奏が魅力になる一方で、アレンジが十分に展開される前に終わったように感じられる場面もある。しかし「Hell of a Summer」のように、場所、季節、人間関係を一つの記憶へまとめる能力はすでにはっきりしている。Jill Birtの声を含めた男女のボーカルの対比や、Robert McCombのギターが作る乾いた色彩も、バンド独自の世界を形にしている。
後のBorn Sandy Devotionalでは、こうした要素がストリングスや鍵盤を含む大きなアレンジへ発展し、より映画的な風景を作ることになる。Treeless Plainはそこへ至る未完成な習作というより、別の魅力を持つ荒々しい出発点である。オーストラリアの土地感覚と英米のポストパンク、フォーク、カントリーを結びつけ、恋愛の傷と地理的な孤立を同じ乾いた音の中へ置いたことが、このデビュー作の最も大きな特徴だ。
おすすめアルバム
Born Sandy Devotional by The Triffids
1986年作で、Treeless Plainにあった荒涼とした風景と恋愛の物語を、ストリングスや鍵盤を含む豊かなアレンジへ発展させた代表作。David McCombの作詞の成熟も明確に分かる。
In the Pines by The Triffids
1986年に簡素な環境で録音された作品。時期は後だが、豪華な制作より生々しい演奏を優先しており、Treeless Plainの乾いたDIY感覚とバンドのルーツ音楽への愛着を再確認できる。
Before Hollywood by The Go-Betweens
同じオーストラリアの1983年作。The Triffidsより都会的で角張ったギター・ポップだが、土地や人間関係を独自の言葉で描き、英米のポストパンクをそのまま模倣しなかった点で共通する。
The Good Earth by The Feelies
1986年作。細かなギターの反復と控えめな歌唱を使い、フォーク/カントリーの感覚をポストパンク以後のインディー・ロックへ結びつけている。音の作り方は異なるが、乾いた質感がよく響き合う。
Ocean Rain by Echo & the Bunnymen
1984年作。ポストパンクから出発し、自然風景やロマンティックな暗さを大きなスケールのアレンジへ広げた作品である。Treeless Plainの簡素な音が後に向かう可能性と比較して聴くと興味深い。

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