
発売日:1986年10月27日 ジャンル:ポストパンク/ゴシック・ロック/アート・ロック/ブルース・ロック
概要
Crime & the City Solutionの『Room of Lights』は、1986年に発表された最初のフル・アルバムであり、1980年代半ばのポストパンクが、ゴシック、ブルース、ノイズ、文学的な語り、映画的な退廃へ枝分かれしていく過程を象徴する作品である。
バンドの中心人物Simon Bonneyはオーストラリア出身で、Crime & the City Solution自体もオーストラリアで原型を持つ。しかし『Room of Lights』期のバンドを理解するために決定的なのは、ベルリンを中心としたNick Cave周辺の音楽共同体との関係である。
この時期のメンバーには、The Birthday Partyで活動したMick Harvey、同じくThe Birthday Partyに関わったRowland S. Howard、Epic Soundtracks、さらに後にThese Immortal Soulsを形成するHarry Howardらが参加していた。
そのため『Room of Lights』には、The Birthday Party解散後の音楽的エネルギーが強く残っている。
鋭く不協和なギター。
ブルースを解体したような反復。
重いピアノ。
ドラムの不安定な推進力。
聖書、罪、暴力、欲望、都市を思わせるSimon Bonneyの歌詞。
しかしCrime & the City Solutionは、The Birthday Partyの延長ではない。
Nick Caveが劇的な物語や宗教的イメージを強く前面に出したのに対して、Simon Bonneyの歌唱はより距離があり、しばしば冷静で、都市を歩きながら出来事を記録する語り手のように聞こえる。
さらにRowland S. Howardのギターも重要である。
Howardは一般的な意味で「上手く整ったギター」を弾く奏者ではない。
コードを美しく埋めるより、一音の不協和。
突然の高音。
フィードバック。
音が崩れる瞬間。
そうした不安定さを使う。
そのため『Room of Lights』では、ギターが曲を装飾するのではなく、曲の心理状態そのものになる。
美しいメロディーの横で、不安な音が鳴る。
静かなヴォーカルの後ろで、ギターだけが暴力的に反応する。
この構造が作品全体へ強烈な緊張を与える。
タイトルの『Room of Lights』も象徴的だ。
「光の部屋」。
言葉だけなら明るく、安全で、美しい場所を想像する。
しかしこのアルバムにおける“light”は安心を保証しない。
むしろ光があるからこそ、人間の汚れや傷、孤独が見える。
暗闇なら隠せる。
しかし照らされた部屋では隠せない。
Crime & the City Solutionの音楽には、この「暴露されること」の感覚がある。
都市。
恋愛。
家族。
暴力。
宗教。
人間の関係。
それらを暗闇の神秘として美化せず、冷たい光の中へ置く。
1986年という時代を考えると、本作の位置も興味深い。
ポストパンクの最初の大きな波はすでに終わっていた。
Joy Divisionは存在せず、The Birthday Partyも解散していた。
一方でThe Cure、Nick Cave and the Bad Seeds、Siouxsie and the Banshees、Einstürzende Neubautenなどが、それぞれポストパンクをゴシック、実験音楽、ブルース、インダストリアルへ発展させていた。
『Room of Lights』はその中間地点にある。
パンクの荒さ。
ブルースの反復。
ゴシックの陰影。
アート・ロックの構成。
文学的な歌詞。
それらを完全に一つのジャンルへ整理しない。
だから本作は「ゴシック・ロック」と呼ぶこともできるが、その言葉だけでは足りない。
むしろ、都市の精神的な荒廃をブルースとポストパンクで描いた作品と捉える方が、その本質に近い。
全曲レビュー
1. Right Man, Wrong Man
アルバムは「Right Man, Wrong Man」で始まる。
タイトルは「正しい男、間違った男」。
非常に単純な対比に見える。
しかし曲が進むにつれて、「正しい」「間違っている」という道徳的な分類そのものが不安定になる。
人間は完全な善人でも悪人でもない。
正しい場所にいる間違った人物。
間違った行為をする正しい人物。
そうした矛盾が、このタイトルには含まれている。
Simon Bonneyの歌唱は感情を爆発させるより、言葉を重く置いていく。
その後ろでギターが不穏に動く。
この関係が重要だ。
ヴォーカルは状況を説明する。
ギターは、その説明では処理できない感情を表現する。
曲全体にはブルース的な反復があるが、伝統的なブルースの形をそのまま使うわけではない。
リズムは硬い。
ギターは空白を多く残す。
音が鳴るたびに不安になる。
アルバムの入口として、Crime & the City Solutionの「秩序と崩壊が同時にある音」を明確に提示する。
2. No Money, No Honey
「No Money, No Honey」は、タイトルだけなら古典的なブルースや俗語的な表現を思わせる。
金がない。
だから愛も得られない。
ここでは恋愛と経済が直接的につながる。
ロマンティックな愛は、しばしば金銭と無関係な純粋な感情として語られる。
しかし現実の人間関係では、金。
仕事。
階級。
生活。
それらが関係へ大きく入り込む。
タイトルの韻を踏んだ軽さに対して、内容は冷たい。
欲望にも経済条件がある。
愛も社会から完全に独立してはいない。
音楽はブルース的な骨格を持ちながら、ポストパンク的に削られている。
伝統的ブルースならギターが感情豊かに「泣く」場面でも、ここでは音が鋭く切れる。
この乾燥した質感が、歌詞の経済的な冷たさと非常によく合う。
3. Hey Sinkiller
「Hey Sinkiller」は、タイトルからすでにCrime & the City Solutionらしい不穏さを持つ。
“killer”という言葉がある。
誰かを殺す人物。
しかしその前に付く“sin”を考えれば、罪を殺す者、罪そのものを処理する存在、といった宗教的な連想も生まれる。
Simon Bonneyの歌詞では、宗教的言語がしばしば道徳的救済ではなく、人間の罪悪感や暴力を考えるために使われる。
この曲でも重要なのは、「誰が罪人で、誰が裁く側なのか」が明確ではないことだ。
人間は他人を裁く。
しかし自分自身も罪を抱えている。
この二重性が作品全体にある。
音楽は不安定で、ギターの刺すようなフレーズが非常に印象的。
Rowland S. Howard的なギター美学が特に強く出る。
彼の演奏には「美しく響かせる」という発想があまりない。
むしろ傷のような音を入れる。
曲の表面を裂く。
そのギターが、“sin”や“killer”といった言葉の持つ暴力性を音にする。
4. Six Bells Chime
「Six Bells Chime」は、『Room of Lights』の代表曲であり、Crime & the City Solutionの初期を象徴する楽曲のひとつである。
タイトルは「六つの鐘が鳴る」。
鐘は時間を知らせる。
宗教儀式。
葬儀。
警告。
都市の音。
これら複数の意味を持つ。
この曲では鐘のイメージが、時間と死の感覚を同時に呼び起こす。
何かが終わる。
時刻が来る。
逃げられない。
その運命的な緊張が曲全体にある。
音楽はゆっくり始まり、非常に映画的だ。
ギターは空間を大きく使う。
一音鳴る。
消える。
その後に別の音が来る。
この「空白」が非常に重要である。
ロック・バンドは通常、空間を音で満たそうとする。
Crime & the City Solutionは逆に、何も鳴らない時間を恐怖へ変える。
Simon Bonneyのヴォーカルも、叫ぶ必要がない。
静かに語るだけで、背景の空間が緊張を増幅する。
この曲はWim Wendersの映画『ベルリン・天使の詩』にバンドの演奏場面とともに登場したことでも知られ、Crime & the City Solutionが1980年代ベルリンの文化的風景と強く結びついていたことを示す。
ベルリンという都市。
戦争の記憶。
壁。
分断。
地下文化。
その空気と「Six Bells Chime」の暗い広がりは非常に相性が良い。
本作の中でも、ポストパンクを「都市の映画音楽」へ近づけた重要曲である。
5. Adventure
「Adventure」は、タイトルだけを見れば明るい。
冒険。
未知の場所へ行く。
自由。
通常なら肯定的な言葉だ。
しかし『Room of Lights』の中では、その冒険が安全なものには聞こえない。
未知へ進むことは、危険へ進むことでもある。
Crime & the City Solutionの世界では、移動や変化は救済を保証しない。
都市を変える。
恋人を変える。
国を変える。
それでも自分自身から完全には逃れられない。
この感覚は、オーストラリアからヨーロッパへ渡ったバンド自身の経歴とも緩やかに共鳴する。
地理的な移動は大きい。
しかし人間の孤独や暴力性は場所を変えても残る。
音楽は他曲よりやや推進力が強く、“adventure”という言葉にふさわしい移動感を持つ。
しかしギターの不協和音が、その前進を常に不安定にする。
進んでいる。
しかし正しい方向かは分からない。
その曖昧さが曲の中心にある。
6. Untouchable
「Untouchable」は「触れることのできない人」「近づけない存在」という意味を持つ。
この言葉には複数の方向性がある。
非常に高い地位にいて手が届かない。
精神的に距離がある。
社会的に排除されている。
神聖すぎて触れられない。
あるいは、汚れていると見なされて触れられない。
こうした相反する意味が同居する。
Crime & the City Solutionの歌詞では、人間関係における距離が重要である。
誰かを欲する。
しかし近づけない。
近づけば壊れる。
この「接触の不可能性」が、“Untouchable”という一語へ凝縮されている。
音楽も、完全な親密さを拒むような空間を持つ。
ギターとヴォーカルの間に距離がある。
バンド全体が一つの塊として鳴るのではなく、それぞれの楽器が別々の場所にいるように聞こえる。
この音響的な隔たりが、タイトルのテーマとよく対応している。
7. The Brother Song
「The Brother Song」は、家族という非常に個人的な関係を扱う。
兄弟。
血縁。
近さ。
しかし家族だから理解し合えるとは限らない。
むしろ近すぎるからこそ、競争。
嫉妬。
義務。
過去の記憶。
そうしたものが複雑になる。
Crime & the City Solutionは恋愛や都市だけでなく、「人間が他者とどのように結びつくか」という問題を繰り返し扱う。
兄弟関係は、その最も逃れにくい形のひとつである。
恋人なら別れることができる。
友人なら離れられる。
しかし血縁は、関係を断っても歴史そのものを消すことが難しい。
音楽にはどこか哀歌的な感覚があり、本作の中でも個人的な感情が比較的前へ出る。
ただし感情を完全には説明しない。
Simon Bonneyは「こう感じる」と直接的に告白するより、関係の断片を提示する。
その距離が、曲を単なる家族への歌にしない。
8. Her Room of Lights
アルバムを締めくくる「Her Room of Lights」は、タイトル作品そのものを回収する重要曲である。
「彼女の光の部屋」。
ここで初めて、“Room of Lights”がより具体的な場所として現れる。
しかし、その部屋が安全な場所なのかは明確ではない。
光。
女性。
室内。
親密さ。
それらは温かさを連想させる。
一方で、部屋は閉じた空間でもある。
外から隔離される。
逃げ場がない。
光が強ければ、隠すこともできない。
この両義性が重要だ。
アルバム全体では都市の広い空間を感じさせる曲が多かった。
最後には「部屋」へ入る。
スケールが縮小する。
しかし心理的な圧力はむしろ強くなる。
誰かと一対一になる。
そこでは社会や都市の騒音を言い訳にできない。
人間関係そのものが露出する。
音楽は重く、映画のエンドロールのような感覚を持つ。
明確な解決はない。
救済もない。
ただ光のある部屋が残る。
この曖昧な終幕によって、『Room of Lights』は一つの物語を完結させるのではなく、聴き手をその部屋の中へ置いたまま終わる。
総評
『Room of Lights』は、1980年代ポストパンクの「その後」を理解するうえで非常に重要な作品である。
パンクは1970年代後半、ロックを単純化した。
短い曲。
速いテンポ。
反権威。
DIY。
そこからポストパンクは、逆に可能性を広げた。
ダブ。
ファンク。
電子音楽。
実験音楽。
現代音楽。
ブルース。
ゴシック。
文学。
それらを自由に取り込む。
Joy Division。
Public Image Ltd。
Wire。
The Pop Group。
Siouxsie and the Banshees。
それぞれが別方向へ進んだ。
Crime & the City Solutionは、その系譜の中で「ブルース、文学、都市、宗教的イメージ」へ向かったバンドである。
ただし、彼らは伝統的なブルース・ロックではない。
ここが重要だ。
ブルースのコード進行や反復を使うことはある。
しかしEric Clapton的なギター・ソロの美学とはまったく違う。
Crime & the City Solutionにとって、ブルースは「技術を見せる形式」ではない。
罪。
喪失。
欲望。
反復。
逃れられない人生。
そうした精神構造として使われる。
同じパターンが繰り返される。
人間も同じ失敗を繰り返す。
その意味で、ブルースの反復とSimon Bonneyの歌詞世界は非常に相性が良い。
Rowland S. Howardのギターは、そのブルースをさらに破壊する。
彼の演奏は、ブルース・ギターの感情表現を理解している。
チョーキング。
単音。
間。
しかし、それを美しく整えない。
音程を不安定にする。
ノイズを残す。
突然鋭い高音を入れる。
だからギターが「悲しい」だけでなく、「傷そのもの」のように聞こえる。
これはThe Birthday Partyでも重要だったHowardの特徴であり、『Room of Lights』でも作品の心理を決定している。
Mick Harveyの存在も重要である。
Harveyはマルチ・インストゥルメンタリストとして、楽曲に構造を与える能力が非常に高い。
Rowland S. Howardが崩す。
Harveyが支える。
Simon Bonneyが語る。
この三者の関係によって、Crime & the City Solutionの音は成立する。
もしHowardのギターだけなら、音楽はさらに混沌としたはずだ。
もしHarveyの整理だけなら、もっと通常のアート・ロックになった。
その中間にある緊張が本作の個性である。
また、『Room of Lights』をThe Birthday PartyやNick Cave and the Bad Seedsと比較することは避けられない。
メンバーの重なりが大きいからだ。
しかし、実際に聴くと違いは明確である。
Nick Caveは物語の中心人物になる。
彼のヴォーカルは劇的。
殺人者。
罪人。
預言者。
恋人。
さまざまな人格を大きく演じる。
Simon Bonneyはもう少し距離を取る。
彼の歌唱は、都市の出来事を見て記録する観察者に近い。
この違いによって、Crime & the City Solutionの音楽はより映画的に聞こえる。
主人公が画面中央で演技するのではなく、カメラが街を移動する。
そのカメラの横でBonneyが語る。
その感覚がある。
特に「Six Bells Chime」は、この映画性を象徴する。
実際にWim Wendersの『ベルリン・天使の詩』と結びついたことも偶然ではない。
1980年代の西ベルリンは、多くのアーティストにとって特別な都市だった。
冷戦。
ベルリンの壁。
東西分断。
軍事的緊張。
安い生活費。
地下クラブ。
実験芸術。
Einstürzende Neubauten。
Nick Cave。
Crime & the City Solution。
こうした文化が集まり、都市そのものが巨大な実験空間になった。
『Room of Lights』の音にも、そのベルリン的な感覚がある。
空間が広い。
しかし閉塞している。
自由。
しかし壁がある。
夜。
光。
歴史。
この矛盾した空気がアルバム全体に漂う。
タイトルの「光」も、ベルリンという都市を考えるとさらに意味深い。
都市の光。
クラブ。
街灯。
窓。
しかしその背後には暗い歴史がある。
光は暗闇を消さない。
むしろ境界をはっきりさせる。
この感覚は『Room of Lights』そのものだ。
歌詞における宗教性についても重要である。
「Hey Sinkiller」。
「Six Bells Chime」。
罪。
鐘。
裁き。
こうした言葉にはキリスト教文化の影がある。
しかし本作は宗教的救済を歌わない。
神が現れてすべてを解決するわけではない。
むしろ、人間が罪という概念から逃れられない状態を描く。
善悪を判断する。
誰かを裁く。
自分自身も裁く。
しかし答えがない。
「Right Man, Wrong Man」という最初の曲からして、正しい人間と間違った人間の区別が不安定である。
つまり本作は宗教的な言葉を使いながら、道徳的確信を壊す。
この方法はゴシック・ロックの重要な特徴とも重なる。
ゴシックは単に黒い服や暗い音を意味しない。
宗教。
死。
罪。
身体。
欲望。
古い象徴。
それらを現代の都市へ持ち込む。
Crime & the City Solutionは、その方法をかなり文学的に使っている。
一方で、本作は「ゴシック」というジャンル名から想像されるほど装飾的ではない。
The Sisters of Mercyのような巨大なドラム・マシン。
The Missionのようなアンセミックなギター。
The Cureのようなシンセサイザーの広がり。
それらとは違う。
もっと乾いている。
もっとブルース的。
もっと不安定。
そのため本作は、ゴシック・ロックとポストパンクの間にある独自の作品として聞く方がよい。
『Room of Lights』のもう一つの特徴は、非常に「大人の」音楽であることだ。
パンクやポストパンクには若者文化のイメージが強い。
怒り。
反抗。
速度。
しかしCrime & the City Solutionの音楽には、それより疲れた感覚がある。
すでに何かを見てきた人物。
恋愛も社会も単純ではないと知っている人物。
その視点がある。
「No Money, No Honey」では愛と金。
「The Brother Song」では家族。
「Untouchable」では距離。
どれも「反抗すれば解決する」問題ではない。
ここに80年代半ば以降のポストパンクの成熟がある。
初期パンクの「NO」は強い。
しかし大人になれば、「NO」だけでは生活できない。
金が必要。
家族がある。
欲望がある。
過去がある。
Crime & the City Solutionは、その複雑さを描く。
また、本作は後のオルタナティブ・ロックやゴシック・アメリカーナにもつながる。
Nick Cave and the Bad Seedsはもちろん、The Gun Club、The Triffids、Tindersticks、16 Horsepower、The Walkabouts、後の暗いフォーク/ブルース系アーティストにも共鳴する要素がある。
特に「伝統的なブルースやフォークを、そのまま復古するのではなく、都市的な不安とノイズによって再解釈する」という方法は、その後の多くのバンドに受け継がれた。
The Triffidsとの比較も興味深い。
どちらもオーストラリアを背景に持ち、ヨーロッパへ活動範囲を広げた。
どちらも文学的。
どちらも土地、孤独、欲望を歌う。
しかしThe Triffidsが広大な風景とメロディーへ向かうのに対し、Crime & the City Solutionは都市の閉鎖空間へ向かう。
同じオーストラリア系ポストパンクでも、方向は大きく異なる。
後世への影響という意味では、『Room of Lights』は巨大なチャート成功を生んだ作品ではない。
しかし、こうした作品の影響は売上とは別の形で現れる。
特にミュージシャン。
映画作家。
ゴシック/ポストパンクのリスナー。
彼らの間で長く参照される。
Wim Wendersとの接点もその象徴である。
Crime & the City Solutionの音楽は、単独で聴いても映画的だ。
だから映像の中へ置いても強い。
登場人物の感情を説明しすぎない。
空間を作る。
不安を残す。
これは映画音楽的な能力でもある。
アルバムの構造としては、最初の「Right Man, Wrong Man」で道徳的な不確実性を提示し、「No Money, No Honey」で愛と経済、「Hey Sinkiller」で罪、「Six Bells Chime」で時間と死、「Adventure」で移動、「Untouchable」で距離、「The Brother Song」で血縁、最後の「Her Room of Lights」で親密な閉鎖空間へ到達する。
つまり外部から内部へ向かうようにも聞こえる。
社会。
都市。
宗教。
移動。
家族。
部屋。
最後には一つの室内へ入る。
しかし、その室内も安全ではない。
ここに作品全体の冷たさがある。
人間は外の世界から逃げても、関係そのものから逃げられない。
だから『Room of Lights』は救済のアルバムではない。
むしろ「光をつけて、そこにあるものを見る」アルバムである。
見たくないものも見える。
罪。
孤独。
欲望。
金。
家族。
愛。
それらを暗闇へ戻さない。
この姿勢が、作品の厳しさと文学性を作っている。
1980年代ポストパンクの名盤には、社会そのものを大きく変えようとする作品も多い。
『Room of Lights』はそこから少し違う。
世界を変えるより、人間の矛盾を観察する。
そのため派手な政治的スローガンはない。
しかし都市、金、道徳、家族、欲望を扱うことで、社会は常に歌詞の背後に存在する。
その静かな社会性こそ本作の強みである。
Crime & the City Solutionにおける『Room of Lights』は、後に編成や拠点を変えながら展開していく長いキャリアの出発点であり、同時にRowland S. Howard、Mick Harveyらが参加した特別な時期を記録した作品でもある。
そのためバンドのディスコグラフィーの中でも独特の位置を占める。
荒い。
不安定。
美しい。
暴力的。
映画的。
そのすべてが一枚に共存している。
『Room of Lights』とは、「暗いアルバム」ではない。
むしろ暗闇へ光を当てたアルバムである。
そしてその光によって、見えなかったものが見えてしまう。
その居心地の悪さこそが、本作最大の魅力である。
おすすめアルバム
1. The Birthday Party – Junkyard(1982)
Rowland S. Howard、Mick Harveyらが在籍したThe Birthday Partyの代表作。ブルース、パンク、ノイズを暴力的に解体したサウンドは、『Room of Lights』のギターやリズムの直接的な前史にあたる。Crime & the City Solutionの方が抑制的だが、両者の緊張感には明確な連続性がある。
2. Nick Cave and the Bad Seeds – Your Funeral… My Trial(1986)
『Room of Lights』と同じ1986年に発表された作品。ゴシック、ブルース、宗教的イメージ、罪、欲望を暗いアンサンブルへ落とし込んでおり、同時期のベルリン周辺の音楽的空気を比較するうえで最重要の一枚である。
3. The Triffids – Born Sandy Devotional(1986)
オーストラリア出身のポストパンク/ロック・バンドによる代表作。広大な土地、欲望、孤独を文学的に描き、『Room of Lights』と同じく1986年にオーストラリア系アーティストがヨーロッパのインディー・シーンで独自の表現を作った例として興味深い。
4. The Gun Club – The Las Vegas Story(1984)
ブルース、カントリー、パンクをゴシックで都市的な感覚へ変換した作品。Crime & the City Solutionとはアメリカ/オーストラリアという背景の違いがあるが、伝統的ブルースをノスタルジーではなく不安とノイズの音楽へ再構築する点で強く共鳴する。
5. Einstürzende Neubauten – Halber Mensch(1985)
ベルリンの実験音楽/インダストリアルを代表する作品。Crime & the City Solutionよりはるかに抽象的で攻撃的だが、都市空間、ノイズ、身体、冷戦期ベルリンの緊張を音楽へ変換した点で、『Room of Lights』の文化的背景を理解するための重要な比較対象である。

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