- イントロダクション:JYOTYとは誰か
- アーティストの背景と歴史:アムステルダムからロンドンへ
- Rinse FMとラジオ文化:JYOTYの耳を育てた場所
- Boiler Roomとブレイク:バイラル化するDJの時代
- 音楽スタイル:ジャンルを越えるのではなく、街を接続する
- 代表的な活動とセットの解説
- JYOTYとアムステルダム:レイヴ文化の身体記憶
- JYOTYとロンドン:海賊ラジオ、クラブの入口、移民文化
- 影響を受けた音楽と文化
- 影響を与えたシーン:DJの役割を拡張する存在
- Homegrownが示す“反スマホ”的クラブ観
- 同時代DJとの比較:JYOTYのユニークさ
- ファンと批評家の評価:シーンの内側から愛される理由
- JYOTYの現在地:キュレーターからプロデューサーへ
- まとめ:JYOTYはクラブカルチャーの“方向感覚”を取り戻す
イントロダクション:JYOTYとは誰か
JYOTYは、アムステルダム生まれ、ロンドンを拠点に活動するインド系オランダ人DJ、ラジオホスト、クリエイティブ・プロデューサーである。ヒップホップ、R&B、UKガラージ、グライム、ジャングル、アフロビーツ、アマピアノ、バイレファンキ、ダンスホールまでを自在に横断する彼女のセットは、単なる“ジャンル横断”ではない。世界各地のダンスフロアを一本の神経のようにつなげる、現代クラブカルチャーの地図作りである。
JYOTYの重要性は、彼女が“曲をかけるDJ”にとどまらない点にある。Rinse FMでの長年のラジオ活動、Boiler Roomでの存在感、Homegrownというクラブナイトの運営、若い女性や南アジア系の人々へのワークショップ、そしてSNS時代のダンスフロアへの批評性。彼女はDJブースの中だけでなく、その周囲にある文化、倫理、コミュニティまでを設計している。
Resident Advisorは、JYOTYを「ロンドンのRinse FMでの8年にわたる活動から、世界中のフェスティバルやソールドアウトのステージへ広がった存在」と紹介している。彼女の歩みは、アムステルダムのレイヴ文化、ロンドンの海賊ラジオ的伝統、そしてインターネット以後のグローバル・クラブ感覚が交差する地点にある。Resident Advisor
アーティストの背景と歴史:アムステルダムからロンドンへ
JYOTYことJyoty Singhは、アムステルダムで生まれ育った。パンジャーブ系の家庭環境を持ち、幼い頃からインド的な文化とオランダの都市文化の間で育った存在である。彼女の音楽観には、この“複数の場所に属している感覚”が濃く刻まれている。
10 Magazineのインタビューでは、彼女が22歳でロンドンへ渡り、King’s College Londonで世界史と文化を学ぶために移住したことが語られている。彼女にとってロンドンは、単なる進学先ではなかった。10代の頃から憧れていた、音楽が街の血流のように流れる場所だったのである。10 Magazine
ロンドンでのキャリアは、華やかなDJブースから始まったわけではない。DJ Magによれば、JYOTYは2012年にアムステルダムからロンドンへ移り、修士課程に進む一方で、クラブのドアスタッフとして働いた。その後、人脈とキャラクターを武器にRinse FMで番組を持ち、Boiler Roomでマイクを握るようになった。DJ Mag
この経歴は、JYOTYという存在を理解するうえで非常に重要である。彼女は“外からシーンを眺めていた人”ではない。入口で人を迎え、空気を読み、誰がその夜のフロアに必要なのかを身体で覚えてきた人である。ドアで培った観察眼が、のちのDJセットにも生きている。どの瞬間に温度を上げるか、どの曲で人の表情が変わるか、どこで予想を裏切るか。JYOTYの選曲には、クラブを内側から見てきた人間の勘がある。
Rinse FMとラジオ文化:JYOTYの耳を育てた場所
JYOTYのキャリアにおいて、Rinse FMは避けて通れない。Rinse FMはUKガラージ、グライム、ダブステップ、ベース・ミュージックなどを支えてきたロンドンの重要なラジオ・プラットフォームであり、街のクラブ文化と密接につながってきた場所である。
JYOTYは、DJとしてブレイクする前からラジオを通じて音楽を紹介していた。Resident Advisorは、彼女がロンドンのRinse FMで8年にわたって活動してきたことを紹介している。つまり彼女は、いきなりフェスの大舞台に現れたスターではなく、ラジオの積み重ねによって“耳”を信頼されるようになったセレクターである。Resident Advisor
ラジオにおけるJYOTYの役割は、単に新曲を流すことではない。彼女は、世界各地のローカルな音楽を文脈ごと届ける。アフロビーツ、アマピアノ、バイレファンキ、ダンスホール、UKクラブ・ミュージック、R&B、ヒップホップ。それぞれの音楽を“流行の素材”として消費するのではなく、どの街の、どの身体感覚から生まれているのかを感じさせる形でつなぐ。
ここに、JYOTYの“羅針盤”としての機能がある。彼女はリスナーに「これが今の正解だ」と押しつけるのではない。むしろ、「この音の向こうには別の街がある」「このリズムの先には別のコミュニティがある」と示す。ラジオは彼女にとって、世界地図を広げるためのテーブルなのだ。
Boiler Roomとブレイク:バイラル化するDJの時代
JYOTYの名前を一気に広めた出来事のひとつが、Boiler Roomでのセットである。Mixmagは、彼女の爆発的な注目が2019年のBoiler Roomをきっかけに始まり、パンデミック期にオンライン上でさらに広がったと説明している。さらに、そのセットが500万回規模の再生を記録したことにも触れている。Mixmag
Boiler Roomは、現代のDJ文化において特殊な意味を持つ。クラブの熱気をオンラインに持ち込み、カメラの前で踊る観客とDJの表情を世界中に拡散するプラットフォームである。JYOTYのBoiler Roomが強く記憶されたのは、選曲だけでなく、彼女の身体性と場の掌握力が画面越しにも伝わったからだ。
ただし、JYOTYは“バイラルDJ”という言葉だけでは語れない。Nylonのインタビューで彼女は、TikTokでDJが拡散されることの利点を認めつつも、ドロップばかりが強調され、グルーヴが失われつつあることへの懸念を語っている。Nylon
この発言は、JYOTYの現在地をよく示している。彼女はSNS時代の恩恵を受けた存在でありながら、その危うさも理解している。カメラに向けた一瞬の爆発は強い。しかし、クラブの本質はそこだけではない。ゆっくり温度を上げ、知らない曲に身体を預け、隣の人と同じ揺れを共有する時間。JYOTYは、その“映らない部分”を守ろうとしている。
音楽スタイル:ジャンルを越えるのではなく、街を接続する
JYOTYのDJセットを特徴づけるのは、圧倒的なジャンルの広さである。ヒップホップからR&B、ガラージ、グライム、ジャングル、アマピアノ、アフロビーツ、バイレファンキ、ダンスホールまで、彼女は世界中のリズムを一晩の中でつなげる。
ただし、ここで重要なのは“何でもかける”という意味での雑食性ではない。JYOTYのセットには、強い編集感覚がある。ロンドンの低音、アムステルダムのレイヴ感覚、南アジア系ディアスポラとしての身体感覚、ブラック・ミュージックへの深い敬意、インターネット以後のスピード感。それらが混ざり合い、独自の流れを作る。
彼女のセットは、観光地をめぐるプレイリストではない。むしろ、夜の街を歩きながら知らないクラブのドアを次々に開けていくような体験である。ある瞬間にはUKガラージの跳ねたビートが鳴り、次にはアマピアノの深いベースラインが床を揺らし、さらにバイレファンキの荒々しい熱気が差し込む。その移動は唐突なようでいて、身体には自然に入ってくる。
JYOTYの巧さは、ジャンルの“境界線”を消すことではない。むしろ境界線の存在を分かったうえで、そのあいだに橋を架けるところにある。ロンドンとアムステルダム、ヨーロッパとグローバル・サウス、ラジオとクラブ、オンラインと現場。その接続の仕方に、彼女の個性がある。
代表的な活動とセットの解説
Boiler Room London / Carnival期のセット
JYOTYの2019年前後のBoiler Roomセットは、彼女の知名度を押し上げた象徴的な出来事である。Boiler Roomのアーティストページでも、彼女がアムステルダム生まれ、ロンドン拠点のDJであり、アンダーグラウンドで愛される存在へ成長したことが紹介されている。BOILER ROOM
このセットの魅力は、選曲以上に“場を起こす力”にある。JYOTYは曲をただ並べない。フロアの反応を拾い、笑い、煽り、時に荒々しく方向転換しながら、全体をひとつの渦にしていく。Boiler Roomのカメラは、DJをスター化する装置でもあるが、JYOTYの場合はそのカメラの存在すらフロアの一部にしてしまう。
彼女のセットを聴くと、クラブミュージックが本来持っていた“人間臭さ”を感じる。完璧に磨かれたミックスだけではない。汗、声、偶然、笑い、ざわめき。その全部が音楽になる。JYOTYは、そうした生々しさを恐れないDJである。
Rinse FMでのセレクション
Rinse FMでのJYOTYは、クラブの熱狂とは少し違う顔を見せる。そこでは彼女は、フロアを爆発させるDJであると同時に、新しい音楽を丁寧に届けるキュレーターである。
Rinse FMのようなラジオ文化は、イギリスのクラブミュージックにおいて重要な役割を果たしてきた。新しいMC、新しいプロデューサー、新しいリズムが、メインストリームに行く前にまずラジオで発見される。JYOTYはその伝統を、よりグローバルな形に拡張している。
彼女のラジオには、“発見の喜び”がある。知らない曲なのに身体が先に反応する。聞いたことのない言語なのに、リズムの意味は伝わる。JYOTYは、リスナーに音楽知識を誇示するのではなく、未知の音へ連れていく。だから彼女のラジオは、勉強ではなく旅に近い。
Homegrown
JYOTYの現在を語るうえで最も重要なプロジェクトのひとつが、Homegrownである。Homegrownは、彼女が主催するクラブナイトであり、ラインナップやセットタイムを事前に強く打ち出さず、スマホやSNSから距離を置く姿勢でも知られる。
Hunger Magazineのインタビューでは、JYOTYがHomegrownについて、ソーシャルメディアやスマホから離れ、クラブにおける個人主義から距離を取りたいと語っている。彼女は「クラブの中の個人主義が自分には耐えがたい」という趣旨の発言をしており、Homegrownが単なるイベント名ではなく、ダンスフロアのあり方への批評であることが分かる。Hunger Mag
Homegrownの本質は、懐古主義ではない。スマホのない昔に戻ろうとしているのではなく、現代のクラブに再び“共同体の感覚”を取り戻そうとしている。誰がDJなのか、どの曲がかかるのか、どこを撮ればSNSで映えるのか。そうした外側の情報ではなく、その場で鳴っている音と、そこにいる身体を信じるための場所である。
公式サイト上でも、Homegrownはロンドンやアムステルダムで開催され、2025年4月のロンドン公演がソールドアウト、アムステルダム公演も告知されていたことが確認できる。Jyoty
JYOTYとアムステルダム:レイヴ文化の身体記憶
JYOTYの出発点にはアムステルダムがある。アムステルダムは、テクノ、ハウス、クラブカルチャー、フェスティバル文化が深く根づいた都市である。彼女はその街でレイヴに触れ、音楽を“聴くもの”ではなく“集まる理由”として体験してきた。
Mixmag Asiaは、JYOTYがアムステルダムで未成年の頃からレイヴに通い、ロンドンのクラブのドアで働き、やがて自分の力でクラブをソールドアウトさせる存在になった歩みを紹介している。Mixmag Asia
このアムステルダム的な経験は、彼女のセットの土台になっている。ヨーロッパのクラブ文化にある長時間の没入、踊り続ける身体、ジャンルよりも流れを重視する感覚。そこにロンドンのベース・ミュージックやラジオ文化が加わることで、JYOTYのスタイルは単なるUKクラブでも、単なるヨーロッパ・レイヴでもないものになる。
アムステルダムは彼女に“踊ることの自由”を与え、ロンドンは彼女に“音楽を語る言語”を与えた。JYOTYはその二つの都市のあいだで、自分だけのダンスフロアを作り上げている。
JYOTYとロンドン:海賊ラジオ、クラブの入口、移民文化
ロンドンは、JYOTYのキャリアを形にした街である。Rinse FM、Boiler Room、クラブのドアワーク、ブランドや音楽関連の仕事、人種的・文化的に混ざり合った都市の空気。彼女の現在の姿は、ロンドンという街なしには成立しない。
DJ Magは、JYOTYがロンドンでクラブのドアスタッフとして働き、Rinse FMやBoiler Roomに関わるようになった経緯を紹介している。また、彼女が労働党関連の仕事やエージェンシー業務、Adidasなどのキャンペーン制作にも関わっていたことを伝えている。DJ Mag
この“音楽以外の仕事”の経験も、彼女の強みである。JYOTYは、音楽をただ美しいものとして扱わない。そこには労働があり、交渉があり、ブランディングがあり、人間関係があり、政治があることを知っている。だから彼女の活動には、現場感と戦略性が同居している。
ロンドンはまた、移民文化とクラブミュージックが深く結びついた都市である。カリブ系、南アジア系、アフリカ系、ヨーロッパ各地のコミュニティが交差し、そこからガラージ、グライム、ダブステップ、アフロスウィングなどが生まれてきた。JYOTYは、その混ざり合いを表層的な“多様性”としてではなく、日々の生活感覚として扱う。
影響を受けた音楽と文化
JYOTYの影響源を一つのジャンルに絞ることは難しい。彼女の音楽的DNAには、ヒップホップ、R&B、UKクラブ、インド系ディアスポラの文化、アムステルダムのレイヴ、ロンドンのラジオ、そしてインターネット以後のグローバルな音楽流通が混ざっている。
彼女が特に重要なのは、“グローバル・サウンド”を無国籍なBGMとして扱わない点である。アマピアノをかける時、そこには南アフリカのクラブ文化がある。バイレファンキをかける時、そこにはブラジルの都市の熱がある。ダンスホールをかける時、そこにはジャマイカから世界へ広がったサウンドシステム文化がある。
JYOTYは、こうした音楽を“エキゾチックなスパイス”として使わない。むしろ、それぞれの音楽が持つ重力を尊重しながら、ロンドンやアムステルダムのフロアに接続する。だから彼女のセットには軽さと深さが同時にある。楽しく踊れる。しかし、聴き込むと背後に複数の歴史が見えてくる。
影響を与えたシーン:DJの役割を拡張する存在
JYOTYが後続のDJやクラブカルチャーに与えている影響は大きい。彼女は、現代のDJが単に曲をつなぐだけではなく、コミュニティを作り、価値観を示し、若い世代に道を開く存在であり得ることを示している。
彼女は、南アジア系女性としての立場から、音楽業界における多様性や代表性についても発信してきた。DJ Magは、JYOTYがコルカタでBritish CouncilやWild Cityとともに女性向けDJワークショップを行い、若いBritish Asian女性に向けた6週間の音楽業界講座も教えていたことを紹介している。DJ Mag
この活動は、象徴的な意味を持つ。クラブカルチャーはしばしば“自由な場所”として語られるが、実際には人種、ジェンダー、階級、ネットワークの壁が存在する。JYOTYは、その壁を見ないふりをしない。自分が得た経験を次の世代に渡すことで、シーンの入口を少しずつ広げている。
また、2025年にはField Dayとその親会社をめぐる問題に対して、Brian Eno、Massive AttackのRobert Del Naja、Ben UFOらとともに、JYOTYも公開書簡の署名者として報じられた。DJ Magは、50人以上のUKエレクトロニック・ミュージック関係者がField Dayに対し、KKRとの関係について距離を取るよう求めたと伝えている。DJ Mag
この出来事は、JYOTYが音楽を政治や倫理から切り離された娯楽としてだけ見ていないことを示している。クラブは現実逃避の場所であると同時に、現実の構造と無関係ではいられない場所でもある。JYOTYの活動には、その意識が通っている。
Homegrownが示す“反スマホ”的クラブ観
Homegrownのスマホ禁止、ラインナップ非公開、セットタイム非公開という姿勢は、現代のクラブ文化への強い問題提起である。近年、ダンスフロアはしばしば撮影の場所になった。DJのドロップを待ち、スマホを構え、数秒の動画として切り取る。その行為自体が悪いわけではない。しかし、それがフロア全体の意識を変えてしまうことは確かである。
JYOTYは、その変化に敏感だ。Nylonのインタビューで彼女が語ったように、TikTokによってDJが発見される一方、ドロップ中心の消費が強まり、グルーヴが失われる危険もある。Nylon
Homegrownは、その流れへの実践的な回答である。スマホをしまうことは、単に撮影を禁止することではない。自分がどう見られるかを一度忘れることだ。SNSに投稿するためではなく、今ここで踊るためにフロアに立つことだ。
これは、昔のクラブ文化への郷愁ではない。むしろ、デジタル時代における新しい共同性の作り方である。インターネットでつながることが当たり前になったからこそ、同じ部屋で、同じ音を、同じ低音として浴びる体験が再び重要になる。JYOTYはその価値を、言葉ではなくイベントの設計で示している。
同時代DJとの比較:JYOTYのユニークさ
JYOTYを同時代のDJと比較すると、その独自性がよりはっきりする。
たとえば、Honey Dijonがハウス・ミュージックの歴史とファッションの洗練を結びつける存在だとすれば、JYOTYはもっと雑多で、ストリートに近く、ラジオ的な速度を持っている。Ben UFOがベース・ミュージックの深い知識とミニマルな美学でフロアを構築するDJだとすれば、JYOTYはより会話的で、観客とのやり取りを含めて場を作るタイプである。Sherelleがジャングルやフットワークの高速性で未来を切り開くなら、JYOTYは複数のテンポと地域性をつなぎ、フロア全体をひとつの移動体にする。
彼女のユニークさは、“正統派の職人性”と“インターネット時代の親しみやすさ”が両立している点にある。JYOTYは音楽への知識が深い。しかし、それを権威として振りかざさない。彼女のセットには、友人に「これ絶対聴いて」と言われているような近さがある。その近さが、世界規模のステージでも失われない。
ファンと批評家の評価:シーンの内側から愛される理由
JYOTYが強く支持される理由は、単に選曲が良いからではない。彼女には、シーンの内側から信頼されるリアリティがある。クラブの入口、ラジオ、オンライン配信、フェスティバル、ワークショップ、パーティー運営。さまざまな場所を通ってきたからこそ、彼女の言葉とプレイには説得力がある。
Mixmagは、JYOTYが2019年のBoiler Roomを経て、パンデミック期にオンラインで存在感を高め、1本のDJセットで数百万回規模の再生を得たことを、長年の研究、努力、ビジョンの結果として評価している。Mixmag
この“努力とビジョン”という評価は重要だ。JYOTYは、偶然バズった人物ではない。バズる前から、ラジオで音楽を紹介し、現場で人に会い、シーンの空気を吸い続けてきた。その蓄積があったからこそ、インターネット上で見つかった時にも、単なる一過性の話題で終わらなかった。
DJ Magも2025年のカバー特集で、JYOTYがRinse FMのレジデンシーやHomegrownのようなクラブナイトで知られ、2019年のBoiler Roomセットのバイラル化を経て世界中のファンに独自の分類不能なスタイルを届けていると紹介している。DJ Mag
JYOTYの現在地:キュレーターからプロデューサーへ
JYOTYは長らくDJ、ラジオホスト、キュレーターとして知られてきたが、近年は自身の音楽制作にも関心を広げている。Notionの2025年インタビューでは、彼女がルールに縛られず、Rinse FMでの出発点やBoiler Roomでのブレイクを経て、現在は自身の音楽制作にも取り組んでいることが紹介されている。Notion
これは自然な流れである。JYOTYはこれまで、世界中の音楽を選び、つなぎ、文脈を与えてきた。次の段階では、その文脈の中に自分自身の音を置くことになる。もちろん、彼女の本質は“オリジナル曲を出すかどうか”だけで測れるものではない。DJとしての彼女はすでに、他者の音源を使いながら強い作家性を示してきた。
しかし、もし彼女が本格的にプロデューサーとしての作品を増やしていくなら、それは単なるキャリア拡張ではなく、これまで築いてきたグローバルな音楽地図を自分の音として再構成する作業になるはずだ。アムステルダムの記憶、ロンドンの低音、南アジア系の文化的背景、ラジオで出会った無数の音。それらがどのような形で作品化されるのかは、彼女の次章を考えるうえで大きなポイントである。
まとめ:JYOTYはクラブカルチャーの“方向感覚”を取り戻す
JYOTYは、ロンドンとアムステルダムを結ぶDJである。しかしそれは、単に二つの都市を行き来しているという意味ではない。彼女は、アムステルダムのレイヴ文化、ロンドンのラジオとベース・ミュージック、南アジア系ディアスポラの視点、グローバル・サウスのリズム、そしてSNS時代のクラブの矛盾を、一つの活動の中で結びつけている。
彼女のDJセットは、ジャンルの見本市ではない。世界のクラブカルチャーがどこへ向かっているのかを示す羅針盤である。どの音が今、どの街で鳴っているのか。どのリズムがフロアを変えているのか。どのような場所なら、人はスマホを置いて踊れるのか。JYOTYはそれらの問いに、選曲とイベント作りで答えている。
Boiler Roomでのブレイク、Rinse FMでの信頼、Homegrownでの共同体づくり、若い世代への教育活動、そしてクラブの倫理をめぐる発信。JYOTYの活動は、DJという言葉の範囲を押し広げている。
彼女は、音楽をかける人であると同時に、場を作る人である。世界中のリズムをつなぐ人であると同時に、フロアから失われつつある親密さを取り戻そうとする人でもある。だからこそJYOTYは、現代のグローバル・クラブカルチャーにおける重要な羅針盤なのだ。


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