
発売日:2019年5月3日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、グランジ、パンク・ロック、ハード・ロック、ガレージ・ロック
概要
L7の『Scatter the Rats』は、1999年の『Slap-Happy』以来、約20年ぶりに発表されたスタジオ・アルバムであり、1990年代オルタナティヴ・ロック/グランジ・シーンの中で強烈な存在感を放ったバンドが、再び自分たちの音を取り戻した復帰作である。L7は、Donita Sparks、Suzi Gardner、Jennifer Finch、Dee Plakasを中心とするロサンゼルス出身のバンドで、1980年代後半から活動を始め、Sub PopやSlash Recordsを経て、1992年の『Bricks Are Heavy』で広く知られるようになった。代表曲「Pretend We’re Dead」は、グランジ/オルタナティヴの時代を象徴する一曲として、MTV世代にも強い印象を残した。
L7の音楽は、しばしばグランジの文脈で語られるが、その本質はシアトル的な陰鬱さだけではない。彼女たちのサウンドには、ロサンゼルスのパンク、ガレージ・ロック、ハード・ロック、メタル、ノイズ・ロック、そして反権威的なユーモアが混ざっている。The RunawaysやX、Black Flag、The Stooges、AC/DC、Ramones、Motörheadなどの要素を受け継ぎながら、L7は男性中心的だったロックの攻撃性を、自分たちの身体と言葉で再構築した。重いギター、荒々しいリズム、投げつけるようなヴォーカル、皮肉な歌詞。それらが一体となり、L7の音楽は単なる「女性版グランジ」ではなく、90年代ロックの中でも独自の反抗的な位置を占めた。
『Scatter the Rats』は、そうしたL7の核心を大きく変えることなく、21世紀のバンドとして再提示した作品である。復活作や再結成アルバムは、しばしば過去の名声の再演に終わる危険を持つ。しかし本作は、懐古的な自己模倣に過度に寄りかからず、L7らしい硬く乾いたギター、単純で強いリフ、皮肉と怒りを含んだ歌詞、そして短く鋭い曲作りを保っている。音は現代的に整理されているが、過度に磨かれてはいない。むしろ、バンドが長い休止を経てもなお、ロックの基本的な暴力性とユーモアを失っていないことを示している。
アルバム・タイトルの『Scatter the Rats』は、「ネズミどもを散らせ」という意味に取れる。ここでのネズミは、腐敗した権力者、群がる利己主義者、社会の陰でうごめく存在、あるいは精神的な害悪を象徴しているように響く。L7の歌詞には、昔から社会への怒り、女性の身体をめぐる視線への反発、音楽業界への不信、退屈な日常や虚飾への苛立ちがあった。本作でもその姿勢は変わらない。ただし、1990年代の若い怒りとは異なり、ここには年齢を重ねたバンドならではのしたたかさがある。怒りは残っているが、それは焦りではなく、長く生き延びてきた者の図太さとして鳴っている。
2019年という時代背景を考えると、本作の存在はさらに意味を持つ。1990年代のオルタナティヴ・ロックはすでに歴史化され、グランジも懐かしいジャンルとして扱われることが増えていた。一方で、フェミニズム、ジェンダー、音楽業界の権力構造、女性アーティストの扱われ方をめぐる議論は、1990年代とは異なる形で再び強くなっていた。L7は、Riot Grrrlと直接同一視されるバンドではないが、女性だけのロック・バンドとして、性差別的なロック文化に対して強烈な存在感を示した。その彼女たちが2019年に戻ってきたことは、単なる90年代リバイバルではなく、現在の音楽文化の中でもなお有効な反抗の形を提示するものだった。
音楽的には、本作はL7の過去の代表作に比べて大きな革新を目指しているわけではない。しかし、そのことは必ずしも欠点ではない。むしろ、L7に求められるのは、複雑な実験性よりも、リフ、ビート、態度、声の強度である。『Scatter the Rats』は、その期待に正面から応えている。曲は短く、ギターは厚く、ドラムは直線的で、ヴォーカルは鋭い。90年代の『Bricks Are Heavy』や『Hungry for Stink』にあったような、汚れたユーモアと怒りのバランスが、年齢を重ねた形で復活している。
全曲レビュー
1. Burn Baby
オープニングの「Burn Baby」は、L7の復帰作の幕開けとして非常に効果的な楽曲である。タイトルからして、燃やすこと、破壊すること、火をつけることを連想させる。L7にとって火は、怒り、浄化、混乱、そしてロックンロールの原始的なエネルギーを象徴するものとして機能する。この曲は、長い休止を経たバンドが再び火をつける宣言のように響く。
音楽的には、重いギター・リフと直線的なビートが中心で、L7らしいシンプルな力強さがある。複雑な構成はなく、曲は短い時間で一気に燃え上がる。ヴォーカルは挑発的で、聴き手に向けてではなく、世界そのものに向かって火を投げるような感覚を持つ。復帰作の冒頭でありながら、過度に感傷的な再会のムードはない。むしろ、最初から喧嘩腰である。
歌詞では、破壊衝動と解放感が重なっている。燃やすことは、単なる破壊ではなく、古いもの、腐ったもの、退屈なものを消し去る行為でもある。『Scatter the Rats』というアルバム・タイトルとも関連し、ここでは害をなすものを追い払うための攻撃性が提示される。
「Burn Baby」は、本作の姿勢を明確にする曲である。L7は懐かしい過去を丁寧に再現するために戻ってきたのではない。まだ燃えるものがあり、まだ怒る理由があり、まだ大きな音で鳴らす意味がある。そのことを、最初の数分で強く示している。
2. Fighting the Crave
「Fighting the Crave」は、欲望や衝動との闘いをテーマにした楽曲である。“Crave”は強い渇望を意味し、依存、食欲、性的欲望、消費欲、自己破壊的な衝動など、さまざまな意味へ広がる。L7の歌詞はしばしば直接的で身体的だが、この曲ではその身体性が内側の闘争として描かれている。
音楽的には、グランジ的な重さとパンクの直線性が結びついている。ギターは分厚く、リズムは押し出しが強いが、曲全体にはどこか引きずるような粘りもある。これは、欲望に抵抗しながらも引き戻される感覚を音楽的に反映しているように聴こえる。
歌詞では、自分の中にある欲求を抑えようとする人物が描かれる。重要なのは、ここでの敵が外側だけではなく内側にもいる点である。L7の怒りはしばしば社会や他人に向けられるが、この曲では自己の中の衝動と向き合っている。だが、それは弱々しい自己告白ではない。むしろ、衝動と格闘する身体の荒さが、ロックのリフとして鳴っている。
「Fighting the Crave」は、アルバムの中でより内面的なテーマを担う曲である。欲望を美化せず、また道徳的に説教することもなく、それをただ重いギターと声で押し返す。L7らしい実践的なロック表現である。
3. Proto Prototype
「Proto Prototype」は、タイトルからして機械的で、実験的で、ややユーモラスな響きを持つ楽曲である。プロトタイプとは試作品、原型を意味する。そこにさらに“Proto”が重ねられることで、完成されていないもの、まだ作られる途中のもの、あるいは失敗作のようなイメージが強調される。L7の美学において、完成された美よりも、歪んだ試作品のような粗さは重要である。
音楽的には、リフの反復と硬いグルーヴが中心で、曲には少しロボット的なぎこちなさも感じられる。だが、それは冷たいエレクトロニックな感覚ではなく、ガレージ・ロック的な不器用さとして響く。L7は演奏を滑らかに整えるより、少し引っかかるような質感を残すことで、曲に個性を与えている。
歌詞では、完成品になれない存在、あるいは社会が求める標準から外れた存在が示されているように聴こえる。プロトタイプは、失敗作であると同時に、まだ可能性を持つ存在でもある。L7は、こうした不完全さを否定的に扱うのではなく、むしろそれを自分たちのロックの源にしている。
「Proto Prototype」は、本作の中でL7のユーモアと自己認識が表れた曲である。自分たちを完璧な製品として売り出すのではなく、粗く、奇妙で、まだ動き続ける試作品として提示する。その姿勢は、L7が長いキャリアの中で維持してきた反商業的な強さともつながっている。
4. Stadium West
「Stadium West」は、タイトルからして大きな会場、商業的なロック、アメリカ西海岸のショービジネス的な空気を連想させる楽曲である。L7は90年代に大きな注目を集めたが、彼女たちの音楽は常にメインストリームのロック・スター文化に対して皮肉な距離を持っていた。この曲にも、巨大なロック産業や成功のイメージへの冷笑が感じられる。
音楽的には、比較的スケールの大きいロック・サウンドを持ちながら、L7らしい粗さが残っている。ギターは厚く、リズムは堂々としているが、曲は過度にドラマティックにはならない。むしろ、大きな会場を意識したようなタイトルとは裏腹に、音にはどこか不機嫌で反抗的な空気がある。
歌詞では、スタジアム的な成功や西海岸的な虚飾が、皮肉を込めて扱われているように聴こえる。L7はロックの大きな舞台に立つことを完全に拒否していたわけではないが、その世界にある見栄や権力構造には敏感だった。特に女性バンドとして、彼女たちは常に見られ方、売られ方、消費され方に対して抵抗してきた。この曲は、その経験を踏まえた批評としても読める。
「Stadium West」は、アルバムの中でL7の社会的な視線が比較的強く出た曲である。大きなロックの舞台を内側から笑い飛ばすような感覚があり、復帰後の彼女たちが単に過去の成功を懐かしんでいないことを示している。
5. Murky Water Café
「Murky Water Café」は、タイトルだけで非常にL7らしい情景を作る楽曲である。“Murky Water”は濁った水を意味し、清潔さとは無縁の、汚れた、曖昧な、少し危険な場所を連想させる。そこに“Café”が加わることで、日常的な場所でありながら、どこか不穏な雰囲気を持つ空間が立ち上がる。
音楽的には、重く粘るギターと、少し沈んだムードが特徴である。L7の曲の中では、単純な爆発よりも、場所の空気を描くタイプの楽曲といえる。リズムはタイトだが、全体には濁った水のような重さがある。ヴォーカルも、叫ぶというより、汚れた場所から言葉を吐き出すように響く。
歌詞では、濁った水のカフェという場所が、社会の片隅や、落ち着かない日常を象徴しているように聴こえる。L7の音楽には、華やかなロック・ライフよりも、汚れた床、安い店、苛立つ人々、退屈な街角がよく似合う。この曲は、そうした反グラマラスな空間を音にしている。
「Murky Water Café」は、アルバムの中で情景描写の役割を持つ曲である。L7のロックは、ただ大きな音を鳴らすだけでなく、汚れた場所の空気をそのまま運んでくる力がある。この曲はその側面をよく示している。
6. Ouija Board Lies
「Ouija Board Lies」は、ウィジャ盤、つまり霊との交信に使われる占い道具を題材にした楽曲である。タイトルは「ウィジャ盤の嘘」となり、オカルト、迷信、自己欺瞞、インチキな神秘主義への皮肉を連想させる。L7のユーモアと不信感が強く表れたタイトルである。
音楽的には、パンク的な勢いとガレージ・ロック的な粗さがある。曲は短く、鋭く、無駄が少ない。L7は複雑な構成よりも、タイトルのイメージとリフの力で一気に押し切ることが多いが、この曲もそのタイプである。演奏には軽いホラー趣味のような不気味さもあり、テーマとよく合っている。
歌詞では、超自然的なメッセージや神秘的な言葉が、結局は嘘や思い込みにすぎないという視点が感じられる。これは単なるオカルト批判だけではなく、世の中にあふれる偽の真実、陰謀、自己正当化への皮肉としても聴ける。2010年代後半の情報環境を考えると、この曲の不信感は非常に現代的である。
「Ouija Board Lies」は、L7らしい冗談めいた攻撃性を持つ曲である。笑えるが、笑いの裏には、他人を操作する嘘や、信じたいものを信じてしまう人間への鋭い視線がある。本作の中でもタイトルとサウンドの相性がよいトラックである。
7. Garbage Truck
「Garbage Truck」は、タイトル通りゴミ収集車を題材にした楽曲であり、L7の反美学を象徴するような曲である。ロックがしばしば美しいイメージやスター性をまとおうとするのに対し、L7はゴミ、汚れ、悪臭、街の裏側のようなモチーフを堂々と扱う。これは彼女たちのパンク的な姿勢と深く結びついている。
音楽的には、重く単純なリフと、ガレージ感のある演奏が中心である。曲は洗練されておらず、むしろゴミ収集車が街を走るような鈍い推進力を持つ。ギターの音も清潔ではなく、ざらつきと圧力がある。L7はこうした音の汚さを、欠点ではなく武器として使う。
歌詞では、ゴミ収集車という日常的で低俗なイメージが、社会の不要物や人間関係の残骸と重なる。ゴミは誰かが出し、誰かが片づけなければならない。L7の音楽は、その片づけられる側、あるいは片づける側の視点に立つことが多い。きれいごとではなく、汚れた現実をそのまま見せる。
「Garbage Truck」は、アルバムの中でもL7のパンク的な反骨精神がよく出た曲である。美しくないものを題材にし、美しくない音で鳴らす。しかし、その中にこそロックの力があるということを示している。
8. Holding Pattern
「Holding Pattern」は、航空機が着陸待ちのために空中で旋回する状態を意味する言葉である。そこから転じて、物事が進まず、同じ場所に留まり続ける停滞状態を指すこともある。この曲は、動いているようで進んでいない感覚、現代生活の停滞感を扱っているように聴こえる。
音楽的には、反復するリフと中速のグルーヴが曲の中心にある。爆発的なパンクではなく、同じ場所を回り続けるような重さがある。タイトルの意味と音楽の構造がうまく結びついており、曲は前進しているようで、どこか閉じた輪の中にいるような印象を与える。
歌詞では、待たされること、決断できないこと、状況が変わらないことへの苛立ちが感じられる。L7の怒りは、単に外部への攻撃だけでなく、停滞そのものへの嫌悪でもある。何かが動き出さない状態、エネルギーが行き場を失う状態は、彼女たちの音楽にとって大きな敵である。
「Holding Pattern」は、本作の中でより心理的な閉塞感を表す曲である。復帰作である『Scatter the Rats』において、ただ再始動の勢いだけでなく、停滞から抜け出そうとする感覚があることを示している。
9. Uppin’ the Ice
「Uppin’ the Ice」は、タイトルからして冷たさ、強硬さ、緊張を高めることを連想させる楽曲である。“Upping”は何かを上げる、強めるという意味を持ち、“ice”は冷たさ、感情の遮断、危険な冷酷さを象徴する。L7らしい、少し奇妙で挑発的な言葉遣いである。
音楽的には、硬く引き締まったロック・サウンドが特徴で、アルバム後半に再び攻撃性を与える。ギターは厚く、ドラムは直線的で、ヴォーカルは冷たさと怒りを同時に持つ。曲は熱いロックでありながら、タイトル通りどこか冷めた態度も感じさせる。
歌詞では、感情を熱くするのではなく、逆に冷たく強化するような姿勢が示される。怒りを叫び散らすのではなく、氷のように固めて武器にする。この感覚は、年齢を重ねたL7の強さともつながる。若い頃の無差別な爆発ではなく、より冷静で、よりしたたかな攻撃性である。
「Uppin’ the Ice」は、『Scatter the Rats』の中で後半のテンションを引き締める曲である。L7の音楽が単に熱量だけではなく、冷笑や距離感を伴った攻撃性を持っていることを示している。
10. Cool About Easy
アルバムを締めくくる「Cool About Easy」は、タイトルからして、余裕、諦め、気楽さ、あるいは無理をしない態度を連想させる。『Scatter the Rats』の終曲として、この曲はそれまでの怒りや攻撃性を少し別の温度へ落とし込む役割を持つ。
音楽的には、比較的リラックスしたグルーヴがあり、アルバムの最後に少し肩の力を抜くような印象を与える。もちろん、L7らしいギターの厚みやざらつきは残っているが、曲全体には過剰に攻め込まない余裕がある。これは、若いバンドの勢いとは異なる、ベテラン・バンドとしての落ち着きともいえる。
歌詞では、物事を簡単に受け流すこと、あるいは無理に深刻ぶらないことがテーマになっているように聴こえる。L7は怒りのバンドであると同時に、ユーモアと脱力のバンドでもある。すべてを大げさに語るのではなく、時には「まあいい」と言いながら、次へ進む。その態度がこの曲にはある。
「Cool About Easy」は、本作を過度に劇的な結論で閉じない。怒り、汚れ、嘘、停滞、欲望を通り抜けた後に、最後は少し冷めた余裕を残す。L7らしい、気取らない終わり方である。
総評
『Scatter the Rats』は、L7の復帰作として非常に自然で、説得力のあるアルバムである。20年ぶりのスタジオ・アルバムという大きな空白を持ちながら、本作は過剰な感動的再会や、過去の名曲の再現に寄りかかっていない。むしろ、L7はあくまでL7らしく、短く、重く、皮肉で、汚れたギター・ロックを鳴らしている。そこに本作の強さがある。
アルバム全体を通じて、L7の音楽的な核はほとんど変わっていない。分厚いギター、直線的なビート、投げ捨てるようなヴォーカル、ユーモアを含んだ怒り。1990年代のグランジ/オルタナティヴ時代に彼女たちが示した魅力は、本作でもしっかり残っている。ただし、若い頃の爆発とは違い、ここには生き残ったバンドの図太さがある。怒りはまだあるが、それは刹那的な衝動ではなく、長年にわたって腐ったものを見続けてきた者の怒りである。
歌詞面では、社会への不信、欲望との格闘、停滞、嘘、汚れた日常、音楽業界や成功への皮肉が描かれる。「Burn Baby」では破壊と再点火が歌われ、「Fighting the Crave」では内側の衝動が扱われ、「Ouija Board Lies」では偽りの神秘や嘘が笑い飛ばされる。「Garbage Truck」では汚れた現実そのものがロックの題材になり、「Holding Pattern」では停滞への苛立ちが表れる。これらの主題は、L7が単なる懐古的なグランジ・バンドではなく、現在の社会にも有効な視線を持っていることを示す。
音楽的には、新しいジャンルへ大きく踏み込む作品ではない。エレクトロニック化やポップ化を目指すのではなく、あくまでギター・バンドとしてのL7を再確認している。だが、その選択は本作において正しい。L7の強みは、複雑なアレンジではなく、音の塊と態度の説得力にある。『Scatter the Rats』は、その強みを無理なく提示している。音は現代的に録音されているが、清潔すぎず、過去の粗さも失っていない。
本作を1990年代の代表作『Bricks Are Heavy』や『Hungry for Stink』と比べると、当時の時代を切り裂くような衝撃は弱いかもしれない。だが、復活作に求められるのは必ずしも歴史を再び変えることではない。重要なのは、バンドが自分たちの声を失わず、現在の時間の中で鳴らせるかどうかである。その点で『Scatter the Rats』は成功している。L7は過去の博物館から戻ってきたのではなく、まだ街のどこかでネズミを追い払う音を鳴らしている。
日本のリスナーにとって本作は、L7を90年代のグランジ・ブームの一部としてだけでなく、長く続くパンク/オルタナティヴの反抗的な精神を体現するバンドとして理解するための作品である。NirvanaやHole、Babes in Toyland、The Gits、Bikini Kill、Sleater-Kinneyなどの文脈と並べて聴くと、L7の立ち位置がより明確になる。彼女たちはフェミニズムを理論的に語るだけのバンドではなく、ギターの音、態度、下品なユーモア、ステージ上の存在感を通じて、男性中心のロック文化に異物を投げ込んだバンドだった。
『Scatter the Rats』は、L7の最高傑作ではないかもしれない。しかし、復帰作としては非常に意味のあるアルバムである。過去の栄光を過剰に飾らず、現在の自分たちにできる最もL7らしいことをやる。汚れたリフを鳴らし、嘘を笑い飛ばし、停滞を蹴り、ネズミを散らす。その姿勢が、本作の価値である。L7というバンドが、時代を越えてなお有効な騒音と反抗心を持っていることを示した、痛快な復活作といえる。
おすすめアルバム
1. L7『Bricks Are Heavy』
1992年発表の代表作で、L7の名を広く知らしめたアルバム。「Pretend We’re Dead」を収録し、グランジ、パンク、ハード・ロックを結びつけた鋭いサウンドが特徴である。『Scatter the Rats』の復帰後の音を理解するうえで、まず参照すべき最重要作である。
2. L7『Hungry for Stink』
1994年発表のアルバムで、より攻撃的で重いL7の魅力が強く表れている。音は荒く、歌詞もより直接的で、バンドのパンク的な怒りが濃厚に刻まれている。『Scatter the Rats』の重いリフや皮肉の原型を知るために重要である。
3. Babes in Toyland『Fontanelle』
1992年発表のオルタナティヴ・ロック/ノイズ・パンクの重要作。女性ヴォーカルによる怒り、歪んだギター、叫びに近い表現が特徴で、L7と同時代の女性主体ロックの攻撃性を理解するうえで関連性が高い。
4. Hole『Live Through This』
1994年発表の名盤で、グランジ、パンク、メロディ、女性の怒りと脆さが強烈に結びついている。L7よりも告白的でドラマティックだが、90年代女性オルタナティヴ・ロックの重要な文脈として欠かせない作品である。
5. Sleater-Kinney『Dig Me Out』
1997年発表の代表作で、Riot Grrrl以後のインディー・ロックを鋭く更新したアルバム。L7よりもポストパンク的でリズムが複雑だが、女性バンドがロックの形式を自分たちの言葉と身体で再構築するという点で強く関連する。

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