1. 歌詞の概要
「Cathedral」は、アメリカ・テキサス州オースティン出身のインディーデュオ、Hovvdy（ホウディ）が2021年にリリースしたアルバム『True Love』に収録された楽曲である。
この曲は、人生の静かな瞬間──家族、故郷、そして自分自身との小さな和解──を、まるで夢をなぞるような柔らかさで描いている。
タイトルの「Cathedral（大聖堂）」は、宗教的な荘厳さというよりも、むしろ心の中にある静かな聖域、守られた空間を象徴している。
日々の喧騒から少し離れて、自分自身と向き合うような穏やかな時間。
「Cathedral」は、そうした内省的な時間を、ほのかな郷愁と温もりとともに切り取った楽曲なのである。
Hovvdy特有のローファイでありながらきめ細やかなサウンドプロダクションが、リスナーを優しく包み込み、まるで心の奥に隠れていた記憶をそっと撫でるような感覚を呼び覚ます。
2. 歌詞のバックグラウンド
Hovvdyは、Charlie MartinとWill Taylorの二人によって結成され、静かで内省的なリリックと、ミニマルで心地よいローファイサウンドで知られている。
彼らの楽曲は、特別なことを歌うのではなく、むしろ「何気ない日常」に潜む感情の揺らぎや、時間の流れに対する感受性を大切にしている。
「Cathedral」も例外ではなく、子供時代の記憶、家族とのつながり、そして人生の静かな祝福を描き出している。
この曲の背景には、CharlieとWill自身が大人になってから見つめ直した家族や故郷への想いがあり、彼らにとって「カテドラル（大聖堂）」とは、物理的な建築物ではなく、内面的な安心の象徴なのである。
サウンドプロダクションには、アナログ感のあるギターや控えめなリズムセクションが使われており、ふわりと漂うようなヴォーカルが楽曲全体に温もりと夢幻性を与えている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Cathedral」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳とともに紹介する。
“I could hold you in the cathedral”
この大聖堂で、君を抱きしめることができる“I could see the old light coming through”
古い光が差し込んでくるのが見える“I keep the picture in my mind”
あの光景を、心の中に大事にしまっている“I know I got a lot to learn”
僕にはまだ学ばなきゃいけないことがたくさんある
これらのフレーズは、過去と現在のあわいにある微かな光をとらえ、失われたものと、今もそこにあるものの両方を静かに讃えている。
※歌詞引用元：Genius Lyrics
4. 歌詞の考察
「Cathedral」の歌詞は、過去へのノスタルジーと、今ここにいる自分を受け入れようとする優しい意志を織り交ぜている。
“I could hold you in the cathedral”というラインは、ただのラブソング的な抱擁を意味しているのではない。
それは、無防備な状態で誰かと深くつながれる、心の聖域のような空間を暗示している。
家族、友人、あるいは過去の自分──誰であれ、そこにあるのは無条件の受容と温もりなのだ。
また、”I know I got a lot to learn”という一節には、過去を美化するだけではなく、現在の自分自身に対する誠実な認識が滲んでいる。
まだ未熟で、まだ迷っている。
でも、それでもいい。
「Cathedral」は、そんな未完成の自分を肯定するための静かな賛歌なのだ。
Hovvdyは、この曲を通して「成長」や「変化」を特別なものとしてではなく、日々の中に自然に存在するものとして描いている。
そのささやかでリアルな感覚こそが、聴く者の心にそっと寄り添うのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Not by Big Thief
失われたものへの優しい眼差しと、今あるものへの感謝を繊細に描いたフォークソング。 - Emily by Joanna Newsom
家族と時間、そして自己理解をテーマにした、壮大でありながら親密な楽曲。 - Mystery of Love by Sufjan Stevens
愛と喪失、そして救済への静かな賛歌。 - Souvenirs by Boygenius
過去を抱きしめるような優しさに満ちた、繊細なバラード。 -
Somewhere by Gus Dapperton
孤独と希望を同時に描き出す、ドリーミーなインディーポップ。
これらの楽曲も、「Cathedral」と同じように、過去と現在、孤独とつながりのあわいを美しく、そして静かに描いている。
6. “心の奥に、静かな聖域を持つこと”──Hovvdyが描く時間と記憶の優しさ
「Cathedral」は、時間の流れの中で失われたものと、今ここにあるもの、その両方を静かに讃える楽曲である。
誰かを抱きしめた記憶。
差し込む古い光。
まだ不完全な自分。
それらすべてを、「ああ、これでいいんだ」と受け入れるための、小さな祈り。
Hovvdyは、そんな静かな再生の物語を、まるでそっと耳元で囁くように歌う。
聴き終えたあと、私たちもきっと、自分自身の中にある「カテドラル」を見つけるだろう。
それは誰に見せるわけでもない、ただ自分のためだけの、静かで優しい場所だ。
そしてそこから、また少しだけ、前に進める気持ちになれるはずだ。
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