
発売日:2018年11月30日
ジャンル:エレクトロポップ、ダンス・ポップ、トロピカル・ハウス、クラシカル・クロスオーバー、R&B、UKポップ
概要
Clean Banditの2作目となる『What Is Love?』は、デビュー作『New Eyes』で提示されたクラシック音楽とダンス・ポップの融合を、より大規模なメインストリーム・ポップへと押し広げたアルバムである。2014年の「Rather Be」の世界的成功によって、Clean Banditは弦楽器を中心としたクラシカルなアレンジと、ハウス/エレクトロポップのビート、そして外部ヴォーカリストの強い個性を組み合わせるグループとして広く知られるようになった。『What Is Love?』は、その方法論をさらに洗練し、シングル単位で機能する強力なポップ・ソングを多数収めた作品である。
本作のタイトルは、非常に直接的で普遍的な問いを掲げている。「愛とは何か」。この問いはポップ・ミュージックの中心に常に存在してきたものだが、Clean Banditはそれを一人の主人公の物語としてではなく、多数のヴォーカリストの声を通じて提示する。恋愛、喪失、片思い、母の愛、自己肯定、別れ、欲望、孤独、友情に近い親密さ。アルバムに登場する愛は一つの形に固定されず、楽曲ごとに異なる表情を見せる。
デビュー作『New Eyes』では、クラシック音楽の引用や室内楽的な構成がより前面に出ていた。それに対して『What Is Love?』では、より明確にチャート・ポップとしての完成度が重視されている。トロピカル・ハウス以降の軽いリズム、R&B的なヴォーカル処理、ラテン・ポップ、ダンスホール、エレクトロポップ、バラード的なストリングスが組み合わされ、各曲は強いフックを持つ。クラシック要素は残っているが、以前よりもポップ・プロダクションの一部として自然に溶け込んでいる。
本作を特徴づけるのは、豪華な客演陣である。Demi Lovato、Sean Paul、Anne-Marie、Zara Larsson、Ellie Goulding、Rita Ora、Charli XCX、Bhad Bhabie、KYLE、Tove Styrke、Luis Fonsi、Marina、Davidoなど、ポップ、R&B、ダンスホール、ラテン、ヒップホップの領域から多様な声が集められている。Clean Bandit自身は固定されたリード・シンガーを持たず、楽曲ごとに異なるヴォーカリストを迎えることで、愛の複数性を音楽的に表現している。
キャリア上の位置づけとして、『What Is Love?』はClean Banditがアルバム・アーティストというより、現代ポップのコラボレーション型プロデューサー集団として確立された作品である。Grace Chattoのチェロを含む弦楽器の感覚、Jack Pattersonのプロダクション、クラブ・ミュージックとポップの接続が、外部ヴォーカリストの個性と結びつく。つまり、本作の主役は一人ではない。Clean Banditが作る枠組みの中で、さまざまな声が愛をめぐる異なる物語を語る構成になっている。
また、本作は2010年代後半のポップ・ミュージックの状況をよく反映している。Spotify以降のストリーミング時代において、アルバムは一つの長大な物語であると同時に、単曲ごとにプレイリストへ入り込むことも求められた。『What Is Love?』はその意味で、非常に時代に合った作品である。各曲は独立したヒット・ポテンシャルを持ちながら、全体として「愛とは何か」というテーマによって緩やかにつながっている。
全曲レビュー
1. Symphony feat. Zara Larsson
アルバム冒頭の「Symphony」は、Clean Banditの美学を非常に分かりやすく示す代表曲である。タイトルが示す通り、交響曲というクラシック音楽の語彙をポップ・ソングへ変換した楽曲であり、ストリングスの美しいフレーズとダンス・ポップのビート、Zara Larssonの力強いヴォーカルが一体となっている。
歌詞では、相手との関係が音楽にたとえられる。一人では不完全だった旋律が、相手と出会うことで交響曲になるという構図である。これは非常にポップで分かりやすい比喩だが、Clean Banditにとっては特に意味がある。彼ら自身がクラシックとポップを接続するグループであるため、愛を「シンフォニー」として表現することは、音楽的コンセプトと歌詞のテーマを直接結びつけている。
Zara Larssonの歌唱は、透明感と力強さの両方を持つ。サビでは大きく開けたメロディを伸びやかに歌い、曲に高揚感を与える。サウンドは感傷的になりすぎず、ビートによって前へ進む力を保っている。アルバムの冒頭に置かれることで、本作が扱う「愛」と「音楽」の結びつきを鮮やかに提示する曲である。
2. Baby feat. Marina & Luis Fonsi
「Baby」は、MarinaとLuis Fonsiを迎えた楽曲であり、Clean Banditがラテン・ポップのリズムを取り入れた一曲である。アコースティック・ギター風の響き、軽快なビート、情熱的なメロディが組み合わさり、アルバムの中でも特に国際的なポップ感覚を持つ。
歌詞では、過去の恋愛への未練と、すでに別の関係に進んでしまった後の後悔が描かれる。相手をまだ求めているが、状況は変わってしまっている。「Baby」という呼びかけは親密で甘いが、その裏には取り戻せない時間への痛みがある。
Marinaの声は、演劇的で少し冷めたニュアンスを持ち、感情の複雑さを表現するのに適している。一方、Luis Fonsiの参加によって、曲にはラテン・ポップらしい滑らかな情熱が加わる。Clean Banditのストリングスはここでは控えめに機能し、ラテン調のリズムと自然に融合している。世界的なポップ市場を意識した楽曲でありながら、失恋の苦さも保っている点が特徴である。
3. Solo feat. Demi Lovato
「Solo」は、本作の中でも最も成功した楽曲の一つであり、Demi Lovatoの力強いヴォーカルが中心に置かれている。タイトルは「一人」を意味し、恋愛関係が終わった後の孤独、欲望、自己回復を描く。軽快なトロピカル・ハウス風のビートに乗せて、非常にキャッチーなサビが展開される。
歌詞では、別れた相手を忘れようとしながらも、身体的な欲望や寂しさが残っている状態が描かれる。一人でいることは自由であると同時に、孤独でもある。この曲は、その二面性を明るいポップ・サウンドで包み込む。悲しみを重いバラードとしてではなく、踊れるポップとして提示する点にClean Banditらしさがある。
Demi Lovatoのヴォーカルは非常に存在感があり、サビのメロディを強く印象づける。彼女の声には、傷ついた後でも前へ進もうとする力がある。サウンド面では、弦楽器の要素は強く主張しすぎず、ビートとメロディの即効性が重視されている。『What Is Love?』がストリーミング時代のポップ・アルバムであることを象徴する楽曲である。
4. Rockabye feat. Sean Paul & Anne-Marie
「Rockabye」は、Clean Banditの代表曲の一つであり、本作のテーマを大きく広げる重要曲である。Sean PaulとAnne-Marieを迎えたこの曲は、ダンスホールのリズム、ポップなメロディ、クラシカルなストリングスを組み合わせながら、シングルマザーの愛を描く。恋愛ではなく、母親の子どもへの愛が中心に置かれている点で、本作の中でも特別な位置を占める。
タイトルの「Rockabye」は子守歌を連想させる言葉であり、曲全体にも母が子を守るイメージがある。しかし、歌詞の内容は単なる優しい子守歌ではない。困難な環境の中で子どもを育てる女性の強さ、社会的な厳しさ、経済的な不安が描かれる。ポップ・ソングでありながら、社会的な現実も含んでいる。
Anne-Marieの歌唱は親しみやすく、物語を分かりやすく伝える。Sean Paulの声は曲にリズムのアクセントを加え、ダンスホール的な躍動感を生む。Clean Banditのストリングスは、メロディに感情的な厚みを加え、曲を単なるクラブ向けポップ以上のものにしている。愛をロマンティックな関係に限定せず、家族愛や献身として描いた点で、本作のタイトルへの重要な回答になっている。
5. Mama feat. Ellie Goulding
「Mama」は、Ellie Gouldingを迎えた楽曲であり、タイトルから母親との関係を想起させる。Ellie Gouldingの透明感のある声と、Clean Banditの繊細なプロダクションが組み合わさり、楽曲には幻想的で少し切ない空気が漂う。
歌詞では、成長、後悔、母親への呼びかけ、あるいは自分自身の過去を振り返る感覚が描かれる。母という存在は、無条件の愛や保護を象徴する一方で、そこから離れていくこと、期待に応えられないことへの罪悪感も含む。この曲では、そうした複雑な感情がポップな形で表現される。
音楽的には、ビートは軽く、シンセとストリングスが柔らかく重なる。Ellie Gouldingの声は空気のように漂い、曲に浮遊感を与える。『Rockabye』が社会的な母の愛を描いた曲だとすれば、「Mama」はより個人的で内面的な母への視線を持つ曲として聴くことができる。
6. Should’ve Known Better feat. Anne-Marie
「Should’ve Known Better」は、Anne-Marieを再び迎えた楽曲であり、後悔と自己認識をテーマにしている。タイトルは「もっと分かっているべきだった」という意味で、恋愛関係において同じ過ちを繰り返してしまう感覚が描かれる。
サウンドは比較的落ち着いており、Anne-Marieの声の表情がよく伝わる。彼女の歌唱には親しみやすさと少しの棘があり、後悔を単なる悲しみではなく、自己への苛立ちとして表現している。Clean Banditのアレンジは過度に派手ではなく、歌詞の感情を支える形で機能する。
歌詞では、相手の問題や関係の危うさに気づいていたはずなのに、それでも惹かれてしまった人物の心理が描かれる。恋愛における後悔は、相手への怒りだけでなく、自分自身への失望を伴う。この曲は、その感情をストレートに扱っている。アルバムの中で、明るいヒット曲群とは異なる内省的な位置を持つ一曲である。
7. Out at Night feat. KYLE & Big Boi
「Out at Night」は、KYLEとBig Boiを迎えた楽曲であり、アルバムの中でもヒップホップ寄りの軽快なナンバーである。タイトルは夜に外へ出ることを示し、クラブ、街、出会い、若者的な自由を連想させる。
サウンドは明るく、リズムは弾むように進む。KYLEの軽やかなラップは曲にユーモアと若々しさを加え、Big Boiの参加によってヒップホップの歴史的な厚みも加わる。Clean Banditのポップなプロダクションは、二人のラップを重くしすぎず、軽快なダンス・ポップとしてまとめている。
歌詞では、夜の外出が自由や自己表現の場として描かれる。昼間の社会的な役割から離れ、夜になると別の自分になれる。これはポップ・ミュージックにおいて古くからあるテーマだが、本曲ではそれが現代的でカジュアルな雰囲気で表現されている。本作の中では、愛や別れの重さから一歩離れ、夜の楽しさを軽く描く曲として機能している。
8. Last Goodbye feat. Tove Styrke & Stefflon Don
「Last Goodbye」は、Tove StyrkeとStefflon Donを迎えた楽曲であり、別れの最後の瞬間をテーマにしている。タイトル通り、関係の終わりに交わされる最後の別れが中心にある。感傷的な題材だが、サウンドは過度に重くならず、ポップなリズムを保っている。
Tove Styrkeの声は少し冷たく、北欧ポップ的な透明感を持つ。そのため、別れの歌でありながら、感情を過剰に泣き崩れる形ではなく、どこか距離を置いて表現している。Stefflon Donの参加は、曲にリズムの強さと現代的なエッジを加える。
歌詞では、最後の別れでありながら、完全に気持ちが整理されているわけではない状態が描かれる。別れを口にしても、感情は簡単には終わらない。Clean Banditはここで、悲しみをダンス・ポップの軽さの中に置くことで、失恋の痛みを日常的で現代的なものとして描いている。
9. We Were Just Kids feat. Craig David & Kirsten Joy
「We Were Just Kids」は、Craig DavidとKirsten Joyを迎えた楽曲であり、過去の若さや未熟さを振り返る内容を持つ。タイトルは「私たちはただの子どもだった」という意味で、若い頃の恋愛、失敗、純粋さ、後悔を示している。
Craig Davidの参加は、本作にUK R&B/ガラージの文脈を加える。彼の滑らかな歌唱は、Clean Banditのダンス・ポップと相性が良く、曲に成熟したR&Bの雰囲気を与えている。Kirsten Joyの声も楽曲に温かみを加え、過去を振り返る視点に説得力を持たせる。
歌詞では、若さゆえに理解できなかったこと、うまく愛せなかったこと、時間が経って初めて見える感情が描かれる。若い頃の恋愛は、未熟で傷つきやすいが、その分だけ純粋でもある。この曲は、そうした過去を責めるのではなく、少し距離を置いて受け止める。アルバムのテーマである愛を、時間の経過と成長の視点から考える曲である。
10. Nowhere feat. Rita Ora & KYLE
「Nowhere」は、Rita OraとKYLEを迎えた楽曲であり、関係の行き詰まりや、どこにもたどり着けない感覚を描く。タイトルの「Nowhere」は「どこにもない場所」「行き場のなさ」を意味し、恋愛や人生の停滞を象徴している。
サウンドは明るく、ダンス・ポップとして非常に聴きやすい。Rita Oraの歌声は力強く、サビに高揚感を与える。一方で、歌詞では関係が前へ進まないことへの苛立ちや虚しさが描かれる。この明るい音と停滞感の対比が曲の面白さである。
KYLEのラップは軽やかで、楽曲の重さを和らげる役割を持つ。Clean Banditのプロダクションは、シンセとビートを中心にしながら、ストリングス的な美しさも残している。どこにも行けないというテーマを、動きのあるポップ・サウンドで表現している点が特徴的である。
11. I Miss You feat. Julia Michaels
「I Miss You」は、Julia Michaelsを迎えた楽曲であり、本作の中でも特に繊細な失恋ソングである。Julia Michaelsは、日常的な言葉で心の細かな揺れを表現することに長けたソングライター/シンガーであり、この曲でもその強みがよく表れている。
サウンドは抑制されており、派手なダンス・ビートよりも、感情の余白が重視される。ストリングスは繊細に配置され、曲全体に切なさを加える。Clean Banditのクラシカルな美しさが、ポップ・バラードとして最も自然に機能している曲の一つである。
歌詞では、別れた相手への未練が非常に率直に歌われる。「会いたい」という感情はシンプルだが、その背後には、まだ消えない習慣、思い出、身体的な記憶がある。Julia Michaelsの声は過度に劇的ではなく、むしろ近くで話すように響く。そのため、曲は大げさな失恋ソングではなく、日常の中に残る小さな痛みとして機能している。
12. In Us I Believe feat. ALMA
「In Us I Believe」は、ALMAを迎えた楽曲であり、タイトルが示す通り、関係への信頼や希望をテーマにしている。「私たちを信じている」という言葉は、恋愛における不安や困難を前提にしながら、それでも関係を諦めない姿勢を示す。
ALMAの声は太く、少しハスキーで、アルバムの中でも独特の存在感を持つ。Clean Banditの滑らかなプロダクションに対して、彼女の声は感情の粗さや現実味を加える。サウンドは明るく、ポップな高揚感があるが、歌詞には信じることの難しさも含まれている。
この曲は、本作のタイトルへの一つの答えとして聴くことができる。愛とは、確信がある状態ではなく、不安がある中でなお相手や関係を信じることなのかもしれない。Clean Banditはこの曲で、愛を感情の高まりだけでなく、意志として描いている。
13. 24 Hours feat. Yasmin Green
「24 Hours」は、Yasmin Greenを迎えた楽曲であり、時間の限られた関係や、一日という短い単位の中で揺れる感情を扱う。タイトルの「24時間」は、限られた時間、夜から朝までの流れ、あるいは関係が一時的であることを示す。
サウンドは軽快で、Clean Banditらしいダンス・ポップの作りになっている。Yasmin Greenのヴォーカルは柔らかく、楽曲に親密な温度を与える。曲全体には、長期的な約束というより、短い時間の中で強く燃える感情がある。
歌詞では、時間が限られているからこそ、今この瞬間を大切にしようとする感覚が描かれる。これは恋愛の高揚であると同時に、儚さでもある。Clean Banditのポップなビートは、その儚さを重くしすぎず、軽やかなダンス・ソングとしてまとめている。
14. Playboy Style feat. Charli XCX & Bhad Bhabie
「Playboy Style」は、Charli XCXとBhad Bhabieを迎えた楽曲であり、本作の中でも最も挑発的で現代的なポップ感覚を持つ一曲である。タイトルからして、恋愛や欲望のゲーム性、自己演出、派手なライフスタイルを連想させる。
Charli XCXの参加によって、曲にはハイパーで少し人工的なポップの質感が加わる。彼女は2010年代以降のポップにおいて、メインストリームと実験的なエレクトロポップの境界を行き来してきた存在であり、本曲でもその鋭さが感じられる。Bhad Bhabieのラップは、若い世代のインターネット的な挑発性を持ち込む。
歌詞では、恋愛や欲望がスタイルとして消費される感覚が描かれる。愛は深い誓いというより、自己イメージや遊びの一部として扱われる。これは本作の他の曲にある誠実な愛や母性とは対照的であり、アルバムが愛の多様な形を扱っていることを示す。Clean Banditの中ではやや異色だが、現代ポップの表層性を捉えた楽曲である。
15. Beautiful feat. Davido & Love Ssega
「Beautiful」は、DavidoとLove Ssegaを迎えた楽曲であり、アフロポップ的な軽やかさを持つ。Davidoの参加によって、曲には西アフリカ由来のリズム感と明るい陽気さが加わる。Clean Banditの国際的なポップ志向がよく表れた一曲である。
歌詞では、美しさ、魅力、相手への賛美が中心となる。タイトル通り、比較的シンプルなラブソングとして機能するが、サウンドのリズム感によって、甘さよりも軽快さが前面に出る。Love Ssegaの声も曲に遊び心を加える。
音楽的には、ストリングスは控えめで、アフロポップ的なビートとメロディが中心である。Clean BanditがクラシックとUKダンスだけでなく、グローバルなポップ・リズムを吸収しようとしていたことが分かる。アルバム終盤に明るい色彩を与える楽曲である。
16. Tears feat. Louisa Johnson
「Tears」は、Louisa Johnsonを迎えた楽曲であり、『What Is Love?』の中でも特にドラマティックなダンス・ポップである。強いヴォーカル、ピアノ、ストリングス、ダンス・ビートが組み合わさり、失恋からの解放を大きなカタルシスへ変換している。
歌詞では、相手に傷つけられた後、涙を流しながらも自分を取り戻していく姿が描かれる。涙は弱さの象徴であると同時に、感情を洗い流す行為でもある。この曲では、泣くことが敗北ではなく、回復への過程として表現される。
Louisa Johnsonの歌唱は非常に力強く、サビでは感情が大きく開放される。Clean Banditのアレンジも劇的で、ストリングスが曲にスケールを与える。ダンス・ポップとしての推進力と、失恋バラードとしての感情が高いレベルで結びついた楽曲である。アルバム終盤に置かれることで、本作の感情的なクライマックスの一つになっている。
総評
『What Is Love?』は、Clean Banditがデビュー作『New Eyes』で築いたクラシックとダンス・ポップの融合を、よりメインストリームで、よりグローバルな形へ発展させたアルバムである。前作にあった実験性や室内楽的な奇妙さはやや後退し、その代わりに、シングルとして強く機能するポップ・ソングが並ぶ。これは商業的な方向への変化であると同時に、Clean Banditの方法論がより明確になった結果でもある。
本作の中心には、タイトル通り「愛とは何か」という問いがある。ただし、アルバムはその問いに一つの答えを与えるわけではない。「Symphony」では愛は二人で作る音楽として描かれ、「Solo」では失恋後の孤独として描かれ、「Rockabye」では母親の献身として描かれ、「I Miss You」では未練として描かれ、「In Us I Believe」では信じる意志として描かれる。愛は美しく、苦しく、身体的で、家族的で、時に一時的で、時に自己回復の契機になる。本作はその複数の形を、異なる声を通じて提示している。
音楽的には、Clean Banditのクラシック要素は依然として重要だが、前作よりも自然にポップ・プロダクションへ溶け込んでいる。ストリングスは「Symphony」や「Tears」のような楽曲では強く印象に残るが、全体としてはビート、シンセ、ヴォーカル・フックと一体化している。これは、Clean Banditがクラシックの要素を特別な売り物としてではなく、自分たちのポップ言語の一部として扱えるようになったことを示している。
一方で、本作にはアルバムとしての統一感に関する課題もある。多数の客演を迎えているため、曲ごとのキャラクターは非常に強いが、一人の語り手による一貫した物語としては聴こえにくい。また、シングルとして発表された楽曲が多く、アルバムというよりヒット曲集に近い印象もある。しかし、それは現代ポップのあり方とも一致している。ストリーミング時代において、各曲が独立した生命力を持つことは大きな強みでもある。
客演陣の多様性は、本作の最も大きな特徴である。Zara Larsson、Demi Lovato、Anne-Marie、Ellie Goulding、Rita Oraといった強いポップ・ヴォーカリストが感情的な中心を作り、Sean Paul、KYLE、Big Boi、Stefflon Don、Bhad Bhabie、Davidoらがリズムやジャンルの幅を広げる。Clean Banditは、これらの声を統一するプロデューサーとして機能している。つまり本作では、バンドの個性は前面に出る声そのものではなく、声を配置する設計力にある。
歌詞の面では、恋愛の幸福だけでなく、別れ、後悔、孤独、母性、自己肯定が扱われる点が重要である。特に「Rockabye」は、ポップ・アルバムの中で母親の愛と社会的な困難を扱った曲として際立っている。また「Solo」や「Tears」は、失恋を踊れるポップへ変換することで、悲しみを自己回復のエネルギーに変えている。Clean Banditの音楽では、涙や孤独は終点ではなく、ビートに乗って前へ進むための素材になる。
日本のリスナーにとって『What Is Love?』は、洋楽ポップ入門として非常に聴きやすい作品である。メロディは明快で、ビートは軽く、客演アーティストの声もそれぞれ個性があるため、曲ごとに楽しみやすい。一方で、前作『New Eyes』のようなクラシックとダンスの実験性を強く期待すると、本作はやや商業的で整いすぎていると感じられるかもしれない。しかし、その整え方こそが本作の狙いであり、Clean Banditが世界的ポップ・アクトとして完成度を高めた証でもある。
『What Is Love?』は、Clean Banditが「Rather Be」の成功を一過性のものにせず、複数のヒット曲を生み出すポップ・プロダクションとして確立された作品である。クラシックの知性、ダンス・ミュージックの身体性、ポップの普遍性、そして多様な声による愛の物語。そのすべてを組み合わせた本作は、2010年代後半のグローバル・ポップを象徴する一枚であり、Clean Banditのキャリアにおける商業的・音楽的な到達点の一つである。
おすすめアルバム
1. New Eyes by Clean Bandit
Clean Banditのデビュー作であり、クラシック音楽とダンス・ポップを融合する彼らの原点が最も実験的に表れている。『What Is Love?』よりもアルバム全体の振れ幅が大きく、「Mozart’s House」や「Rather Be」など、初期のコンセプトを明確に示す楽曲が収録されている。
2. Communion by Years & Years
エレクトロポップ、ハウス、R&Bを融合した英国ポップ作品である。Clean Banditよりも固定ヴォーカルの個性が強いが、2010年代英国ポップにおけるダンス・ミュージックと感情表現の結びつきを理解するうえで関連性が高い。
3. Settle by Disclosure
UKガラージ、ハウス、R&Bヴォーカルをポップ・チャートへ押し上げた重要作である。Clean Banditとはクラシック要素の有無で異なるが、英国クラブ・ミュージックとポップ・ソングの接点を知るうえで欠かせない作品である。
4. Home by Rudimental
ドラムンベース、ソウル、ポップ、UKクラブ・ミュージックを複数のヴォーカリストとともに展開した作品である。Clean Banditと同じく、プロデューサー集団が多様な声を配置する形式を持ち、感情的な歌とダンス・ビートの融合という点で強く関連している。
5. Dua Lipa by Dua Lipa
2010年代後半のグローバル・ポップにおけるダンス・ポップ、R&B、エレクトロポップの感覚を示す作品である。Clean Banditの「Scared to Be Lonely」周辺のポップ感覚とも近く、明快なメロディとクラブ向けのビートを両立する現代ポップの文脈を理解するうえで有効な関連作である。

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