1. 歌詞の概要
「I Will Dare」は、The Replacementsが1984年に発表した3rdアルバム『Let It Be』の冒頭を飾るナンバーであり、彼らの音楽的転換点を象徴する楽曲である。
この曲の中心にあるのは、“dare”＝「あえてする」という言葉に込められた衝動と希望である。恋に落ちること、不確かな未来に飛び込むこと、失敗する可能性を受け入れてでも行動を選ぶこと——そうした決意のようなものが、ポール・ウェスターバーグの柔らかな歌声と、軽快なギターサウンドに乗せて語られている。
パンクの荒削りなエネルギーを残しながらも、ここで彼らは“暴れること”よりも“感じること”を選んだ。つまりこの曲は、ラブソングのかたちを借りた、The Replacements自身の“表現の幅を広げるための一歩”でもあったのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「I Will Dare」が収録された『Let It Be』は、The Replacementsにとってブレイクスルーとなったアルバムであり、1980年代のインディーロック／オルタナティブ・ロックの原点として今なお多くのアーティストに影響を与えている。
当時、バンドはまだツアーヴァン生活を続ける若き無名バンドだったが、ミネアポリスのパンク・シーンから抜け出し、より広い音楽世界へと踏み出そうとしていた。「I Will Dare」はその象徴的な第一歩であり、“俺はやってみせる”“恐れずに進む”という決意の表明であると同時に、音楽的にもそれまでのパンク路線から脱皮し、ポップ、カントリー、ロカビリーなど多様な要素を柔らかく取り入れている。
また、R.E.M.のピーター・バックがこの曲でギター・ソロを担当しており、ミネアポリスとアセンズ（R.E.M.の拠点）という2つのアメリカ・インディー聖地が交差する瞬間としても、歴史的な意味を持つ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。全歌詞はこちら（Genius Lyrics）を参照。
How young are you?
How old am I?
君はどれくらい若くて
僕はどれくらい歳をとってる？
Let’s count the rings around my eyes
僕の目のまわりのシワを数えてみようか
年齢差や経験値の違い、あるいは過去の痛みをユーモア混じりに受け入れながらも、なお「一緒に何かを始めよう」とする姿勢がここにある。
If you will dare, I will dare
君が挑むなら、僕も挑むよ
このサビは、まさにこの曲の核心だ。恋や未来、あるいは創作のような“踏み出すこと”に対して、「相手がやるなら、自分も」と呼応する。そのナイーヴさ、誠実さ、そして情熱が、淡々としたメロディに乗って静かに胸に響く。
4. 歌詞の考察
「I Will Dare」は、愛や関係性、そして人生そのものへの“挑戦”をテーマにした歌である。だがその挑戦は、雄々しいものではなく、むしろ日常の中でふと訪れる“踏み出す瞬間”のきらめきを描いている。
歌詞の中で繰り返される“Dare”という単語は、パンクの暴力性や社会的批判ではなく、“感情を表に出すこと”“誰かを好きになること”“自分の信じる道を行くこと”といった、もっと個人的で親密なレベルの勇気を意味している。
ウェスターバーグのボーカルは、がなり立てるのではなく、語りかけるように歌う。それがこの曲の持つ“等身大の希望”と見事に重なり、聴き手にとって「自分の物語」として響く余地を与えている。
この曲が特別なのは、パンクバンドだったThe Replacementsが、初めて“愛”や“未来”を正面から歌い、なおかつそれをロックンロールの中に自然に溶け込ませたという点にある。そしてそれは、のちにオルタナティブ・ロックやエモ、インディーポップといったジャンルの感情的誠実さの源流ともなった。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Here Comes a Regular by The Replacements
孤独と安らぎの入り混じる、静かで切ない名バラード。 - Radio Free Europe by R.E.M.
インディーロックの夜明けを告げた、ジャングリーで希望に満ちたアンセム。 - In Between Days by The Cure
軽やかなリズムに切ない気持ちを重ねる、1980年代のインディーポップの傑作。 - Unsatisfied by The Replacements
“満たされない”という感情を、荒削りながらも真摯にぶつけた名曲。 - Waiting Room by Fugazi
DIY精神と社会的メッセージが融合した、異なる形の“dare”のロック。
6. 「やってみるよ」と歌うロックの誠実さ
「I Will Dare」は、The Replacementsというバンドが、ただ怒りや衝動を鳴らす存在から、“生きていくこと”を音楽で表現するバンドへと進化した証である。
その一歩は、小さくて優しい。誰かを好きになること。誰かに近づくこと。傷つくかもしれないと分かっていても、あえて歩み寄ること——それこそが“挑戦”であり、それをロックンロールで鳴らしてしまうことが、まさにこのバンドの魔法なのだ。
「君が挑むなら、僕も挑む」——この言葉の響きは、時代や世代を超えて、人と人のあいだにある“勇気のかけら”を静かに照らしてくれる。今もなお、誰かが何かを始めるとき、この曲はそっと背中を押してくれるだろう。The Replacementsはその声を、永遠に鳴らし続けている。
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