
発売日:1980年2月15日
ジャンル:ロック、シンガーソングライター、ニューウェイヴ寄りロック、フォーク・ロック、ルーツ・ロック
概要
Warren Zevonの『Bad Luck Streak in Dancing School』は、1980年に発表されたスタジオ・アルバムであり、1978年のヒット作『Excitable Boy』に続く重要作である。前作は「Werewolves of London」の成功によってZevonを広く知らしめた作品だったが、その一方で彼の本質は、単なる奇抜なヒット曲の人ではなく、アメリカ文学的な皮肉、犯罪小説的な情景、酒と暴力とロマンス、そして救いのないユーモアをロック・ソングに落とし込むソングライターである点にあった。『Bad Luck Streak in Dancing School』は、その特異な作家性をより荒く、より過剰に、時にまとまりを欠くほどに押し出したアルバムである。
タイトルの「Bad Luck Streak in Dancing School」は、直訳すれば「ダンス学校での不運続き」といった意味になる。これはZevonらしい、滑稽さと不吉さが同居した表現である。ダンス学校という本来なら優雅で社交的な場所に、不運が続くという言い回しは、人生のリズムをうまく踏めない人物の比喩としても読める。Zevonの音楽に登場する人物たちは、しばしば社会のステップを踏み外した者たちである。恋愛も仕事も酒も暴力も、すべてが少しずれている。そのずれが、彼の歌に独特の魅力を与える。
本作は、前作『Excitable Boy』の成功を受けて制作されたため、当時のZevonには商業的な期待がかかっていた。しかし、彼はその期待に素直に応えるような分かりやすいヒット曲集を作ったわけではない。むしろ本作は、彼の荒々しいロック志向、クラシック音楽的な素養、映画的な語り、そしてアルコールや自己破壊と結びついた混乱が、かなり生々しく表れた作品である。完成度という点では、前作や後年の作品と比べて不均一に感じられる部分もあるが、その不均一さ自体がZevonのキャラクターと深く結びついている。
音楽的には、ロサンゼルスのセッション人脈が大きな役割を果たしている。Linda Ronstadt、Jackson Browne、Eagles周辺の人脈と関係を持っていたZevonは、1970年代ウェストコースト・ロックの洗練された環境の中にいながら、その中心的な爽やかさや健康的なイメージとは距離を置いていた。彼の音楽には、同じLAのサウンドでありながら、より夜が深く、より酒場に近く、より危険な匂いがある。『Bad Luck Streak in Dancing School』でも、バックの演奏は非常に整っているが、歌われる世界は整っていない。
本作には、代表的なシングル「A Certain Girl」、悲劇的で映画的な「Jeannie Needs a Shooter」、ロックンロール的な「Bad Luck Streak in Dancing School」、クラシック曲を引用した「Interlude No. 1」「Interlude No. 2」、そして陰惨な物語性を持つ「Play It All Night Long」などが収録されている。曲調は多様で、ニューウェイヴ的な軽快さ、ハードなロック、ピアノ・バラード、フォーク・ロック、そしてクラシカルな小品までが並ぶ。この雑多さは、Zevonの音楽世界の幅広さを示すと同時に、彼が一つのジャンルに収まらない作家であったことを示している。
歌詞の面では、Zevonらしいブラックユーモアが全編に漂っている。彼は悲劇を悲劇としてだけ歌わない。暴力、病気、家庭崩壊、孤独、欲望、死といった題材を扱いながら、そこに乾いた笑いを差し込む。ただし、その笑いは軽い冗談ではない。むしろ、笑うしかないほど世界が壊れているという認識に近い。『Bad Luck Streak in Dancing School』は、Zevonのそうした世界観が、商業的成功の直後にさらに歪んだ形で表れた作品である。
全曲レビュー
1. Bad Luck Streak in Dancing School
タイトル曲「Bad Luck Streak in Dancing School」は、アルバム冒頭にふさわしい、荒々しく皮肉なロック・ナンバーである。タイトルが示す通り、この曲には「うまく踊れない」人物の滑稽さと、その背後にある運命の悪さが重なっている。ダンスとは、社会的なリズムに合わせることの比喩でもある。Zevonの語り手は、そのリズムを踏み外し、優雅に見える場で転び続ける。
サウンドは勢いがあり、ロックンロールの荒々しさが前面に出る。ピアノやギター、ドラムが一体となり、洗練されたLAロックというより、より雑で酒場的なエネルギーを放っている。Zevonのヴォーカルは、完璧に整った歌唱ではなく、言葉を投げつけるような勢いを持つ。その声が、曲のユーモアと不穏さを同時に伝える。
歌詞では、人生の中で不運が続く人物が描かれる。だが、その不運は単なる悲劇ではなく、どこか喜劇的でもある。Zevonは、自分が人生のダンスをうまく踊れないことを自覚しながら、それをロックンロールとして鳴らす。「Bad Luck Streak in Dancing School」は、アルバム全体のトーンを設定する楽曲であり、滑稽な破滅というZevonの重要テーマを端的に示している。
2. A Certain Girl
「A Certain Girl」は、Allen Toussaint作のR&Bナンバーのカヴァーであり、Ernie K-DoeやThe Yardbirdsのヴァージョンでも知られる楽曲である。Warren Zevonはこの曲を、軽快なロック/ニューウェイヴ的感触を交えて演奏している。前作の「Werewolves of London」ほどの大ヒットにはならなかったが、本作の中では最も親しみやすい曲のひとつである。
サウンドは軽やかで、リズムに弾みがある。Zevonの持つ皮肉な声質が、曲のユーモラスな恋愛感情とうまく合っている。原曲のR&B的な粘りをそのまま再現するのではなく、1980年前後のロック的な硬さとポップな整理を加えている点が特徴である。
歌詞では、ある特定の女性への思いが歌われるが、その女性の名前をなかなか明かさないという構造がユーモラスである。恋愛の秘密、照れ、執着が、軽い言葉遊びとして展開される。Zevonのオリジナル曲に比べると題材は比較的明るいが、彼の声が入ることで、どこかひねくれた魅力が生まれる。「A Certain Girl」は、本作の中でリスナーを引き込むポップな入口として機能している。
3. Jungle Work
「Jungle Work」は、タイトルからして危険な任務、密林、傭兵、スパイ小説的な世界を連想させる楽曲である。Warren Zevonの歌詞世界には、しばしば国際政治、戦争、暴力、暗殺者、傭兵のイメージが登場する。彼はアメリカン・シンガーソングライターでありながら、日常的な恋愛や内省だけにとどまらず、犯罪小説や戦争映画のような題材をポップ・ソングの中に持ち込む。
サウンドはタイトで、やや硬質なロック感がある。曲には不穏な推進力があり、Zevonの語り口もどこか冷めている。彼は戦争や暴力を英雄的に歌うのではなく、むしろそこにある狂気やビジネスライクな冷たさを強調する。タイトルの「work」という言葉が重要で、暴力が仕事として処理される世界を示している。
歌詞では、密林での任務や危険な仕事のイメージが描かれる。Zevonの視点は、ロマンティックな冒険というより、暴力産業への乾いた観察に近い。後年の「Roland the Headless Thompson Gunner」にも通じる、地政学的な悪夢とブラックユーモアがここにある。「Jungle Work」は、本作の中でZevonのハードボイルドな側面を示す重要な曲である。
4. Empty-Handed Heart
「Empty-Handed Heart」は、Linda Ronstadtとのデュエットを含むバラードであり、本作の中でも感情的な陰影が強い楽曲である。タイトルは「手ぶらの心」「何も持たない心」といった意味を持ち、恋愛における空虚さ、与えられないこと、受け取れないことの痛みを示している。
サウンドは比較的穏やかで、Zevonの荒いロック曲とは対照的に、メロディと声の関係が重要になる。Linda Ronstadtの声は、Zevonのざらついた声と対照的であり、曲に柔らかさと悲しみを加える。RonstadtはZevonの楽曲を多く取り上げ、彼の才能を広く紹介した重要人物でもあるため、この共演には音楽的な意味がある。
歌詞では、愛を求めながらも空の手で立ち尽くす人物の姿が描かれる。Zevonのラヴ・ソングは、甘い成就よりも、何かを失った後の空白に焦点を当てることが多い。この曲でも、愛は救いとしてではなく、欠落をさらに明確にするものとして響く。「Empty-Handed Heart」は、本作の中でZevonの繊細な側面を示すバラードである。
5. Interlude No. 1
「Interlude No. 1」は、短いクラシカルな間奏曲であり、本作の中で異色の存在である。Zevonは単なるロックンロール・ソングライターではなく、クラシック音楽への素養も持っていた人物である。彼の楽曲には、時にピアノやストリングス、クラシカルな構成感が入り込むが、このインタールードではその側面が直接的に表れている。
アルバムの流れの中で、この小品は荒々しいロックやブラックユーモアの間に奇妙な休止をもたらす。だが、それは単なる息抜きではない。むしろ、Zevonの中にある二面性を示している。酒場の語り部でありながら、クラシックの形式を知る作曲家でもある。その落差が、彼の音楽を独特なものにしている。
短い曲ではあるが、アルバム全体の雑多な構成を象徴する役割を持つ。『Bad Luck Streak in Dancing School』は、整然としたロック・アルバムではなく、Zevonの頭の中にある物語、冗談、暴力、愛、クラシック音楽の断片が交錯する作品である。「Interlude No. 1」は、その奇妙な内部構造を覗かせる小さな窓である。
6. Play It All Night Long
「Play It All Night Long」は、本作の中でも特にWarren Zevonらしい、ブラックユーモアと荒廃したアメリカ像が凝縮された楽曲である。タイトルだけを見ると、音楽を一晩中鳴らすロックンロール賛歌のように思える。しかし歌詞の中に描かれるのは、家庭崩壊、病気、酒、農村の荒廃、そして救いのない現実である。その上で「Sweet Home Alabama」を一晩中かけろ、と歌われる構造が、強烈な皮肉になっている。
サウンドはカントリー・ロック/ルーツ・ロック的な感触を持つが、歌詞の内容は非常に陰惨である。Zevonは、南部ロックやアメリカーナ的な音楽の明るい共同体イメージを、腐敗した家庭と社会の情景の中へ投げ込む。そこに生まれる落差が、彼のブラックユーモアの本質である。
歌詞では、日常の悲惨さがほとんど冗談のような調子で並べられる。だが、その冗談は笑って済ませられるものではない。Zevonは、アメリカの暗部を美しい叙情で包まず、むしろ不快なまま歌にする。「Play It All Night Long」は、本作の中でも最も痛烈な楽曲であり、彼の作家性を理解するうえで欠かせない一曲である。
7. Jeannie Needs a Shooter
「Jeannie Needs a Shooter」は、Bruce Springsteenとの共作に基づく楽曲であり、本作の中でも物語性が非常に強い曲である。タイトルは「Jeannieには撃ち手が必要だ」という危険な響きを持ち、恋愛、暴力、逃亡、悲劇のイメージを呼び込む。Springsteen的な青春と逃走のロマンティシズムが、Zevonの暗いユーモアと結びついたような楽曲である。
サウンドはロック色が強く、ドラマティックな展開を持つ。疾走感がありながら、どこか破滅の予感が漂う。Zevonのヴォーカルは、物語を語るように進み、登場人物の危うさを浮かび上がらせる。彼は感情を直接説明するより、短い映画のような場面を提示するタイプのソングライターであり、この曲はその資質がよく出ている。
歌詞では、Jeannieという女性と、彼女を取り巻く暴力的な状況が描かれる。タイトルの「shooter」は、保護者なのか、加害者なのか、運命を変える人物なのか、曖昧な響きを持つ。Zevonの物語世界では、恋愛と暴力はしばしば近い場所にある。「Jeannie Needs a Shooter」は、その危うい接近をロックンロールの物語として描いた楽曲である。
8. Interlude No. 2
「Interlude No. 2」は、「Interlude No. 1」と同じく、アルバムの流れを一度断ち切る短いクラシカルな小品である。このような間奏をロック・アルバムの中に配置することは、Zevonの作曲家的な側面を示すと同時に、アルバム全体に奇妙な劇場性を与えている。
この小品は、前後の楽曲が持つ暴力や皮肉、荒れたロックンロール感覚とは対照的である。だが、その対照こそが重要である。Zevonの世界では、上品なクラシックの断片と、酒場の悪夢のような物語が同じアルバムの中に並ぶ。その落差は、彼の美学の一部である。
「Interlude No. 2」は、単独の楽曲として大きな物語を持つわけではないが、アルバムの混沌とした構成を補強している。Zevonの作品は、きれいに整理された感情の流れではなく、頭の中の連想や記憶が唐突に切り替わるような構造を持つことがある。この間奏は、その切り替わりを音楽的に示している。
9. Bill Lee
「Bill Lee」は、実在の野球選手Bill “Spaceman” Leeを題材にした楽曲である。Leeは個性的な発言や反体制的な姿勢でも知られる人物であり、Zevonが好むアウトサイダー的なキャラクターに近い。スポーツ選手を題材にしながら、曲は単なる応援歌ではなく、型にはまらない人物への共感として響く。
サウンドは比較的短く、軽快で、フォーク・ロック的な親しみやすさがある。Zevonはしばしば、実在の人物を小さな肖像画のように歌う。この曲でも、Bill Leeという人物の奇妙な魅力を、短い楽曲の中に凝縮している。
歌詞では、野球というアメリカ的な題材が扱われるが、Zevonの視点は英雄的な勝利よりも、少し変わった人物の存在感に向いている。彼にとって重要なのは、制度の中心にいる成功者ではなく、中心から少し外れた場所にいる者たちである。「Bill Lee」は、Zevonのアウトサイダーへの愛情が表れた小品である。
10. Gorilla, You’re a Desperado
「Gorilla, You’re a Desperado」は、タイトルからしてZevonらしい奇妙でユーモラスな楽曲である。「ゴリラよ、お前はならず者だ」という言葉には、動物寓話、犯罪映画、西部劇のパロディが混ざっている。Zevonは、こうした一見ばかげた題材を使いながら、現代社会や人間の欲望を皮肉ることができる。
サウンドは軽く、どこかコミカルな響きを持つ。だが、Zevonのコミカルな曲は、単なる冗談としては終わらない。タイトルのゴリラは、人間社会に入り込んだ野性、あるいは文明の中で浮いてしまう存在として読むこともできる。Desperadoという言葉は西部劇的な孤独な無法者を連想させ、ゴリラというイメージとの組み合わせが滑稽でありながら奇妙に哀しい。
歌詞では、動物と人間社会のイメージが重ねられる。Zevonは、人間の社会的なふるまいを少し外側から見ることで、その馬鹿馬鹿しさを浮かび上がらせる。「Gorilla, You’re a Desperado」は、本作の中で彼のナンセンス感覚とブラックユーモアが強く出た楽曲である。
11. Bed of Coals
「Bed of Coals」は、タイトルが「炭火の床」「燃える炭の上」といったイメージを持つ、痛みと忍耐を感じさせる楽曲である。火の上に寝るという表現は、苦しみの中に身を置くこと、愛や罪悪感に焼かれ続けることの比喩として響く。
サウンドは比較的シリアスで、Zevonのヴォーカルにも暗い重みがある。派手なロックンロールではなく、内面的な苦痛を描く曲として配置されている。彼の作品には、コミカルな曲と深く傷ついた曲が隣り合うことが多いが、この曲は後者に属する。
歌詞では、痛みの中で生きる人物の感情が描かれる。Zevonにとって、愛や人生はしばしば快適な場所ではなく、熱を持った危険な場所である。そこに身を横たえることは、自分で選んだ罰のようでもある。「Bed of Coals」は、本作の中でZevonの暗く内省的な側面を示す重要曲である。
12. Wild Age
アルバムを締めくくる「Wild Age」は、タイトル通り、荒れた時代、野生の年齢、制御できない人生の段階をテーマにした楽曲である。本作全体を通じて描かれてきた不運、暴力、欲望、孤独、滑稽な失敗が、最後に「wild age」という言葉へ集約されるように響く。
サウンドはアルバムの終曲にふさわしい広がりを持ちながら、過度に感傷的ではない。Zevonの歌唱には、荒れた時代を生き抜いた人物の疲労と、まだ完全には諦めていない強情さがある。彼は救済を大きく歌い上げるタイプの作家ではないが、破滅を見つめながらも歌を終わらせない力がある。
歌詞では、時代や人生が荒れていることへの認識が描かれる。ここでの「wild」は、自由で楽しいというより、制御不能で危険なものに近い。だが、その荒れた時間の中にこそ、Zevonの歌は生まれる。「Wild Age」は、『Bad Luck Streak in Dancing School』を締めくくるにふさわしい、彼の人生観を反映した楽曲である。
総評
『Bad Luck Streak in Dancing School』は、Warren Zevonのキャリアにおいて、商業的成功の後に生まれた混乱と野心が刻まれたアルバムである。『Excitable Boy』のような完成度やヒット性を期待すると、本作はやや散漫に感じられるかもしれない。しかし、その散漫さの中にこそ、Zevonという作家の複雑さが表れている。ロックンロール、R&Bカヴァー、バラード、犯罪小説的な物語、クラシカルな間奏、ナンセンスな寓話が、一枚の中で衝突している。
本作の最大の魅力は、Zevonのブラックユーモアと物語性である。彼は、恋愛や孤独を素直に美化しない。家庭崩壊や病気を含む陰惨な情景を「Play It All Night Long」のような曲に仕立て、暴力と愛の境界を「Jeannie Needs a Shooter」で描き、ゴリラをならず者にするような奇妙な冗談を「Gorilla, You’re a Desperado」で展開する。こうした題材は、通常のシンガーソングライターの範囲を大きく超えている。
音楽的には、ロサンゼルスの洗練されたミュージシャンシップと、Zevon自身の荒れたキャラクターがぶつかっている。演奏は非常に質が高いが、歌われる世界は泥酔し、壊れ、傷ついている。この対比が重要である。Zevonは、ウェストコースト・ロックの美しいハーモニーや滑らかなサウンドの中に、暗い物語を持ち込んだ。そのため彼の音楽は、同時代の爽やかなLAサウンドとは違う、夜の裏通りのような質感を持つ。
また、本作ではZevonのクラシック音楽的な素養も顔を出している。「Interlude No. 1」「Interlude No. 2」は短いながらも、彼が単なるロック・ライターではなく、より広い音楽的背景を持った作曲家であることを示す。彼の楽曲には、時に荒いロックンロールと高い作曲意識が奇妙に同居する。本作はその同居がやや不安定な形で表れた作品である。
歌詞の面では、Zevonの人物造形が非常に重要である。彼の曲には、正しく立派な主人公はあまり登場しない。登場するのは、不運な男、危険な女、傭兵、酒に溺れた者、変わり者の野球選手、ならず者のゴリラ、そして人生のステップを踏み外した人々である。Zevonは彼らを冷笑しながらも、どこか共感を持って描く。その視線が、彼の歌を単なるブラックジョーク以上のものにしている。
『Bad Luck Streak in Dancing School』は、1980年という時代にもよく合っている。70年代シンガーソングライターの内省はすでに一つの様式になり、ニューウェイヴやパンク以後の鋭さがロックに入り込んでいた時期である。本作には、従来のウェストコースト・ロックの質感と、より硬く皮肉な時代感覚が混ざっている。Zevonはニューウェイヴのアーティストではないが、彼の皮肉、短い曲構成、乾いた視線は、70年代的な大らかさから次の時代へずれていく感覚を持っている。
日本のリスナーにとって本作は、Warren Zevonを「Werewolves of London」のイメージだけで知っている場合に、彼のより混沌とした作家性を知るための重要な一枚である。Bob Dylan、Randy Newman、Jackson Browne、Tom Waits、Bruce Springsteen、John Prine、Loudon Wainwright IIIなどのストーリーテリングに関心があるリスナーには特に響くだろう。ただし、Zevonはその中でも特に暴力、皮肉、ナンセンスへの傾斜が強い作家である。
『Bad Luck Streak in Dancing School』は、完全に整った名盤というより、Warren Zevonの荒れた才能がむき出しになった作品である。失敗し、転び、踊り損ね、それでもピアノとロックンロールで物語を続ける。タイトル通り、人生のダンス学校で不運続きの人物たちが集まるアルバムである。その滑稽で痛ましい姿こそが、Zevonの音楽の核心である。
おすすめアルバム
1. Excitable Boy by Warren Zevon
1978年発表の代表作。「Werewolves of London」「Lawyers, Guns and Money」「Roland the Headless Thompson Gunner」などを収録し、Zevonのブラックユーモア、物語性、ロックンロールの魅力が最も分かりやすく表れている。『Bad Luck Streak in Dancing School』の前提となる作品であり、まず聴くべき一枚である。
2. Warren Zevon by Warren Zevon
1976年発表の実質的なブレイク作。Jackson Browneの支援もあり、Zevonの作家性が初めて大きく提示されたアルバムである。「Desperados Under the Eaves」「Hasten Down the Wind」などを収録し、彼の哀愁、ユーモア、酒場的なロマンティシズムを理解するうえで非常に重要である。
3. The Pretender by Jackson Browne
1976年発表の作品。Zevonと同じロサンゼルスのシンガーソングライター文脈にありながら、より内省的で誠実な方向へ向かったアルバムである。Zevonの暗いユーモアと比較すると、LAシンガーソングライター・シーンの幅が見えてくる。Zevon作品の背景を理解するために有効である。
4. Sail Away by Randy Newman
1972年発表の名盤。皮肉、アメリカ社会への批評、語り手の不穏さをポップ・ソングに落とし込んだ作品であり、Zevonのブラックユーモアや物語性と深く関連する。Newmanはより作曲家として洗練され、Zevonはよりロックンロール的に荒いが、両者にはアメリカの暗部を笑いながら描く共通点がある。
5. Small Change by Tom Waits
1976年発表の作品。酒場、敗者、夜の街、壊れたロマンティシズムを描いたアルバムであり、Zevonの世界と近い暗いユーモアを持つ。Waitsはジャズ/ブルース寄りの語り部であり、Zevonはロック寄りの物語作家だが、どちらもアメリカの裏側にいる人物たちを歌う重要なソングライターである。

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