イントロダクション
80年代のナイトクラブで、もし一度でも「You Spin Me Round (Like a Record)」が流れれば、フロアは一気に沸騰しただろう。
その音の正体――Dead or Aliveは、ただのダンス・ポップ・バンドではなかった。
ゴシックとグラム、ハイ・エナジーとキャンプ、そして何よりも圧倒的な個性を放ったヴォーカリスト、ピート・バーンズ。
彼らの存在は、ポップの美学と異端のセクシュアリティが交差する、その刹那的な輝きだった。
バンドの背景と歴史
Dead or Aliveは、1979年にイングランド・リヴァプールで結成された。
初期はポストパンク的な音楽性を持っていたが、シーンの流れとともにエレクトロニック・ダンスへとシフト。
1983年にはソニーと契約し、1984年のアルバム『Sophisticated Boom Boom』でメジャーデビュー。
この頃からバンドの方向性は一気にディスコ寄りへと傾き、やがてそれは1985年、歴史的アルバム『Youthquake』で結実する。
この作品では、当時“最強のヒットメイカー”だったプロデューサー・コンビ、ストック・エイトキン・ウォーターマン（SAW）とのコラボが実現。
代表曲「You Spin Me Round (Like a Record)」は全英1位を獲得し、世界中のクラブシーンに衝撃を与えた。
音楽スタイルと影響
Dead or Aliveの核を成すのは、“Hi-NRG（ハイ・エナジー）”と呼ばれるダンス・ミュージックの一形態である。
シンセベースと4つ打ちのビート、そして極端にテンションの高いアレンジが特徴的で、LGBTQ+コミュニティを中心にクラブ文化の中で愛されてきた。
彼らの音楽は、ユーロディスコやイタロディスコ、シカゴ・ハウスにも近接しており、デヴィッド・ボウイやマーク・ボラン、さらにはシルヴィア・ロビンソン的なソウル感もわずかに感じさせる。
ピート・バーンズの独特のボーカル――低音で艶やか、時に雄叫びのようなシャウト――もまた、唯一無二の魅力であった。
代表曲の解説
You Spin Me Round (Like a Record)
イントロのシンセからすでにドラマチック。
“回転”をテーマにしたこの楽曲は、恋愛の執着と高揚を、回転レコードになぞらえて表現している。
〈You spin me right round, baby, right round, like a record, baby, right round round round〉という反復は、快楽のループと中毒性の象徴である。
ポップでありながら、どこか危うさすら孕んだこの曲は、ピートの妖艶なヴィジュアルとも相まって、80年代を象徴するアイコンとなった。
Lover Come Back to Me
情熱的なダンスビートと哀愁のメロディが融合した名曲。
タイトル通り、失われた恋人への切望をリズミカルに吐き出すようなナンバーだが、悲壮感よりも前向きなエネルギーが勝っている。
哀しみを踊ることで昇華していく――それこそがDead or Aliveの美学だ。
Brand New Lover
1986年のアルバム『Mad, Bad and Dangerous to Know』からの代表曲。
徹底したエレクトロビートに、情熱と自虐の混じった歌詞。
「古い恋はもういらない、新しい恋をくれ」という潔さと開き直りが、当時の時代精神を映している。
アルバムごとの進化
『Sophisticated Boom Boom』（1984）
初期のゴス的なテイストを残しつつ、ハイエナジーなダンスビートが本格的に導入された転機的作品。
「That’s the Way (I Like It)」のカバーが話題を呼んだ。
『Youthquake』（1985）
SAWとの邂逅によって生まれた、Dead or Aliveの金字塔。
「You Spin Me Round」収録、すべてがダンスフロア仕様の強烈なエネルギーに満ちた一枚。
『Mad, Bad and Dangerous to Know』（1986）
より洗練され、リズムやメロディの緩急も増したセカンド・フェーズ。
ピートのビジュアルもさらにアンドロジナス（両性具有）的に進化した時期。
『Nude』（1988）
アジア市場を強く意識したアルバムで、日本では特に高い人気を誇った。
「Turn Around and Count 2 Ten」など、よりダンサブルかつポップな仕上がりに。
影響を受けたアーティストと音楽
デヴィッド・ボウイやマーク・ボランのようなグラム・ロック的な美意識と、70年代ディスコ、さらにはアンダーグラウンドなゲイクラブカルチャー。
ピート・バーンズの美意識は、マルチジェンダー性とビジュアルアートの交差点にあった。
また、レオナルド・コーエンやエルヴィス・プレスリーといった低音ボーカリストにも影響を受けたと語っている。
影響を与えたアーティストと音楽
後年のシンセポップやエレクトロクラッシュ、さらにはLady GagaやScissor Sisters、Years & Yearsといったジェンダーとポップを横断するアーティストたちは、Dead or Aliveの美学と戦略から多くを学んでいる。
特にLGBTQ+コミュニティにおいて、ピート・バーンズの存在は“美の自由”と“反抗の象徴”として今も強く記憶されている。
オリジナル要素
Dead or Aliveは、「踊る」という行為に、欲望とアイデンティティを込めることができた稀有な存在である。
ピート・バーンズの容姿、ファッション、発言、すべてが“規範”を壊し、ポップの境界線を広げていった。
ときにその奔放さは物議を醸しもしたが、それこそが彼らの存在意義だった。
音楽だけでなく、生き方そのものがアートとして機能していたのだ。
まとめ
Dead or Aliveは、80年代という時代の快楽主義、欲望、セクシュアリティを、誰よりも大胆に、誰よりも美しく体現したバンドである。
“Spin Me Round”という回転のメタファーは、愛と欲望、音と体が渦を巻く現代のポップの在り方そのものかもしれない。
そして何よりも、ピート・バーンズという稀代の表現者は、今もなお“ポップとは何か？”という問いを、私たちに突きつけ続けている。
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