発売日: 1991年3月12日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポップロック
R.E.M.の7作目のアルバム『Out of Time』は、彼らのキャリアの中で最も商業的成功を収めた作品である。1991年のリリース直後、全米アルバムチャートで初登場1位を獲得し、同年のグラミー賞で3部門を受賞した。このアルバムでは、バンドは従来のギターロックを超え、ポップ、フォーク、カントリーの要素を取り入れた多彩なサウンドスケープを展開している。その結果、R.E.M.はインディーロックの枠を超え、国際的なメインストリームアーティストとしての地位を確立した。
本作の象徴とも言えるのが、世界的ヒット曲「Losing My Religion」である。バンド初の全米トップ10入りを果たしたこの楽曲は、マイケル・スタイプの象徴的な歌詞とピーター・バックのマンドリンの旋律が見事に調和している。このアルバムでは、スタジオでの実験的なアプローチが随所に見られ、マンドリンやオルガン、弦楽器といった非ロック的な楽器が積極的に取り入れられている。プロデューサーのスコット・リットとのパートナーシップが功を奏し、バンドのサウンドはこれまで以上に洗練され、多様性に富んだものとなった。
また、R.E.M.にとって珍しい試みとして、ゲストアーティストを多数迎えた点も本作の特徴である。ラップグループThe Jungle Brothersが参加した「Radio Song」や、B-52’sのケイト・ピアソンがコーラスを担当した「Shiny Happy People」など、彼らの音楽の幅広さが際立っている。『Out of Time』は、R.E.M.の創造性が最高潮に達した瞬間を記録した、ポップミュージックの金字塔である。
トラックごとの解説
1. Radio Song
アルバムの幕開けを飾るトラックは、ポップロックとファンク、ラップの要素を融合させた意欲作。The Jungle Brothersによるラップセクションが新鮮で、軽快なリズムがアルバム全体の扉を開く。「今のラジオはつまらない」という皮肉なテーマが、スタイプの飄々としたボーカルで表現されている。
2. Losing My Religion
R.E.M.のキャリアを代表する名曲。ピーター・バックのマンドリンが中心となったアレンジは、ロックというジャンルを超えた普遍的な魅力を放つ。スタイプの歌詞は、失恋や孤独といったテーマを曖昧で象徴的に描き、聴き手の想像を掻き立てる。リズムセクションも控えめながら曲を力強く支えており、その完成度の高さに驚かされる。
3. Low
静謐でミニマルなトラック。重厚なベースラインとスタイプの低音ボーカルが、不穏な雰囲気を醸し出している。歌詞は内省的で暗いが、音楽的には洗練されており、アルバム全体のバランスを取る重要な役割を果たしている。
4. Near Wild Heaven
ベーシストのマイク・ミルズがリードボーカルを務める、明るくメロディックな楽曲。カントリーとポップの要素が融合した心地よい一曲で、ミルズの柔らかな歌声が楽曲をさらに魅力的にしている。アルバム全体の中での癒し的な存在。
5. Endgame
インストゥルメンタルに近い穏やかなトラック。アコースティックギターと控えめなコーラスが、映画のサウンドトラックのような雰囲気を作り出している。リスナーに休息を与える、アルバム内の一服の清涼剤。
6. Shiny Happy People
ケイト・ピアソンをゲストに迎えたポップで明るい楽曲。賛否が分かれる曲ではあるが、その陽気なメロディとユーモラスな歌詞は多くのリスナーに親しまれている。「楽しい」だけで終わらない、どこか風刺的な側面も垣間見える。
7. Belong
スタイプのスピーチのようなボーカルと、ミルズのコーラスが絡み合う実験的な楽曲。ベースラインが楽曲の中心を成し、反復的な構造が心地よい。リリカルでありながら抽象的なアプローチが印象的だ。
8. Half a World Away
マンドリンが再び登場する、フォーク色の強いバラード。切なくも美しいメロディと、スタイプの感情豊かな歌声が心に響く。孤独や距離感をテーマにした歌詞が、聴く者の共感を誘う。
9. Texarkana
マイク・ミルズが再びリードボーカルを務める、シンプルで力強い楽曲。ギターリフとホーンセクションが楽曲にダイナミズムを加え、アルバムの中でポップなエネルギーを注ぎ込んでいる。
10. Country Feedback
アルバム中で最も感情的な一曲。ゆっくりとしたテンポと悲しげなスライドギターが、スタイプの吐露するようなボーカルと絶妙に絡む。歌詞は暗く内省的で、まるで心の叫びを聞いているような感覚を覚える。
11. Me in Honey
アルバムを締めくくる軽快な楽曲。再びケイト・ピアソンのコーラスが加わり、ポップでありながら温かみのあるサウンドに仕上がっている。歌詞には皮肉が込められており、明るいトーンと暗いテーマが対照的だ。
アルバム総評
『Out of Time』は、R.E.M.の音楽的進化を象徴するアルバムであり、彼らの創造性が最高潮に達した瞬間を捉えている。ポップと実験性を融合させたサウンドは、多くのリスナーに受け入れられつつも、バンドのオルタナティヴ精神を失うことがない。本作はR.E.M.がそのキャリアにおいてメインストリームの成功と芸術性を両立させた、歴史的な作品である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Automatic for the People by R.E.M.
『Out of Time』の次作で、さらに内省的で美しいアレンジが光る。代表曲「Everybody Hurts」や「Man on the Moon」を収録。
Document by R.E.M.
R.E.M.がメインストリームへの一歩を踏み出した作品。「The One I Love」や「It’s the End of the World As We Know It」が聴ける。
Joshua Tree by U2
スケール感のあるサウンドと普遍的なテーマが共通しており、壮大なロックを好むリスナーにおすすめ。
Graceland by Paul Simon
ポップとワールドミュージックの融合が特徴で、『Out of Time』の多様性に共鳴する部分が多い。
Hats by The Blue Nile
メロディアスで感情的な作品。静謐な雰囲気と洗練されたサウンドが共通点。
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