発売日: 2013年6月3日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ストーナーロック、アートロック
2013年にリリースされたQueens of the Stone Age(QOTSA)の6作目となるアルバム『…Like Clockwork』は、バンドの新たな方向性を象徴する作品である。バンドリーダーであるジョシュ・ホーミが、手術後の深刻な健康問題や鬱との闘いを経て生み出したこのアルバムは、これまでの作品と比べて内省的でダークな雰囲気を持ち、同時にリスナーに深い感情的な体験を提供する。タイトルに込められた「まるで時計仕掛けのように」という皮肉めいたフレーズは、予測不可能で混沌とした人生への洞察を象徴している。
本作は、QOTSAにとって初の全米アルバムチャート1位を記録した作品であり、バンドの進化と成熟を証明している。プロデュースはホーミ自身に加え、長年のコラボレーターであるトロイ・ヴァン・リューウェンやデイヴ・グロール、さらにはニック・オリヴェリやマーク・ラネガンといった旧友も参加している。加えて、エルトン・ジョンやアレックス・ターナー(Arctic Monkeys)といった多彩なゲストがこのアルバムの完成度を高めている。
『…Like Clockwork』は、QOTSAが従来得意とする重厚なギターリフやグルーヴに加え、ピアノやシンセサイザーを巧みに取り入れることで、これまで以上に深みのあるサウンドスケープを構築している。アルバム全体が内面の葛藤や再生をテーマにしており、その一貫性と感情の深さが非常に印象的だ。
トラックごとの解説
1. Keep Your Eyes Peeled
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、重く不穏なギターリフとゆっくりと進むドラムパターンが特徴的だ。歌詞は、世界の冷酷さや孤独を描写しており、ホーミの落ち着いたボーカルが楽曲全体に緊張感を与えている。暗闇の中で目を凝らすような、不安感に満ちたスタートだ。
2. I Sat by the Ocean
アルバムの中で最もキャッチーな曲の一つで、切ない歌詞とアップテンポなビートが印象的だ。失恋とその喪失感をテーマにしており、ホーミのメロディアスなボーカルとシンプルなギターリフが心地よい。タイトルが示すように、孤独の中で海を眺めるような感覚を覚える。
3. The Vampyre of Time and Memory
ピアノを中心とした静かな楽曲で、アルバム全体の感情的な核心を担う一曲だ。歌詞では、時間の流れや存在の意義について深く内省しており、ホーミの脆さが感じられる歌声が印象的。途中からギターが加わることで、楽曲が一層ドラマチックになる。
4. If I Had a Tail
グラムロック的な要素が感じられる楽曲で、リズミカルなベースラインとエッジの効いたギターが際立つ。エルトン・ジョンがコーラスで参加しており、豪華なアレンジが耳を引く。歌詞には皮肉や反抗心が込められており、アルバム中でも軽快なムードを持つ一曲だ。
5. My God Is the Sun
アルバムの中で最も直球なロックナンバーで、エネルギッシュなドラムとギターリフが主役を張る。歌詞には神や信仰といった抽象的なテーマが含まれ、重厚なサウンドが楽曲全体を支配している。グロールのドラミングが特に光る一曲。
6. Kalopsia
「現実逃避」をテーマにしたミステリアスなトラック。静かでメランコリックな序盤から、突如としてヘヴィなパートに切り替わるダイナミックな構成が特徴だ。アルバムの中でも実験的なサウンドが際立っており、ホーミの柔らかなボーカルと攻撃的なギターが絶妙に融合している。
7. Fairweather Friends
エルトン・ジョンを含むゲスト陣が大集合したトラック。華やかなピアノと分厚いギターサウンドが、楽曲に独特のスケール感を与えている。歌詞には、裏切りや信頼の喪失といったテーマが込められており、エモーショナルなボーカルが胸を打つ。
8. Smooth Sailing
ファンキーでグルーヴィーな一曲。アルバムの中では異色の軽快さを持ち、ホーミの挑発的な歌詞と滑らかなギターリフが印象的だ。ライブでも盛り上がる楽曲の一つで、そのユーモアとエネルギーが全体を引き立てている。
9. I Appear Missing
アルバムのハイライトとも言える壮大な一曲。歌詞では、生死を巡るテーマが深く掘り下げられ、ホーミの個人的な葛藤が色濃く反映されている。浮遊感のあるギターリフとドラマチックな構成が、聴く者を圧倒する。
10. …Like Clockwork
タイトル曲であり、アルバムのフィナーレを飾るバラード。ピアノとホーミのボーカルを中心とした静謐な構成で、アルバム全体のテーマをまとめ上げている。再生と希望を思わせる余韻が美しく、感動的なエンディングを迎える。
アルバム総評
『…Like Clockwork』は、Queens of the Stone Ageのキャリアの中で最も感情的でパーソナルなアルバムである。人生の苦難や内面の葛藤をテーマにしつつ、メロディの美しさとサウンドの多様性を兼ね備えている本作は、リスナーに深い印象を与える。全体を通じて、ダークでありながら希望を感じさせるトーンが特徴的であり、バンドの新たな境地を示す作品として高く評価されている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Them Crooked Vultures by Them Crooked Vultures
ジョシュ・ホーミ、デイヴ・グロール、ジョン・ポール・ジョーンズが組んだスーパーグループの作品。『…Like Clockwork』に通じるダークなサウンドと複雑な楽曲構成が楽しめる。
Blackstar by David Bowie
内省的で感情に訴えるアルバム。特にダークなテーマと美しいアレンジが『…Like Clockwork』と共鳴する。
Humbug by Arctic Monkeys
アレックス・ターナーが参加した縁もあり、QOTSAからの影響が色濃く感じられる作品。ダークでムーディーなサウンドが魅力。
Kid A by Radiohead
多層的なアレンジと内省的なテーマが共通しており、実験的なサウンドを楽しみたいリスナーにおすすめ。
Funeral by Arcade Fire
感情的な深みとアルバム全体の構成美が共通点。ストーリー性のある音楽を好むリスナーに響くだろう。
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