Sunsleeper by Barry Can’t Swim（2023）楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Sunsleeper（サンスリーパー）」は、スコットランド・エディンバラ出身のエレクトロニック・プロデューサー兼ミュージシャン Barry Can’t Swim（バリー・キャント・スイム） による2023年のデビューアルバム『When Will We Land?』に収録された楽曲であり、夢と現実、記憶と光、そして時間の流れに漂うような“覚醒しないまどろみ”を描いたエモーショナル・アンビエント・ハウスである。

この曲のタイトル「Sunsleeper」は、“太陽のなかで眠る者”あるいは“陽光に包まれながら眠る者”という幻想的なイメージを喚起する造語であり、日差しのぬくもりと、意識が半分だけ覚めた状態が共存するような、心地よい浮遊感を曲全体で演出している。

インストゥルメンタル中心の構成ながら、サンプリングやエフェクトを通じて、言葉を超えた感情の変化、郷愁、再生が聴き手に伝わってくる不思議な曲である。

2. 楽曲のバックグラウンド

Barry Can’t Swimは、ジャズやソウル、クラブカルチャーの要素をベースにしたプロダクションで注目を集めている新鋭アーティストであり、エモーショナルなコード進行と人間味のあるビート構築が彼の特徴である。

「Sunsleeper」は、アルバムの中盤に配置されており、日常の流れが一度“夢の中”に沈むような、アルバム構成上の重要な緩和点＝トランジションの役割を果たしている。
曲はあえて明確な展開を持たず、時間がゆるやかに崩れていくような構造を取り、聴く人の“体感的時間”に直接語りかけてくる。

この曲についてBarryは、「子どもの頃、夏の日に昼寝から目覚めたときの、どこにも行けないけど、どこにでも行けるような感覚を再現したかった」と語っている。

3. 曲の印象と構成的特徴

「Sunsleeper」は、リリース当初からクラブミュージックファンの間で“踊れるけれど、どこか涙腺を刺激する”曲として高く評価された。

• イントロは穏やかなパッドとウォームなアナログ質感のコードで構成され、まるで水面に揺れる朝陽のような優しさが漂う。

• 徐々に加わるパーカッションは極めて抑制されており、“ビート”というよりも“呼吸”のように機能している。

• 中盤以降には、ジャズピアノのような即興的なコードの変化や、アンビエントサンプル、ささやかなフィールドレコーディング音が重なり、曲はより有機的な空間を描き出していく。

歌詞が明示的に存在する曲ではないが、**“声”のような断片的なサンプリング（ループされたボーカルフレーズや、遠くから響くようなコーラス音）**が時折混ざることで、聴く者の内面の記憶を引き出す仕掛けが施されている。

4. 楽曲の考察

「Sunsleeper」は、単なるチルアウト・トラックではない。
むしろそれは、日常の中に潜む“眠るように生きる時間”＝意識が半覚醒状態にある瞬間を抽出し、それを音楽で再現した作品である。

この楽曲は、以下のような複数の感覚層を同時に提示する。

• 時間の流れが解体されるような感覚（変化するBPM感、拍の揺らぎ）
• 郷愁に似た情緒の喚起（サンプリング音の質感、メロディの反復）
• 自己と世界との境界の曖昧さ（残響処理やアンビエントノイズによる空間演出）

「Sunsleeper」は、まるで現実と夢のあいだの薄明かりの中にいるときの心理状態を音楽にしたような作品であり、感情を直接描かないことでかえって聴き手それぞれの心象風景と結びついていく。

特に「朝方、ひとりで帰る電車の中」や「窓際で目を覚ます寸前の時間」に聴くことで、曲の本質が浮き上がるように感じられるはずだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

• “Opal” by Bicep
  　アンビエントとブレイクビーツの交錯が美しい、夢幻的な感情の引き出し方が共通。

• “Glue” by Bicep
  　切なさとグルーヴを共存させたエモーショナル・テクノ。心の奥に響く一曲。
• “Idontknow” by Jamie xx
  　ジャンルを横断するプロダクションと、“今を感じさせる”音像作りが共鳴する。
• “Lilo” by Japanese House
  　水の中にいるような浮遊感、自己と他者の境界の揺らぎを音で描くアートポップ。
• “Ocean” by Joris Voorn
  　シンセサイザーと波のような構成で描かれる、没入感の高いエレクトロニックミュージック。

6. 眠ることは、記憶と再会すること——“太陽の夢”という美学

「Sunsleeper」は、Barry Can’t Swimというアーティストの**“メロディと時間の交差点”を作る才能が凝縮された一曲であり、
同時に、“エレクトロニックでありながら、極めて人間的な感情に訴える音楽”**の到達点とも言える作品である。

それは決して大きなドラマを語らない。
むしろ、“何も起きていない時間”のなかにひっそりと息づく記憶や情景、感情の波紋を拾い上げる音楽だ。
「Sunsleeper」は、その静かな美しさで、私たちの心に太陽のような余熱を残してくれる。

それは眠りの中で見る夢のように、確かではないけれど、
なぜか懐かしくて、温かくて、
ふとした瞬間にもう一度聴きたくなる——
そんな曲なのだ。

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